(27)テロⅦ・魔女の出撃
GOC(戦闘群指揮所)で連絡係をしていたフランチェスカは、戦域通信をモニターしていたが、苦戦中の隊長と、連絡がつかなくなっている“パンテル”(ディッケル少尉)のことが気になり、いても立ってもいられなくなっていた。
このまま自分は新しい指示を求めた方が良いか悩んでいると、隣に座っていた通信士官から意外なことを言われた。
「ジナステラ大尉、軍管区長官からの指示で、現隊の格納庫へ行けとの、指示が出ていますが?」
「私に? 長官から?」
フランチェスカは、自分の指揮系統外からの指示に疑問を持ちながらも、通信士官に後を任せ、47訓練戦隊の格納庫へと急いだ。
フランチェスカが、格納庫にたどり着くと、そこには腕組みをして立っている整備班長がいた。
「どこへ行くんだ? 嬢ちゃん」
「整備班長! なんかよくわからないんですけど、ハンガーに行けっていう指示をもらったんですが?」
「おう。聞いているぞ。隊長たちの状況が、だいぶ悪いようだな」
「そうなんです、私もどうしたらいいかわからなくて」
「まぁ、こっちへ来な。いいものがあるぜ」
「いいのもの、ですか?」
整備班長につれられてきたのは、搭載兵装を整えた戦闘機動艇だった。
「ちょいと旧式だが、整備は万全だ。兵装も完了、FCSもプログラミングしてある」
「これ! でも、あたしには……。」
「シートなら、交換してあるぜ。お前さんが乗っていた、おもちゃのコックピットモジュールは、回収できていたからな。こいつに載せ換えてある」
「班長……。でも、勝手に出撃なんて……」
「問題ない。許可は出ている」
「おじ……ガルバルディ長官、から?」
「ああ、そうだな。彼とは長い付き合いでな。お前さんに期待しているようだ」
「なんだかよくわからないんですが、行ってもいいってことですよね?」
「そう言う事だ」
「あ、でも、またコワしちゃうかも……」
「機体はいくら壊してもいい。だが、お前さんだけは戻って来いよ」
「はい! でも班長。随分と準備がいいんですね」
コックピットモジュールの交換も、搭載兵装の準備も直ぐにはできないはずだった。フランチェスカは、こうなることを予想していたかの様な班長の用意周到さに驚いていた。
「ふふふ、まあな。昔から耳だけは良かったんでな」
「じゃ班長、最初から判っていて……」
その時、意外な人物が声をかけた。
「良かったわね、フランちゃん」
「あれ、シルヴィアさん、いつの間に?」
「私も、いてもたってもいられなくてね。家で無線を聞いていたんだけど、心配になって来てみたの」
「私も今からこれで出撃します」
「そう。複座の機体ね。班長、後席はノーマルですか?」
「ああ、って、お前さん、乗る気か?」
「だ、ダメですよ! シルヴィアさんは民間、じ、ン……」
言いかけたフランチェスカを、笑顔のまま他人を黙らせるシルヴィアの得意技が止めた。
「夫を助けるのは妻の役目ですから。かわいい妹を守るのもね」
ウィンクするシルヴィアに、果敢にもフランチェスカは思いとどまらせようとした。
「で、でもシルヴィアさん、危険ですよ! 夜ですよ!?」
「そうだぞ、テロリストが……いや、止めてもムダなんだろ? お前さんは言い出したら聞かないからな」
やれやれという、苦虫をつぶしたような顔で班長が言った。
だが、フランチェスカは、元パイロットとはいえ、今は民間人であるシルヴィアを実戦に参加させるのは躊躇われた。第一、あの愛妻家の隊長がそれを許すとは思えなかった。
「いいんですか、班長? 後で隊長に怒られても知りませんよ?」
「ひとつ教えておいてやろう、この基地で一番偉いのは、指揮系統が異なる軍管区司令部を除けば、トリポリ基地司令だ。だが数年でどっかへまた転属して行っちまう彼は、ローぜンバウアー隊長の言うことは無視できない。だが、その隊長も実は……」
「班長? 時間がありませんわ」
にこやかに再び得意技を発揮したシルヴィアに、整備班長も言葉が継げなくなっていた。
「嬢ちゃん、まぁあれだ。少なくともその辺の野郎を乗せて行くよりは、はるかに頼りになる。いいから行って来い」
「わ、判りました。いいのかなぁ? 本当に……」
だがもちろんフランチェスカにも、シルヴィア夫人を止めることは出来そうになかった。
「いいから発進準備急げ。 おい! ハンガーアウトするぞ! パイロットは搭乗! 地上要員はチェック急げよ!」
「「「了解!!」」」
格納庫から引き出された機体のコックピットに乗り込む、フランチェスカ達を見つめた整備班長は、呟くように言った。
「ふふふ、いつかを思い出すぜ。“魔女”の再来か……」
機体に掛けられたラダーを昇り、前席にフランチェスカ、後席にシルヴィアが搭乗した。
ヘルメットのレシーバーを接続すると直ぐに、シルヴィアから応答があった。
