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心の色は泥団子 虹を捕まえ連れ立って  作者: 追粉
7章 実質白
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世の中には、馬鹿は死ななきゃ治らない説と馬鹿は死んでも治らない説があるくらい

 俺が放った超絶劣化版木端微塵斬り(こっぱみじんぎり)からは、一切の手応えを感じ取ることができず。


「馬鹿な!?」


 そしてこぼれ出るのは、信じられないといった色がありありと浮かぶ声で。




 物を斬った時の手応えというのは、対象によって大きく変わるもの。


 例えば――ニンジンとトマトでは違うわけだし、皮をむく前のトマトと皮をむいた後のトマトでも明確に違う。


 そして同じものを対象とした場合、研ぐ前の包丁を使った場合と研いだ後の包丁を使った場合とでは、これまた手応えは違って来る。


 研ぎ澄まされた包丁でクーラがフワフワに仕上げたオムレツを切り分ける時なんかは、ほとんど手応えを感じないなんてこともあるくらい。


 つまるところ――何を使って何を斬るのかは、手応えにそのまま反映されるということ。




 だから、今の俺がまるで手応えを感じなかったのは狙いを外したからというわけではなくて、


「神の下僕となったこの僕が……」


 愕然とするのは、自分を盾にして超絶劣化版木端微塵斬りを防ごうとしたビクト首。その顔は上半分が両断され、声が発せられるのは残された下半分にあった口からで、


 その先にあったズビーロクソトカゲの7頭もまた、すべてが根元からバッサリと。


 そして斬り落とされた箇所は自重で落下、海面に届く直前で空気に溶けるように消えてしまう。


 魔獣が死ぬ時と似たような感じではあったが、すでに存在そのものが魔獣のそれに近くなっていたからなのかもしれない。


 まあ俺としては、海にゴミを捨てることにならずに済んでよかったというくらいにしか思わないが。


 むしろそれよりも……


 ……これで終わってくれれば楽だったんだがなぁ。


 目の前にある巨体の方が問題だった。


 ビクトも含めたすべての首を斬り落とされたというのに胴体が消える様子は無く、背中のトンボ羽が羽ばたきを止めることも無く、その場に制止していたんだから。


 普通の生き物や魔獣は首を落とされれば死ぬわけだが、こいつが普通じゃないということはすでに嫌と言う程わからされていた。


 だから、切り口からボコリと何かが盛り上がり、みるみるうちに再形成されたのが元通りの首であっても驚きは薄く、出て来るのは内心でのため息くらい。


「クソっ!おいビクト、いったい何が起きたというのだ!?」


 そして再生が完了するなり見せるのはそんな取り乱した様子で、


「僕にもよくわかりません……」

「チッ!これだから役立たずの単独型は……」

「ですが……光る剣のようなものが後ろに見えていました」

「そういうことはさっさと言わぬか!この役立たずが!」

「申し訳ありません!」


 オビアの横柄振りは相も変わらず。


 世の中には、馬鹿は死ななきゃ治らない説と馬鹿は死んでも治らない説があるくらい。ならば、首を落とされたくらいでは反省できない輩がいてもおかしくはない。


「……何も居ないではないか?」

「そんな!?さっきは間違いなく……」


 そうして巨体がゆっくりと振り返るも、俺の存在に気付いた様子は皆無で、


「貴様……神である我を騙したというのか!?」

「いえ!?そんなことは断じて……」


 そんな仲間割れ――あれらを仲間と解釈していいのかはいろいろな意味で疑問だが――まで始める始末。


 このまま放置して眺めるのも面白そうではあるんだが、妙な事故に発展されても困るので今は止めておく。


 というか、一応俺は連中の視界に入ってるはずなんだが……


 まあ、気付かれにくいようにしているのは事実だけど。


 夜闇に紛れての隠密行動を取る際、目元以外の全身を黒布で覆うというのは割とよくあること。


 そして今の俺も、基本的にはそれと同じような状態だ。


 過去にグルドア大陸に行った際には囚われのお姫さんを助け出すために敵地に忍び込んだことがあり、その時にも使った手法。


 周囲に溶け込めるように表面の色を調節した泥を薄く、動きを阻害しないようにして、目と耳と鼻と口だけを残して全身に薄くまとうというもの。


 実際には注意深く見れば不自然さに気付けるものらしく、あの時には侵入者を警戒していた連中にバレてしまったこともあった。


 だがそれでも、認識を一瞬だけでも遅らせるくらいの効果はあり、その一瞬が大きなアドバンテージになっていたわけだが。


 ちなみにだが……異世界技術であれば完全に視認できなくすることも可能――クーラが言うには消音、気配消し、光の屈折操作、認識阻害あたりの併用とのこと――らしいんだが、例によって例のごとく、今の俺には技量不足で不可能だというのが悲しいところ。


 ともあれ、ズビーロクソトカゲは俺の存在に気付いていない様子。であれば、隠れたままで一方的に仕掛けるというのもひとつの選択肢ではあるんだろうが……それはそれで事故が怖い。


