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星の海で  作者: ありす
魔女の征く空
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(1)辞令

(1)辞令


 錨泊地に停泊した、残存リッカルド艦隊は、第5軍管区司令直下に置かれると同時に、艦隊は解散。新たな辞令を待てと、待機することになった。

 ただし、残存艦隊司令部要員は、シャトルで惑星トリポリⅢに降り、軍管区司令部へ出頭せよとの指示を受けていた。


 フランチェスカもリッカルド司令代行と共にトリポリⅢへ降下したが、それぞれ別に辞令を渡すとのことで、庁舎内で別れた。


 フランチェスカは待機時間を利用して、司令部庁舎内の購買部で士官用制服を見繕っていたが、ミドルティーンの少女の体に合う制服などなかった。

 艦隊行動中に小さな少女の体となったフランチェスカには、自分の体に合う服が無く、私服や作業衣を自分で手直しして済ませていた。


 戦闘行動中はそれでも問題はなかったが、軍管区司令長官直々に辞令を渡されることが内示されていた。さすがに応急処置でサイズを縮めた、体に合っていない作業衣で、受け取るわけにはいかないだろうと思い、購買部を訪ねたのだが、アテが外れた。


 それでも店番の兵士に話を聞くと、『基地正門そばのBX(基地購買部)に行けば、小さなサイズの士官用制服があったはず……』

と言うので、行ってみることにした。


 確かに言われた通り、フランチェスカでも着ることが出来そうな、女性用士官服が置いてあった。だが、それは子供用の土産物で、作りは本物の制服に劣るものだった。遠目に見れば、正規の制服に見えないこともないが、所詮は安価な縫製の安物だった。

 時間もないし、他に手もなさそうだとあきらめたフランチェスカは、とりあえずそれに着替えることで、体裁は整えられた。


(くそっ! コスプレ少女をやらされるとは思わなかった……)


 苦虫をつぶす渋面のフランチェスカだったが、嘱託の女性店員に『まぁっ!かわいらしい!!』と抱き付かれた上に、髪型まで綺麗にアップに結い上げられるというテンションの高い反応をされ、無理矢理写真まで撮られてから、解放された。


 司令部庁舎に戻る間に、きちんとした仕立ての制服を注文し忘れたことに気が付いたが、後の祭りだった。



「フランチェスカ・ジナステラ中尉、参りました」

「入りたまえ、中尉」

「失礼します」

 

 フランチェスカという新しい名。女性となってから初めての辞令を受け取るために、フランチェスカはトリポリ駐屯星の衛星軌道上にある、第5軍管区艦隊幕僚本部へ出頭した。

 事前に昇進の内示があったものの、配属先に付いては何も聞かされないままであった。

 艦隊を生還させるための奇策だったとはいえ、10代半ばの少女のように小さな体となってしまったフランチェスカは、このまま地上勤務に回されるのか、それとも昇進を条件に退役を勧告されるのか、それが一番の懸念事項だった。

 士官学校を卒業して以来、常に戦場から戦場へと駆け巡ってきた少尉にとって、戦場以外でどのように自分が身を処して行けばよいのか、見当もつかなかった。


 フランチェスカが呼び出しを受けた部屋は天井が高く、落ち着いた調度の什器類の中央には応接セットがあり、その窓側には横に5人は余裕で座れそうなほどの大きなデスクがあった。

 そのデスクの中央に、トリポリ駐留軍司令を兼任している、第5軍管区司令長官が座っていた。

 尉官クラスならば、通常は管区の艦政本部人事課に出頭して受け取れば済むはずの辞令を、軍管区司令長官から直々に渡されるのは、異例と言えば異例だった。


「中尉、生還おめでとう」

「ありがとうございます。長官」

「手短に話そう。フランツ・ジナステラ中尉改め、フランチェスカ・ジナスナラ中尉を大尉に任ずる」


 フランチェスカは姿勢を正すと、敬礼をして辞令を受け取った。


「それと 統合宇宙艦隊 航空宇宙教育集団 第4教育団 第五軍管区分駐 第7訓練隊 通称「47訓練戦隊」への転属を命じる」

「転属……? 訓練隊へ?」

「転属といっても、約1ヶ月の間だけだ。その後はまた実戦部隊への配属が決まっている。転属というのは書類上の話で、言ってみれば再訓練だ」

「再訓練、ですか? 自分は地上勤務か、それとも退役を勧告されるものと、思っておりましたが……」


 航宙艦、それも戦闘艦に女性の士官などいない。

 そもそも、航宙艦に女性が乗り組むことはなく、唯一の例外はラヴァーズだ。

 トリポリ基地への帰還と同時に、臨時のラヴァーズとしての任務は解除されたから、今の自分の身分は女性士官ということになっている。


「退役したいのかね?」

「いえ! とんでもありません! また戦場に戻れるのならば、望外の喜びです」

 少し長めの沈黙の後、長官は何かに気付いたように、こう言った。


「まぁかけたまえ、丁度休憩の時間だ。少し付き合わないかね?」

「ええ、喜んで」


 二人が応接セットに席を移すと、司令長官付の従僕がコーヒーを給仕した。


「君はそのラヴァーズの体になって、まだ一度も訓練を受けていないだろう。それでは前線要員としては不十分だろうという、艦政本部の判断だ」

「それは……、正規のラヴァーズ教育を受けろと、言うことでしょうか?」


 前線に戻れたとしても、ラヴァーズとしてでは意味がない。フランチェスカは失望しかけたが、長官の意図は別にあった。


「君のラヴァーズとしての任は解除されている。そうではなくて、実戦部隊の戦闘要員としての教育を受けろということだよ。女性の体で戦闘訓練を受けてはいないのだろう? 勝手が違うこともあるのではないかね?」

