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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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異世界の国々のお話

美しき戦乙女は生まれ変わって劣化したので、お暇しますね!

作者: 宇和マチカ

お読み頂き有難う御座います。


 曾て、魔物を率いて世の中を阿鼻叫喚の渦に叩き落とした魔王が居た。

 苦しむ民は為す術もなく、数多の命が犠牲になってゆく。

 しかし希望の光が現れる。

 親兄弟、親しい者達を殺され、絶望の縁に沈んでいた民衆の中から魔王を討ち果たさんとする英雄が立ち上がったのだ。

 そして、旅の途中。

 血のつながらない病弱な妹がいる美しい戦乙女と出会った。波打つ金の髪を靡かせた彼女も、平和の為に旅の供連れとなる。


 苦しい旅を終えた終着点、死闘の果てで。

 勇敢で凛々しい青年は、美しい戦乙女と共にボロボロになりながらも、銀色に光る魔王を討ち果たしたかに見えた。


 手と手を取って喜び合うふたり。

 何時しか互いを庇い合う内に仄かな思いが生まれ、むず痒くもぎこちなくも愛が生まれていた。ふたりの視線は合わさり、自然に口づけを交わそうとする。この口づけの後、愛の言葉を互いに贈りあえるだろう。

 これからは平和な時代が訪れる。幸せだった。


 何処からともなく現れた、矢のような雷撃が……戦乙女の胸を貫くまでは。


「「「生まれ変われば、今度は離さない」」」


 叫び声と、冷静な声と、泣き声。事切れる前に聞こえたのは重なった、誰とも知れぬ声だけ。


 雷鳴轟く不毛の地の、悲しくて旧くて、消えかけたお伽噺。





 ……雷に打たれたことはないの。

 しかし、何故かしら。

 以前打たれたことが有るような気がするのよ。


 彼と目が合った途端、我が身を電撃が駆け抜けた気がするの。

 しかも、雷撃には前に何処かで打たれた既視感も有るわ。

 ……そんな馬鹿な事があるかしら。

 きっと、絶対、死ぬんじゃないのかしら。


 前に……前って、何時なの?。

 何時……今じゃなくて、一体何時?


 悩んでいると、目の端に鮮やかな人物が映った。彼を見た途端……記憶を包んでいた真っ黒の雷雲が晴れ渡っていく。


「おい何だこの格差社会。マジやっべえな。ざけんなよ……」


 顎が外れそうとはこの事かしら。

 生を受けて若輩だけれど、此処までビックリしたのは……空から飴が降ってきた時以来かしら。

 単に使用人が転んで、運んでいたお菓子をぶちまけただけらしかったけど。


「姫様?」

「ほほ、ほほほ。あのテーブルセッティングは見事ね。整えた使用人を誉めてよ」

「まあ、お優しい!」


 青天の下で、アワアワする男。

 一目見て、判ったわ。


 あの伯爵以下のご令嬢方をメロメロ虜にしまくっている、誰もが羨む英雄たる彼が……きっと、前世の恋人……だったら良かったけど相棒!である、と!!

