(8)フライトデモをしよう
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フェルナンドの新飛行隊長就任を兼ねた、儀典用のデモフライトの準備に忙殺された3日間だったが、計画通り明日行う事になった。
アンディ(アンドレア・ドリアの愛称)所属機だけでなく、他の艦の艦載艇を含めた全艦隊搭載機による、大規模編隊航過フライトだ。性能もまちまちな機体だが、速度を合わせて慣性飛行に入れば、性能の差なんて関係ない。
だが、ちょっとだけ問題になったのは、各飛行隊・搭載艇の配置だ。
先頭はもちろん、フェルナンドの新第二飛行隊で組んだのだが、第一飛行隊から異論が出た。『新任の大尉ではなく、旗艦の第一飛行隊長であるアーノルド中佐が当然、先頭になるべきだ!』と第一飛行隊の副隊長がねじ込んできたのだ。
けれどその第一飛行隊の隊長である、アーノルド中佐が『貴官は形式にこだわりすぎる。そもそもの趣旨としてグエルディ大尉の就任祝いなのだから、当然彼が受閲編隊のフライトリーダーであるべきである』と、言明してくれたのだ。
おかげで他の飛行隊も“アーノルド中佐がそういうのであれば、我々はジナステラ少佐のプランに従う”と言ってくれたので助かった。
「あれ? 少佐は飛ばないんすか?」
「え? 私? 飛ばないわよ。アンディの艦橋で見ているわ」
詰めの調整をフェルナンドが率いる、新第二飛行隊とのブリーフィングで、彼が言った。
「少佐もてっきり飛ぶもんだと思ってやしたが、もしかして後席の件ですか?」
「別にそういうわけではないわ。編隊を組んでの1航過だけなら、別に後席がいなくても問題ないけど、艦橋にいないとヘソを曲げる人がいるのよ」
「ああ、そりゃぁご愁傷様です。けど……」
「何か問題でも?」
「いや、ミッシングマン・フォーメーション(亡くなった戦士を弔う編隊航過)をできないかと、思っていやしてね」
「ミッシングマン・フォーメーション? まだこの艦隊で亡くなった人なんて、いないと思っていたけど」
新偏されてまだ一度も本格的な戦闘は経験していない、真っ新の艦隊だ。大きな事故も起きていないし、今の時点で事故にしろ病気にしろ、亡くなったものがいれば、艦隊司令部にも連絡が入る。
「そうではなくて、第4次ジュトランド会戦でのですよ。この艦隊は会戦で唯一の残存艦隊を再編したものでやしょう? やるべきだと思うんすが?」
ふむ。それは考えが及んでいなかった。確かに彼が言う通り、必要だろう。
「考慮に値するわね。問題なく申請は通ると思うけど、誰にやらせようかしら?」
「ぜひ、あっしらと少佐で」
「私?」
「ええ、第二航過でやるのは決定として、あっしらの編隊長をまず少佐にやっていただいて、所定位置でズームアップ。そのあとをあっしが引き継いでリーダー位置に遷移ってことでいかがでやしょう?」
「なるほど……いいんじゃない? ズームアップとポジションチェンジのタイミングを通常よりの少し手前に設定して、航過速度も落とせば、恰好はつくわね」
そんな経緯で飛行調整会議でその件を議題に挙げたところ、反対する者もなく承認された。ただし、ミッシングマン・フォーメーションは第一航過でやるものとして、第二航過は無しという事になった。フライトプロファイルは私に丸投げされてしまったけれど、それぐらいは問題ない。
★ミ
…………と思っていた時期が、私にはありました。
「どうして提督がフライトスーツ着て、後席に座っているんです?」
様子のおかしい整備員に疑問を感じながら、フライト前の機外点検を終えてコックピットラダーをあがったら、後席にリッカルドがふんぞり返っていた。
「第4次ジュトランド会戦の弔意飛行だろう? 俺が出なくてどうするんだ」
「どうするも何も、提督はアンディの艦橋で敬礼していればいいでしょう? なんだって、ここにいるんです!?」
「問題ない、参謀にも無断で来た」
「問題大アリじゃないですか!!」
と格納庫にも響き渡る私の絶叫に応じるかのように、微妙な表情の機付整備員が私に携帯端末を渡してきた。
『フランチェスカ君!! もしかしてそこに提督がいないか?!!』
とても端末越しとは思えない大声は、もちろんフェラーリオ参謀だった。
「御明察です。どうしましょう? 射出座席で強制排除しますが、格納庫内で? それとも艦の外に出てからにしましょうか?」
「おい! フランチェスカ!」
『はぁー……。すまないが、そのままで頼む。もし必要な事態になったら射出してかまわない。準備はしておく』
深い溜息をついて、フェラーリを参謀も言い出したら人の言う事なんか聞きゃしないリッカルドを、止める気にはならなかったようだ。
「了解しました。通信終り」
「おまえらなぁ、艦隊司令に対する敬意が足らないのではないか?」
「艦隊司令らしい振る舞いをなさっているのなら、考慮します」
「いいからほれ、さっさと発進準備をしろ。時間が押しているのではないか?」
「誰のせいだと思ってるんだよ、まったく!」
もう後席はただのバラストだと思う事にして、私はプリフライトチェックを始めた。
「ARTHUR, and Hanger Control, Request change Call-Sign from “STREGA” to “ANDY-ONE”」
無線のスイッチを艦内リンクに切り替えて、飛行管制室と格納庫管制室にコールサインの変更もついでにした。“ANDY-ONE”は艦隊司令の乗機であることを示す、コールサインだ。一応は変えておかないとまずい。
『What was that? Unable to receive. STREGA, Say again』
「Request change Call-Sign from “STREGA” to “ANDY-ONE", Again」
『……Affirm. ANDY-ONE. So....Good-day』
あー、やっぱし管制室も聞き返してきたか。さもありなん。
それはともかく、後席の事は頭から切り離して、チェックを終えて発進した。
何とか集合時間に間に合った私は、第2飛行隊所属の5機を従え、アローヘッド隊形を組んだ。後ろは新たに編隊長となるフェルナンド機だ。
そして艦隊所属全機で編成された大編隊の先頭に位置を取った。
私の専用機は、他の戦闘艇よりも大型で目立つので、確かにこういう大編隊の先頭に立つと見映えするだろう。後で記録を見せてもらおう。
『ANDY-ONE FLIGHT, Start your approach』
「ANDY-ONE FLIGHT, All station, Start approach」
管制室からの指示で、私たちの編隊は艦隊の前方を横切る形で、ゆっくりと前進を始めた。
第106遊撃艦隊の旗艦であるアンドレア・ドリアを前列中央に、3列横隊で整然と並ぶ艦艇群を横目に見ながら、私は前進を続けると、全艦艇による3発の礼砲を受けた。
「ANDY-ONE, Break……NOW!」
そして旗艦の正面に近づいたところで、私は機体を急上昇させた。
そして後方に控えていたフェルナンド機が、編隊長位置についたことだろう。
眼下の艦隊が肉眼では見えなくなるまで、私は機体を上昇させた。
ふと思い出して、コックピットのミラーで後席を伺うと、リッカルドが敬礼を続けていた。
恒星からの光を反射するバイザーのせいで、その表情は見えなかった。
この小説、よく航空管制用語が出てきますが、実際には結構方言があるので、こんな風なことを言っているよという程度でご理解願います。え? なんで英語なのかって? 通常の会話じゃないよという演出です。
どこかの某隊だと、通信中の管制英語に日本語が混じってたりしているみたいですw。




