表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失恋姉弟  作者: 加納安
15/34

【オトモダチ】

 ここのところ、ねーちゃんは恋愛が順調らしい。メッセージをやり取りしてる様子から、察知できる。

 だってさ、以前なら。文字打って。じっと眺めて、消して。首かしげて、修正して、眺めて。また消して。

 って、いつになったら送るんだよそれ、って。観察してる俺がイライラするぐらい慎重に慎重に。言葉選んでたけど。

 今のねーちゃんには迷いがない。するするとスマホの画面の上で指が動いてる。そして相手からの返事もすぐ来るみたいで、ねーちゃん、ずっとにやにやしてる。


 文字で会話するのって、喋る以上に気をつかう。

 喋るとさ、声の調子とか、話し方で感情が伝わることが、文字だと難しかったりする。「いいよ」とか、これが「OK」の意味なのか「NO」の意味なのかって、それだけじゃわからない。前後にいろいろ装飾したりして、がんばらないといけない。

 だけどそれでも、順調に、テンポよく。お互いの言いたいことや気持ちがやり取りできるなら。ちょっとばかりおかしげな言葉でも、許されて。むしろそれが楽しいなら。

 なんかとてもいいなって思う。


 だから今ねーちゃんが会話してる相手は、きっといい奴。ねーちゃんと相性抜群。ハイハイおめでとうおめでとう、やっとねーちゃんも、ちゃんと恋愛成就すんな、今度こそ!

 って、俺、半ばヤケクソで思ってたのに。


「ちょっと、これ見て」


 突然ねーちゃんに手招きされて驚く。見てって、今してるメッセージのやり取りをってことか?

 えー、いいのかそれ。

 っていうか。ねーちゃんがそいつと、いちゃいちゃ会話してんの見るの、俺にとってはけっこうダメージでかいんだけど。

 俺のそんな気持ちは、ねーちゃんにとってはどうでもいいこと。きらきらした目でこっち見てんのを無視する方が、後々めんどくさくなるの、知ってるし。

 俺は諦めて、ねーちゃんのそばに行く。

 そしてダメージを負う覚悟を決めて、こちらに向けられた画面を見る。


 そこに並んだ会話が、これ。


 『ご飯作って』>○

 ●<『いいよ。ねーちゃん、何食いたい?』

 『おいしいやつ』>○

 ●<『じゃ、カレーでいいよな』


 って、なんだこれ。


「ねーちゃん、そいつにねーちゃん呼びされてんの?」


 しかも口調が馴れ馴れしい。ちょっと偉そうだし。失礼じゃね? こんな相手とねーちゃんを付き合わせたくねーな。

 顔をしかめる俺の前で、ねーちゃんが楽しそうにくすくすと笑った。


「これ、AIと会話できるやつ」


 は? と思って改めて画面を見る。

 あー、そういえばSNSで見たな。架空のオトモダチと会話してるやつ。貼られた会話のスクショ見て、AIすげえ、って思ったの、覚えてる。

 俺はすっかり気が抜けた。

 なんだねーちゃん、今メッセージのやり取りしてたの、あいつじゃなくてAIだったのか。

 ようやく理解した俺に、ねーちゃんがしみじみと言う。


「いろいろ教えたら、ちゃんと学んで、口調とかも整ってきたんだよね。も、これ。ほんと、あんたっぽいよねえ」


 俺はねーちゃんの言葉に驚き、呆れる。


「え、ねーちゃん。AI育てて、『俺』を作ってたってわけ?」


「そう」


 会話の相手が俺なら、ねーちゃんが迷いなくいろいろメッセージ書けるのも納得だ。言葉の受け止め方に齟齬があっても、それすらネタにして笑える相手だって、思ってるもんな。お互いに。


 ねーちゃんはただおもしろがって、遊んでただけだろう。でも、俺、そんなねーちゃんの姿見て、今メッセージ送り合ってる奴となら、相性いいんじゃねーのとか思ってたんだ。

 それってつまり自画自賛?

 俺のコピーならねーちゃんと相性抜群って?

 うわー、絶対言わねえけど、めっちゃ恥ずかしいな、俺。


 のぼせる頭を冷まそうと、俺は精いっぱいがんばる。


「どーせキャラ作るなら、ねーちゃんの好きな奴にすりゃあいいのに。俺なんかじゃなくて」


 がんばって、自分に刃を突き立てる。ねーちゃんの好きな相手は俺じゃない。

 だけどねーちゃんは、俺の言葉にちょっと目を泳がせる。


「そりゃあ、あの人の口調で、AIにやさしくされたら絶対嬉しいと思うし。それはもうきっと、毎回床転がりたくなるぐらい楽しいだろうけど。でもねえ」


 ふふっとねーちゃんが、何かを思い出したように笑った。


「本物はAI越えてくるからね。簡単に。びっくりするからね。私が調教しなくてもあっさり言うからね、もう……」


 ねーちゃんはうっとりした表情で、どこか遠くを見ている。何見てんだねーちゃん、宇宙か?


 それにしても、何を言われたんだろう。知りたい。けど。知ったら今度こそ俺、ダメージやばそうだから。やっぱ、聞かないでおく。


「あ、というわけで。今日のご飯はカレー、作ってくれるんだよね?」


 宇宙から戻って来たねーちゃんに、再び画面を見せられて。俺はため息をつく。


「はいはい。作るって」


 リクエストには答えてやるけど。これって俺らがAIに調教されてね? なんてちょっと思った、り。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