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その時は、数合わせ兼壁役くらいは引き受けるさ

「光る焼き魚かぁ……。それは私も見たかったかも。というか食べてみたかったよ」

「まあ、その光る材料自体が現状では希少らしいけどな。それでも、栽培してみようって話でもあるらしい。もしかしたら、の話だけど、あと何年かしたら、その辺の飯屋でも食えるようになるかもしれないな。ちなみにだが、昨夜食わせてもらったのは本気で美味かったぞ」

「じゃあ、その何年後かを気長に待とうか。その時はさ、君のオゴリで食べに行こうね。楽しみにしてるから」

「……俺のオゴリなのかよ」

「うん。看板娘ランク白の私よりも、虹追い人ランク橙のアズ君の方が今もこの先も羽振りはいいでしょ?仕方ないよねぇ。私はまだ自称が取れたばっかりの白で見習いなんだからさ。いやぁ、残念残念。私のランクがもっと高かったら、君にオゴってあげられたんだけどなぁ。アズ君的にも、私に追い越されちゃうのって嫌だよね?私って相手を立てるタイプなのよ。だから君は頑張ってね。応援してる」

「ったく、口の減らない奴め。もう一度自称看板娘に降格させてやろうか?」

「あはは。お褒めに預かり恐悦至極、ってね」


 おどけた表情でウィンクしつつに、ご丁寧に決めてくるカーテシーが妙に様になっているのがまたなんとも……


 歓迎会の翌朝。今日も今日とて、俺とクーラはそんな朝の馬鹿話を楽しんでいた。お互いにどんどん遠慮が無くなっている気はしないでもないんだが、本当にこんな気安い時間は心地がいい。このひと時を容認してくれたエルナさんには心からの感謝を。


「あら、今日も来てくれたのね。おはよう、アズール君」

「おはようございます。エルナさん」


 (腹の中でだけど)噂をすればなんとやら、か。エルナさんがやってくる。


「クーラちゃんも、しっかりやることはやっているみたいね」

「それはもちろん。給料分は働きますって」


 雇い主――というか多分その奥さんなんだろうけど――の前で口にするのはどうかとも思う発言だが、エルナさんには気にした様子も無く。


「ところで、クーラちゃんにお願いしたいことがあるんだけど、いいかしら?」

「なんです?」


 どうやら込み入った話になりそうだった。鐘はまだ少し先だし、この後で昼飯を調達する予定ではあるんだが。


「でしたら、俺は少し外しますね」


 それでも、エルナさんには恩義を感じている身。店を開ける時間まで、そのへんを軽く散歩でもしてこようか。


「あ、待って。アズール君にも関係がありそうなことだから」


 と、思っていたら呼び止められる。


 はて?


 心当たりが見当たらない。あるとしたら、クーラの仕事を邪魔するな的なことくらいとは思うんだが、さっきの『今日も来てくれた』という口ぶりからして、それは無さそう。


「そういうことでしたら」


 とりあえず聞くだけは聞こう。何か困っていることがあり、俺で役に立てるのなら、協力したいとも思う。


「明日なんだけど、クーラちゃんはお休みの予定だったでしょ?」

「ええ」

「急で悪いんだけれど、それを明後日に振り替えてもらうことってできるかしら?」

「構いませんけど……。なんでそこにアズ君が出てくるんです?」


 まったくだ。クーラの友人ではあると思っているし、一応はこの店の常連でもある。それでも、部外者であることも事実なわけで。


「だってクーラちゃん、お休みのたびにアズール君と一緒にお出かけしているんでしょう?」


 なるほど。だから俺にも関係があるとなるわけか。


 たしかそのことは、クーラが話していたらしかった。


「そのことでしたらお気になさらず」


 急を要する依頼や事情でもあれば話は別だが、基本的に虹追い人の休日なんてのは、その時の気分次第でいくらでも変更できるもの。幸いにも、家賃分を差し引いても、今の懐具合には余裕もあったわけだし。