 そんな馬鹿なと思うけれど……気持ち悪い程、記憶が鮮明……な気がする。


「英雄が着いたようですわ、姫様」


 そう、そして、今の私は……。

 紫がかった茶色の髪に、漆黒のツリ目。

 ケバめ、きつめの顔立ち、でもイマイチめと三拍子揃った……どう見ても悪役顔の……30歳出戻り王女であると言うことを。


 つい先程前世の口調をポロリと溢してしまったけど、本来は普通の王女……そう、王女なのよ。

 ちょーっと嫁ぎ先で政変が起こって3ヶ月で連れ戻されたけど……。まあ、未亡人……になるのかしら。当然子供も居ないし。

 クーデターの発起人がやけに残留を望んでいたけれど、あんな針の筵で暮らせるものですか。


「平民ながらも麗しい見た目ですわね」

「そ、その、ようね……」


 しかもあのきっと元相棒、現英雄様。……平民ですがな。遠目ながらも相変わらず格好がいい。そして私よりも若い。……遠目でも、その瑞々しさが眩しいわ……。


「……!!…………!!!……!」


 あっちも何か思い出したのか、青褪めたり赤くなったりと……遠目にもパニックになっているのが分かる。

 周りのご令嬢は……それでも引いていないわね。逞しい……。


 ……だけど、どんなに頑張っても……彼の立場では此方へ来る事は出来ない。身分差が有るから。私もホイホイ降りる事は出来ない。良い歳してご乱心は無理だわ。


 ああ、嫌だわ。……高揚した気分はみるみる内に冷めてしまった。

 私がまだ彼と同じ位の歳ならば……いや、この国に居なかったわね。と言うか、私が若い盛りなら、あっちは子供の盛りじゃないの。生まれてはうん、生まれてはいる。セーフ!


 折角生まれ変わってもアレかー。身分違いと年齢差、そして……美貌の格差かー。


 あの美しい元恋人(未満)と並び立つ、美貌の戦乙女と名高かった前世とは違い、運動音痴で特筆した頭脳もなく、秀でた技能もない、ないない尽くしの劣化の極み。

 勝っているのは……と、年の功的な……?当時は口が悪かったから、言葉遣いは段違い……そして、身分……。

 駄目だ……。ちょっと……売れる所無くない?というレベル。


 格差社会、辛。

 そんな思いがつい、漏れ出てしまったみたい。


 それにしても、あの現場……見事な押し合い圧し合いだな。よくご令嬢がたも潰れないものね。若いから足腰が頑強なのかしら。あの手前のピンクのドレスのご令嬢、この前の……キビシ伯爵夫人の厳しすぎるマナー研修のお茶会で卒倒して、周りの哀れを誘っていたのは仮病だったようね。見事な張り手と足運びだわ。

 ……あ、キビシ伯爵夫人の顔が、辺境に住まうと言われる伝説の魔物のオニゴロリのよう。見なかった事にしよう。

 ……流石に身分差が有りすぎるから、侯爵以上は近寄ってないわね……。けれどガン見はしている様子。目を付けておきたいその気持ち、分かるわ。


 今回の……英雄様はまた訪れた未曾有の危機を魔王だか魔神だか……討伐のメンバーに選ばれた。英雄には餌として弟である王が爵位をプレゼントするかもしれない。

 そうなったら更なる混迷っぷりだろうなあ。

 各家の婚約模様も混戦するに違いないわ……。国が荒れないといいのだけれど。


「アストリッド姫様?如何なさいました?」

「英雄様は……魔王だか魔神だか討伐の前に、圧死されないかしら」

「ほ、本当ですわね。だ、誰か!その者達を英雄様から退かせなさい!!アストリッド姫様のお目汚しです!!」


 このような私では、流石に欲しがられないでしょう。

 英雄様、お歳は20歳過ぎとお聞きしたものね……。

 もし、こんな我が身でもあの方が欲しがってくださるなら……キュンキュンな展開に……いえ、止しましょう。

 無駄な妄想は考えては行けないわ。有り得ない。そんな勝ち組ミラクルは他人事なのよ。諦めなきゃ諦めなきゃ諦めなきゃ。

 夢もスペックも、前世へと置いていくべきだわ。


 それにしても、……遠目でも、顔が良いなあ。前世は明るい銀だったけれど今は目映い金髪かあ。遠すぎて瞳の色は分からないけれど……キリリとした眉も、通った鼻筋も……遠すぎてボヤッとしか分からないわね。きっと、前世と違わぬイケメン……性格も良いと聞くわ……。


 ……。

 …………ワンチャン無いかしらねえ……。惜しいわねえ。

 あ、また人混みに埋もれているわ……。大丈夫なのかしら。


「おばうえー、ぼく、お腹空いたあー」


 くるくるした薄い茶色の柔らかい髪の子供が……未だ幼い甥っ子が膝に纏わりついてくる。

 王である弟の末息子、クラウ……。早くに母を亡くしたこの子の育成が、今の私のライフワークだもの。


「あらそう?お食事を早めにしましょうね」

「畏まりました」

「んもー……ぼくのおばうえをジロジロみないで欲しいなー」


 ?

