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心の色は泥団子 虹を捕まえ連れ立って  作者: 追粉
7章 実質白
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今すぐにでもクーラに泣き付きたい

「ふはははははははっ!これこそが私の真の力だ!畏怖のあまり言葉すら失ったか!」


 クソトカゲと共通点が多い姿へと変貌したクソズビーロ――いや、ズビーロクソトカゲとでも呼ぶべきか――は、眼下の俺へと嘲笑を浴びせかけ、


「くくく……その気持ちもわからぬではないがな。下賤な単独型風情では、一生かけても届かぬ姿よ!」


 今の姿がよほど誇らしいのか、あまりにも的外れな寝言をほざきやがる。


 奴が見下ろす俺が言葉を発しないのは、別の理由があってのことなんだが。


 それに付け加えるなら、


 うげぇ……


 その姿に対して俺が抱くものは畏怖などでは断じてなく、吐き気がするほどに気色悪いというもの。晩飯から結構な時間が経過していて本当に良かったと思うところだ。


 何故ならば――


 さっきのクソトカゲと今のズビーロクソトカゲにおける外見的な特徴の違いは主に3つ。


 ひとつは、背中の羽がトンボを思わせるものだということ。ビクトの時も付けていたわけだが、馬鹿トンボこと自滅ゴミ虫(スプラッシュダスト)の羽根が持つ飛行能力は本当に優秀だということなんだろう。なにせ、あれだけの巨体を宙に浮かせることができるんだから。


 もちろんのこと、それはそれで厄介なことだ。あの化け物が空を飛ぶとか、本気で勘弁願いたい。


 けれど俺が吐き気を催したのは、残りふたつの違いによるところが大きい。


 ズビーロクソトカゲの胴体からはクソトカゲと同じく7本の首が生えていたわけだが、問題はその先に付いている顔。


 さっきのクソトカゲは7つの頭部すべてがトカゲを凶悪にしたような顔だったが、そこにはある種のかっこよさ的なものもあったことだろう。


 対して今のズビーロクソトカゲに付いている頭部だが、7つ並んだ中で中央にあるのがさっきからやかましい顔。そこに付いているのは、威厳を出そうと髭を生やしたはいいが、そのせいで逆に貧相さが際立つ印象の中年男。


 元クソ宰相――別名オビア・ズビーロの顔を図体相応に巨大化させたようなシロモノだった。


 これだけでも大概なのに、その両隣にあるのもまた、気色悪さでは負けていないから困る。


 これまた見覚えのある、ヒョロリとした神経質そうな顔。


 クソ長男――通称ジマワ・ズビーロのものだ。


 その両隣にあるのもまた、知っている顔。クソ次男――またの名をガユキ・ズビーロのもので。


 もっとも外側にあるのは知らない顔。これは年齢的にはクソ次男よりも少し幼い感じであり、俺が知るズビーロ一族と似た面影がある。


 クソ長男クソ次男が並んでいることからしても、多分あれはクソ三男――ユージュ・ズビーロとも呼ばれていた奴の顔なんだろう。


 要約すれば、端から順に、クソ三男、クソ次男、クソ長男、元クソ宰相、クソ長男、クソ次男、クソ三男の馬鹿でかい顔がズラリと並んでいるという話。


 これを見て吐き気を催さない人が居るのなら、会ってみたいものだとすら思う。多数の異世界で様々な物を見て来たというクーラがここまで気持ちが悪い存在は見たことが無いと断言しても、驚かない自信があるくらいだ。


 そして、


「ああ……なんという神々しいお姿なんだ……」


 すっかり陶酔した様子でそんな気色の悪い言葉を垂れ流す8個目の顔。


「いえ、父上こそがこの世界を統べる神なのです!そんな偉大なお方に世界宰相などという矮小な称号を押し付けようとした過去の僕はなんと愚かだったんだ……」


 そこから一転して、深い罪悪感を浮かべる。


「父上……いえ、世界神オビア・ズビーロ様。どうか、この罪深い愚か者をお許しください!」


 クソトカゲとの3つ目の差異は、長大な尻尾の先から図体相応に巨大な剣が生えていたということ。そして剣の根元には顔が付いており、それはビクト・ズビーロのもので。


「ようやく理解したようだな。単独型の貴様でも、その程度の知能はあったちおうことか。だが、世界神というのは悪くない。まさしくこの私……いや、我に相応しい。ならば、神の慈悲で貴様の罪を許してやろう」

