楽観
「ようノア!しけたツラしてんなぁ。どうしたよ?」
パーティの弓兵担当、ヴァールに尋ねられた俺は、どうやら疲れを隠しきれてなかったらしい。
魔王討伐のメンバーに選ばれ喜んだのも束の間のこと。鍛えた炎魔法と剣術で、大活躍してやろうと目論んでいたが、仲間達は規格外過ぎた。
剣の勇者グレイヴ。何でも斬れる聖剣の持ち主で、日に三度、間合いを拡張する能力を持つ。一度城ごと敵をぶった斬るのを見たこともある。剣を振るう速度が尋常ではなく、俺の様な常人から見ると肩から先が消えている様にも見える。
リーダーのリュー。全体の指揮をとる。全魔法使用可能という規格外の異能を持ち、魔力の限り弾幕を張って、どんな敵でも殲滅する。相手が特化している分野の魔法では押し負けることもあるが、手数で大体圧倒できる。記憶を覗いたり、バリアを張ったりすることも出来る。
キース。無口だが実力は本物。スピードは団の誰よりも速い。異能は不明。双剣で無数の敵を斬り殺す。王国最強の実力者。
元暗殺者のティア。絡め手を用いて相手を幻惑、圧倒する。敵が動き出す前に倒すのが基本。
悪鬼羅刹と謳われる藍染透。異世界人であり、着物と扇子で見た目は優雅だが、戦闘になると鬼と化す。複数の札をばら撒き式神を操り、刀で敵を叩き斬る。
スウィフトは、あらゆる銃火器を呼び出して敵を撃ち抜く。ヴァールは弓矢で援護し、百発百中で敵を倒す。藍染雫は可愛い見た目と裏腹に水魔法のプロ。カーリーは相手の異能を看破し、大鎌と鎖分銅で倒す。
「俺、ここに何しに来たんだ……」
パーティの皆は良い人達だ。ただ、俺はそんな人達と歩むには凡庸過ぎた。炎魔法という最もありふれた魔法しか使えず、支援と防御に努めていたら、あっという間に魔王討伐完了である。
キースが数百の敵を斬り裂き、グレイヴが城を斬っていた間、俺は後ろから地味に火の球を放って数十人敵を倒しただけだ。勇者とは、同じ師に師事し、必死で鍛えてもまだ届かぬ高みである。
そんな俺が何で……勇者になっちまったんだ。
えっ?もう魔王死んだよ?呆気なくグレイヴに、聖剣で真っ二つにされたよ?あれじゃ絶対復活なんてしないって。俺の仕事なくない?あっても俺以外で絶対何とかなるよ?今日もなんか指名手配犯に顔似てるって捕まりそうになったけど?
頭を抱える俺に茶色の革鎧に矢筒を背負ったヴァールが絡んでくる。
「ノアーどうしたよ元気出せって!親友の俺に!何でも言えって!」
「それが……」
「うんうん」
「何でもない……」
「だぁーもう!いやいや何でもないことないだろどう見ても!何だ思春期か?エロ本貸そうか?」
「要らない……」
普通に要らん。
俺達はこれから、勇者パーティという役職ではなく、一つの騎士団という扱いになるらしい。勇者ってのは偉大な存在だ。俺みたいなのがしゃしゃり出て居心地悪くなるのは御免被る。
なんで、よりにもよって俺が勇者?俺は自分に自信が無い。自覚はあるが、へし折られた天狗の鼻を、どうすれば元に戻せるか分からないのだ。
「なぁヴァール」
「何だよ」
「どうしたら強くなれるんだ?」
「またそれかよ!お前もう十分強いって!皆認めてるって!だからもうちょいプライド持てって!」
「分かった分かった。はぁ、もう行こう」
「ホントに分かってんだろうな……?」
ヴァールは疑り深いが、魔王も死んだ事だし、これ以上悩んでも何も変わらない。ヴァールは微妙な顔をしつつも、俺の手を引っ張って立たさせてくれる。
「ノア、だいじょうぶ?」
俺がちょっと……いや大分気になってる女の子、ティアも声を掛けてくる。
「ああ、問題ない。行こうか」
俺が騎士団本部の寮に戻ると、賑やかな声が響いてくる。俺の仲間達は優しくて明るい人達だ。きっと上手くやっていける。明日から始まる騎士団としての業務も、頑張っていこうか。
この時の俺は、これから先なんだかんだ言ってもきっと平和に過ごしていけると、勇者の称号は何かのバグだと、そう思っていた。