(9)恋愛相談をしよう(1)
すみません。一週お休みしてしまいました。ネタ切れともいう…
「うーん、それは何とも言えないなぁ」
ラヴァーズの1人、多忙な私の代わりに、皆をまとめているメリッサが私のところに相談に来ていた。
ブレンダ・コールマン士長待遇の様子が、おかしいと言うのだ。
「元々引っ込み思案の子だったでしょう? けど何かを探すようにそわそわしていたり、急に笑顔になったり、かといって今にも泣きだしそうに落ち込んでいたり……」
「情緒不安定なら、ブルーノ先生に診てもらえば?」
ブルーノ医務中佐は第四次ジュトランド会戦から、私がお世話になっている名医だ。女性の体になった時もずっと面倒を見てくれた。
「それが本人が拒むんですよ。“お医者さんでは治らないから”って……」
「“医者では治らない”? ブルーノ先生は精神医学にも長けているから、相談には乗ってくれると思うけど……。アレかしら?」
「“アレ”とは?」
「“お医者様ぁでぇも~、クサツゥノォユでも~”って奴よ」
「なんですかそれ?」
「“恋の病”よ」
「“恋”? 恋ってあれですか? 好きになった人がいるとかいう“恋”のことですか?」
「そうよ。思い当たることは無い?」
ドヤ顔で言ってみたが、正直本人に聞いてみなければわからないし、言ってくれるとも限らない。何せラヴァーズの恋愛問題は、非常にデリケートだからだ。
「うーん、私にはちょっと……」
「恋愛問題なら、基本干渉はしない方が良いのだけれども、業務に支障がある様なら、一度面談した方がいいかもね」
……と言いつつ相談されたからと言って、何ができるわけではない。当時者同士で解決するしかないからだ。これがストーカー犯罪とかになる様ならば、問題が起こる前になんとかする必要があるけど、正直私にもどうしていいかわからない。
「理由を付けて、ブレンダと会ってみることにするわ。彼女は今日は?」
「オフです。部屋にいるかどうかは判りません」
「ならば昼食に誘ってみようかしら? たまには士官食堂のメニューを試してみない?とかなんとか言って……」
「それなら私もご一緒したいです!」
メリッサの目が急に輝いた。
「ああと、えーと、プライベートな話なので、できれば二人だけの方が……」
「え? あ、そ、ソウデスネ。残念ですけど……」
あー失敗。メリッサも士官食堂のメニューが食べたかったのか。
「メリッサには、また別の日に誘うから、今回は遠慮して頂戴」
「ええ、すみません。お気を使わせてしまって……」
しょんぼりとしたメリッサの顔が胸に痛い。
あーこれはメリッサに限らず、ほかのみんなも順番に誘わないと駄目かなぁ……。
★ミ
本人に会う前に、少し彼女の事を調べてみた。
ブレンダ・コールマン士長待遇は、少し褪せ気味の銀色の髪に、赤い瞳。透き通るような色白の肌。所謂アルビノだ。かなり内気な性格で、会話も苦手らしい。私もあまり声を聴いたことが無い。ラヴァーズ歴も長いらしいのだが、誰も彼女の事は良く知らないらしい。というかラヴァーズの適性に問題があるのでは?
履歴書のファイルも見てみたが、彼女について書かれている項目はとても少ない。
ラヴァーズに勤め始めてから、10年以上経っているようなのだが、いまだに士長待遇なのはどう言う事なんだろうか?
あの微妙にヤバ気な催眠学習だってあるのだ。
本人の性格もあるかも知れないが、大概の事はそつなくこなせるようになる筈だ。
それなのに新人の頃から昇格していないことになる。
とにかく会って話を聞いてみない事には、何もわからない。
メリッサの作ったシフト表によれば、明日の昼食に時間が合わせられそうだ。
それにしても兵士・士官達のメンタルケアが仕事のラヴァーズのメンタルケアを幕僚の私がするのは、職務上必要なのだろうけど、私のメンタルケアは誰が……って、考えちゃだめだ。
★ミ
士官食堂もランチタイムはセルフサービスだ。ブレンダに説明しながら、適当なメニューをチョイスして、席に着いた。
「本当に私なんかがこちらで食事しても、よろしいのですか?」
「私がいるから大丈夫よ。艦隊では数少ない“女同士”、交流を深めないとね、ははは」
“女同士”なんて言葉を自分が使う日が来るとは思わなかった。
まだまだ私には男だった頃の感覚が抜けないのだ。
それはともかく、計画通り(?)ブレンダを士官食堂に誘うことは出来た。
気が重いけどミッションスタート!
「まぁ、それはそれとして、悩みがあるなら言って欲しいのよ」
「悩み……ですか?」
「そう。実をいうとね、他の人たちも心配していたのよ。“ブレンダが何か悩んでるみたい”だって」
「“悩んでる”、ですか……」
そう呟くように彼女は言ったが、俯いて何も言わなくなってしまった。
うーん困ったなぁ。私もどう会話を続けていいのか、よくわからない。
「ええと、言い難い事ならば言わなくてもいいんだけど……」
「おや? ジナステラ少佐に、ブレンダ……さんだったっけ? 珍しい組み合わせですね」
私も言葉に詰まってしまっていたところに、ターナー大尉がランチのトレーを持って立っていた。
「え、ああ、ちょっとね……」
曖昧に答えながらふと、ブレンダの方を見た。
あ、何となくわかってしまった。
彼女は頬をうっすらと朱く染め、瞳を輝かせてターナー大尉の事を見ていたのだ。
そうか、ならば。
「ターナー大尉、良ければ一緒にいかが?」
「美女二人とご一緒できるとは、光栄ですね。そちらは、ブレンダさんでしたよね?」
「は、はいっ! ブレンダ・コールマンです」
彼女はがたっ!と席を立って深々と頭を下げた。顔が真っ赤だ。
やっぱり彼女の悩みというのは、彼への好意に関する事なのかも?
「航海長の、アルバート・ターナー大尉です。時々ラウンジでお見かけしますね」
「は、はい……。覚えていてくださったんですか?」
「ええ、綺麗な方だと思ったので」
ターナー大尉は何でもこなす万能型だが、女性の扱いもうまいのかね?
どっかのアホ提督にも見習わせたい。
ブレンダの方はもう首まで朱い。大尉のアレは社交辞令だぞ、ラヴァーズの癖にこの程度で動揺してどうするんだ?
って、こういうところが拙いから士長待遇のままなのかしら?




