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星の海で  作者: ありす
1st VOYAGE
39/119

(2)初フライトⅠ

 3日後、無事コックピットの改修が終わったと、フランチェスカは整備班から連絡を受けた。

 予め飛行計画を提出していた通り、試験フライトをしようとフライトスーツ(専用サイズの新品)に着替え、整備用ハンガーへ出向いた。

 そこには、第1飛行隊第3小隊の副隊長をしている、フェルナンド・グエルディ中尉が待っていた。


「わるいわね、フェルナンド」

「いえいえ、少佐の後席はあっしがやると、決めているんで」

「最新鋭機とはいえ、まだ一機しかない試作機だものね」


 最新鋭という言葉に弱いのは、誰だって同じだろうとフランチェスカは思った。

「それもあります。あ、少佐には言っていませんでしたが、少佐が乗る前にトリポリの地上基地で3度ほどフライトしています。すいやせん」

「別にそれは気にしないわよ。でも前席は私にぴったり合わせてもらったから、フェルナンドは座れないかも」

「あっしは後席に座れれば充分でさぁ。おや、サイドスティックに変えてるんですね」


 前席を覗き込んだフェルナンド中尉が言った。

 戦闘艇ダイバー乗りは、無重力空間での3次元空間戦闘では、操縦桿は感覚的に体の中心に近い位置の方が、しっくりくるということで、シートに座った時に両足のセンターに操縦桿が配置されることを好んでいた。もちろんこれは好みの問題であって、戦闘艇各タイプ共通のコンソールが採用されている機体では、操縦桿の位置は自分の好きな配置に、カスタマイズ可能な仕様となっていた。


「Gキャンセラが効かないような領域だと、こっちの方がいいのよ。感圧式操縦桿(フォース・スティック)よ」

「“Gキャンセラが効かない”って、どんな機動マニューバしようとしてるんです?」

「地上訓練でね。そう言う事がたびたびあって……。地上基地仕様はみんなそうみたいよ」

「へぇ……後席の、あっしもそれに変えた方がいいっすかね?」

「どっちでもいいんじゃない? 白状すると、シートを目いっぱい前まで寄せないと、計器パネルに手が届かないのよ。センタースティックだと、スティックが邪魔になっちゃうの」

「ははは、そりゃ難儀ですなぁ。ま、しばらく少佐の後席に座ってみて、そっちの方が良ければ、後席も変えてもらいやしょう」


 そんな会話をしながら、機体電源を入れ、2人はプリフライトチェックを始めていった。


 やがて、全てのチェックを終えると。カタパルトへと機体を移動させるため格納庫管制室ハンガーコントロールに許可を求めた。


「HANGER-CONTROL. This is STREGA, Request catapult position, and contact Mother」

『STREGA, Stay and hold』


 発艦カタパルトへの移動要求と、母艦の飛行管制コンピュータへの接続許可を求めたが、なぜか管制官から『待て』の指示が出た。


「何かしら?」

『さぁ? あっしに聞かれても……』


 後席のフェルナンド中尉も首をかしげた。

 フランチェスカが地上で訓練していた時も、上空を行きかうおびただしい数の輸送機やら民間機のトラフィックで待たされたことがあったが、宇宙空間に展開中の艦隊で事前に飛行計画を提出しているのに、発艦を妨げるような要素など、無い筈だった。


『す、すいません、ジナステラ少佐。発艦ちょっと待ってください!!』

「え? 誰? 官姓名を名乗りなさい!」


 突然、無線に男の声で通信が入った。


『申し訳ありません、少佐。自分は広報班のウィンチェスター少尉です』

「『広報班?』」


 思わず漏れた言葉が後席とハモった。


『間に合ってよかった。少佐の初フライトを是非ビデオに収めたくて、管制に強引に割り込ませてもらったんですよ』

「初フライトって……、確かにこの機体で飛ぶのは初めてになるけど……」

『少佐はトリポリの英雄でしょう? 広報班としては、軍の宣伝も兼ねて、ぜひデモフライトの撮影をさせていただきたいんですよ』


 地上基地でのマスコミ攻勢から解放されたと思ったら宇宙そらでもか、と一瞬テンションが下がったが、これも給料の内と思い直した。


「はぁ……それは、上がOKなら構わないと思うけど、事前に調整もなしでデモフライトと言われても……。今回は慣らしの為に飛ぶだけだから、機動飛行アクロバットなんかしないわよ?」


 機体調整後のフライトなので、せいぜい軽い3次元機動ぐらいしかしない予定だった。


『かまいません、それはまた別の機会にお願いします。この艦、“アンドレア・ドリア”も最新鋭艦の処女航海でしょう? 随伴しているところも撮りたいんです』

「許可は出てるの?」

『一応。それでわれわれも、随伴機としてお供したいのですが……』

「“一応”? まぁ許可をもらっているならいいわ。でもこちらも予定があるので、ほどほどにね」

『ありがとうございます!』


 フランチェスカは格納庫管制室に移動許可を取りなおそうとしたが、別のチャンネルから怒鳴り声で通信が入った。


『おい!フランチェスカ! 俺に無断でフライトとはどういう事だ!』

「リ……じゃなかった、提督!? なんですか突然。私はちゃんと飛行計画だしてますよ!」

『そんなのが俺のところまでまわってくる筈がないだろう!』

「いちいち艦隊司令に許可を取る話じゃないでしょう!」

『臨時の……ああ、そうだ! 幕僚会議をする』

「そんな取ってつけたような指示には従えません!」


 無線を通じて艦橋と言い合いを始めた二人に、呆れるような声が入った。


『『あのー?』』

「『何よ(だ)』」

『夫婦喧嘩は後にしてもらえませんかね?』

「『だれが夫婦よ(だ)!!!』」


 見事にハモって言い返す二人に、無線を聞いていた全員があきれ顔になったが、通信を聞いていた広報班のウィンチェスター少尉だけは、面白ネタがやってきたとばかりにニンマリとした。


『それで? 発進するのかしないのか、はっきりしてもらえませんかね?』


 管制官から苛立つ声で通信が入った。


飛行計画プライトプラン通りです。随伴機チェイサーも追加プラン通りで! 通信終り!」


 フランチェスカは、管制室とのチャンネル以外を全て切った。


「まったくもう! ワタシはアンタの所有物じゃないっての!!」

『いいんですかい? あとでまた、モメませんかね?』

 

 飛行計画上は、2時間後には帰投予定時刻(ETA)になっている。司令艦橋のシフト交代の時間までにはまだ余裕のため、フランチェスカが呼び出されて、今度は艦橋で夫婦喧嘩を始めるのではないかと、フェルナンド中尉は危惧した。


「無視すればいい話よ。だいいち、一佐官の行動に文句をつけるような決まりなんてないわ!」

『いや、少佐は幕僚で副官なんですから、招集には応じなければいけないのでは?』

「どういう根拠で?」

『え? それは、ええと…………』

「いいから、もう行くわよ。HANGER-CONTROL, This is STREGA,Request to TAKE-OFF position」

『STREGA 01, Cleared for TAKE-OFF via No.3 CAT, and 02 No.4』

「STREGA 01, Roger. じゃ、フェルナンド、行くわよ」


 フランチェスカは格納庫の整備員に合図を送り、キャノピーを閉めた。

 機体は構内移動用牽引機タグに引かれて、発進カタパルトへと移動していった。

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