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心の色は泥団子 虹を捕まえ連れ立って  作者: 追粉
7章 実質白
233/255

……何言ってるんだお前?

 エデルト大陸の中央部――俺にとっては第二の故郷でもある王都に向けて放たれようとしている破壊の光。


 その威力は推測で、エデルト大陸の1/18を消し飛ばすといったところ。ここでどうにかしなければ、数秒後には王都とそこに暮らす人たちが消えてしまうという状況で、


 ……諦めるか。


 俺は内心のため息混じりにそう決断していた。


 最優先するべきはこの場でズビーロクソトカゲをきっちりと始末すること。であれば、そのための犠牲は容認するべき。


 100の犠牲を出すことと、効率よく10を犠牲にすることで残る90を生かすこと。


 このふたつを乗せたなら、間違いなく天秤は後者に傾く。それが正しい判断であり、俺はそうするべき。


 ……仕方ないさ。


 腹の中でそう言い訳をして、白リボンを引き解く。


 すでに俺は諦めて覚悟を決めて腹をくくった。


 ならばあとは、行動に移すだけ。


 泥団子を食わせた白リボンが虹色の光を帯びていく。


 まあ結局はこれが俺。


 非の打ちどころが見当たらない正論を目の前にしても、一時の感情に流されて目先のことを優先してしまう。そんな未熟者というのが俺の本性だったということ。


 ここは王都を見捨てるという大人の判断が正解。こうしている今だって、俺はそう認識している。


 だがそれでも、




 毎日のように通い詰めたエルナさんの店。俺が一時期暮らしていたユアルツ荘。かつてクーラが暮らしていたアパート。付き合うようになってからふたりで暮らしていた俺たちの部屋。歌姫のステージに魅せられたコロシアム。クーラとふたりで色恋系の物語を読み漁った図書院。活気に溢れていた露店市。王都を出る際にはいつも通っていた西門。


 支部長が居て、先輩方が居て、シアンさんとセルフィナさんが居て、アピスとネメシアが居て、俺を慕ってくれる後輩たちが居て、一応ついでに腐れ縁共が居て、俺の所属先でもあった第七支部。


 この4年間で王都のそこかしこに山ほどの思い出ができていた。


 それらすべてがこんな奴のせいで失われるなんてのは、俺が嫌だった。




 だから諦めることにする。


 労せずに時間を稼ぐことができていた、今の状況を。


 まあそんなわけなんでな……そっち向くんじゃねぇよ!


 意思に応えて伸びた白リボンが巻き付くのは、破壊の光を放とうとする左ガユキ首へと。


 斬ることや潰すことをしない理由は、下手に損傷させて破壊の光が妙な方向に行ってしまっては困るから。


 ここで重視するのは確実性。左ガユキ首を縛り上げたままで頭上から伸ばした白リボンを縮めてやれば、その先が向くのは真上。


 そしてそのまま、王都を直撃するはずだった破壊の光は空の彼方へと消えていった。


 さて、ここからどうするかな……


 結果的には自分からアドバンテージを投げ捨てた形だが、最終的に勝利できれば何も問題は無い。そのためにやるべきは時間稼ぎだというのもこれまで通り。


 まずは、仲間割れに期待だな。


 そのせいで俺が面倒を背負わされる羽目になったとはいえ、ビクト首はグッサリとオビア首に突き刺さっていたんだ。連中の人柄を考えれば、派手に諍いを起こしてくれる可能性が高い。


「申し訳ありませんでした!」


 そうこうしているうちに自分をオビア首から引き抜いたビクトが、こうしている間にも再生していくオビアに謝り出す。


「どうか……どうかお許しを!」


 さすがにマズいと思っているんだろう。その勢いは土下座せんばかりで。


 まあ、オビアの性格を考えたなら、その程度で絆されたりはしないことだろうが。


 俺としては、怒り狂ったオビアがビクトの意識を完全に消し去ってくれたらありがたいんだが。


「……神である我に傷を付けた罪は重い。そのことは低能な貴様でも理解できるな?」

「……はい。ですがどうか!どうかお許しいただけないでしょうか?」

「……まあいいだろう。貴様にはしばしの猶予を与えてやろう」

「ありがとうございます!」


 ……変だな。


 少し前までは怒り心頭で人形遊びに興じていたはずのオビア。まして、さっきの今で顔面を貫かれたばかり。


 それなのに、今のオビアは妙に余裕があるように見える……ってまさか!?


