(6)合流
TADIL(戦術データリンク)の再構築を終えた準旗艦“アマルフィ”は、総旗艦機能を果たす手続きを進めていた。
その“アマルフィ”の司令官公室で、ガルバルディ大佐は第31遊撃艦隊のシューマッハ中将とレーザー通信経由で会話していた。
「そうです、総司令官代理は提督にお願いいたしたく」
『いや、大佐。総司令官代理は、君が適任だと思う。打開策はあるのだろう?」
「中将がおられるのに、小官がでしゃばるのは憚れます」
『私には責任がある』
「“責任”?」
『貴官を始め、なるべく多くの将兵を無事帰還させることだ』
「であれば、なおさら中将が」
『私は撤退の殿を務めさせてもらう』
「それは私が……」
『君にはまだ経験値が足りなかろう。ここは歴戦の私に任せてくれたまえ』
「ですが……」
『私は敵を屠るしか能の無い男だ。撤退の指揮など取れんよ』
「…………」
ガルバルディ大佐には、確かにこの窮地から脱出する方策があった。しかし無傷とはいかなかった。特に殿部隊は生還は無理だろう。
『早くせんと、全滅してしまうぞ? もう撤退プログラムは済ませてあるのだろう?』
「……わかりました。艦隊を3つの分艦隊に編成しなおします。第3分艦隊の指揮をお願いいたします」
『よかろう、全体指揮はアマルフィに任せた。ではな!』
シューマッハ中将は敬礼をすると、回線を切った。
黒くなった画面に、ガルバルディ大佐も敬礼を返した。
★ミ
散発的に届く、艦砲射撃に気を使いながら、ジナステラ中尉と、グエルディ少尉の機体は、準旗艦アマルフィを目指していた。
「“MIGHTY”! 付いてきてるか?」
『まだ死にたくありませんからね!』
「見えたぞ! “アマルフィ”だ! “AMALFIE” Control. This is PURPLE-FLIGHT. Request On your board.」
ジナステラ中尉は、ようやく視界にとらえたアマルフィに着艦の許可を求めた。
『This is "LFIE” Your Request confirm. Contact MOTHER-ARM Ch.11』
「Thank you "LFIE"」
ジナステラ中尉は着艦管制コンピューターへとのリンクを繋ぎ、グエルディ少尉と共に、アマルフィに着艦した。
★ミ
その頃、アマルフィの艦橋では、ガルバルディ総司令官代理が残存するすべての艦艇を再編成し、3つの分艦隊に編成する作業に追われていた。
「第1分艦隊は、本艦を中心に速度の速い艦艇を集める。第2分艦隊はその逆だ。ただし損傷の多い艦を中心に無人艦隊とする。第3分艦隊はシューマッハ中将の、高速戦艦ケーニヒス・ティーガーを中心に、殿を務めてもらう! いいな」
「「「アイアイ、サー」」」
ガルバルディ総司令官代理は、艦隊編成図を艦橋前方の大型スクリーンに投影させ、編成状況を確認しつつ、第2分艦隊の無人化を進めていた。
ジナステラ中尉は、着艦すると、自機に装備を放り込んで、艦橋へ向かった。
記憶では第16打撃艦隊の作戦参謀をしている筈の、士官学校時代の先輩がいる筈だと思ったのだ。経路を聞くために途中で捕まえた整備員の話では、今は総司令官代理をしているのだと聞いた。
慌ただしく作業を進めている艦橋で、誰にも誰何されることもなく艦橋に入ると、懐かしい姿を見つけた。
「リ、じゃない、総司令官代理!」
「フランツか? 無事だったのか?」
「何とかね、母艦がやられたので、こっちにお邪魔させてもらうよ、いえ、もらいます!」
ジナステラ中尉は、再会の喜びを抑えつつ、敬礼した。
「丁度良かった、すまんが俺の手伝いをしてくれ。第2分艦隊の無人化を手伝って欲しいんだ。俺は第1分艦隊の編成配置を見直しておきたい」
ジナステラ中尉は艦橋前方の大型ディスプレイに表示されている、艦隊編成図を見ると言った。
「ええ? 艦隊編成の経験なんて、自分には……」
「デカいだけの、艦載艇だと思え」
「そんな無茶な……ん? 被害艦ばかり集めてどうするの?」
とりあえず、艦隊司令官席隣の参謀用コンソールに座り、司令官席と共有されていた表示を見た。
「使い方わかるか? 操作は別のものにやらせようか?」
「たぶん、大丈夫だと思うけど、士官学校時代を思い出すなぁ……」
「俺よりも成績が良かったのだから、期待してるぞ」
「何年前の話をしているのさ! だいいち、リッカ……じゃない、総司令官代理は、サボっていただけでしょう。ギリギリ合格ラインに入る分だけこなして」
「長ったらしいから、“リッカルド”でも“リック”でもいいぞ。その方がお前も言いやすいだろう?」
「そうだけど……いや、ですけど、それでは示しが……」
「忙しくなる。モタモタ会話をしていたら、取り返しがつかなくなる。直言と簡便な会話で頼む」
「……わかったけど、そもそも次席参謀はどうしたの? 僕がここにいていいの? 今さらだけど」
「次席参謀は、第2艦橋で艦隊間シャトルの采配中だ。現時刻を持って、貴官を戦闘副官に任ずる」
「はぁ? 聞いたことないよ? そんな役職??」
「俺がいいと言ったら今は何でもアリだ! そんなことより手は動かしてるか?」
「もう……今やってるけど。 で、第2分艦隊の指揮は?」
「もちろんオマエがやれ!」
「ええっ? 無茶振りが過ぎますよ!」
「USV(無人航宙機)の特技取っていただろ?」
「偵察用だよ? 戦艦とか、しかも何十隻も同時だなんて……」
「隊列を組んで、まっすぐ進むだけでいい。FCS(射撃管制システム)も適当な設定で構わん。どうせブラフだからな」
「いったい何を考えているんだか……」
「作戦開始は1時間後」
「な! ……」
ジナステラ中尉は、二の句を継ごうとしたが諦めた。多分言ったところで、やることは変わらないと思ったのだった。
慣れないコンソールで、うろ覚えの艦隊行動プログラムを打ち込んでいると、振動を感じた。
「敵の行動開始が早まった。作戦開始を30分早める! 全艦に通達!」
「「「「ええっ??」」」」
ジナステラ中尉だけでなく、艦橋要員全員が聞き返した。
『総司令官代理! シャトルの移送が終わりません!』
第二艦橋でシャトルの移送手続きをしている、次席参謀らしき声が返ってきたが、リッカルドは言い放った。
「作戦開始後、10分間の余裕がある。その間に移送を終わらせろ!」
『そんな……いえ! 善処します!』
「リッカルド、第2分艦隊の隊形は?」
「鶴翼で頼む。3段、時間差!」
「了解……って、見ている間に数が減っていくんだけど……」
編成する度に、数や被害状況が変化していくため、何度もやり直しながら、ジナステラ中尉は何とか編成を終えた。キリが無いので、あとはもう直前にもう一度見直そうと、各艦のFCSのプログラミングを始めた。
「第2分艦隊のFCSトリガーは?」
「旗艦同調で……いや、チャンネルは分けておいてくれ」
「了解」
それなら簡単と、これは一括コマンドで分艦隊の全艦艇に転送した。
「行動開始5分前!」
艦橋に緊張が走る。
ジナステラ中尉も第2分艦隊に集めた艦艇の編成状況を、再確認しながら備えた。
"LFIE”はアマルフィの短縮で愛称です。
MOTHER-ARMは着艦管制システムのことです。
次回は9月3日の予定です。




