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星の海で  作者: ありす
1st VOYAGE
41/119

(4)民間輸送船ガミーロ

 その翌日の早朝、フランチェスカは業務隊から選出された主計課隊員2名を伴って高速連絡艇に乗っていた。

 極短距離の跳躍航行を数回繰り返して小惑星群を回避し、通常空間航行に復帰した。

 コックピットのジャンプシートに座っていたフランチェスカは、通信機から奇妙な音がするのに気付いた。


「何? この音。どこかで聞いたような……?」

「極近距離の供用周波数に入ってきているようですね。どうやら、邂逅予定の民間船から発信されているようです」

「民間船から?」


 進路上、コックピットの正面に船影が見える筈だが、まだ肉眼でははっきりと見えなかった。

 連絡艇の副操縦士が通信器を操作して問いかけた。


「こちら、第106遊撃艦隊、連絡艇102号。接近中の船名及び所属を知らせ」

『こちらは民間輸送船ガミーロ。貴艦隊への補給契約の為、現宙域を航行中。連絡のあった方でしょうか?』


 どうやら、邂逅予定の船に間違いなかった。フランチェスカは副操縦士と互いに頷き合い、通信を代わった。


「私は、第106遊撃艦隊、幕僚のジナステラ少佐です。貴船が連絡のあった輸送船ですね。あと10分ほどで、邂逅ランデブーできそうです。着船の許可を願います。」

『こちらはガミーロの艦長、ヴァイオラだよ。着艦を許可します。えらくかわいらしい声だねぇ。誘導波を出すのでキャプチャしてもらえるかい?』


 フランチェスカは副操縦士に目で合図すると、副操縦士も誘導波が受信できたことを合図してきた。


「ありがとう、誘導波をキャプチャ。では共通手順に従い、貴船にアプローチします。ところで供用周波数に入っているこの音はなんですか?」

『ああ、そりゃ演出ってやつだよ。うるさかったら切っておくれ』

「演出?」

『近づいてもらえばわかるさ、アンタが“濃い”ならね。通信終り』


 フランチェスカは、首をひねりながら、聞き覚えのある音に耳を傾けていた。



 5分後、邂逅予定の輸送船の船影がはっきりしてくると、フランチェスカは思わず声を上げた。


「あ、あれ! あれが輸送船ガミーロ!? そうだわ、この音、思い出した!!」


 フランチェスカは思わずジャンプシートから身を乗り出して、コックピット前方の船影を見た。


 それは3層からなる広大なオープンデッキを持つ、航宙母艦並みに大きな船体を持つ輸送船だった。オープンデッキには、コンテナが満載されており、船体後半上部にはオープンデッキよりもさらに上の層に連絡艇や作業艇が係留されている発着甲板があった。その横には小さな船橋があり、何かの紋章をかたどった旗がはためいていた。

 輸送船と言うよりも、立派な戦闘母艦とも言えるその威容は、フランチェスカが昔ハマっていたアニメに出てくる、宇宙空母そっくりだった。供用周波数から流れていた音は、そのアニメの中で宇宙空母が航行するときにたてる、演出上の効果音だったのだ。


「わぁ、あれに着艦するの?! ワタシ、操縦代わりたい!!」


 テンション高めのフランチェスカは思わずそう叫んだが、操縦していた艇長は落ち着いた声で言った。


「少佐、私もあのアニメ知っているので、気持ちはわかりますが、おとなしく座っていてください」

「ご、ゴメンナサイ、思わず……。いいなあ、周りを一周してからとか……駄目だよね?」

「どのみち補給を受ける時に、アンディ(旗艦アンドレア・ドリアの愛称)の真横につきますよ。我慢してください」


 20分後、フランチェスカたちを乗せた連絡艇は、輸送船後部最上層の発着デッキに着船すると、連絡艇ごとエレベーターでギャラリーデッキに降りた。

 出迎えの船員とあいさつを交わすと、船内表示に沿ってドッキングチューブを通り、レセプションルームに案内された。

 そこには、既にヴァイオラ船長が待っていた。赤毛のセミロングに赤い瞳の大柄な女性にフランチェスカは少しだけ気押された。


「かしこまった言葉使いはなれないんで、そちらも砕けた話し方してもらえるかい? 私がこのふね、ガミーロ船長かんちょうのヴァイオラさ。この度は取引いただき、ありがとうございます」

「私は第106遊撃艦隊、幕僚のフランチェスカ・ジナステラ少佐です。今回は我が艦隊の為に、ご協力いただき感謝いたします」


 ヴァイオラは戸惑う様に、フランチェスカの上から下へと視線を動かした。


「こんな美少女が士官サマなのかい? あれ? どこかでお会いした事が……おっと、これは失礼しました」


 ヴァイオラ船長かんちょうは非礼を詫びると、フランチェスカと握手した。


「いえ、初めて会う方はみんな驚くわ。気にしないでくださると助かります。それで、こちらが当方の主計課のネルソン中尉とベイカー少尉です。積み荷のチェックはこの2名がします」

「ウチの方はここにいる、ロードマスターのゴードンに任せてる。あとで案内するよ」

「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく」


 ヴァイオラ船長かんちょうと主計課の2名も互いに握手をした。

 ゴードンと呼ばれた男は、『準備があるので』と先に貨物デッキへ向かった。


「そうそう。あとで、ウチの副長でもあるこの艦のオーナーと航宙士を紹介するよ。少ない人数で回しているんで、今ヒマなのはアタイだけなのさ。先ずはここでくつろいでおくれ、時間は大丈夫なのかい?」

「時間的には余裕を持ってきているので大丈夫です。この船は船長の持ち物ではなかったのですか?」

「アタイは雇われ船長かんちょうなのさ。ま、このふねを見た時にピンときて押しかけたんだけどね、あははは」

「判ります! そっくりですものね」


 フランチェスカはレセプションルームの壁に飾られている、この船を真横から見たレリーフを見ながら言った。

 民間船と軍艦を区別するため、公式には民間籍の航宙船は「ふね」であり、トップは船長せんちょうである。そして軍籍の航宙艦は「かん」でありトップは艦長かんちょうである。もちろん、厳密にそう使い分けられているわけではないが、改まった場ではそう言う事になっている。

 フランチェスカは民間船とはいえ、デッキにコンテナが満載されていなければ、ほぼ戦闘空母と言っていい、この独特の艦容に感心していた。


「おかげさんで、知っている人には荷主、受取人関わらず、喜んでもらっているよ。標準コンテナを2段積みできる高さの積載用オープンデッキを、3段もある大型の艦なんで、荷受量もデカくてね。航宙軍サンとも、よく取引させてもらっているよ」

「わたしは初めてですね。というかどういう経緯で建造されたのでしょう?」

「それは後で副長に聞いておくんな。それで、仕事の話なんだけど……」

「すみません、今書類を……」


 フランチェスカは、持って来た鞄から書類を出した。


「こちらが艦政本部から送られてきた、契約書の控え、これが内訳確認書です。電子書類じゃなくて、申し訳ないのですが……」

「ああ、慣れているから大丈夫さ。お役所ってのはどこもそうさね」


 民間なら取引はすべて電子書類に電子決済で行われている。だが軍と一部の公的機関は、いまだに商取引などでは偽造電子データを避けるために、紙媒体の契約書を使っている。特に民間との取引の場合は。

書くの忘れていましたが、輸送艦ガミーロはご想像の通り、

ガ〇ラスの多層空母がモデルです(^_^;)。


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