「ああ、そういうことですか。それなら了解です」


 前線復帰できる! フランチェスカは思わず心の中でガッツポーズをした。

 晴れ晴れとした表情のフランチェスカに、長官は片目をつぶりながら言った。


「まぁ、それにだ。バカ息子がどうしても、君を手放したくないそうだ」

「リッカルド……いえ、大佐が?」


 長官はフランチェスカの士官学校時代の先輩で帰還作戦の指揮官だった、リッカルド・ガルバルディ大佐の父親でもあった。 


「バカ息子が、珍しく私のところにメッセージをよこしてきてな。何かと思えば、“何があろうとも絶対に副官を代えるな!”と」

「は、はぁ……」

「訓練期間が終了すれば君は原隊、いや、新編される遊撃艦隊へ配属だ」

「新しい遊撃艦隊、ですか?」

「第106遊撃艦隊。艦隊司令はリッカルド・ガルバルディ准将。笑えるだろう? あのバカ息子も、ついに提督の仲間入りだ。わはは」

「リッカ……いえ、大佐が准将に昇進?」


 リッカルド大佐は戦歴を重ねているとはいえ、やっと30歳だ。今回の撤退戦で、それなりの功績を上げたとはいえ、敗残艦隊である。慣例に従えば将官への昇進はまだ先の筈だった。


「まぁ、そう言うわけだ。縁故人事が今に始まったことではないが、君は先の戦闘でも多大な功績を挙げた。大尉への昇進もSA昇進だ。さらに少佐に昇進するのもすぐのことだろう。そう言う人材を地上勤務、ましてや退役になどさせんよ」

「あ、ありがとうございます、長官」


 “バカ息子”とリッカルドのことを長官は言ったが、長官もなかなかの親バカではないかと、内心では苦笑しながらも、フランチェスカ自身もまたリッカルドとともに、戦場を駆けることができると思うと、それは十分に嬉しいことであった。


「訓練期間は、概ね1ヵ月。その後は今言った新編される第106遊撃艦隊にて、艦隊幕僚に任ずることになっている」

「幕僚ですか? でも艦隊幕僚は佐官以上を充てるのでは?」

「独立艦隊とはいえ、艦隊司令が異例の准将だからな、幕僚が尉官でも問題あるまい。第一リッカルドの奴が、「副官を変えるな」と言ったからな。身分的には艦隊司令の副官と言う扱いになるだろう」

「はぁ……」


 長官の言うとおり、縁故人事も極まれりだなと感じた。

 しかし、フランチェスカ自身は、可能なら戦闘艇パイロットを続けたかった。

 だが実際問題、戦闘艇のパイロットを続けようと思うのなら、今の少女のような体では物理的に難しいだろう。偵察機の後席に座った時にシートをいくら調整しても、計器板より上に頭が出る事はなかったからだ。


 それにおそらく、リッカルド先輩は楽をしたいのだろう、敗残艦隊を率いている間、事ある毎に自分に指揮をまかせていたのだから。


「君が一時配属先となる47訓練戦隊は、精鋭部隊の訓練を受け持つエリート集団だ。精進して訓練に励むように」

「了解しました!」

「そうそう、隊長のローゼンバウアー大佐は、歴戦の勇士だ。特に地上戦では右にでるものはいないそうだ。戦闘艇の操縦もトリプルエース級と聞いている」

「へぇ? 凄い人なんですね」


 フランチェスカ自身も、スコア28のトリプルエース目前であった。

 ということは、自分も教官クラスと胸を張ることが出来るな、などと思った。

 だがこの時の彼女は、自分の体が以前とは異なる、華奢で小さな体であり、そのことで苦労するなどとは、思ってはいなかった。


「彼のコードネームは“BEAST”」

「“ビースト(猛獣)“?」

「まぁ、せいぜい喰われんようにな。ははは」

「は、はぁ……」


 時間に余裕があったのか、長官はフランチェスカにソファを勧めると、近況などを語らいつつ、世間話につきあう様に言われた。





 同じ頃、トリポリ市国際宇宙港に到着したシャトルから、一人の人物が降り立った。

 大き目のスーツケースを抱えた彼は、サングラスに帽子、マスクと人相が判りにくい姿をしていた。


 宙港の入国審査官は、提示されたIDカードに、なんとなく不審なものを感じたが、偽造されたような形跡もなく、簡単に荷物を改めると通関を通した。

 彼はほっとしたかのように深呼吸をすると、一緒に降り立った観光客の雑踏の中にに溶け込むように消えた。


 そしてその様子を、油断のならない目つきをした男が、監視するかのように見守っていた。


 後にスーツケースの男が、トリポリ市を危機に陥れる大事件を起こすことになろうとは、まだ誰も想像してはいなかった。

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