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星の海で  作者: ありす
ジナステラ少佐の多忙な日々
110/119

(19)飛行試験をしよう(1)

誤字報告・評価・いいね・ブックマークありがとうございます。


 今日は久々の飛行訓練である。

 いくら提督直属の戦闘副官とはいえ、私は艦載艇乗り(パイロット)

 技量維持のためには、定期的に飛ばなくてはならないのだ。

 機体の整備は完璧。後席にはいつも通り、フェルナンド・グエルディ大尉を載せて、発艦準備も整った。


「悪いわね、フェルナンド。付き合ってもらって」

『少佐の後席は、あっしがやるって決めたんすから、遠慮は無しですぜ!』


 レシーバーからも、彼の弾んだ声が聞こえてくる。

 本来ならば、私の後を継いで、アンドレア・ドリア(アンディ)の第二飛行隊の隊長であるフェルナンドが、私に付き合う必要は無い。

 けれど私の専用機である、XFA-37は、まだ宇宙にたった1機しかない試作艇だ。私とフェルナンド以外に、パイロット資格がある人がいないのだ。


「ありがとう。じゃあ、そろそろ行きますか」

『へい! がってんでさぁ』


 私は宙域管制室(AUTHER)と通信を繋ぎ、発進許可を求めた後にカタパルト発艦で、アンドレア・ドリアから放れた。


『そういや、いつの間にか、(機体の)背中のスペシャルペイント、消しちまったんすね』

「今頃?」


 私の専用機の背側には、フェルナンドが言う通り、スペシャルマーキングがしてあった。

 トリポリで専用機を受領した時、ディフォルメされた私の似顔絵と、ファンシー文字でメッセージが描かれていたのだ。


『第五軍管区の広報誌にも載ったんでやしょう? 正式採用かと思っていやしたが』

「そんなわけないでしょう。それに再塗装の為に消してから、もう一ヵ月は経っているわよ」

『そうでいやしたか、残念』

「それよりそろそろ訓練空域よ。準備はいい?」

『OKでやす』


 私は左側後方のサイドコンソールにある、オペレーションコントロールパネルのメインダイアルを“プラクティス”にセットして、空域管制室をコールした。


「AUTHER, This is STREGA. Now on TABLE. Request Practice Order.」

『This is AUTHER. Cleared Order. Your TABLE is ALL-FREE. You may make BEST!』

「Thank you!」


 今日の管制官は、新しく配属された候補生がやっているらしい。発音も怪しいうえに何が言いたいのか、いまいちはっきりしない。

 たぶん“この空域を飛んでいるのは自分達だけなので、存分にやれ”と言う意味なんだろう。


「じゃあフェルナンド、まずは”Bull's EYE”に向かって高速フライパス。行くわよ!」

『Roger』


 私は正面計器中央にあるMPCD(マルチディスプレイ)に戦術マップを表示させ、空間上に設定された仮想の目標点までのルートと自機を結ぶように設定した。

 MPCD上には、仮想の障害物の位置が表示され、それらを避ける様に曲がりくねったルートが目標地点に向かって伸びている。


「Target,in-sight....Way-point ONE... MARK! Burner-ON! MAX-Power!」


 予めプログラムされているシナリオ通りに、機体を進めていく。

 通過点1を超えた直後に、推力増強装置を最大にして速度を増加させる。

 とたんに飛び出すような加速を始める。


「Point-TWO,Turn-RIGHT......NOW!」


 サイドスティックを右にひねり、機体を右に急旋回させる。

 とたんにGメーターが左方向に跳ね上がり、強いGが機体にかかっていることが表示される。しかしコックピットブロックに装備された、Gキャンセラのおかげで体感的にはほとんどそれを感じない。


「Next,Point-THREE,Turn-LEFT......NOW!」


 次に左旋回、上昇、下降と最大推力で加速しながら機体に負荷をかける。

 そして目標点を通過して、機体を巡航状態にさせた。

 久々の高機動に少し手に汗をかいた。


『いやぁ、流石の試作艇っすね。アドラー(F/A-27)(フェルナンドたちが乗る標準搭載機)じゃこうは行きやせんぜ? それにGキャンセラもうちらの機体とは段違いっすね。ほとんどGを感じやせん』

「んふふ~、新型サイドスラスタのパーツが昨日届いたのよ。早速試して見たくって、整備員に無理言っちゃった。でもリミッタ入れてるから、これが限界ってわけじゃないと思う」

『なるほど、しかしGメーター見てやしたが、これだだと外装オプションはつけられないんじゃないっすか?』

「うん、多分パイロンがもたないと思う。ラッチが壊れて丸ごともげちゃうと思うわ。強化型ならもつと思うけど、この機体に合うのが無いのよ」


 高機動試験も兼ねているから、外部兵装に追加するミサイルとか、推進剤増加タンクはおろか、それらを装備するためのパイロンすらつけていない。完全なクリーン形態で飛んでいる。


『つか、“翼”も外しちゃってんすね』


 専用機(XFA-37)の外形的特徴でもある、大気圏戦闘用の動翼の付いた外翼はおろか、代わりに装着する空間戦闘用の放熱翼すら外してしまっている。そのため今日の愛機は巨大な芋虫みたいな外観をしていた。


「どこまで行けるか、試してみたいって整備員が言ってたの。データをトリポリに送るって言っていたわ」

『へー……、アレ? 少佐、テストパイロットのライセンス、持ってたんすか?』「うん、いつの間にか持ってた」

『いつの間にかって……』

「トリポリの地上訓練の時にね、訓練先の隊長がいつの間にか申請していてくれていたみたい。“大気圏戦闘なんてシミュレーションでしかやったこと無かった”って言ったら、隊長が慣熟訓練のついでだからって、勝手に申請してたみたい」

『へぇ、ずいぶんと手回しの良い方だったんすね』

「おかげでいろんなことやらされたわ。“大気圏戦闘に慣れるためだ”とかなんとか言っていたけど……」

『なるほど、そうでやしたか』

「まぁ、おかげで乗機を2機もツブしちゃったけどね」


 ミラーで見たら後席のフェルナンドが目を丸くしていた。

 実際には、1機は隊長とのACMで無茶してオシャカにして、もう一機はテロリストのAFVにぶつけてしまったからだが、それは黙っとこ。


「じゃ、次はGキャンセラの限界まで行くわよ。舌噛まないでね」

『えー。マジっすか?!」


 ブラックアウトとレッドアウトを交互に繰り返すような、激しい3次元高機動に、目を回しながら一通り終えた。


「はぁ、はぁ……流石にキツかったわ……」

『飯食わんで……おいて、よかったっ‥すわ。間違いなく、吐いてやした』

「はぁ……ちょっと、小休止……」


 アンディの管制室には、10分ほどのインターバルを置くと報告して、一息ついた。


『で、次はどうするんすか?』

「対艦攻撃のテストで、終わりにしましょうか」

『対艦攻撃?』

電子妨害(ECM)を掛けながら、アンディに接近。最大射程(R-MAX)で発射、ブレークってとこかしらね」


 私はプロファイルシートを見ながら手順を確認した。


「んじゃいくわよー」

『へい、よござんす!』


次回更新は土曜日の予定です。

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