「ああ……なんという慈悲深いお方なんだ……。僕は、貴方様に永遠の忠誠を捧げます」

「貴様は剣の腕だけはあったらしいからな。我が与えてやったその姿であれば、少しは我の役にも立てるだろう。出来損ないの単独型である貴様ごときが我に奉仕できるのだ。その幸運を噛みしめるがいい」


 ビクトの姿が剣だったのはそんな理由からだったらしく、


「はい!偉大なるオビア様に力を与えていただけたことに感謝いたします!そして単独型であるにもかかわらず、世界神にご奉仕できる僕は世界一の幸せ者に違いありません!」


 ビクトが見せるのは恍惚としたなんて言い回しが違和感ゼロで似合いそうな表情。


 双方ともに大真面目な雰囲気で、そんな怖気が走るやり取りを。


 本気で勘弁願いたいんだが……


 由来を考えたなら、ビクトの記憶やら人格やらがオビアの中に残っているというのはあり得ない話ではない。一方で他の首――クソ長男クソ次男クソ三男が言葉を発しないあたり、あれらは形を真似ただけということなんだろう。連中の人格やらが受け継がれているというのはあり得ないんだから。それなのにわざわざ再現したというのは、オビアはそいつらのことはそれなりに大事に考えていたらしいということか。まあその理由は、複合持ちだからという()()という説が有力ではあるんだが。


 そして前に対峙した時の様子からして、ビクトがオビアに対して抱いている感情は明らかに異常なもの。現状はその延長線上と言えないこともないんだろう。


 だがそれでも、さすがにこれは精神的なダメージが大きすぎる。夢にまで出て来そうなほどに強烈な気色の悪さ。今すぐにでもクーラに泣き付きたい。『ささやき』で精神を癒してほしいとすら思うくらい。


「もっとも……」


 そんなオビア首が眼下にある俺の姿へと蔑み色の視線を向け、


「救いようのない愚か者も居るようだがな!」


 そう吐き捨てる。


「神である我にひれ伏すようならば奴隷として生かしてやろうとも思ったが、それすらもできぬほどに愚鈍らしい。ならば、神罰を与えるよりあるまいな?」


 ……どうやらこの阿呆は本気で自分が神だと思い込み始めたらしい。


 それはともかくとして、眼下の俺が飛槌モドキの上で棒立ちなのは無言なのと同じ理由からなんだが……。まあ、そこはどうでもいいか。


「愚かな単独型よ。貴様は地獄で、偉大なる神に逆らった罪を悔やみ続けるがいい」


 そしてオビア首とビクト首を除いた6頭が大きく口を開き、その奥から毒々しい色をした光――先ほど俺の特製泥団子を吹き飛ばした時と同じ光があふれ出す。


 恐らくは破壊の光。記録に残る星界の邪竜が有していた最大の攻撃であり、前にクーラのクソトカゲ討伐に付き合った先で見たことがあったのと同じもの……って、この状況でそれは悪手じゃないのか?


「さらばだ。罪深き泥団子使いよ!」


 そんな俺の懸念も奴には無関係。6頭から一斉に光の奔流が放たれる。


 同時に展開した異世界式障壁と泥壁で防ぐことができたのは瞬きするくらいの時間だけで、俺の姿は光に飲まれて塵も残さずに消滅。


 だがそれでも、ひとたび放たれた破壊の光はその程度では止まるはずもなく、その先にあったもの――グラバスク島の地表へと突き刺さる。


 そして、


「ははははははははははっ!これこそが神に逆らった者の末路だ!単独型風情が我に――」


 ご満悦な高笑い……もとい、馬鹿笑いが唐突に止まる。


 それをさせたのは、ある意味では当然の結果と言うべきか。


 グラバスク島へと打ち込まれた破壊の光がそれで終わりとなるはずもなく、


 数秒の間を置いて爆発に近い形で、余波を全方位へと撒き散らす。


 そしてズビーロクソトカゲ現在位置は十分に余波の範囲内。


「おいビクト!?速くどうにかしろ!」


 自称とはいえ、神には全く似つかわしくない取り乱し切った有様で自分の息子(というか一部?)に助けを求めるも、


「……え?……ええっ!?」


 ビクトの方もとっさの対応を取ることができず、


「「――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」


 俺が()()()()先で親子揃って無様な悲鳴を上げて、ズビーロクソトカゲの巨体は光の爆発に呑み込まれる。


 それはカミサマとかいう自称からはかけ離れた、けれど俺が抱くズビーロ一族の印象通りに、実に間の抜けたお粗末な有様をしていたことだろう。

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