『フランちゃん、プリフライトチェック、準備良いわよ』
レシーバー経由で機外の整備員とも連携しながら、フランチェスカたちは機体を始動し始めた。
「え、ええと、電源チェック。機体電源投入、1番から4番までON。MASTER-ARMチェック……セーフ。ハイドロチェック……ゼロ。APU始動……ノーマル。BCPチェック、FLCS……ノーマル。EJSノーマル……。次は……なんだっけ?」
APUが回転数を上げていく音と振動の中で、VWSにせかされながら、フランチェスカは初めて扱う機体のチェックリストと格闘していた。
『落ち着いて。この機体なら、私も乗ったことがあるわ。エンジンをスタートさせたら、細かいチェックは私に任せて、貴女は操縦系と航法系のチェックに専念しなさい』
「は、はい、シルヴィアさん。APU、規定値まで圧力上昇」
『エンジン始動!』
「エンジンスタート、レフト! ……続いてライト!」
フランチェスカは、機外の整備員にもジェスチャーで示しながら、左右にある二つのメインエンジンを順にAPUに接続し、始動させた。
ブランク期間があったとは思えないほど、スムーズにチェックを進めて行くシルヴィアに、舌を巻きながら、フランチェスカも操縦系のチェックを続けた。
やがてコーションパネルのインジケーターが全て消灯したのを見て、無線機の周波数を管制塔に合わせた。
「Tower,This is PRIMA. Request taxi to Runway23.」
フランチェスカは地上要員がセフティタグを外して機体から離れるのを確認し、管制塔に誘導路への進入を求めると、後席のシルヴィアが言った。
『フランちゃん、あなたは“プリマ”じゃないわ、“ストレガ”よ』
「“ストレガ”?」
『“天翔ける魔女”。あなたはもう訓練生じゃない。戦士なのよ』
“戦士”という言葉をぐっと噛み締めて、フランチェスカは再度管制塔を呼び出した。
「Tower,Request change call sign from “PRIMA” to “STREGA”」
『……Th、This is Tower, “STREGA” Cleared for Taxi to RWY23 and Hold short』
「STREGA Roger!」
誘導路をゆっくりと進み、アーミングエリアに機体を静止させると、待機していた地上要員が搭載兵装のセフティタグを抜き、合図を送ってきた。それとほぼ同時に管制塔からの離陸許可がでた。
『STREGA,Taxi into RWY23, and Cleared for TAKE-OFF!』
管制塔からの指示に、フランチェスカは再び機体を前進させ、滑走路端に機体を静止させた。
そして手順通りにフットブレーキをかけたまま2回、アフターバーナーを全開にしてから、スロットルをアイドルに戻した。
バックミラー越しに後席を伺うと、シルヴィアが右手の親指を立てていた。
「STREGA,TAKE-OFF!!」
フランチェスカはそう宣言すると、フットブレーキを解除。スロットルをアイドルからミリタリーに進め、さらにアフターバーナーに点火した。そして失った訓練機のものとは異なる重い咆哮を轟かせながら、戦場の空へ向けて駆け上がっていった。
★ミ
ローゼンバウアー隊長の地上部隊は、地下道に潜んでいたロボット群をなんとか撃退すると、地下道を爆破し、核貯蔵施設への通路を遮断した。
しかし、地下道は封じても地上の経路を塞ぐのは不可能だった。
地上の様子を伺うために再び地上に出ると、戦車が主砲を発射し、移動の障害となる瓦礫を粉々に吹き飛ばしたところだった。
「まずいな、アイツをなんとかしないと、地下道を塞いだところで、何にもならん」
「ちくしょう! そのための戦車かよ!」
「どうやって倒します? 隊長」
「RPGはもう無いし、“アイアン”! 残弾は?」
「私はマガジンに半分、“ビッグス”と“バスク”は残弾ゼロ、“アドラー”たちは?」
「俺たちも、マガジン半分は無いですね」
「後は、サイドアームと、爆破の余りのプラスチック爆弾だけか?」
「サイドアームったって9ミリなんざ、モジュラー装甲にゃ意味ねえし、爆弾取り付ける間にハチの巣にされちまいますぜ?」
「せめて足止めだけでも、出来ないですかね?」
「“パンテル”はどうした?」
「無線には応答ありません」
「援軍はまだか?」
あまりの不利な状況に、部隊の全員が苦い表情になっていた。
F-15戦闘機のエンジン始動音ってすっごく燃えます!! 特に複数の機体が次々にエンジンスタートさせていく時と言ったら、テンション爆ageです(^_^;)。基地祭とかでぜひ聞いてみてください。
※いつも誤字報告をしてくださる方、ありがとうございますm(_ _)m




