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星の海で  作者: ありす
ジナステラ少佐の多忙な日々
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(5)物資調達で儲けよう(2)


 フェルナンドと二人で仕分け作業を続けていると、彼が質問してきた。


「それで、なんだって綿菓子なんて値段の割にかさばるもの買ったんですかい? あんなもの、ザラメでも買っておけば、作れますよ?」

「フェルナンド作れるの? どうやって?」


 後席にそんな特技があるとは知らなかった。


「えーと、地上基地のお祭りの屋台とかで見たことありません? こう、回転する金属の筒に小さい穴が開いていて、それを回転させながら下から火であぶるんですよ。それにザラメを入れてやると小さな穴から溶けたザラメが糸みたいに噴出してきて、それを棒でからめ取るんですよ」


 フェルナンドが手をくるくると回しながら、作り方を説明した。


「あー、そういえば士官学校の学園祭で、そんなの見たことがあったかも?」


 1、2年生の頃は、模擬店めぐりもした記憶があるけど、3年生になってからはいつもリッカルドに呼び出されてサボっていたから、記憶にあまり残っていない。

「小麦粉と適当な具材があれば、お好み焼きとか、たこ焼きも作れますぜ」


 私の後席は意外と多才のようだ。私は何も作れないけど……。


「でもそんな調理道具? どこにあるのよ」

「綿菓子なら、換気装置のシロッコファンのケーシングばらして改造したので自作できますよ。昔、そんなふうにして作ったことが」

「お祭りの模擬店じゃあるまいし、ラウンジでそんなことできないわよ?」

「ああ、そりゃそうですね」


 と、何か引っかかった気がした。お祭りなら屋台で……。


「……アドミラルディ」

「へ? なんです?」

「そうよ! アドミラルディをやりましょう!」


 一年365日24時間休みなく働く軍隊において、「各部隊長が指定する、部隊員の質的向上を図るための研鑽の日」と定められている日がある。遂行中の作戦状況にも依るが、概ね1~3ヶ月に1度ぐらいの頻度で、閑な部隊だと毎月やっているところもある。

 何をやっているかと言うと、日頃出来ない様々な勉強会だとか研修(と言う名の物資納入業者への訪問とか、様々な施設見学とか、士気向上のためのバーベキュー大会なんてこともある。要するに「部隊員の質的向上(士気含む)を目的」としていれば、なんでもいいのである。「理屈と膏薬はどこにでもつく」ので、業務としてかなり無理があるような内容でも、部隊長がOKと言えばOKなのである。


 そして、アドミラルディとは提督が定める日なので、艦隊全体で行うイベントとなる。正規艦隊だと参加人数は数万人から数十万人を超え、開催する宙域によっては、付近を航行する民間船やコロニー住民なども招待しての、大規模イベントなのだ。


「アドミラルディで、どうするんです?」

「決まってるじゃない、模擬店をやるのよ。その売り上げで赤字を補てんするわ」

「ええ? 本当にやるんですかい?」

「良いと思わない?」

「アドミラルディともなれば、準備には普通3か月はかけますし、調整事項が多すぎやしませんかね?」

「むー……。いや、頑張る! 成せば成る! 何事も!」


 中尉の懐疑的な顔にもめげず、まずは提督、リッカルドに“うん”と言わせよう!


 ★ミ


「と言うわけで、アンダルシアを発つ前に、アドミラルディをしませんか?」

「何が『と言うわけ』かわからないが、そんな計画は立てていないし、準備には時間がかかるぞ? 各幕僚以下各部隊長にも調整が必要だしな」

「そこは何とか私が頑張ります。補給を受けたばかりなので、物資は充分にありますし……」


 リッカルドは書類の決裁を止めて、腕組みをしながら考え込む仕草をした。

 掴みは何とか、あとは具体的な計画を詰めて見せれば、許可が出るか?


「イベントの内容は、小規模にとどめておけば、関連部署は減らせますでしょう?」

「俺が初めて開催する、アドミラルディだぞ? ショボイものにはしたくない」

「そこを何とか」

「妙に熱心だな……何か企んでいるのか?」

「いえ、別にソンナコトハアリマセンヨ」

「セリフが棒読みだぞ」

「さっき聞いたら、まだどこの部隊も「隊長等の日」をやっていないそうです。この際ですから、まとめてアドミラルディにしましょう!」


「まぁとにかく計画書を出せ。幕僚たちの承認もだぞ」

「了解しました!」



 ★ミ


「と、言うわけで艦隊幕僚の全員、全艦艇の各艦長、関係各科の同意書、貰いました!」


 いちいち全部を回っていたのでは、何時までたっても集めきらないので、メールを飛ばして同意を得た。発信元を“艦隊幕僚本部”付けにして。


「お、おう……。昨日の今日なのに、いやに早いな……」


 うん、私もそう思った。けどこれが普通なのだ! リッカルドのグータラさ加減にならされていた。反省!


「提督の書類決裁が遅いんですよ。これからは他を見習って、早く決裁する様にしてください!」

「それは副官の要領次第だな……」

「なら、これからは決裁が終わるまで、執務室から出られない様にしますね」

「ふん、俺には提督特権(アドミラルキー)があるから……」


 私はリッカルドが言い終わらないうちに、机の上のインターホンを押した。


「従卒はいるか!!」


 すかさず隣の控室から、銃を持った従卒が飛び込んできた。


「お呼びでしょうか? 少佐殿!」


 お、これは都合がいい! 配属されたばかりのニコル候補生だ。

 確か今日が初当番の筈。リッカルドの顔は良く知らないかもしれない。


「艦隊司令を騙る不埒者だ、構えろ!」

「は? は、はぃっ!!」


 一瞬、躊躇したがちゃんと銃を構えてリッカルドに向けた。


「お、おいフランチェスカ!!」


 リッカルドも彼を知らないのだろう、慌てて両手を上げた。


「物理で説得しますけど、よろしいですか? 提督」

「お、おまえなぁ……」


 まぁ、これ以上やって怒らせるのはまずい。

 私はニコル候補生に向き直って、銃を下すように命じた。


「ニコル候補生、騒がせてすまなかった。今のは訓練だ。銃の扱いに少々不安があるようだが、初動は良かったぞ。戻ってよし!」

「はい、ありがとうございます、少佐殿。失礼いたします!」


 退出するニコル候補生を横目で見送ると、リッカルドが手を下して仏頂面で言った。


「フランチェスカ、オマエなぁ……許可出してやらないぞ?」

「提督の書類決裁が遅いせいで、私のところにも苦情が良くくるんですよ。もう一度従卒を呼びましょうか?」

「……チッ、で、俺は何をすればいいんだ?」

「開会の宣言と、乾杯の音頭。あとは閉会の言葉を頂ければ、いいんじゃないですかね? あ、もちろん普段顔を合わせることが少ない、他艦の艦長とかとは親睦を深めておいてくださいよ?」

「面倒だなぁ、他の艦の艦長ったって、80人以上いるんだぞ?」

「フェラーリオ

参謀にも、お願いしたらどうですか? 提督には分艦隊の司令クラスにして、あとは参謀にお任せすればよろしいでしょう?」

「そうするか。あとで参謀と相談しよう」

「では決裁の方、よろしくお願いしますね」


 許可認証をしてもらったのを確認して、私は準備のために部屋を出た。


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