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心の色は泥団子 虹を捕まえ連れ立って  作者: 追粉
7章 実質白
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俺が知る最強の一撃

「「――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」


 俺が()()()()先で、ズビーロクソトカゲがやらかしたのは見事な自滅行為。


 間抜け過ぎるだろ……


 自分が仕掛けた余波で自分が巻き添えを食うとか、まだ駆け出しだった頃の俺ですら警戒するような大ポカだ。


 まあそんな俺も、ジマワ・ズビーロこと寄生体(ウィル・スローター)相手では似たようなヘマをやらかしていたあたり、あまり偉そうなことは言えないわけだが。


 それに……


 俺の現在位置はズビーロクソトカゲのすぐ頭上。となればここも余波の範囲内である以上、対応は必要だろう。


 と言っても、ズビーロクソトカゲとは違って俺の方は心の準備ができていた。だからすぐさま異世界式の障壁を展開。直後に視界を塗り潰す光量を伴って、下方からの衝撃がやって来る。


 6頭から一斉に放たれた破壊の光。その直撃であれば一瞬でぶち抜かれるくらいの障壁でも、全方位に拡散している余波であれば十分に防ぎ切ることができる。


 そしてほどなくして余波をやり過ごした時、周囲にはもうもうと立ち昇る黒煙が立ち込めていた。


 さて……これでくたばってくれていれば楽でいいんだが……


 煙で視界が潰された中で俺が抱いた希望的観測は、


「クソっ!どうして神である我がこんな目に……。ビクト!これも全部貴様が不甲斐ないせいだぞ!」


 あまりにも見苦しい責任転嫁の叫びによって否定される。


「申し訳ありません!どうかお許しを!」

「これだから単独型は……。まあいい。今はあの忌々しい泥団子使いを殺せたことでよしとしよう。それよりもまずはこの目障りな煙をどうにかしなければな。おいビクト。何か方法はないか?」

「それでしたら、風で吹き飛ばしてはいかがでしょうか?」

「そんなことはわかっている!貴様は黙っていろ!」


 クズっぷりが加速したと言うべきなのか、支離滅裂と言うべきなのか、あるいはビクトと同化した影響なのか。もはや言っていることが完全に滅茶苦茶だった。


 だがそれでも、備わった能力だけは本物だったんだろう。暴風とでも呼べそうな風が巻き起こり、立ち込めていた黒煙が吹き飛ばされて、


 嘘だろおい……


 そこにあったのは予想外の光景で、思わず発しかけた声を飲み込むことができたのは運が良かった。


「これは……」


 その様はオビアにとっても予想外だったんだろう。その声が帯びるのは驚きで、


「そうか……。そういうことだったのか……」


 得心した様子が続き、


「ふ……ふははは……はーっははははははははははははははははははっ!」


 狂ったような馬鹿笑いが続く。


「なあビクトよ。かつての我は愚かだったのだな」


 そんなオビアが笑いの収まり切っていない声色でビクトに向けるのは、一見すれば殊勝なセリフ。


 過去だけではなく今も、という但し書きは付けるが、オビアがどうしようもない愚か者だったことは俺も否定しない。


 というかむしろ、俺が知る中でもトップクラス。師匠に性根を叩き直される前の俺と同レベルだったとすら思うところ。


「……どういう意味でしょうか?」

「貴様のような単独型には、神の深慮などわかるまいな。……矮小な人間だった頃の我が求めていたのは権力だった。だが、今となっては思うのだよ。……見るがいい」


 そうオビア首が向くのは下方。


「ここに何があったのかは、愚かな貴様でも理解できるだろう?」

「はい。さっきまではグラバスク島があったはずです」

「では今は?」

「何もありません」

「それは何故だ?」

「オビア様の偉大なるお力で消滅したからです」

「その通りだ」


 ビクトが言う通りに、少し前まではグラバスク島があったその場所には一面の海が広がっていた。


 それはつまり、さっきの破壊の光でグラバスク島――エデルト大陸の1/3ほどの面積を持つ島が、跡形も無く消し飛んでいたということ。


「圧倒的な力!絶対的な力!まさしく神である我に相応しい純粋な力!その何と素晴らしいことか。強いということがここまで愉快なものだったとはな……。それと比べたら、権力などあまりにもちっぽけなものよ」

