(4)緊迫
準旗艦アマルフィの艦橋。
総旗艦アンドロメダの沈没に、士官たちは動揺していた。
「提督! TADILの再構築を急ぎませんと!」
リッカルド・ガルバルディ大佐は、呆然としているシュニッツァー提督を促した。
「あ、ああ……。だが……」
「しっかりしてください! 総旗艦が沈没した以上、提督が総司令官です!」
「わ、判っている……直ちにTADILの再構築を。私は、作戦計画書を……」
「それよりも撤収の指揮を執ってください! 彼我の戦力差は明白です。戦闘継続は不可能です。全艦隊を本艦を中心に集め、防御態勢を固めながら撤退しましょう!!」
「あ、ああ……そうだな、貴官の言う通りだ……。うっ……」
「提督!!」
リッカルド大佐は、この頼りない提督を、叱咤激励するつもりであったが、彼は気を失うように指揮コンソールに倒れてしまった。
「医務室! 聞こえるか? 司令が倒れられた、大至急医務官を回してくれ!」
リッカルドは慌てて医務室と連絡を取り、医務官を回してくれるように頼んだ。 そして、シュニッツァー司令をそうっと床に寝かせると、脈拍と呼吸を確かめた。素人判断だが動かさない方がいい事だけは確信した。
「次席参謀はどこにいるか?」
「砲術管制室だと思います、呼び出しますか?」
「至急、こちらに来るように言ってくれ、情報科のエンジニアも頼む!」
「わかりました」
リッカルド大佐は司令副官にそう指示を出すと、指揮コンソールを自艦隊を中心とする表示から、全艦隊の中心表示となるように、マニュアルで切り替えた。
(くそっ! 誰がこんなシステム組みやがったんだ。抗站性がまるで無い!)
そして、全艦隊の損害状況リストを表示させた。
表示リストの最下部に“損耗率 65%”の赤い文字が表示されている。
(これは駄目だ、即時撤退しなければ全滅してしまう。と言うか、すでに撤退条件のボーダーラインを超えている……)
リストを送ってみていると、“31-CVB-KSJ <LOST>”の文字があった。
(“キアサージュ” ロスト? フランツ!)
ガルバルディ大佐は士官学校時代にいろいろと面倒を見てやっていた、フランツ・ジナステラ中尉のことが気にかかった。“リッカルド先輩”と自分を慕ってくれた後輩は、第31遊撃艦隊の航空宇宙母艦に配属されていたはずだった。
“所属は違いますけど、また先輩と戦えますね!”と出発式典で、笑顔で自分に敬礼していたことを思い出す。
赤く表示された艦名をクリックすると、損害状況の詳細が表示された。
大佐は、その中に“2nd Sqd <ACTIVE>"の表示を見てほっとした。
「フランツ、無事でいろよ……」
思わず小さなつぶやきが漏れたが、そのことに気付いたものはいなかった。
★ミ
母艦である“キアサージュ”を失った、ジナステラ中尉の“パープル中隊”は、星間物質の濃い、航行不可能帯の縁ギリギリを前方の敵艦隊目指して進攻していた。
「こちらは圧倒的に不利だ。たぶん全面撤退の命令が、間もなく全艦隊に発令されるはずだ」
『あっしらも戻りますかい?“EDGE”(ジナステラ中尉のコールサイン)』
「“MIGHTY”(グエルディ少尉)、その前にやることがある。」
『どうするんです? 隊長!』
「“BEAR”と“PIZZA”は、間隔を空けて後方で援護。」
『あっしは?」
「“MIGHTY”は、俺に続け、4機で密集隊形!」
『何をしようってんです?』
ジナステラ中尉は、部分的に復旧しているTADILの敵艦情報を探っていた。
「……通信量が一番多いのは……、これか! 目標を定めた。情報共有! 前方上方2光秒先の、大型戦艦に集中攻撃!」
『って、これですかい? 集中攻撃って?』
「前方艦隊の旗艦に間違いない、側方の艦隊も含めた総旗艦じゃないかと思う」
『という事は……』
「アンドロメダ、そしてキアサージュの敵討ちだ。撃沈と言わないまでも沈黙させれば、味方の撤退に有利になる」
『他にもいっぱい、沈められちまいやしたからね』
★ミ
「第312巡航艦隊、被害甚大!」
「第31艦隊も残存は5隻だけです!」
「各艦隊の駆逐艦を合わせても10隻未満!」
第16打撃艦隊、準旗艦アマルフィ艦橋。
次々と増えていく被害に、ガルバルディ大佐は焦りを感じていた。
正面と右舷方向に展開していた敵艦隊は、包囲網を狭め始めていた。
今はまだ、損害軽微の第16艦隊も、そう遠くない時間に全滅させられてもおかしくない状況になりつつあった。
「司令代理、どうしますか?」
次席参謀のフェラーリオ中佐が問いかけた。
他に指揮できるものがいないという事で、なし崩し的にアマルフィが総旗艦、ガルバルディ大佐が、全艦隊の艦隊司令代理という事になった。
本来その任に就くのは、シュニッツァー少将の筈であったが、彼は意識不明の昏睡状態で、医務室に運ばれて行ってしまった。
「全艦に集合を急がせろ! 被害の大きい艦は自沈させ……いや盾代わりに前進させろ、乗員は他の艦に移せ!」
「了解しました。しかし……」
「しかし何だ?」
「この状況では、撤退も難しいかと」
「そんなことは判っている。だが少しでも多くの艦を救いたい」
「どうなさるおつもりで?」
「今はまだ決断できない、だがチャンスが訪れると信じている」
「チャンス? 一体どんな?」
「すぐにわかる」
訝しげに尋ねる、ターナー中佐には目もくれず。ガルバルディ総司令代理は、戦術状況ディスプレイをじっと見つめていた。
ディスプレイには、敵の旗艦と思われる前方8光秒の位置にいる、大型艦艇に向け伸びる紫色の軌跡が表示されていた。その軌跡の先端で、今なお高速で移動を続ける“2nd Sqd”の文字が点滅していた。
フランツの率いる部隊の登場人物はこんな感じです。
今回登場人物多いので、どこかでまとめる予定です。
◎空母 キアサージュ 第二飛行隊(パープル中隊)
●隊長 第一分隊リーダー フランツ・ジナステラ中尉
コールサイン“EDGE”
●副隊長 第二分隊リーダー フェルナンド・グエルディ少尉
コールサイン“MIGHTY”
●第一分隊 ウィングマン ミラー少尉
コールサイン ”POWDER”
●第二分隊 ウィングマン ザイデル少尉
コールサイン ”GOP”
●第三分隊 リーダー サルヴァトーレ中尉
コールサイン ”BEAR”
●第三分隊 ウィングマン パオロ准尉
コールサイン ”SNIFF”
●第四分隊 リーダー トミー少尉
コールサイン ”PIZZA”
●第四分隊 ウィングマン フィンレー少尉
コールサイン ”MANJYU”