「そう?だったら、明日はお願いね」

「わかりました……っと、時間だね」


 鐘が鳴ったのはそんなタイミングで、


「「いらっしゃい」」


 そうすればクーラもエルナさんも心得たもの。すぐに接客モードになり、


 さて、昼飯は何にするかな。


 俺もまた、即座に意識を切り替えていた。




「おはようございます」

「おはようございます。今日も早いですね、アズールさん」

「まあ、日課みたいなものがありますので」


 そうして支部にやってくれば、こちらもすでに業務は始まっていて、今日の朝番はセルフィナさんだった。昨夜はあの後もシアンさんと一緒に結構飲んでいたようだけど、いつものようにほんわかと落ち着いた雰囲気。酒に強い人なのか、あるいはコントロールができる人なのか。


 師匠なんかは、二日酔いで朝から真っ青な顔をしていたことも多々あったんだけどな。師匠のことは尊敬しているけど、あの姿だけは、見せられるたびに幻滅しそうになったものだ。まあそれも、今ではいい思い出か。


「支部長から伝言でして、この後で連絡があるそうなんです。そう時間はかからないということなので、急な用向きが無いのでしたら、少々お待ちいただけますか?」

「それは構いませんけど。もしかして、何かやらかしましたか、俺?」

「やっぱりそっちに思考が行っちゃうんですね、アズールさんは」


 なぜか一瞬だけの呆れ目を向けられた。


「呼ばれているのはアズールさんだけではありませんし、悪い話ではないですから、安心していいですよ」


 それはそれとして、その口ぶりはまるで……


「セルフィナさんには心当たりがおありで?」

「ええ。詳しくは、この後で支部長からお話があると思いますので」

「わかりました」


 そういうことなら、依頼を眺めつつ待つとしようか。


 さて、よさそうな依頼は、と……




 セルフィナさんの言葉通りに、程なくして支部長がやって来て、


「お前らも支部長に呼ばれたのか?」

「ああ。内容までは聞かされてないけどな」

「この5人の共通点は、新人ということよね?」


 アピスが言う通りに、対象となったのは、俺、ラッツ、バート、ネメシア、アピスの新人5人。


「ま、具体的なところはこれから支部長が話してくれるんだろ?失礼します」

「入りな」


 そうして執務室の中へ。


「さて、あんたたちを呼んだのは他でもない。支部対抗新人トーナメントのことだ」


 そう言われての反応はふたつに分かれた。


 なんだそれ?と首を傾げるのが、俺、バート、ラッツの3人で。


 なるほど、といった顔で得心した様子なのがアピスとネメシア。


「その顔だと、アピスとネメシアは知ってたみたいだね?」

「はい。私たちの故郷は王都から近かったから、去年は見に来てました」

「あと、前に居た支部では話題になってました」

「んで、バート、アズール、ラッツは初耳、と」

「ですね。まあ、名前から想像は付きますけど」


 恐らくは、新人が参加する支部対抗のトーナメント戦。名前そのままだろうと思う。


「まあ、実際に名前の通りなんだけどね。その大会が毎年同じ日に開かれててね、ひと月後に控えてるのさ」


 だからこの5人だったわけだ。新人の定義はさて置くとしても、先輩たちはどう考えても該当すると思えない。


「出場資格は虹追い人歴が2年未満でなおかつ、出場歴が無いこと。あんたたち5人は、全員がその条件を満たしてる」

「2年未満、ですか?」


 大会に新人と銘打つのなら、2年は長すぎる気もするんだけど。


「長すぎるんじゃないか、って思ってるんだろう?」


 苦笑気味に心境を見透かしてくる。


「昔は1年以内だったんだけど、それだと虹追い人になった時期による有利不利が大きすぎるってことでね」

「……なるほど」


 1年未満という条件の場合、極端な話をすれば――大会の前日に虹追い人になった者と大会の翌日に虹追い人になった者を比較したなら、経験日数という点では1日と1年弱という差が生まれてしまうわけだ。


