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クーラの指摘、細かすぎるだろ……

「おはようございます」

「やあ、さっきぶりだね」


 クーラのことが気になりつつもやって来た支部。そこにはすでにキオスさんの姿が。


「早いですね」

「まあ、ちょっとね……」


 少し照れ臭そうに見るのは受付の方。


「なるほど」


 今日の早番はシアンさん。つまりはそういうことだろう。


 俺に会釈をしてくれるシアンさんも少し恥ずかしそう。だけど、そこらへんは追々慣れていくんだろう。


 ちなみに、支部で謹慎中の新人4人は見当たらないが、すでに奥の倉庫で仕事を始めているらしい。


「ちなみに、他の皆さんには伝えるんですか?隠すつもりなら、俺も黙っておきますけど」


 というか失敗したか?だとしたら、クーラにも口止めはしておくべきだった。まあ、それならそれで、すぐにでもエルナさんの店に走るつもりだが。


「いや、来た順番に話していくよ。今日はずっとここに居る予定だからね」

「そういうことでしたか」

「おかげで今日からは、ガドに嫉妬しなくて済む」

「……その口ぶりだと、ガドさんをやっかんでたことがあったんですか?」

「ことがある、じゃなくて、いつもだったよ。シアンだって、セルフィナちゃんを羨ましく思ってたみたいだけど」

「……意外ですね」

「そうかな?」

「ええ」


 俺なんかは腐れ縁共にそんな感情を抱いたことも多々あったけど、それは俺が人としても虹追い人としても未熟だからだとばかり思っていた。


「結局は、一歩を踏み出せばそれだけで済む話だったんだけどね。僕も偉そうなことを言えた義理じゃないけど、恋愛感情というのがここまでややこしいものだとは知らなかったよ」

「……そういうものですか」

「ああ」


 まあ、俺にとっては理想的とも言える形に落ち着いたんだ。それで十分だろう。


「ところで……」


 そのあたりはさて置き、昨日の夜から考えていたことがあった。戦闘スタイル的な意味では、第七支部の中でもキオスさんとタスクさんが適任なんじゃないかと思っていたこと。


「キオスさんにお願いしたいことがあるんです」


 今日は依頼を受ける予定も無いようだし、頼んでみよう。


「何かな?」

「稽古をつけてもらえないでしょうか?」

「僕でよければ構わないよ。でも珍しいね、君が自分からそう言ってくるなんて」

「そうでしょうか?」

「うん。君の性格なら、迷惑かもしれないなんて考えて遠慮しそうなところだったからね」

「……返す言葉もございません」


 たしかにそんな風に考えてしまうことは多々あった。


 というか俺って、そこまでわかりやすいのか?


「僕としては、もう少し頼ってほしいとも思うんだけどね。……もしかして、昨日の試合で見せたアレが関係しているのかな?」

「……おっしゃる通りでございます」


 そこまでお見通しか。


 となれば、その欠点にも気が付いて……


「察するに……足元が隙だらけだったことかな?」


 いますよね、それは。


「……恐れ入りました」


 けど……


 気になることも湧いてくる。それは――


 クーラの指摘、細かすぎるだろ……


 けれど、それが的を外していたようにも思えないわけで。


 実質的には藍のキオスさんよりも踏み込んでくる上に的確とか、どんな目をしてるんだよあいつは……


「そういうことなら、喜んで相手をさせてもらうよ。僕としても、君の新しい力には興味があったからね」

「ありがとうございます」


 っと、クーラのことは後回しだな。今はキオスさんにつけてもらう稽古に集中しよう。




 さっそく訓練場に移動し、稽古をつけてもらう。途中でやって来た他の先輩たちも俺の虹剣モドキに興味を持ったらしく、5人全員に相手をしてもらったんだけどその結果は……


「甘いね」

「甘いぜ!」

「甘いよ!」

「甘いぞ!」

「甘いですね」


 と、そんな感じで三者三様ならぬ五者五様に、ボコボコに。


 自分でも薄々気付いていた弱点は、実際に大きな弱みになっていて。


 かといってそちらを意識すれば虹剣モドキの制御が雑になってしまい。


 1対1というのを差し引いても、新人戦対策の訓練時以上にあっさりと転がされて。


 今の俺では、影すら踏める気はしなかった。


「やっぱ先輩たち、途方もなくデカい壁だよなぁ……」


 訓練場の地面に寝転がり、ひとり呟く。悔しさはあれど、ここまで見事にやられるといっそ清々しい気分。


 山より大きな獅子はいない、だったか?