 思い至ったのは、この手の小悪党にありがちな習性。


 こういった手合いが唐突に不自然に余裕を見せるのは、自分が圧倒的に優位だと認識した時というのが定番。


 そしてこいつにとっての優位というのは……


「コソコソと隠れていないで姿を見せるがいい、泥団子使いよ!」


 こみ上げて来る嫌な予感を後押しするように、確信を持った風で叫ぶ。


「オビア様?泥団子使いはそこに居るのでは?」


 ビクト首は眼下に浮かぶ泥人形に視線を向けて不思議そうに問うが、


「馬鹿め!あれはニセモノだ!」


 オビア首はそう断言。


 まあ、さすがに気付くか。


 さっきの白リボンは、明らかに泥人形とは別の方向から飛んできていたんだから。あれだけの首があれば、ひとつくらいはそれを視認していてもおかしくない。


 ……ここは姿を見せた方がよさそうか。


 少し考えてそう判断。このまま隠れっぱなしだと、あたりかまわず破壊の光を撒き散らしかねないところだが、その結果としてどこかの大陸を直撃なんてのは避けたいところ。


「二度も同じ手に引っかかるとは、貴様はどこまで愚かなのだ!」

「申し訳ありません!」


 いや、お前もついさっきまでは引っかかってただろうが。


 そんなツッコミも喉元まで込み上げて来るんだが、今は我慢しておく。


「上手く隠れたつもりだったんだがな……」

「フン!やはり隠れていたのか。だが残念だったな?いくら貴様がドブネズミのようにコソコソしようとも、神の英知の前ではすべてが無意味なのだよ」

「ああ、そうだな。たしかに残念だよ」


 せっかく上手く行っていた時間稼ぎは、これで完全に使えなくされてしまったんだから。


「いや、それよりも……泥団子使い!オビア様を見下ろすなどということが許されると思っているのか!?」

「貴様は黙っていろ」

「ですが……」

「黙っていろと言ったぞ。我の言うことが聞けぬというのか?」

「いえ、そのようなことは……」

「ならば無能はその口を閉じていろ」

「はい……」


 吠えるビクトをオビアがたしなめる。その余裕が、ますます嫌な予感を膨れ上がらせる。


「さて、役立たずが静かになったところで……泥団子使いよ。神である我を相手にここまで逃げ回ったことは褒めてやろう。だが、貴様もこれで終わりだ。なぜならば、貴様の弱点はすでにわかっているのだからな」


 本気でヤバいぞこれは……


 どうせ口先だけとはいえ、ついには俺を褒め始めた。その様はまるで、自身の勝利を確信した風で。


 この戦いにおける俺の弱みなんてのは、こいつに言われるまでもなくわかっていた。それは、突かれたならばそれだけで即座に負けが確定しかねないシロモノ。


 どうする……?どうすればいい……!?


 必死で対応を考えるも、妙案は出て来ない。


「くくく……貴様の焦りが手に取るようにわかるぞ?では、現実という名の絶望を突き付けてやろう。貴様の弱点をな!」


 そうして得意満面に自信満々でオビアが口にした内容。


「貴様の敗因。それは…………………………自身の名声に対する異常なまでの執着だ!」


 けれどたっぷりともったい付けてほざいて来たのはあまりにも的外れというか、見当違いも大概にしろと言いたくなるようなもので、


「……何言ってるんだお前?」


 演技ではなく本気の素で、俺はそんな間の抜けた返答を引き出されてしまっていた。

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