11・迫力満点の皇棋学校!でもちょっと?
「本当にこっちでいいのかな?」
おじさんに言われた通りに道を進んできたのだけど、だんだん人通りが少なくなって寂しいところに来てしまった。
おかしいな、『皇棋学校』があるのだったらたくさんの人がくるはずで、もっと大賑わいしててもいいはずなのに。
草歩の後ろについて歩いているだけで楽しそうなピョンを引き連れて先へ進んでゆく。
曲がり角を曲がって草歩は驚いた。
「わあ!」
道の先には大きくて立派な、周りを威圧するようにいかめしい建物が建っていた。
草歩の頭にパッと浮かんだのは、アメリカのリンカーン記念館とロックフェラーセンターを合わせて、スペインのサグラダファミリア見たいな複雑な配置に並べた建築、というイメージだ。
一見お城か教会かという構造ではあるけれど、イタリアとかのヨーロッパ風でなくて、古代ギリシャや現代アメリカの、素材そのものや幾何学的な曲線、直線をストレートに意匠に用いる、無骨でシンプルな美しさ。
幅広の階段が建物の入り口と歩道を遮って、入ろうとするものは見上げる形で進んでいくことになる。
そして階段を上がった先の建物正面部には、ギリシャ風でももっともシンプルで骨太なドリス式の円柱が整然と並んで見るものを圧倒する。
中央に巨大な天井の高い長方形ホールがあって、その周囲に近代高層ビルみたいな、四角い石を積み上げて四角い巨大な塔に形作られたタワーが、教会建築では尖塔にあたる部分にいくつも立ち並んでいる。
「す、すごミ!」
ピョンが耳を伏せて圧倒されるのもわかる。
美しいとか壮麗とかいうよりも、より直接的に「力強さ」が強調されていて、『皇棋』というゲームとはいえ戦いを旨とする神の支配する国にふさわしい、見るものに畏怖を起こさせる強烈なデザインだった。
近づけば近づくほど、その巨大さがこっちを押しつぶそうなほど迫ってくる。
ピョンはすっかり縮こまって、肩をすくめて大きな塔を上目に見ながら草歩にたずねた。
「兄貴も、この『皇棋学校』ミ入るんですか?」
「いいや、僕はもっと強い師匠につくつもりさ」
こんな学校にまけてたまるかと、草歩は無理に胸をはって腕をふりのしのし歩く。
「そ、そうですかミ!」
心なしかピョンが嬉しそうに言った。きっとここが怖いのだろう。
でも、そう言えば。
草歩は立ち止まる。ちょうど『皇棋学校』の正面だ。
堅牢な石造りの円柱によって神々(こうごう)しさを与えられた中央ホールが、高い階段から見下ろすように重々しく鎮座し、その上から天まで登ってゆくかと思えるほどに塔がそびえ立っていて、学校の教える『皇棋』への崇敬と誇りが余すことなく伝わってくる。
ピョンは草歩が考えを変えたのかと、伺うような顔で見ている。
しかし草歩が考えていたのは、ここに入ろうということではなかった。
これだけ立派で大きい建物なのに。草歩はあたりを見回す。そして階段や入り口を見る。
どうしてこんなに人が少ないんだろう?
通りにも人はいないし、この学校を出入りする人もほとんどいない。数人が階段に座って何か話しているけれど。今が授業中だったとしたって、もうちょっと人の姿はあっても良さそうだけどな。
草歩が見ていると、ちょうど階段で立ち話をしていた一人の男の人が手を振りながら近づいてきた。
長いこげ茶色の髪を後ろに束ねた、真っ青な鱗の肌を持ったスネークマンで、がっしりとした体に、ちょっと蛇っぽいけれど精悍な顔つきをした20代半ばくらいのお兄さんだ。
顔にはやさしい笑みを浮かべ、人に教えることが慣れているようすで話しかけてきた。
「やあ、君たち。よくきたね。入学希望かな?」
「いえ、ちがうんですけど、あの、お兄さんはここの先生ですか?」
「ああ。俺はナチータ。この『皇棋学校』で指導棋士をしているよ。ここは歴史のある学校だし、いい指導方法が揃っているから、君たちも強くなりたかったらぜひ入学するといい」
草歩はナチータの言葉に、そうだよな、とおもいながら、だとしたらなんでだろうという疑問が抑えきれずちょっと失礼とは思いながらも聞いてみた。
「あの、ここが立派な学校なのはわかるんですけど、なんだか人が少ない気が」
草歩の言葉にナチータは顔をしかめた。
「まあね、『あいつ』に目を付けられてからここも前のような賑わいはなくなってしまった。でも安心してくれ、ここの棋士は絶対『あいつ』に負けたりしないし、生徒を危険がおよぶようなことはないよ」
ナチータは力強い決意の表情を浮かべ言った。
ピョンはナチータのことが気に入ったのかすっかり安心したようで、「うん。負けちゃだミだよ」などと相槌を打っている。
『あいつ』?
そう言えばこの国が変わってしまったと、レストランのおじさんも言っていた。
何かあったんだろうか?
「ここに来たんじゃなかったら、何しにこんなところに来たんだい?この先は何にもないよ?」
ナチータが不思議そうに聞く。
「僕の師匠になってほしい人を訪ねてきたんです」
「師匠?」
「長い白髭のエルフのお爺さんなんですけど」
草歩が得意げにそういうと、ナチータは大きな笑い声をあげた。
「はっはっは。君があの人の弟子にだって?はっはっは。君みたいな普通の子供を弟子にとったりなんてあの人は絶対にしないよ。はっはっは」
あまりのナチータの笑いぶりに草歩は腹をたてて答える。
「笑うなんて失礼だぞ!行ってみなけりゃわからないじゃないか!」
「ああ、ごめんごめん。でもあんまりにもあの人を知らないからさ。あの老人は、僕のような『指導棋士』でさえなかなか相手にしてもらえないほどなんだぜ?偏屈で気難しくて、気に入らなかったら一言も話さないで相手を追い払っちまうこともあるんだ。『皇棋』が本当に強い人がわざわざ長旅をして教えてもらいに尋ねるようなそんな人さ」
ナチータは草歩を諭すようにいう。
「見たところ君は『皇棋』の素人じゃないか。ああ、レベル表示を見なくてもわかる。皇棋のレベルが上がれば身体能力もあがるから、体つきや動きを見れば大体のレベルくらいわかるのさ。
あの人は今は獣人の弟子を一人とってるけど、彼女はすごく強いからね。僕だってなかなか勝てない相手だ。最低、そのくらいのレベルが必要だと思うけどな」
「うう」
草歩はなんだか自信がなくなってきた。
「悪いことは言わないから、この学校に入りなよ。君に才能があればすぐにレベルがあがる。で、この僕を倒せるくらいに強くなったら、それからあの人のところに行ったらいいさ。ね」
ナチータは優しくいう。
ピョンもなんだか不安になったみたいで、ナチータと草歩をキョロキョロ見比べてどうしたものかと考えているようだ。
「いいえ、僕は決めたんです、あのお爺さんの弟子になるって」
「そうかい、じゃあ行くだけ行ってみたらいい。もし断られたら、遠慮なくここに入ったらいいからね」
ナチータに笑顔で見送られ、草歩は再び歩きはじめた。
でも足取りはさっきまでと違って10キロの重りでもつけたかのように重い。
そうだよな、ただものじゃないお爺さんなんだもの。今の自分じゃ相手にすらしてもらえないのだろうか。
でも諦めないぞ。
草歩は自分に言い聞かせる。
そう最初から諦めることないさ。まず会って見て、それから作戦を考えよう。