 けれど2年未満という条件であれば、1年強と2年弱。


 差の量は変わらずとも、比率的には360倍強が2倍になるわけで。それならばかなりマシになるという話だ。


「話を戻すよ。試合は4対4のチーム戦。各支部からは、代表4人プラス補欠ひとりの計5人までが出場できるってわけさね。舞台は南区にあるコロシアム。賞金賞品の類は一切無し。代わりに、上位に入れば結構なランクポイントが与えられる。と、こんなところだね。ここまでで他に質問は?」


 ランクポイント以外にも、名は大いに売れるという側面はありそうだけど。


 さて、どうするか……


 俺としてはこの手の勝負事は大好物だし、今の自分がどこまで通用するのかを試したいという願望だってある。


 もっとも、未熟なままで俺のランクが上がってしまうのも名が売れてしまうのも、どっちも怖い気はするんだが、そのあたりは取らぬ狸のなんとやらか。


 まあそのへんはともかく、俺としても納得できていたし、他の4人もそうだったんだろう。特に質問は上がらなかった。


「じゃあ次は、あんたたちがこの大会でどうしたいかって話だ」

「この中で誰が補欠に回るかってことですよね?人数はちょうどですし」

「いや、少し違うね」


 んん?


 俺もラッツと同じ解釈をしていたんだけど、支部長が言うには違うらしい。バートやネメシア、アピスも同感のようで、首を傾げているんだが。


「あくまでも4人までってルールだからね。5人全員が試合に出たいって言うのなら、誰かひとりには諦めてもらわなきゃならないわけだけど、別に出場を強制はしないよ」


 言われてみればそうか。たしかに支部長はさっき『計5人までが出場できる』と言っていたわけで。


「極端な話、全員が出たくないって言うのなら、ウチは棄権でも全然構わないのさ。嫌々で出られても、周りは白けちまうし本人だって楽しいもんじゃないからねぇ。もちろん、来年に回しても構わない。ただしその場合は、来年には他の新人が居る可能性もあるし、そうなれば枠争いになるかもしれないがね。……まあ何にしても、最優先は当事者の意思さね」


 さも当然のように言い切る。実際にそうなったら支部長自身の立場にだって影響出そうなところなんだけど。


「あの……もしかして去年も棄権してたんじゃ……」


 恐る恐ると問いかけるのはネメシアで、


「そういえば……。ひとつだけ棄権した支部があったような気がするわ……」


 アピスもそう続ける。


「ああ。それはウチだね」


 対する支部長が返すのは、これまた当然と言わんばかりの答え。


「いろいろあってね。去年は資格があるのがふたりしか残らなかったのさ。ひとりだろうがふたりだろうが参加は問題無くできるんだけど、2対4じゃあ、それだけでかなり不利になるだろう?恥をかくくらいならってことでね」

「そりゃまた……」


 俺としては「せっかくの腕試しする機会を……。なんてもったいない……」なんて風にも思うんだが。ともあれ、支部長は実際にそこで、当人の意思を尊重したわけだ。


「何て言うか……。やっぱり第一支部とはまるで違うんですね……」

「だよね。あっちは何か月も前から枠の奪い合いで足の引っ張り合いだったのに……」


 まあ、ランクアップと功名を望むなら、何としてでも出たいわけか。


「ま、余所は余所、ウチはウチさね。とにかくそんなわけでね、誰が出て誰が出ないのか、それをあんたたちの間で決めてほしいんだ。とりあえず、10日後を目途に結論を出してもらえるかい?もちろん相談には乗るよ。全員が出るとして、誰が補欠になるのかが決まらないようなら、そこはコイントスで決めさせてもらうけど、その点は了承願いたいね」