 誰か見てたのかしら?まあ、きっとこの子の事を見るついでに見てたんでしょう。クラウは可愛いものね。


「……!!…………!!」


 何だか……未練がましいわね。英雄様が私の名前を呼ばれてる気がする……。呼んでたら良いなあ……。

 風が出てきたせいかしら。未練のせいか……何だか寒気がするわね。さっさと入りましょう。


 さよなら、英雄様……。役立たぬ我が身をお許しください。陰ながらご活躍をお祈りして、旅装の足しになるよう張り込んでご寄付をしておきます……。

 あー……辛。



「はあ、疲れた」


 肩がゴキゴキ鳴るわ。もう壮行会、いえ、夜会は終わったでしょうね……。

 あれからクラウがゴネてゴネてゴネて……宥めるのに苦労したわ……。

 乳母じゃ無いんだから伯母が其処まで甘やかすな、と陰口叩かれてるのは知っているけれど……。

 まあ、年増の王姉が出てこずともなーんの滞りも有るまい、よね。せめて美しければ……。まあ、それでも叩かれそうね。世間は叩ける者に大して厳しいのよ。いざと言う時の為に、覚えておくけれどね。


「おばうえ聞いてるぅ!?うばなんて他人だもん!!父上もぼくを邪魔にしてるし!!おばうえはぼくが嫌いなのっ!?」

「何を言っているの?私はクラウが大好きよ!父上だって」

「いやいやいやーっ!父上もうばも、いやー!うにゃむきゃー!!!」


 何故そんなに嫌がるの!?

 ままままさか……乳母に何かされたのかしら。見張りを置かないといけないかなあ。

 クラウはそれらと言うものの、夕方まで喚いて泣いて……やっと宥めて昼寝をさせたけれど。

 目茶苦茶疲れる……。大変だけど、懐かれると、どうも邪険に出来ないのよね。


「姫様、お疲れが……」

「いえ、いいの。でも、弟もそろそろ後添いを考える歳よね……。ただ、人選が……」


 気性の穏やかな、クラウと合うような……後妻になってくれそうなご令嬢は軒並み嫁いでしまわれたし……。

 政略で嫁いだ弟の元妻は……今はもう、異国の土の下。……哀れを誘う見た目の割に、図太い女性だったわね。


「少し休むわ。下がって頂戴」

「畏まりました」


 メイドにコルセットを緩めさせ、寝間着を纏わせられ……ボケッとしていたら気が付いた。

 あれ、……何でこんな派手なピンク色着ているのかしら。こんな物、何時誂えさせた?襟のフリルが無駄なまでに過剰だわ。寝にくそうね。モチーフはエリマキトカゲなの?


「アストリッド」

「?」


 ……ボソボソと、声が聞こえる。

 まさか、夜会の出席者がこんな所まで潜り込んだのだろうか。

 乳母に加えて警備までボンクラなんて……どうなっているの……。頭が痛すぎるわ。


「ああ、愛しいアストリッド」

「……」


 何で私の名前が呼ばれているの。夜這いするなら、相手が違うでしょうが。


 黒い人影が、近づいてくる。


 まさか、まさか……。

 英雄様が、私の部屋に……夜這いに来たと言うの!?

 ヒタリヒタリバッタリゴン……何処かぶつけたみたい、と近寄るその人影に……ごくり、と自分の喉が鳴るのが分かった。


 どう見ても、武張った事を生業にしている殿方のシルエット、そして息遣い。ちょっとドン臭いみたいだけれど、暗闇だから仕方ないわね。

 今は兎も角、前世は戦いに身を置いていたから、暗がりでも気配や身のこなしが何となく分かるわ。


 いや、そりゃさっきはね!人目も有ることだしはっちゃけるのは無理よね!?

 この歳になると流石に立場が大事だから。流石に弟にスキャンダルで南東の離宮……別名幽閉離宮へ送られたくはないわ。


 でも、其方が強引に来るなら……来るならお話は別!!


 どうしよう!!何でこんなエリマキトカゲにワカメを縦に巻き付けたようなふざけた寝間着を着てしまったの!?

 もっと大人でセクシーな……いや清純そうな寝間着が良かった!?


 そうよね!?戦乙女的な感じだと……いえ、当時の下着も寝間着もオールネズミ色か黄土色!!

 あああ!戦時中だったとは言え、自らダサい下着を!思い出したくない!!

