(19)飛行試験をしよう(1)
誤字報告・評価・いいね・ブックマークありがとうございます。
今日は久々の飛行訓練である。
いくら提督直属の戦闘副官とはいえ、私は艦載艇乗り。
技量維持のためには、定期的に飛ばなくてはならないのだ。
機体の整備は完璧。後席にはいつも通り、フェルナンド・グエルディ大尉を載せて、発艦準備も整った。
「悪いわね、フェルナンド。付き合ってもらって」
『少佐の後席は、あっしがやるって決めたんすから、遠慮は無しですぜ!』
レシーバーからも、彼の弾んだ声が聞こえてくる。
本来ならば、私の後を継いで、アンドレア・ドリアの第二飛行隊の隊長であるフェルナンドが、私に付き合う必要は無い。
けれど私の専用機である、XFA-37は、まだ宇宙にたった1機しかない試作艇だ。私とフェルナンド以外に、パイロット資格がある人がいないのだ。
「ありがとう。じゃあ、そろそろ行きますか」
『へい! がってんでさぁ』
私は宙域管制室と通信を繋ぎ、発進許可を求めた後にカタパルト発艦で、アンドレア・ドリアから放れた。
『そういや、いつの間にか、(機体の)背中のスペシャルペイント、消しちまったんすね』
「今頃?」
私の専用機の背側には、フェルナンドが言う通り、スペシャルマーキングがしてあった。
トリポリで専用機を受領した時、ディフォルメされた私の似顔絵と、ファンシー文字でメッセージが描かれていたのだ。
『第五軍管区の広報誌にも載ったんでやしょう? 正式採用かと思っていやしたが』
「そんなわけないでしょう。それに再塗装の為に消してから、もう一ヵ月は経っているわよ」
『そうでいやしたか、残念』
「それよりそろそろ訓練空域よ。準備はいい?」
『OKでやす』
私は左側後方のサイドコンソールにある、オペレーションコントロールパネルのメインダイアルを“プラクティス”にセットして、空域管制室をコールした。
「AUTHER, This is STREGA. Now on TABLE. Request Practice Order.」
『This is AUTHER. Cleared Order. Your TABLE is ALL-FREE. You may make BEST!』
「Thank you!」
今日の管制官は、新しく配属された候補生がやっているらしい。発音も怪しいうえに何が言いたいのか、いまいちはっきりしない。
たぶん“この空域を飛んでいるのは自分達だけなので、存分にやれ”と言う意味なんだろう。
「じゃあフェルナンド、まずは”Bull's EYE”に向かって高速フライパス。行くわよ!」
『Roger』
私は正面計器中央にあるMPCDに戦術マップを表示させ、空間上に設定された仮想の目標点までのルートと自機を結ぶように設定した。
MPCD上には、仮想の障害物の位置が表示され、それらを避ける様に曲がりくねったルートが目標地点に向かって伸びている。
「Target,in-sight....Way-point ONE... MARK! Burner-ON! MAX-Power!」
予めプログラムされているシナリオ通りに、機体を進めていく。
通過点1を超えた直後に、推力増強装置を最大にして速度を増加させる。
とたんに飛び出すような加速を始める。
「Point-TWO,Turn-RIGHT......NOW!」
サイドスティックを右にひねり、機体を右に急旋回させる。
とたんにGメーターが左方向に跳ね上がり、強いGが機体にかかっていることが表示される。しかしコックピットブロックに装備された、Gキャンセラのおかげで体感的にはほとんどそれを感じない。
「Next,Point-THREE,Turn-LEFT......NOW!」
次に左旋回、上昇、下降と最大推力で加速しながら機体に負荷をかける。
そして目標点を通過して、機体を巡航状態にさせた。
久々の高機動に少し手に汗をかいた。
『いやぁ、流石の試作艇っすね。アドラー(フェルナンドたちが乗る標準搭載機)じゃこうは行きやせんぜ? それにGキャンセラもうちらの機体とは段違いっすね。ほとんどGを感じやせん』
「んふふ~、新型サイドスラスタのパーツが昨日届いたのよ。早速試して見たくって、整備員に無理言っちゃった。でもリミッタ入れてるから、これが限界ってわけじゃないと思う」
『なるほど、しかしGメーター見てやしたが、これだだと外装オプションはつけられないんじゃないっすか?』
「うん、多分パイロンがもたないと思う。ラッチが壊れて丸ごともげちゃうと思うわ。強化型ならもつと思うけど、この機体に合うのが無いのよ」
高機動試験も兼ねているから、外部兵装に追加するミサイルとか、推進剤増加タンクはおろか、それらを装備するためのパイロンすらつけていない。完全なクリーン形態で飛んでいる。
『つか、“翼”も外しちゃってんすね』
専用機の外形的特徴でもある、大気圏戦闘用の動翼の付いた外翼はおろか、代わりに装着する空間戦闘用の放熱翼すら外してしまっている。そのため今日の愛機は巨大な芋虫みたいな外観をしていた。
「どこまで行けるか、試してみたいって整備員が言ってたの。データをトリポリに送るって言っていたわ」
『へー……、アレ? 少佐、テストパイロットのライセンス、持ってたんすか?』「うん、いつの間にか持ってた」
『いつの間にかって……』
「トリポリの地上訓練の時にね、訓練先の隊長がいつの間にか申請していてくれていたみたい。“大気圏戦闘なんてシミュレーションでしかやったこと無かった”って言ったら、隊長が慣熟訓練のついでだからって、勝手に申請してたみたい」
『へぇ、ずいぶんと手回しの良い方だったんすね』
「おかげでいろんなことやらされたわ。“大気圏戦闘に慣れるためだ”とかなんとか言っていたけど……」
『なるほど、そうでやしたか』
「まぁ、おかげで乗機を2機もツブしちゃったけどね」
ミラーで見たら後席のフェルナンドが目を丸くしていた。
実際には、1機は隊長とのACMで無茶してオシャカにして、もう一機はテロリストのAFVにぶつけてしまったからだが、それは黙っとこ。
「じゃ、次はGキャンセラの限界まで行くわよ。舌噛まないでね」
『えー。マジっすか?!」
ブラックアウトとレッドアウトを交互に繰り返すような、激しい3次元高機動に、目を回しながら一通り終えた。
「はぁ、はぁ……流石にキツかったわ……」
『飯食わんで……おいて、よかったっ‥すわ。間違いなく、吐いてやした』
「はぁ……ちょっと、小休止……」
アンディの管制室には、10分ほどのインターバルを置くと報告して、一息ついた。
『で、次はどうするんすか?』
「対艦攻撃のテストで、終わりにしましょうか」
『対艦攻撃?』
「電子妨害を掛けながら、アンディに接近。最大射程で発射、ブレークってとこかしらね」
私はプロファイルシートを見ながら手順を確認した。
「んじゃいくわよー」
『へい、よござんす!』
次回更新は土曜日の予定です。




