(14)艦隊との合流
「せっかくの少佐の大活躍だったのにー! 船内にカンヅメで撮り損ないましたぁ!」
ガミーロに戻ってきたフランチェスカに、憤懣やるかたないと言った感じでペトラが愚痴っていた。
「しょうがないでしょ、非戦闘員を巻き込むわけにはいかないわ。そんなことより、怪我は大丈夫なの?」
「ワタシだって、アンディの一員ですぅ! カメラを銃に変えて戦うつもりでした! ケガは……ちょっと痛いですぅ」
ペトラは左腕を吊っていた。応急処置はしてもらったようだが、頭にも包帯を巻いている。
「そんな状態で銃どころか、カメラだって無理でしょう? アンディに戻ったら、ちゃんと艦医のブルーノ先生に診てもらいなさい」
「はあぁい……」
「それより、もうすぐ艦隊と合流よ。帰る準備をして頂戴」
「了解しましたぁ」
ふてくされて返事をするペトラに、フランチェスカは苦笑した。
「で、あっしらはどうするんで?」
「フェルナンドは、海兵隊員を2名選抜して、主計課員とペトラ達を連れて戻って頂戴」
「了解……って専用機は?」
「艦隊に合流してから、帰艦するから、一人でも問題ないわ。だいいち怪我しているあなたを乗せていけないわ」
「はぁ……。ま、少佐がそうおっしゃるなら」
「よろしくお願いね。ペトラとウィンチェスター少尉を直ぐに医務室へ。あなたもよ。アンディには、そう伝えてあるから」
「了解しました。少佐もお気をつけて」
フェルナンド中尉は、命令を実行するため、ペトラ達を連れて連絡艇の待つ発着デッキへと向かった。
★ミ
3時間後、再び機関を再始動した輸送艦ガミーロは、第106遊撃艦隊との合流を果たし、補給物資の積み替えを行っていた。
フランチェスカも艦隊との合流後に、ガミーロから専用機でアンドレア・ドリアに帰艦していた。
「以上が報告です。報告書の方は、後日書式を整えて提出します」
「ご苦労だった。すまないがしばらくは艦橋に詰めていてくれ」
フランチェスカは帰艦後、直ぐに艦橋へ赴き、リッカルド・ガルバルディ艦隊司令に口頭で報告していた。
「それで、行方を眩ませた、密航者の作業艇ですが」
「ああ、高速巡洋艦を一隻、向かわせている。トリポリの艦隊司令本部へも連絡が入れてある。増派隊が到着次第、引き継ぎを行った後、我が艦隊は次の訓練空域へ向かう」
「了解しました」
「それで、取り逃がした密航者の件だが、本当に例のテロ事件の首謀者なのか?」
「首謀者と言うか……、確信は持てないんだけど、これを見て」
フランチェスカは携帯端末を取り出し、ガミーロの監視カメラで撮影した密航者の人相を見せた。
「うむ、わからんが、これが?」
「トリポリ地上基地の、憲兵隊長に見せられた容疑者リストの中に、この人物に似た顔があったの。それで、これがテロ事件の翌日に、近くの川原で死体で発見された少年の写真。成人したらこの密航者に似ていると思わない?」
「つまり、死体の少年の方はテロ事件と関係していて、密航者の方はその親族か何かで、テロの実行犯と関係があると、言っているのか?」
「そう簡単な話なら、いいんだけど……」
「なんだ、やけに歯切れが悪いな」
「まだ、うまく頭が整理できていないのよ」
「報告書の方は宜しく頼む」
「了解。ところで、できれば着替えたいんだけど。このEVAスーツ、輸送艦からの借りものなの」
フランチェスカは追撃戦の後も、着替えずにガミーロの艦橋で待機していた。そしてそのままアンドレア・ドリアに帰艦して直ぐに艦橋に出頭したため、借り物のスーツを着たままだった。
「ああ、それなら誰かに部屋へ制服を取りに行かせよう。ここで着替えれば……ぐふっ!」
フランチェスカの鉄拳が、リッカルドのみぞおちに炸裂した。
★ミ
更に1時間後、フランチェスカは再び輸送艦ガミーロのレセプションルームにいた。
「あと1時間ほどで、補給物資の積み替えは終わるよ」
「今回は迷惑かけたわね」
「まぁ、こっちも得体のしれない荷物、抱えちまっていたからねぇ」
ヴァイオラ艦長も頭を掻きながら言った。
「この後どうするの?」
「予定通り、アンダルシアⅣへ行くよ。例のコンテナの件を、依頼主に聞くのと、賠償請求もしなきゃならないしねぇ」
「航空宇宙軍からも査察が入る筈だわ。契約書のコピー、貰っておいていいかしら?」
「ああ、後で送っておくよ。少佐のアドレスでいいのかい?」
「いえ、トリポリの航空宇宙軍艦隊の司令部の方へお願い。ネットのホームページから、手続きできるけど、わからなかったら直接問い合わせてみて頂戴。我々の方からも報告は行っているので、“第106遊撃艦隊との件で”といえば、担当部署に回してもらえる筈だわ」
「わかった。で、その……、今回の協力金の件なんだけど……?」
「それも担当部署に聞いてみて。いろいろ書類出さなきゃいけないし、面倒かもしれないけど」
「実際、コンテナ受取先の方もどうなってるのか、よくわからないしね。与圧デッキの修理代や作業艇とか、丸損になるのは勘弁だよ」
「私からもちゃんと報告書だしておくから、心配いらない……と思うわ。保険だってあるんでしょ? 協力金の振込はちょっと時間かかると思うけど」
「やれやれ、まぁ、仕方がないさね。補填口利きの件、よろしく頼むよ?」
「もちろん。では、また機会があったら」
「ああ、よろしく」
二人は別れを惜しむように握手をして別れた。
★ミ
翌日、訓練空域への空間転移をしようと準備を進めていたところで、艦隊司令部から連絡が入った。調査官を乗せた艦と合流しろと言う指示のため、艦隊はリーン星系第3惑星の衛星軌道上に停泊したままであった。
到着予定時刻を大幅に過ぎてやってきた巡洋艦に、出迎えに行ったフランチェスカは意外な人物と再会した。
「バウマン大佐、ご無沙汰と言うほどではありませんが、ようこそ、アンドレア・ドリアへ」
地味ではあるが、油断のならない目つきをした彼は、トリポリの地上基地で訓練中に知り合った、憲兵隊長だった。
「ジナステラ少佐、また面倒をかけますな。今回もご活躍だったそうで」
「面倒だなんて、軍務ですから。それに取り逃がしてしまいましたし」
若干気まずい思いをしながら、フランチェスカが答えると、バウマン大佐は笑顔で握手を求めてきた。
「いえいえ、来る途中で報告書は読ませていただきました。偶然だったのでしょう? 何の準備もなく、良くやって下さったと思いますよ」
「そう言って頂けるとありがたいです」
フランチェスカも笑みを浮かべると、バウマン大佐も頷いた。
「艦隊司令に挨拶して来ます。そのあとで少しお時間をいただけますかな?」
「あ、はい。ご案内します」
二人は連れ立って歩き、艦隊司令公室へと向かった。




