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星の海で  作者: ありす
第4次ジュトランド会戦
63/119

(10)相談



 提督執務室。代理とは言え、やることは同じなので、リッカルドは寝たきりの シュニッツァー少将の代わりに、ここを自分の執務室としていた。


「二人を呼んだのは他でもない、今後の主方針を決めたかったのだ」

「他の艦の艦長達の意見は、聞かなくてよかったの?」


 フランツはリッカルドに言った。


「彼らは艦隊幕僚ではないからな」

「ええっ? じゃ自分だって、ただの“元”、航空隊隊長ですけど?」

「お前を戦闘副官に任命しただろう。だからお前も幕僚の一員だ」

「総旗艦アンドロメダが沈められてしまったからですな。20隻に満たない敗残艦隊を艦隊と呼べるかはともかく、この艦の高級士官で幕僚を構成するしかないでしょうな」


 フェラーリオ中佐も肩をすくめてそう言った」


「それなら僕、じゃなくて自分ではなく、ジャクソン艦長やシュニッツァー司令の副官は?」

「戦艦の艦長と言うのは、非常に多忙でな。司令の副官は、シャトルでどこか行ったまま、行方不明だ」

「……それで何で、自分なの?」

「良く知った人間だけで決めた方が、良いと思ったからだ」

「ふふ、君たち二人には、士官学校時代にさんざん面倒を見させられたがな」


 フェラーリオ中佐が思い出したように笑った。


「そんな理由? じゃ、自分を混ぜたのは“教頭先生”のお考えですか?」

「助言はしたがね」

「俺の意図を正確に理解し実行できる信頼可能な、極少数だけで決めたいと思ったのだ」

「それがこの3人ってわけ?」

「そうだ」


 確かに、この3人は士官学校時代からの縁で、戦場を共にする機会も多かった。というよりも、二人の卒業後は所属は違えど、ほとんどの戦場を共にしていると言って良かった。


「今の状況では、全滅は免れない可能性が高い」

「“先輩”はそう思っているんだ。“教頭先生”も?」


 士官学校時代からのと言うなら、そう呼んだ方がいいだろうとフランツは思った。


「私と“ガルバルディ君”の意見は既に一致している。君の意見を聞きたい」

「僕の?」


 リッカルドは執務室の電子窓の画面を切り替えて、星系図と各艦の損害状況を表示させた。

 フランツはリッカルドに頷いて電子窓に近寄って考え込んだ。


「…………難しいでしょうね。ピエンツァの艦長が言った通り、せめて半分なら、目立たずにトリポリ星系方面へ、戻れるかも?」

「やはり、君もそう判断するかね?」

「戦闘艇乗りとしての意見です。各艦を攻撃・制圧担当、偵察担当、防空担当と割り振って見立てて、中隊……いえ大隊規模の編成とするなら、12隻位であれば敵の支配領域を突破できるかなと、思っただけです」


 自分が編隊長として、細かく指示できるのはせいぜい12機が最大だ。それ以上は手に負えなくなる可能性が高い。単純にそう思っただけだった。


「よし、ではお前がその12隻を選べ」

「……僕が?」

「艦種とバイタルだけを選定基準として、他は考慮しなくていい。ベストの12隻を選ぶんだ」

「それって……」


 フランツは、いつにもまして真剣な表情のリッカルドが気になって、フェラーリオ中佐を見ると、彼も顔をしかめたまま目を瞑っていた。

“残りの7隻はどうするのか?”と、喉まで出かかったが、口にはできなかった。

「俺と次席参謀は、別件があるので後は任せる。そこの端末を使っていいぞ」


 そして席を立った。が、去り際にリッカルドはフランツに小声で耳打ちした。


「余計なことは考えなくていい。ベストの12隻を選べ、後の責任は俺と次席参謀で取る。いいな、余計なことは考えるな」


 そしてフランツは、一人執務室に残された。


 ★ミ


 小惑星帯に隠れるように停泊を始めて3日目、警戒の為に出していた偵察艇から、敵の哨戒部隊が近づいているとの一報を受けた。

 ガルバルディ司令代理は直ちに、出発準備を整えるよう、艦隊各艦に指示を出した。


「敵の哨戒部隊は、およそ70光秒の位置にまで接近していると思われます」

「2時間後に進発、同時に放棄予定の巡航艦を敵の哨戒部隊に角度をつけて放出しろ。我々は内惑星方向へ向かう第5惑星の公転軌道上で天頂方向へショートジャンプし、その後進路をトリポリ方面に取る」

「「「「「アイアイサー!!」」」」」


 そして予定した2時間後、艦隊は移動を始めた。

 艦橋には戦闘副官として、フランツも詰めていた。

 リッカルドの隣に。


「司令代理、自分はここに座っていていいんですか?」

「問題ない。フェラーリオ次席参謀には第2艦橋に詰めてもらっている。お前はここにいて、俺の補佐をしろ」

「わかりました。でも、何をすれば?」

「各艦の艦隊運用に関する補佐と、戦闘時の指揮は基本的にお前が執れ」

「自分が、ですか?」


 怪訝な顔で問うと、当たり前のようにリッカルドが言った。


「そうだ、お前の指揮運用能力を再確認しておきたい。実質的には俺がお前の補佐をする。俺が負傷した時に、代わりに指揮を取れるものが必要だ」

「それは次席参謀である、フェラーリオ中佐の役割では? 自分はただの中尉ですよ?」

「ただの中尉だが戦闘副官だ」


 そして小声で続けた。


「お前が選んだ12隻だ。お前が執れ」

「しかし……」

「お前には、いずれ俺が率いる艦隊の幕僚にと考えている。実績を積んでおけ」

「……わかった。微力を尽くします」

「それとな、畏まった口調は止せ。意思伝達に齟齬が出そうだ。昔どおりでいい」「わかりました……いや、判ったよ。リッカルド」


 そう言って、一旦は指示に従うことにしたが、“教頭先生”にもう一度相談してみようと考えていた。


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