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星の海で  作者: ありす
第4次ジュトランド会戦
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(34)潜伏


 トリポリ星系への帰還の途に就いていたリッカルド艦隊は、敵艦隊との遭遇の気配もなく、順調な航海を続けていた。


 そしてリッカルド艦隊は、長距離転移航法(ロングワープ)をあと2回も行えば、母港であるトリポリ星系にほど近い、前線にまで到達できる地点に来ていた。

 転移航法を使うと、その地点を中心として、同心円状に広がった重力変化の痕が残る。それを辿ればどんな規模の航宙艦がどこへ向けて移動を行ったのか、ある程度は推測が可能である。それを避けるため、リッカルド艦隊は長距離と短距離の転移を織り交ぜ、かつ進路もごまかせるように複雑な手順を組んだ転移プログラムでの、航海を続けていたのだった。


 

 現在は次の転移に支障が無いか調べるため、前線から2つ隣のガンドルア星系外縁で、カイパーベルト天体群(CBO)に紛れて停泊していた。


「よし、しばらくここで停泊を続ける。周辺宙域、及び次の転移目標を調査。偵察ドローン展開させろ。当直以外の要員は、航行計画の策定が終わるまでは、各艦艦長の指示に従い待機!」

「「「「アイアイ、サー」」」」


 艦橋も三々五々、人が退出していき後に残されたのはリッカルドとフランチェスカ、索敵士官と、機関のモニタを続けている数人だけとなった。


 珍しく(?)艦橋で真面目に指揮を執っていたリッカルドだったが、疲れたのか席にだらしなくもたれかかった。そして隣の副官席で懸命にキーボードを叩いている、フランチェスカに目を止めた。


「何してるんだ?」

「何って、偵察ドローンのプログラムですよ。司令が命じたんでしょう? 周辺宙域と次の転移先の偵察」

「それはそうだが、何でお前がやってるんだ?」

「人員不足。ドローンのフライトプロファイル組めるのが、自分しかいないからですよ」

「あんなの、パイロット資格があれば誰だって組めるだろう?」

「複数機を合理的かつ、効率良く偵察させるには、編隊長クラスの技量が無ければ難しいの。“簡単だ”なんて気軽に言わないで欲しいな」

「おお、流石は元編隊長」

「今でもそのつもりだけど?」

「稼働はたった4機じゃないか」


 故障と燃料不足で、事実上稼働4機が今の戦闘艇の艦隊全戦力だった。


「それでも! あーもう、気が散るから話しかけないでよ。これでも読んどいて!」


 フランチェスカは端末に別のウィンドウを開いて、リッカルドへ電子ファイルを送った。


「何だこれ?」

「トリポリ基地を含む、第5軍管区宙域艦隊の行動計画書。救援に来てもらわなきゃいけないし、デポラEX-01の残留部隊の回収もお願いしなきゃでしょう? 要請書の準備しておいてよ」

「更新前のだろ? 去年のじゃないか」

「“今年度”の! あと10日ある」

「面倒くさいなぁ……やっておいてくれよ」

「はぁ? ワ・タ・シ・ハ、今・忙・し・い・の・です!!」


 キーボードを叩くのをやめてリッカルドをきっと睨みつけると、リッカルドは首をすくめて、嫌そうにファイルを読み始めた。


「……なぁ、フランチェスカ」

「…………」


 しばらくファイルを読んでいたリッカルドだったが、10分もすると飽きたのか、フランチェスカに話しかけた。

 だがフランチェスカはリッカルドを無視して、キーボードを叩きつづけた。


「ジナステラ中尉?」

「…………」

「おーい、聞いていますかー? フランチェスカさーん」

「…………」

「フランちゃん、カワイー、こっち向いてー」

「…………チッ」

「あ、今舌打ちした! 司令のこの俺が呼んでるんだぞ! こっち向け!」


 バンっ! とキーボード全体を叩きつけて、フランチェスカは席から立ち上がり、リッカルドを睨みつけた。


「おとなしくレポートも読んでいられないんですか! 一体何の用ですか、ガルバルディ司令!!」


 つい大声で怒鳴りつけたフランチェスカだったが、すぐに周囲の様子に気が付いた。

 ここは艦橋の一段高いところにある発令所に当たるところで、艦橋には通信士官や航法士官など、他にも数人が詰めていたのだった。

 その彼らはフランチェスカの怒鳴り声にびくっとなったが、“さわらぬ神にたたりなし”とばかりに首をすくめ、見て見ぬ振りをした。


「おほん……。ガルバルディ司令、御用の向きはなんでしょう?」


 声音こそ平静を保った丁寧な口調だったが、その表情はキレる寸前だった。


「お、おぉ……。忙しいところすまない、質問に答えてくれないか?」

「何でしょう?」

「さっき、ドローンの偵察プログラムを組んでいると言っていたな?」

「それが?」

「全部で何機だ?」

「12機ですが?」


 フランチェスカは戦闘艇部隊の編隊長として、自機を含めた12機を率いることが多かったため、自分が最も運用しやすい数である12機を選んだ。


「予備はないのか?」

「1機だけあります。事実上最後の偵察になるので、惜しまずに使おうと思っていますが?」

「その予備の1機、俺に使わせてくれないか?」

「はぁ?」

「考えていることがあるんだ。1機都合してくれないか?」

「あともうちょっとで、プログラムが終わるんだけどなぁ……」

「予備1機は必要なのか?」

「セオリー上はね。リスクをどう取るかだけなんだけど」

「予備無しで続けてくれ。リスクは取らない」

「……わかった。プログラミングの仕方は判るの?」

「俺を誰だと思ってる?」

「じゃ、どうぞ。エディタは何でもいいけど、GUIのにしてね。プログラムのビルドはやってあげるよ」

「お前の手は煩わせないさ、ビルドも自分でできる」

「わかった。では司令、自分は自分の作業に戻ります」


 ★ミ


 そんなやり取りの小一時間後。フランチェスカは任されていた12機の偵察ドローン全ての射出を終えていた。

 

「そっちはどう? 手伝おうか?」

「あー……いや、いい。お前ももう交代の時間だろう? 退室していいぞ」


 リッカルドは端末の画面とにらめっこしながら、時折キーボードを叩いていた。

「交代がまだ来ていないんだけど?」

「俺が残っているから充分だ。何か起こった時の為に、体を休めておけ」

「ではお言葉に甘えて」

「ああ」


 リッカルドは端末の画面に向かったまま、手をひらひらさせて退室を促した。



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