 いつか師匠に言われた言葉を思い出す。


 どんな大きな壁だって、絶対に超えられないなんてことはないんだと、そんな意味だったそうだが。


 まあ、俺なんてまだまだだってことを再認識できただけでも、収穫アリってことにしておこうか。使えそうなやり口のアドバイスももらえたわけだし。


 そういえば、あいつもあれこれと指摘してくれたわけだが……


 そこでまたしても、クーラのことが気にかかる。


 やっぱり、いつもと違ってたよな?


 思えば、昨日一昨日と面倒かけっぱなしだった。もしかしたら、疲れが溜まってんだろうか?


 シアンさんとキオスさんの件にしてもそうだったし、考えてみれば世話になりっぱなしなんだよな、俺。


 言葉で礼を伝えたことは何度もあったし、それが口先だけだったとも思っていない。けれど、クーラがしてくれたことに対して俺は、ロクに返せていないんじゃなかろうか?


 日頃の感謝、というと照れ臭いけど……。いや、待てよ?ちょうどよさそうな口実があったな。


 ちょっとした祝いを兼ねて、クーラに贈り物のひとつもしようか。


 我ながら安易だとも思うが、そこまで悪い案でもないはずだ。


 とはいえ……


 そこで行き詰まる。


 果たして何を贈ればいいのやら……


 今朝の様子がおかしかった原因が疲れだったなら……蛇の干物あたりはひとつの選択肢にはなると思う。


 アレなら精は付くだろうし、意外と美味い。


 だがなぁ……


 疲れているというのは、現時点では俺の推測でしかない。


 もしもそれが俺の誤解だったなら、あからさまな疲労回復効果のある食い物をもらっても、いい気分はしないだろう。


 大前提にするのは、クーラが喜んでくれることだ。


 仮にクーラがカボチャ嫌いだったとして、そこにカボチャを贈ったところで嫌そうな顔をされる未来しか見えないという話。まあ、俺が知る範囲ではアイツに苦手な食い物は無かったわけだが。


 確実に好きなところとして思いつくのは、茶に関するあれこれなんだけど……


 とはいえ、俺には茶葉やティーセットのことなんてまるでわからない。


 わかりやすくクーラが執心していた物としては、いつぞやの、お値段1500万ブルグのティーセットなんてのもあったが……


 ダメだな。


 手が届かないという点を差し引いても、その案は却下だ。


 性格を考えたら、あまりに高価な物は逆に受け取りを拒否される公算が高いだろうし、受け取ってもらえたとしても、今度はそのことを延々と引きずられそうな気がする。


 クーラとは今後も気兼ねなく付き合っていきたい俺としては、それは避けたいところ。クーラはアホみたいに目端が利く。であれば下手な誤魔化しは効かないだろうし、気楽に受け取れるような物がいいだろう。


 というかこれって……


 妙な既視感があった。


 前に図書院で読んだ話でも似たような場面を見たような気がするな。たしか……『翼に閃く恋模様』だったか?


 まあ、あっちの場合は恋人への贈り物に関してで、最終的には『求婚』を意味する花をあしらった指輪を贈り、めでたしめでたしという結末。今の俺にとっての参考になるはずがない。


 いや、待てよ?


 指輪というのはあり得ないとしても、


 いつも身に着けてもらえるような物というのはどうだろうか?


 そんな発想はごく自然に湧き上がってきたもので、


 なんだかんだいっても、俺とクーラは毎朝顔を合わせる間柄。そのたびに目に付く物をというのは、案外いいんじゃないかと、そんな風に思えた。

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