 見事なまでに偉ぶったところが無い。本当に、王都唯一だという紫がこうなのだから恐れ入る。


 それはそれと……


 周りを見る。俺と同じくこの手の勝負事が大好きだったラッツとバートは見るからに乗り気で、ネメシアとアピスもわかりやすくやる気を見せていた。


 もちろん俺だって出たいという気持ちはあるわけだが……


「お前ら4人が出たいようなら、俺は補欠に回るぞ」


 少し考えて、俺はそんな結論を出していた。


「アズ……。けどいいのか?お前だってこういうのは……」


 付き合いの長さは伊達じゃない。バートはそんな俺を訝しんでくるわけだが、


「ああ。大好物だよ。けどな……」


 ラッツとネメシア。バートとアピスの関係は知っている。その上で考えると、俺が出るということは、誰かひとりを押し退けるという話になるわけで。


「ラッツはネメシアと。バートはアピスと一緒に出たいんじゃないのか?」


 昨夜の歓迎会じゃないけど、その場合、間違いなく俺は居たたまれなくなる。


「それは……」「そうだけどさ……」「……うん」「……ええ」


 4人とも図星だったらしい。しかもネメシアなどは頬を赤らめて。それだけでも俺の読みは正しかったと予想できてしまう。


「だから、枠はお前らに譲ってやるよ」


 まあ、それはそれでこいつらが気に病みそうにも思える。


「代わりと言っちゃなんだが、面白い試合見せろよ?無様晒すんじゃねぇぞ?情けない姿見せてみろ。その時は、指差して腹抱えて馬鹿笑いしてやるからな」


 だからそんな悪態をぶつけてやれば、


「へっ!誰に向かって言ってやがる」

「むしろお前が自信失くすような戦いぶりを見せてやるからな!恥かかなくてよかったって、安堵させてやるよ」


 バートとラッツはすぐに乗って来て、


「ありがとう!絶対に期待に応えてみせるわ!」

「うん!アズールの分まで頑張るから!」


 アピスとネメシアも応じてくれる。


「……まあ、ラッツが階段を転げ落ちて足を折るかもしれないし、バートが腐ったパン食って腹壊すかもしれないからな。その時は、数合わせ兼壁役くらいは引き受けるさ」


 これはここ最近でもっとも接し慣れている女性が少しばかりひねくれ気味なせいなのか。腐れ縁共はともかく、その相棒たちの素直さが気恥ずかしくて、そんなねじけた言葉を返してしまう。


「ま、そういうことならそれでいいさ。決まったなら、セルフィナにそう伝えとくれ。トーナメント表なんかはまだ未定だけど、そこらへんは決まり次第伝えるよ」


 支部対抗新人トーナメント――長いからもう新人戦でいいか――に関するあれこれが決まり、そんな言葉に送られて執務室を後に。


「……随分あっさり決まりましたね。わかりました。では、そのように処理しておきます」


 そして決定内容を伝えれば、セルフィナさんは軽く驚きつつも無事に受理してくれて。


 これで、さしあたりはひと段落というわけだ。


「さて、これからどうする?」


 となれば、次に考えるべきはそこになるわけで。


「ちょうど全員揃ってるんだし、連携の練習でもするか?」


 そんな話になり、訓練場に場所を移したのも、きっと自然な流れだったんだろう、けれど……




 日が暮れる頃。第七支部の新人である俺たち5人は、全員が訓練場の地面で潰れたカエルみたいな――擬音で表現するなら「べろーん」とでもなりそうな――有様を晒していた。


 なぜこんなことになったのかと言えばそれは――支部にやって来た先輩たちが大会の話を聞き付け、対人戦の練習相手になってくれるということになり、せっかくの機会なので俺も便乗させてもらえることになったからだ。


 俺や腐れ縁どもは心色を使った対人戦の経験なんてほとんど無かったということもあり、願ったり叶ったりではあったんだけど……




 ソアムさんの大球は俺たちを攻め手諸共に片っ端から容易く容赦無く薙ぎ倒し、


 タスクさんの身のこなしと剣さばきの前には指一本触れることもできず、


 キオスさんの気配消しを交えた体術にはいいように翻弄されるばかりで、


 セオさんが操る風の多彩さには手も足も出なくて、


 ようやく本調子が戻ったというガドさんが繰り出す、大小様々で緩急自在かつ、直線曲線軌道が入り乱れた『飛刃』の乱れ撃ち――なんでも、弱点である遠距離戦を克服するために飛刃を磨き続けていたら、いつの間にか遠距離戦の方が得意になったんだとか。しかも距離を潰したら潰したで、得物を捨てて喧嘩まがいの格闘戦を仕掛けてくる始末。もう訳が分からん――にはまるで歯が立たず。