「なるほど……。それが神の深慮なのですね?」

「貴様にもそう理解できる程度には知能があったらしいな。ふむ……せっかくだ。エデルトとテミトスの人間どもを皆殺しにするのは確定だが、少し趣向を変えてみるか」

「と、言われますと?」

「端から順に少しずつ大陸を消し飛ばしてやろうと思ってな。神罰を受ける人間共は神の力の前に己の罪を悔い、それ以外の人間どもは我の偉大さに恐れ慄き、絶対の忠誠を誓うことだろう」

「素晴らしいお考えです!」


 たしかにビクトが言うように、それは素晴らしい考えだろう。


 言葉を補うなら、素晴らしくロクでもない考えとなるわけだが。


 そしてさっきのあれを見るに、奴には実際に遂行できてしまうんだからなおのことロクでもない。


 当然ながら俺としてはそんなのは許せるわけがないわけで。


 だからその前に、始末という名の妨害をかけてやる。


 奴の頭上から背後へとこっそりと移動し、白リボンを握り締めてひと呼吸。


 連中が気色の悪い会話を交わす間にイメージの練り上げは完了していた。


 想起するのは、俺が知る最強の一撃。


 そしてこの世界だけでなく多数の異世界を含めたとしても、ほぼ間違いなく最大最強の一撃。


 白リボンに泥団子を食わせて形成した虹剣モドキを軸に、俺が習得済みの各種異世界技術を可能な限り結実させる。


「名付けて――」


 一応は参考元があるわけだが、あえて名付けることにする。オリジナルとは格が違う、桁が違う、次元が違うシロモノになるんだから。


「超絶――」


 そう冠を付ける。正直なところとしては見栄を張り過ぎなんじゃないかとも思うわけだが、他に手頃なものが浮かばなかったということでそこは妥協する。


「劣化版――」


 事実として、この部分を外すわけにはいかないだろう。オリジナルと比較した場合の劣りっぷりは、超絶なんて表現では全く足りていないだろうけど。


 数十メートルまで伸びた虹剣モドキが、握る手元すら見えなくなるほどにまばゆい光を放つ。


 このあたりもまた、オリジナルよりも劣る点だ。


 オリジナルの場合は消耗を抑えるために、与撃の瞬間だけに力の発現を絞っていたとのことなんだから。よくもまあ、そこまで緻密な操作ができるものだと感心する。


 俺自身も少しは成長できているつもり。


 そして成長するということは、それだけクラウリアに近づけているという話になるはず。


 それなのに、成長すればするほどにクラウリアがどれだけの高みに居るのかに関する理解が深まり、そのたびにクラウリアが遠くなっていくように感じてしまうのが切ないところ。


「……何だ?」


 やはりというべきなのか、そんな光が背後に現れればさすがに向こうさんも気付くということなんだろう。先に振り返って来たのはビクト首で、


「これは!?」


 驚きの声を上げるがもう遅い。こっちの準備はすでに終わっている。


 だからあとは振り抜くだけ。


木端(こっぱ)――」

「オビア様には指一本触れさせるものか!」


 備わっていた剣の資質によるものなのか。俺の目論見がズビーロクソトカゲへの斬撃だということを即座に認識し、その身を盾にするようにして剣閃上に割り込んで来る。


 こういうところはさすがと言うべきなんだろうか?だが、たとえ防がれたとしてもそれはそれで別に構わない。


微塵(みじん)斬りぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


 あのサイズ相手では、さっきのような特製泥団子は使えそうもない。代わりに選んだのは、今の俺が繰り出せる中では二番目に高い瞬間破壊力を宿した一撃。


 この技は過去には海呑み鯨(オーシャンスローター)に対して使ったこともあり、あの時にはその巨体を両断することができなかった。


 けれど今の俺は『超越』による思考速度の加速により、当時とは比較にならないほどに複雑なイメージを、鮮明に明確に描くことができる。


 そうして横薙ぎに腕を振り抜いて、


 けれどそこからは、わずかな手応えすらも感じ取ることもできなかった。

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