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星の海で  作者: ありす
第4次ジュトランド会戦
59/119

(6)合流


 TADIL(戦術データリンク)の再構築を終えた準旗艦“アマルフィ”は、総旗艦機能を果たす手続きを進めていた。

 

 その“アマルフィ”の司令官公室で、ガルバルディ大佐は第31遊撃艦隊のシューマッハ中将とレーザー通信経由で会話していた。


「そうです、総司令官代理は提督にお願いいたしたく」

『いや、大佐。総司令官代理は、君が適任だと思う。打開策はあるのだろう?」

「中将がおられるのに、小官がでしゃばるのは憚れます」

『私には責任がある』

「“責任”?」

『貴官を始め、なるべく多くの将兵を無事帰還させることだ』

「であれば、なおさら中将が」

『私は撤退の殿しんがりを務めさせてもらう』

「それは私が……」

『君にはまだ経験値が足りなかろう。ここは歴戦の私に任せてくれたまえ』

「ですが……」

『私は敵を屠るしか能の無い男だ。撤退の指揮など取れんよ』

「…………」


 ガルバルディ大佐には、確かにこの窮地から脱出する方策があった。しかし無傷とはいかなかった。特に殿しんがり部隊は生還は無理だろう。


『早くせんと、全滅してしまうぞ? もう撤退プログラムは済ませてあるのだろう?』

「……わかりました。艦隊を3つの分艦隊に編成しなおします。第3分艦隊の指揮をお願いいたします」

『よかろう、全体指揮はアマルフィに任せた。ではな!』


 シューマッハ中将は敬礼をすると、回線を切った。

 黒くなった画面に、ガルバルディ大佐も敬礼を返した。


 ★ミ


 散発的に届く、艦砲射撃に気を使いながら、ジナステラ中尉と、グエルディ少尉の機体は、準旗艦アマルフィを目指していた。


「“MIGHTY”! 付いてきてるか?」

『まだ死にたくありませんからね!』

「見えたぞ! “アマルフィ”だ! “AMALFIE” Control. This is PURPLE-FLIGHT. Request On your board.」


 ジナステラ中尉は、ようやく視界にとらえたアマルフィに着艦の許可を求めた。

『This is "LFIE” Your Request confirm. Contact MOTHER-ARM Ch.11』

「Thank you "LFIE"」


 ジナステラ中尉は着艦管制コンピューターへとのリンクを繋ぎ、グエルディ少尉と共に、アマルフィに着艦した。


 ★ミ


 その頃、アマルフィの艦橋では、ガルバルディ総司令官代理が残存するすべての艦艇を再編成し、3つの分艦隊に編成する作業に追われていた。


「第1分艦隊は、本艦を中心に速度の速い艦艇を集める。第2分艦隊はその逆だ。ただし損傷の多い艦を中心に無人艦隊とする。第3分艦隊はシューマッハ中将の、高速戦艦ケーニヒス・ティーガーを中心に、殿を務めてもらう! いいな」

「「「アイアイ、サー」」」


 ガルバルディ総司令官代理は、艦隊編成図を艦橋前方の大型スクリーンに投影させ、編成状況を確認しつつ、第2分艦隊の無人化を進めていた。



 ジナステラ中尉は、着艦すると、自機に装備を放り込んで、艦橋へ向かった。

 記憶では第16打撃艦隊の作戦参謀をしている筈の、士官学校時代の先輩がいる筈だと思ったのだ。経路を聞くために途中で捕まえた整備員の話では、今は総司令官代理をしているのだと聞いた。


