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星の海で  作者: ありす
ジナステラ少佐の多忙な日々
105/119

(14)ブレンダ・コールマン(1)


 ブレンダを落ち着かせるために、とにかく彼女を部屋へ戻すことにした。


「私が殺したんです。ターナー大尉の妹を。それだけじゃなくて、もっとたくさんの女性を殺したんです。だから……」


 ブレンダの個人的な事情になると思ったので、フェルナンドとメリッサには席を外させて、このことは誰にも言わない様にと、念を押した。

 深夜帯の艦内無断徘徊は、懲罰の対象になりかねない。

 私たちは当然、申請だけはしていたから、問題にはならないが。


「前にもそう言っていたわね。それは事実なの?」

「はい、少佐には……フランチェスカさんには、本当のことを言います。私は犯罪ラヴァーズなんです」

「犯罪ラヴァーズ……?」


 それは航宙軍の艦にラヴァーズを乗せ始めた頃にいた、ラヴァーズの事だ。

 過去に深刻な性犯罪がエスカレートした時期があった。といってもたかだかここ数十年前の話だけれども。

 量刑としての死刑が廃止されてから久しかったため、再犯率の高かった性犯罪者をどうするかで、人権委員会を中心に議会が紛糾した。そして紆余曲折を経た結果が、犯罪者を性転換して加害者に被害者の気持ちが判るように処置をしよう、という事になったのだ。これはもちろん人権問題にダイレクトに影響するのでかなり揉めたが、結局刑罰としての施行が始まった。

 そして長く宇宙を航海する航宙艦の、所謂性のはけ口としてその犯罪者を活用してみてはどうか? と航宙軍にも仮採用された。

 

「でも、ラヴァーズになる時に、具体的な記憶を封印された筈でしょう? あなたはどうして、その事を知っているの?」


 ラヴァーズ刑はやはり行きすぎと人権委員会の強い反発で、結局のところ再犯防止としての、記憶の封印だけがされるようになった。そしてラヴァーズ刑もほとんど行われることは無くなり、今のラヴァーズたちはほぼ志願制だ。

 私はくじ引きだったけど。


「私はラヴァーズとしては、プロトタイプなんです」

「プロトタイプ?」

「極初期の犯罪ラヴァーズだってことです」

「まさか! ごく初期って言う事は少なくとも30年以上前の筈。あなたはどう見てもそんな歳には見えない」

「この体も、3回目の完全再生槽入りをしています」

「3回? そんな……、ありえない!」


 完全再生槽に入るとは、肉体の損傷があまりにひどい時に、人生で一回だけできる、肉体を完全に作り変える事を言う。

 男性を性転換、つまりラヴァーズにする時と同じ処置は、この応用に過ぎない。 実際には完全再生と言っても、男性は女性に、女性は女性にしかならない。男性の完全再生は遺伝子工学的にハードルが高く、不完全なものになりやすいため行われることは無い。


 もちろん何回も繰り返せるわけではない。

 何度でも繰り返せるのならば、老化した体を完全再生して、永遠に生きられるという事になってしまう。

 だが遺伝子レベルでは再生すると言うよりは、組み替えると言った方が正しいそうだ。

 人間の新陳代謝による体細胞の再生には回数制限があって、何度でも繰り返せるわけではなく。また繰り返すことによって再生不良を起こし、癌化する確率も高くなる。癌はある程度の割合までならば、治療可能だが、体細胞を一気に組み替える完全再生槽処置では癌化率が異常に高くなってしまうのだ。


「私は、ラヴァーズ刑の原因となった犯行現場で……その場で射殺されてもおかしく無い事をしていました。だから……私は実験動物扱いでした」

「そんな! だって人権委員会は」

「私の基本的人権は、“制限”……されています。私は公式には“死体”と同じなんです」


 ブレンダの告白は、私には衝撃的過ぎた。

 いくらなんでもそんなことが、許されるはずがないと思った。


「そんなこと! ブルーノ先生が」

「先生もご存じです。先生が手続きを踏めば、私は荼毘に付され、本当の死体になります」

「…………」

「でも……、それでも私は、あともう少しだけ、生きていたかった。私は大変な罪を犯して、その場で殺されていても文句は言えなかったんです。でも生きる道を示されて、それを拒否することなんて、できなかったのです! でも……、本当は私は死んでいるべきなんです。死体なんですから。今の私は死んでいるのに生きているんです。おかしいでしょう?」


 ブレンダは涙を流しながら、私を見つめた。その表情は後悔していると言う悲しさと、理不尽な今の状況に苦笑しているような、何とも言えない悲しい微笑だった。


「でも、……私は出会ってしまった」

「ターナー大尉に?」

「そうです。私は知らなかった。トリポリの街で、スリに遭って身分を証明する物も何もかも奪われて、途方に暮れた私を助けてくれた人が、まさか……」


 そう言うと、彼女は突っ伏して泣き出してしまった。

 私は泣き続けるブレンダに掛ける、言葉も見つけらずにいた。


「どうして私はそうなんでしょうね……。大罪を犯した私には、何も望む権利なんかないのに、それでも何かを望まないではいられない……」

「ターナー大尉を、好きになってしまった事を、後悔しているの?」

「……“好き”なんですかね? この私の感情は……。もう、良くわからないんです私にも。ただ、あの人を見ているだけで、話しかけてほしい、笑いかけてほしい。でも私にそんな資格なんかないってこと判ってる。それはソフィアさんのもので、私のものじゃない。でもそう思うと、胸がざわざわするんです。もしそんなことを続けていたら、私はまた罪を犯してしまうのじゃないか? それを思うと怖くて仕方がないんです。でも怖いからこそ、求めたくなってしまうんです。私はもう、どうしたらいいのか……」


 そう言って、彼女はまた泣き出してしまった。

 不甲斐ないけれど、これほど込み入った話になってしまうと、私にもどうしてあげればいいのかわからない。

 私は泣きじゃくるブレンダの手を引いてベッドに寝かせた。


 今は艦内時刻0330。ほとんどの人が寝ている時間だ。

 私はありきたりな慰めの言葉をかけて、ブレンダの部屋を後にした。



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