「お前らの敵は目の前に居るだろうが間抜け共!」


 だから声を張り上げてやるも、


「何者だ!?」

「神である我にふざけたことを……。卑怯者め!コソコソと隠れていないで姿を見せろ!」


 それでも姿には気付けていない様子。


 まあ、グルドア大陸の一件で相手にしたのは――くだらない理由でしょうもない事件を起こしたとはいえ――それなりに経験のある虹追い人であり、警戒だって怠ってはいなかった連中。


 対して今のズビーロクソトカゲは、ひょんなことから手に入れたすさまじい力に溺れ気味なだけの阿呆。


 その差が出ていたということなのか。


 それでも、こっちに気付いてもらえなければいろいろと困る。


「……これで満足か?」


 だから保護色の泥を消し、ついでに見やすくなるようにとサービスで右手に握る虹剣モドキに『発光』を込めてやる。


「泥団子使いだと!?貴様、生きていたのか!?」

「馬鹿な!?我の神罰を受けてチリと化したはずだ!?」


 そこまでしてやってようやくに、俺を認識できたらしい。


「神罰ねぇ……」


 その言葉が意味するのは、読んで字のごとくに神が下す罰というもの。


 基本的には、俺は神の存在に関しては適当に考えている。居るなら居るでそれでいいし、居なければ居ないで別に構わないといった感じだ。


 唯一の例外――本気で存在を信じているのは、かつてどこかの異世界に襲来したという邪神。そいつが最期っ屁代わりに残した呪いのせいで、クーラはずっと苦しみ続けて来たんだから。


 けれど、その結果として俺はクーラと出会うことができたというのも事実なわけで。感謝をしようとまでは思わないが、今となっては存在して良かったとすら思うところだ。


 まあそれはそれとして……。そんな義理はどこにも無いんだが、今はズビーロクソトカゲの疑問を解消してやるとしよう。


「お前がチリに変えたっていうのは、これのことだろ?」


 左手に発現させた泥団子を適当に放り投げ、『遠隔操作』でその場に留めて、『分裂』の応用で体積を増やし、色や形を調整。


「何だと……!?」


 そうすればそこにあったのは、見た目的には飛槌モドキに乗った俺にそっくりなモノ。


 俺の虹色泥団子とクーラ直伝のあれこれを結実させることで『分け身』のようなものを作ることはできないか?


 ここ数日でそんなことを考え、試行錯誤した結果の産物がこれだった。


 まあ実際には外見を俺に似せただけの泥団子でしかなく、『分け身』とは到底呼べないようなシロモノで、俺が『遠隔操作』をしてやらなければ一切動くことも無いと来ている。


 それでも、介して物を見ることができるというあたりは有用でもあるんだが。


「ここまですれば、いくら阿呆なお前らでも理解できただろう?さっき消し飛ばした俺はニセモノだったのさ」


 このニセモノを用意したのは、クソズビーロが俺の特製泥団子を吹き飛ばした時のこと。同時に俺自身は、カムフラージュに泥をまとって奴の頭上へと移動していたというわけだ。


「間抜けな自称カミサマはそんなことにも気付かずに、泥人形相手に戯れてたんだよ」

「貴様……神である我を愚弄するつもりか!?」

「そこはご想像にお任せだな。ちなみにだが……その時の俺は頭上からお前を見下ろして(みおろして)……もとい、見下して(みくだして)いたわけだが。いや、あれは傑作だった。泥団子相手に偉そうに神罰とやらをかまして、自分がその余波に巻き込まれてたんだから。あの時のお前は、『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?』なんて悲鳴を上げてたよな?正直、笑いを堪えるのは大変だったぞ。ああ、ひょっとして俺の腹筋にダメージを与えるのが目的だったのか?だとしたら、まんまとやられちまったという話になるんだが。そこらへん、実際にはどういうつもりだったんだ?俺の好奇心を満たすためだけに答えていただけないでしょうかね。なあ、ズビーロクソトカゲ」


 そんな風に挑発……もとい、種明かしをしつつ、泥人形を顔面へとぶつけてやれば、


「「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」


 ビクト首とオビア首がみるみるうちに、怒りの形相で顔色を赤黒く染めていく。


 左右のジマワ首、ガユキ首、ユージュ首に表情の変化は無し。つまり、意思がある首はそのふたつだけということらしい。


 とはいえ、さっきまとめて斬り落とした時の様子からしても、そのふたつだけを潰せば終わりとは行かなさそうでもあるんだが。


「許さん……。貴様だけは絶対に許さんぞ!今度こそ跡形も無く消し去ってくれるわ!」


 さっきグラバスク島を消し飛ばした時と同じように、オビアとビクト以外の6頭すべてが大きく口を開き、一斉に破壊の光を放出。


 高度……角度……月と星の位置からして方角は……脳内地図と照らし合わせて……この状況でなら事故の心配は無い。


 あんな、島ひとつを消し飛ばすようなシロモノを馬鹿正直に受けようとは思えない。


 そして『超越』による思考加速のおかげで、俺にはその奔流がはっきりと見える。


 だから白リボンを頭に巻き直しつつ、寸前まで引き付けた上で飛槌モドキを右側に急加速させてギリギリの回避を計り、


「……は?」


 口から漏らすのは呆け声。


 急加速の反動で浮き上がった左腕は、破壊の光の範囲内から逃れるのがわずかに遅れていた。


 その結果として痛みも何も感じること無く、俺の左腕は肘から先が跡形も無く消滅していた。

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