 慌ただしく作業を進めている艦橋で、誰にも誰何すいかされることもなく艦橋に入ると、懐かしい姿を見つけた。


「リ、じゃない、総司令官代理!」

「フランツか? 無事だったのか?」

「何とかね、母艦がやられたので、こっちにお邪魔させてもらうよ、いえ、もらいます!」


 ジナステラ中尉は、再会の喜びを抑えつつ、敬礼した。


「丁度良かった、すまんが俺の手伝いをしてくれ。第2分艦隊の無人化を手伝って欲しいんだ。俺は第1分艦隊の編成配置を見直しておきたい」


 ジナステラ中尉は艦橋前方の大型ディスプレイに表示されている、艦隊編成図を見ると言った。


「ええ? 艦隊編成の経験なんて、自分には……」

「デカいだけの、艦載艇だと思え」

「そんな無茶な……ん? 被害艦ばかり集めてどうするの?」


 とりあえず、艦隊司令官席隣の参謀用コンソールに座り、司令官席と共有されていた表示を見た。


「使い方わかるか? 操作は別のものにやらせようか?」

「たぶん、大丈夫だと思うけど、士官学校時代を思い出すなぁ……」

「俺よりも成績が良かったのだから、期待してるぞ」

「何年前の話をしているのさ! だいいち、リッカ……じゃない、総司令官代理は、サボっていただけでしょう。ギリギリ合格ラインに入る分だけこなして」

「長ったらしいから、“リッカルド”でも“リック”でもいいぞ。その方がお前も言いやすいだろう?」

「そうだけど……いや、ですけど、それでは示しが……」

「忙しくなる。モタモタ会話をしていたら、取り返しがつかなくなる。直言と簡便な会話で頼む」

「……わかったけど、そもそも次席参謀はどうしたの? 僕がここにいていいの? 今さらだけど」

「次席参謀は、第2艦橋で艦隊間シャトルの采配中だ。現時刻を持って、貴官を戦闘副官に任ずる」

「はぁ? 聞いたことないよ? そんな役職??」

「俺がいいと言ったら今は何でもアリだ! そんなことより手は動かしてるか?」

「もう……今やってるけど。 で、第2分艦隊の指揮は?」

「もちろんオマエがやれ!」

「ええっ? 無茶振りが過ぎますよ!」

「USV(無人航宙機)の特技取っていただろ?」

「偵察用だよ? 戦艦とか、しかも何十隻も同時だなんて……」

「隊列を組んで、まっすぐ進むだけでいい。FCS(射撃管制システム)も適当な設定で構わん。どうせブラフだからな」

「いったい何を考えているんだか……」

「作戦開始は1時間後」

「な! ……」


 ジナステラ中尉は、二の句を継ごうとしたが諦めた。多分言ったところで、やることは変わらないと思ったのだった。

 慣れないコンソールで、うろ覚えの艦隊行動プログラムを打ち込んでいると、振動を感じた。


「敵の行動開始が早まった。作戦開始を30分早める! 全艦に通達!」

「「「「ええっ??」」」」


 ジナステラ中尉だけでなく、艦橋要員全員が聞き返した。


『総司令官代理! シャトルの移送が終わりません!』


 第二艦橋でシャトルの移送手続きをしている、次席参謀らしき声が返ってきたが、リッカルドは言い放った。


「作戦開始後、10分間の余裕がある。その間に移送を終わらせろ!」

『そんな……いえ! 善処します!』

「リッカルド、第2分艦隊の隊形は?」

「鶴翼で頼む。3段、時間差!」

「了解……って、見ている間に数が減っていくんだけど……」


 編成する度に、数や被害状況が変化していくため、何度もやり直しながら、ジナステラ中尉は何とか編成を終えた。キリが無いので、あとはもう直前にもう一度見直そうと、各艦のFCSのプログラミングを始めた。


「第2分艦隊のFCSトリガーは?」

「旗艦同調で……いや、チャンネルは分けておいてくれ」

「了解」


 それなら簡単と、これは一括コマンドで分艦隊の全艦艇に転送した。


「行動開始5分前!」


 艦橋に緊張が走る。

 ジナステラ中尉も第2分艦隊に集めた艦艇の編成状況を、再確認しながら備えた。


"LFIE”はアマルフィの短縮で愛称です。

MOTHER-ARMは着艦管制システムのことです。

次回は9月3日の予定です。

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