 それっぽい物を英雄様が登城すると聞いた時に用意しておけば!!でもその時は記憶が甦ってない!!

 そもそも今日、どんな下着を着けてたかしら!?どうか、使い古しのケチ心で取っておいた古下着では有りませんように!!


 あっ、あっあっ!つ、続き部屋迄入ってしまわれたの!?こ、心の準備が!!


「アストリッド。今日こそ今こそ今すぐ私の物に」


 ……。……???

 誰?


「え?」


 声が、違う。いえ、今世の英雄様……グラン様と会話をしたことがないけれど!

 それなのに、聞いたことが凄くあるわ。

 ……この、ズカズカ招いても居ない人の部屋に押し入った……この、蝋燭の下でもイケ好かなくギラギラ光る銀髪の男は……。


「お前かよ!?」

「どうしたアストリッド!?」

「何でお前なのよ!?」


 何で、何故!?夜中にコイツの顔を見なければならないの!?どうして私は聞き違えるの!?


 何度見ても英雄様ではないこの男!

 隣国ベネート……元嫁ぎ先の、クーデター首謀者そして、現、元首!デュセイア・ルカス!!!

 誰なのよこんな奴を通した近衛は!!

 何故内輪の壮行会に隣国の元首を呼ぶのよ!?馬鹿じゃないの!?招待されても来るなよ!暇なの!?

 ……国に帰ってからも、毎年理由を付けて何やらダラダラと会いに来てるなあとは思ったけれど、一応理由は有った筈!!


 それなのに、今回は強行策なの!?

 只でさえ無い好感度が地にめり込むんだけれど!!

 惚れてるだの何だのと言うものの、恋愛のレの字も感じられない鉄面皮!!嫌われて嫌味を言われているとしか思えない言動の数々!!

 ツンデレ!?顔面を変えない口説き文句なんて、デレのない悪口と同義よ!!


「……淑女らしからぬ口調も良いな、我が愛しのアストリッド」

「招いた覚えもない方のお姿に嫌悪して、つい」

「無関心よりは良い」


 蟀谷が音を立てて震えて噴火しそうよ。

 無関心の極みみたいな顔でよくもまあ!!寄るな!!


「……英雄殿へのご期待がベネート国もお強いようで何よりですわ。酔って迷子になられたのなら、会場へお早くお戻りください」


 此処はプライベートスペースなのでね!!鍵はどうなっているの!?衛兵か!?侍女か!?誰が手を貸した!?


 ……いけないわ。脱出ルートを見てはダメ。毅然と追い出すのよ!いざとなれば燭台でぶん殴れば……ああ、前世の運動神経ならこんな男……ちょっと上背と筋肉が面倒かもしれないけれど、きっと!一捻りでしょうに!!


「何故。陛下には許可を頂いたが。そろそろ第一王子のお守りから解放されて愛する者と添い遂げても良かろうと」

「あ……あァ!?」


 …………あんの、グズのヨゼファーーーーー!!

 誰が、誰がこんな無感動手癖足癖最悪眼鏡野郎を愛してるって!?

 他人の意見を無闇矢鱈に受け入れてボヤボヤしてるから、だから嫁に浮気されて謀殺する羽目になるんでしょうが!!息子のお世話してる姉の動向くらい読めーーー!!


 ……叫ぶところだったわ。いえ、叫んでも良かったのかしら!?最早落ちるに落ちて異性関係はノーマークでしょうし。いや、でも私が引き込んだとか言われたら嫌すぎる。引き込むならもっと違う顔面が動く殿方が良い。


「私は添い遂げたい者等誰もおりません。貴方の事も愛しておりません」

「やはり、反応が……前とは違うな」


 ぎくり、と肩が震えてしまった。

 ……本来は変わっていない筈だけれど、やはり違うのかしら。


「お戯れはこの辺りになさってくださる?

 まさかとは思いますが、出戻り年増王女の寝室に居たとなれば評判に傷が付きましてよ」

「貴女はそんな事を言われていい立場ではない」


 この歳になると自虐位嫌味にも使うわよ。


「誰だ?そんな暴言を我がアストリッドに言う者は。

 引き擦り出した腸で絞首刑にしてくれる」


 だから、私はお前のじゃない!!