 早い話が、一方的に封殺されることしかできなかったというわけだ。それも5対1で。


 いやまあ、先輩たちがはるかに格上だということは理解していたつもりだけど、ここまでとは思わなかった。


 しかも、絶妙に手加減までされていたんだろう。負わされる手傷はどれも軽傷だったこともあり、セルフィナさんに治してもらいつつ、先輩たちが快く応じてくれたこともあり――というかむしろノリノリだったような気もしたけど。タスクさんソアムさんなんかは特に――それぞれに3戦ずつ相手をしてもらい、俺たち新人チームはめでたくなくも15連敗を成し遂げてしまったというわけだ。


 それでも、俺の心色は(現状では)敵味方入り乱れての戦いには不向きとわかったのは収穫とも言えるのか。本気でやったら、巻き込まれたラッツたちまで無事では済みそうもない。その意味でも、出場メンバーから抜けたのは正解だったのかもしれないが。


 ちなみにだけど、ガドさんがセルフィナさんに贈った指輪は、『治癒』の心色を強める魔具でもあったそうで、早速大いに役に立ったとのこと。


 とはいっても、体力の方には限界もあるわけで、その結果がこの様だった。


「先輩たち強すぎるよぉ……」


 どれくらいの間潰れていたのかはよくわからない。そんな中でポツリとつぶやくのはネメシアで。


「5対1であそこまでボコボコにされるとか、自信失くすわね……」


 アピスもそれに同意し、


「俺らは師匠相手でボコられ慣れしてるとはいえ、なぁ……」

「一矢報いるくらいはできると思ってたんだけどなぁ……」


 バート、ラッツの言葉には無念の色が濃い。


 まあそれでも……


「今に見ていろよ、ってことだろうかな」


 悔しさはある。だからこそ、入る気合いもあるということだ。


 あの人たちから一本取ってやる!


 そんな明確な目標がひとつ、心に刻まれた気がした。そのためにまずやるべきこと。それは――


「帰って汗流して飯食って寝るか」

「「「「賛成」」」」




「お疲れ様でした」


 そうしてロビーに戻ってきた俺たちを変わらぬ穏やかさで迎えてくれたのはセオさんで、


「疲労回復に効能のある薬湯を用意してあります。味はあまり良いものではありませんけど、よければ飲んでいってください。それと、筋肉痛に効果のある軟膏の調薬には心得がありますから。入り用でしたらいつでも私の部屋を訪ねて来てくださいね」


 どこまでも至れり尽くせりだった。


「……なあ、コレってさ、味は良くないってセオさん自身が認めてたよな?」

「ああ。たしかにそう聞いた」

「緑色でドロッドロなんだけど……」

「匂いもキツいわね……」


 全員仲良くボコられたことで絆が深まった気がする俺たち5人。セオさんの薬湯を手にロビーのテーブルを囲んだまではよかったんだけど、誰ひとりとしてカップに口を付けてはいなかった。正確には、そうする踏ん切りが付かないといったところ。理由は……まあそういうことだ。


 セオさんがいい加減な質のものを渡すとは、この場の誰も思っちゃいない。けれど、強烈な外見に加えて、味は良くないというお墨付き(?)まであるわけで。


「……覚悟決めるぞ。いち、にの、さんで口を付ける。いいな?」


 それでも、セオさんがわざわざ用意してくれたもの。明日以降に疲れを残さないことを考えても、飲まないという選択肢は無い。だったら、一蓮托生だ。全員で腹をくくれば怖くない……と願いたい。


 そして、全員がうなずいたのを確認し、カウントを終えると同時にカップの中身を口へ。


「「「「「んぐはっ!?」」」」」


 そのお味はと言えば、想像を超えたものだった。まあ、詳しくは語るまいが、吹き出さなかったことに関しては、自分を褒めてもいいような気がした。

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