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心の色は泥団子 虹を捕まえ連れ立って  作者: 追粉
7章 実質白
231/255

せいぜい堪能するがいいさ!

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 そんな出していて喉が痛くなりそうな悲鳴を上げて俺が落ちていくのは、高度にして150メートルほどの位置からで、行き着く先は海の中。


 俺が目的としていたのは時間稼ぎ――より正確には、ズビーロクソトカゲをこの場に釘付けにした上で、可能な限り状況を長引かせること。


 であれば、このまま海中に隠れて死んだフリというのはあり得ない。


 その場合、ズビーロクソトカゲが別の行動を起こしてしまう危険が大きい。そして奴が取りそうな次の行動としてもっともありそうなのは、エデルトかテミトスに襲来して破壊の光をぶちかますというもの。


 ……その意味ではタイミングがよかったんだろう。もしも拠点で寝ていた時にクソトカゲが落ちて来ていたなら、俺がこの場に到着する前にクソズビーロがどこかへ飛び去ってしまい、取り返しの付かない事態を引き起こしていた公算すらあったんだから。


 ならばここでやるべきは……まだ俺はやられてはいないんだと、奴に知らしめてやることだ。


 だから勢いよく、俺の姿を落下前の高度まで上昇させてやれば、


「まだ生きていたか……。だが、いくらコソコソと逃げ惑っても同じことよ!貴様に許されたのは、我に殺されることだけなのだからな!ビクトよ、あの薄汚いドブネズミを殺さぬ程度に追い立て、痛めつけてやるがいい。トドメは我が刺してやる。今はしばしの間、ネズミ狩りを楽しむとしよう」

「お任せください!」


 すでにあちらさんは勝った気でいる様子。


 まあ、敵が油断してくれるのは結構なこと。


 せいぜい堪能するがいいさ!楽しめるかどうかまでは保証してやれないけどな!




 そうして始まったズビーロクソトカゲが言うところのネズミ狩りであり、一方的な攻勢。光景自体はさっきまでのそれと大差無かったことだろう。獲物が奴の下方でひたすらに逃げ回り、そこへオビア首を除いた6頭から放たれる破壊の光と、ビクト首が繰り出す剣技がひっきりなしにやって来るというものだ。


 だがそれでも、表面的にはひとつの、実質的にはふたつの大きな違いもあった。




「フン、貴様が無様に逃げ回る姿もいい加減見飽きて来たな。そろそろ楽にしてやろう」




「クソっ!いつまでもチョロチョロと!」




「何故だ!何故あんな単独型風情を仕留め切れぬのだ!?」




 表面的な違いというのは、連中の攻撃がかすりもしていないということ。


 体感では30分が過ぎたくらいだろうか?連中が募らせ続けて来た苛立ちは言動にもはっきりと現れ、


「おいビクト!貴様、手を抜いているのではないだろうな?」

「そのようなことは決して……」

「ならば、何故奴を半殺しにできない?貴様が怠けている以外に理由があるとでもいうのか!?」

「それは……ですが、僕は真剣に……」

「だったらさっさと奴を殺してしまえ!さもないと貴様にも罰を与えるぞ!」

「わかりました!すぐにでも奴を八つ裂きにしてご覧に入れます!」


 焦りと共に、そんな見苦しい様を晒し始める。


「クソっ!よくもオビア様の前で醜態を……。絶対に許さんぞ!」


 そう鼻息を荒くするビクトだが、意気込みだけで状況を変えられる世の中なら誰も苦労はしない。


 むしろ精神状態が反映された剣閃は粗雑なものへと成り下がり、予測も回避もどんどん楽になっていく。


『洗練された剣には安定した怖さがあるけど、荒っぽい剣はたまにシャレにならない怖さを発揮するんだよねぇ……。まあ、それも基礎がしっかりしてればの話だし、剣に限った話でもないんだろうけどさ』


 これは過去に呼び付けられたとある異世界でクーラが実感したことらしい。割と素直にうなずける話だったし、ガドさんやソアムさんが体現しているのは後者で、タスクさんやキオスさんは前者ということになるんだろう。


「泥団子使い!貴様は殺す!絶対に殺してやるぞ!」


 それでも、こいつは先輩方とは違う。威勢がよくても動きは粗い――雑なだけのビクトは大して怖くない。これなら、前にガナレーメでやり合った時の方がよっぽど厄介だった。


「クソっ!だったらこれでどうだ!」


 似たようなことはオビアにも言えていた。頭上から降って来る破壊の光。その頻度が跳ね上がる。


 下手な弓矢も数打てば、というのはひとつの真理ではあるんだろう。矢を射る場合、その数が多ければ多いほど、最低でも1発以上が当たる確率は高まる。それもまた素直にうなずける話、なんだが……


「さっさと僕に斬られろ泥団子つか――ぎゃあっ!?」


 正確に狙いを定める技量も無い奴が乱戦の中でそれをやるのは悪手。破壊の光が捉えたのは俺ではなく、俺に斬りかかろうとしていたビクト首。


「ええい、この間抜けめ!我の邪魔をするな!」

「申し訳ありません!」

「神の力を与えてやってもこのザマとは……。所詮は貴様もあの薄汚い泥団子使いの同類ということか!?」

「そのようなことは……」

「だったらさっさとあのドブネズミを殺せ!さもないと貴様も死刑にするぞ!」


 すぐに再生したとはいえ、そんな自滅行為はますます連中の心理を蝕み、動きを粗雑なものへと変えていく。当然ながらそれは、敵である俺には好都合でしかない。


「ならば……これでどうだぁぁぁぁぁっ!」


 そんな中で次にビクトが取ったのは、はるか上空まで尻尾を伸ばし、勢いを付けて落雷のような突きを落とすというもの。


 勢いの分だけ威力も増しているであろう一撃は、全開の障壁だろうと容易くぶち抜けるようなシロモノだったのかもしれない。


 だがそれも、当たりさえすればという但し書きが付く。これだけ予備動作が大仰な上に単純な突きであれば対処は簡単。寸前まで引き付けた上でギリギリでかわしてやれば、勢い余ったビクト首は派手な水飛沫を上げて海中へと突っ込んでいく。


「役立たずが……。こうなっては仕方あるまい。我が真の力を見せてくれるわ!」


 そんなことを叫ぶオビア首だが、やることはこれまでとまるで変わらずに破壊の光一辺倒。むしろ、ビクト首からの攻撃が無くなった分だけ、余裕を持って避けることができる。


 そんな単調な攻撃をかわし続けるうち、海面からビクト首が飛び出して来る。


 ……だからバレバレなんだよお前は。


 海中から奇襲をかけるというのがビクトの狙いだったんだろう。だが、海中に突っ込んだまますぐに上がって来ないとなれば、そんなものは簡単に予想できる。


 一応は標的の背後から死角を突いているようだが、生憎と()()()()()()視界の中。


 だからさっきの突き下ろしと同じように寸前でギリギリでかわしてやれば、


「ええい、何をしているのだ貴様は……うわああああああああっ!?」


 泡を食った間抜けな悲鳴を上げるのは、ビクト首が向かう先にあったオビア首。


 奴にとっては想定外だったらしく回避することもできず。そしてかわされるとは思っていなかったらしいビクトの方も勢いを止めることができずに、


「あぎゅっ!?」


 死ぬほど気持ちが悪い話だが、ある意味では口づけと言えないこともないのかもしれない。


 悲鳴を吐き出すために大きく開いたオビア首の口内へとビクト首が突っ込み、勢いのままにその刃は、後頭部まで突き抜けていた。

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