 ああ、此処にもし誰か居れば、私がこの男が嫌う理由分かって貰えるかしら。


 コイツの発言が、トコトン物騒でグロいのよ!!

 忘れたいのに忘れられない初対面!

 クーデター当日、アポイントメント無しで部屋にズカズカ入ってきたこの男。

 怖くてたまらなかったけれど、威圧的な空気に負けたくなくて、王はどうしたのか聞いたら……。


「剥いで板に張り付けた。中々見物だが……見に行くか?あの屑に嫁いだ事を忘れられるぞ」


 これでどうやって、……何のロマンスが生まれろと?

 寧ろ、この状況で嫌悪感と吐き気以外生まれるものか。

 思い出しても……よく気絶しなかったものだわ!!前世が戦乙女で良かったわよ!!


「アストリッド、10年間待って国も安定した。貴女に心地好いように造ったぞ。そろそろ、良いだろう?」


 良い訳有るか!!


「私は、ベネートからお暇しましたのよ?」

「そうか」


 そうかじゃない!!堂々と寄ってきて腰を抱いてるのよこの男!!


「ハッキリ言うわよ!嫌だっての!!退きなさい!こんな事が罷り通るなら死ぬわよ!!」

「それは許さない」


 握られた片手が折れそうな程握りしめられる。

 互いの息が掛かり合う距離に、デュセイアの顔が有った。


「もう油断などしない。お前は私の対となる者、此れからはすぐ傍で守り抜く」

「は……」



 体が、動かない!?

 強引に合わせられた唇に、もしかして、薬が塗ってあったのかしら。

 指1本、動かせないまま……私の意識は瞬く間に刈り取られてしまった


 ……いや駄目でしょ!!負けてる場合じゃ!!起きるのよ!!前世戦乙女の気合いを!!おほほほほ!うぐぐぐ!!瞼重っ!眠っ!!


 ……何か目の覚める事を考えましょう。……何なの。あのバカ男の思わせぶりな科白は!!

 起きたいのに、起きたい意識は有るのに!目が張り付いたように開かない!!でも、少しずつ怒りで目が覚めそう!!


「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!やっと会えたお姉ちゃん!!お姉ちゃんを返せこの悪魔野郎!!」


 ……べきって、何なの。この木材をへし折ったような音と共に現れた、野太い声は……誰なの……。

 確かに弟が居るから姉の立場だけれど!

 我が弟は国王の癖に、声が小さい!ヨゼファはこんな腹から声を出せるタイプではないのよ……!!


 本当に誰!?全く知らない声だわ!!


「すっこんでろ!じゃましないで!!

 おばうえ!アストリッド!!僕だよ!!

 前からきみが一番しゅうちゃくして、今は一番あいしてる僕だよおおおお!!おもいだしてえええ!!」


 ……これは、クラウよね。

 何を思い出せと言うの。今晩読む絵本のローテーション?


「往生際の悪い者共め……。アストリッドは私を選んだのだ」


 選んだ覚えがまるでない!!寧ろ騙し討ちにされたんですけれど!?

 こんなに大騒ぎなのに、近衛は何をして居るの!?無能なの!?

 ああ、よく分からないけれど幼いクラウが心配だわ!!


「クラウ……を守って……」

「ほらみろ!アストリッドは、ぼくが一番だいじなんだ!」

「酷いよお姉ちゃん!!

 折角生まれ変わって、お姉ちゃんを守れる程強くなったのに!!

 今世では男女分かれたから堂々と結婚も出来るのに!」

「「煩い黙れ!!」」


 ……其処此処が蹴飛ばされたりひっくり返ったり破損してそうな音が聞こえるんですけど!?私の部屋はどうなっているの!?目茶苦茶に壊されてる気しかしない!!


「……目を開けて!お姉ちゃん!!」

「だまれ!!アストリッドは、おまえのあねじゃない!」


 だからこの野太い声は誰……!?そしてクラウの口が目茶苦茶悪い!!伯母上はそんな事を教えてないわよ!?

 私を置いて話を進めないで!!部屋を壊さないで!!


 こうして、何のネタバラシも繰り広げられないまま、私は隣国へ拐われてしまいそうになり……流石に根性で目を開けた。

 部屋が……!!へ、や……見えないわ!!


