(7)突破
艦橋では、ガルバルディ艦隊司令代理の指示に従い、慌ただしく準備を進めていた。
ジナステラ中尉も、慣れないコンソール操作に四苦八苦しながら、刻々と代わって行く各艦艇の状況に合わせて、艦隊行動のプログラミングを続けていた。
「行動開始1分前! 第2分艦隊は砲撃を加えながら前進突撃、第3分艦隊は、砲撃前方へ加えつつ、後方へ交代。我々第1分艦隊は第2分艦隊に続く!!」
「「「「ええっ!?」」」」
艦橋に驚きの声と、困惑が広がった。
囮の第2分艦隊に続くという事は、敵艦に突撃を敢行するという事だからだ。
『貴官! どういうことだ! 話が違うぞ!!』
第3分艦隊の指揮を任された、シューマッハ中将からの通信が割り込んだ。
「計画通りです。足の遅い補給艦隊をよろしくお願いしますよ。トリポリでお会いしましょう! 通信終り!」
ガルバルディ艦隊司令代理は、反論をさせずに通信を切った。
そして動揺が広がっているだろう、全員に告げた。
「みんな落ち着け! 俺は死ぬ気はない! ちゃんと考えてある。行動開始10秒前!」
「敵艦隊、迫ってきます! 距離3光秒!!」
索敵士官の緊張した声にも臆せず、司令代理は予定通りと言わんばかりに続けた。
「……3、2、1! 行動開始!!」
ジナステラ中尉は、指示通りにまず第二分艦隊を突撃させた。
すかさず、司令代理が叫んだ。
「第2分艦隊、全力射撃!! シールド貼れ! こちらも全速前進! 第3分艦隊は後方へ下がったか?」
「砲撃を開始していますが、動いていません!!」
矢継ぎ早の指示に、ジナステラ中尉は対応しつつ答えた。
「敵艦隊、なおも接近! 距離2.5光秒!!」
「第一分艦隊、主砲斉射3連! 進路俯角10度! ステルスモード展開、ショートジャンプ準備!!」
砲撃士官と航法士官、艦長までも慌てて手元のコンソールを操作し始めた。
ショートジャンプは艦の動力炉のオーバーロードによる、空間歪曲を利用した空転移航法の一種で、もちろんそのチャージタイムの間は、砲撃もできなければ慣性航行しかできない。基本的に惑星間航行時などで、進路は艦の前方固定で間に障害物が無い場合に限られる。
“それは無茶だ”と、ジナステラ大尉は咄嗟に思った。下方には星間物質の濃い帯域があって、ショートジャンプなど壁に体当たりするようなものだと思ったのだ。
だが、舵を握っている航法士官は、一瞬悲鳴を上げかけた。
「それは危険です! ……いや、ギリギリOK! ショートジャンプ、チャージします!!」
ジナステラ中尉も、手元のコンソールに、簡略化された宙域マップを表示させて納得した。ぽっかりとそこだけ、星間物質の無い穴が広がっていたのだった。
被害艦ばかりで足の遅い第2分艦隊に追い付く形で、第1分艦隊はその下に潜り込む様に慣性航法で突っ込んでいった。
「今だ、第2分艦隊全艦にコード“ZZZ”を3回送れ!!」
ガルバルディ艦隊司令は、ジナステラ中尉に向かって叫んだ。
「アイアイサー!!」
そう応えると指示通りにコンソールに叩き込んだ。
「続いて全艦、ショートジャンプ!!」
第1艦隊の頭上で、激しい爆発が連続で起こり、激しい閃光と飛び散る破片を傘の様にして、第一艦隊はショートジャンプを敢行し、戦場を離脱した。
★ミ
「敵性艦隊、探知不能」
「周辺宙域に異常はありません」
「機関正常、問題なし!」
ショートジャンプを終えた第1分艦隊は、穏やかな空間を慣性航法をしていた。 各部署からは異常なしの報告が上がってきていた。直に全艦の異常なし報告が届くと思われた。
「艦隊司令代理、あの状況下でよくこんな作戦がたてられましたね」
「リッカルドと呼べと言ったろう、フランツ。お前も昔、似た様なことをしたじゃないか」
「司令……、いや、いつのことだよ?」
「士官学校の空戦競技大会で、お前は相手の目くらましをして、まんまと優勝した」
「競技大会って……。2年生の時の? でもあれは戦闘艇での話だし、フレア撒いただけだよ!?」
確かに、ジナステラ中尉は、あの時正対する相手機に向かって、ロールを打ちながら仰向けにフレアを巻いた。それが目くらましとなって相手機はこちらを見失い、中尉はそのまま逆宙返りをして、直下から相手機を撃墜していた。
「似ていると言えば似ているかもしれないけど、それを艦隊行動でやろうだなんて思いつかないよ!!」
自爆する第2分艦隊は、敵艦隊の目くらましには確かになっただろう。ステルスモードで、伏角を取りながら下方のぽっかり空いた空間に向かってショートジャンプしたなら、こちらを見失っている筈だった。恐らく30光秒は戦場を離脱したこちらを、再捕捉することは出来ないだろうと考えられた。
「第3分艦隊は、無事撤退できたかな?」
そうつぶやいたリッカルドに、フランツは答えた。
「ショートジャンプ直前のログでは、砲撃しつつ後退を始めていたようです。中将を信用しましょう」
「そうだな……」
そういうと、リッカルドはシートに深く座り直し、目を瞑った。