「アストリッド!!」

「馬鹿な……。結構痺れ薬を盛ったのに。やはりステータスの強化具合は、常人ではないか」


 耳元で煩いし、目の前の眼鏡が頬に当たってうざったいわ!!

 それに、痺れ薬!?何て物を盛るのこの男は!!と言うか、自分も未だ薬が付いてる筈なのに何で喋れるの!?アホなの!?


「アストリッド!ぼくのアストリッド!あのねぼくは実は父上のこじゃなくて!」

「お姉ちゃあああん!」

「黙れ小者共!!アストリッドは今回こそ私のものだ!!」


 ……ちょっと待ちなさい。それだとクラウの王位継承権……あああ!!もう嫌考えたくない!!

 む、ムカムカしてきたわ……。

 誰も彼も、勝手なことを言うなあああああ!!


「……全員っ、出てお行きなさいっ!!」


 あわよくばデュセイアを殴ろうとして避けられた拳が、ビカビカビカーーーーッと光が……!!

 いえ、光は良いわ。でも、何故黒く光るの!?


「あ……どうしましょう。」


 目の前に漆黒の光……いや、闇?が集まったかと思うと私の振り回した拳が光り?……部屋を壊し……てはいないわね。壊したのはこの3人ね。光っただけ……但し、昏倒させたよう。


 しんと静まった室内に怪我人は、今の所……何か無かったよう。全員完璧に眠っている……わね。ピクリとも動かないわ。

 横たわっているのは、クラウにデュセイア、そして何故か……昼間見た英雄様……。何故此処に。


 嫌だけれど……お姉ちゃん呼ばわりの野太い声はこの英雄様よね?……いえ、何となくそんな気がしていたけれど。い、嫌だけれど。


 おかしくない!?

 この歳で変な能力デビューもおかしいし、変なモテ期もどうかと思うの!!そう言うのは、若い時に経験したいのよ。本当に。


「……」


 ……現実逃避をしたいけれど、恐らくこの3人の正体……いえ、前世の姿は前世の妹=今の英雄様……で、そして、前世の魔王と前世の英雄様が、クラウとデュセイア。

 ……どっちがどっちかしら。


 いや、それよりもよ。

 どうしましょう。こんな3人の中から選ぶの?こ、恋人……いえ、再婚相手を?

 とてもこの歳でそんな面倒な展開は御免だわ。そういうの、10代の頃ならそういう読み物も好んで、100回以上妄想したけれど、無理。ついていけない。前世が何処でも美貌を誉められる戦乙女だったって言うのも歳的に辛くなってきたのに。

 私はもう少しウムウム考え込んで……無理!やっぱり、無理!と結論を出した。出してしまったわ!


「うん!……隠居してお暇しましょう」


 無理よ。

 こんな濃い3人に付き合える気がしないわ。

 ひとりは可愛い甥だけど、別の存在に進化してたようだし……。

 ……そうね、思いだしたばかりだけれど、そろそろ前世に拘るのはやめましょう。不毛だし碌でも無いことが起きそう。日除けの布を被って木陰でティータイムを送る出戻り王女(隠居バージョン)になりましょう。最早幽閉離宮でも何処でも良いわ!


 先ずは弟を叩き起こして、離宮の使用許可を取らなきゃね。


「……前世も今もマトモに口説かれないままなんて、本当に嫌。只の略奪品扱いだなんて」


 だって、ピクリともしなかったのよ?……思わず溢れた文句を聞いていたなんて、思わないじゃないの。

 わたくしって、失言が多いわ……。


「アストリッド……闇の力を得るとは素晴らしい……我が花嫁……!!」


 ……追いかけてくるとか知らないし、知ったことでは無いのよ!!

 頼むからそういうイベントは10代にお願い!!

現実と乙女心の間で悩む展開が好きで御座いますがこんな感じと相成りました。

お読み頂き有難う御座いました。

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― 新着の感想 ―
[一言] お相手さんも転生してるのかな?とは思いましたが、 配役が予想とはズレておりました。 妹はズルい! キビシ伯爵夫人のオニゴロリ エリマキトカゲのピンクの寝間着 当時の下着も寝間着もオールネズミ…
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