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心の色は泥団子 虹を捕まえ連れ立って  作者: 追粉
7章 実質白
222/255

最低最悪にロクでもない事態

『となると……』


 聞かされたばかりのルカスの事情。俺にも原因の一端がある以上、できることはやっておきたい。


『手紙のひとつも書いておいた方がよさそうか』

『だろうね』


 剛鬼(トロル)の残渣だけなら、明日トキアさんがクーラを連れて来る前に取って来ればいい。だがそれでも、モノだけを渡しておしまいというのも薄情だろう。


『あとは……俺の連盟員証も一緒にしておくか』


 連盟員証の首飾りは、支部に持って行けば持ち主が誰なのかがわかるようになっているんだから。手紙が俺からだということのちょっとした証拠にはなるはず。


 もちろん虹追い人にとっては極めて大事な物でもあるわけだが、この先表立って行動するつもりが無い俺には不要。


 ならば、最後の活用法としては悪くないだろう。


『それもいいと思うよ……っと、そうだった』

『どうした?』


 不意にクーラが声を上げる。


『連盟員証で思い出したんだけどさ、一応は君には報告しておくべきことがあったの』

『……連盟絡み、だよな?』


 連盟員証で思い出すなら、そう考えるのが妥当なところなんだろうけど、


『うん。簡単に言っちゃうと、君のランクが上がりますよって話』


 そんなことを言われてしばし考え、


「……ってまさか!?」


 意味を理解したところで、『念話』ではなく実声で、俺はそんな叫びを上げさせられてしまっていた。




 虹追い人のランクというやつは、例外無しに最初は白から始まる。


 そこから先は赤、橙、黄、緑、青、藍と、虹色順に上がっていき、実質的な最高位が紫。


 けれど紫は実質的な最高位であっても、実際の最高位ではない。


『白より()でて、白へと至ることを願って』


 虹追い人が門出に送られる祝詞にもあるように、最終的に至る先は白。紫の上にはもうひとつ、ランクが存在しているからだ。


 ただ、そこに該当するのは歴史上でもクラウリアただひとり。だから現実には、紫の上の白というのは象徴的な扱い。


 というのが虹追い人だけではなく、世間的に知られている一般常識のようなもの。




 そして、今の俺は紫。となれば、そこから上がるというのはそう言う意味になるわけだが……


『……何で?』


 まず浮かんで来るのはそんな疑問。


『いや、そこで本気で不思議そうにしちゃう君の方がおかしいからね』


 けれどクーラが返してくれやがるのは苦笑。


『……まあ、ある意味では君らしいとも言えるのか。とりあえず、その根拠だけどさ。まずは……旅を始めてすぐの頃、ヤーザム山脈の奥地に発生してた大陸喰らい(ランド・イーター)を討伐したでしょ?』

『ああ』

『あれってさ、下手をしなくても、テミトス大陸が海の底に沈みかねない事態だったんだよ』

『それはそうだが……』


 そのことは記憶にもあるし、一応は理解もしていたつもり。


『その後も行く先々で騒動が起きて、ほとんど君ひとりで解決してたよね?』

『それもそうだが……』

『そのどれもが、君が居なかったらとんでもない被害損害犠牲が出てたわけでしょ?』

『……ああ』


 それも、一応は理解しているつもり。


 というか、だからこそ俺も必死こいて対応したわけだが。


『そして、トドメになったのがビクト・ズビーロの件。あれってさ、あの時点でもシャレになってなかったけど……放置してたら際限なく強くなってたところだよね?……それこそ、力で世界を支配することも、世界そのものを破壊することもできそうなところまで』

『……だろうな』


 それくらい、奴の『魔獣喰らい』はヤバい彩技だったと思う。


『そこらへんを踏まえると、君の功績はクラウリアにも匹敵するだろうって話になるわけ。発案は連盟のお偉いさんだったみたいだけど、各国の王様たちも全員が賛同してたらしいよ。まあ、『誰かさんの再来』とかいうふたつ名も一因ではあったのかもしれないけど』

『……そりゃまた』


 ため息がこぼれる。


 ルカスの件で思い知らされたばかりだが、俺のやらかしは俺の想像をはるかに超える勢いで影響を広げていたらしかった。


 とはいえ……


 わざわざ冗談で言うようなこととも思えないし、クーラが言ったのは事実なんだろう。


『まあ、実際に俺が昇格することは無いわけだがな』


 それに、結局はそう言う話になるわけで。


 なぜかと言えばそれは、ランク昇格の手続きは本人立会いの下でなければならないというのが規則だから。


 つまりは、俺が行方不明のままでいる以上、俺の白昇格が果たされることは絶対に無いということ。


『まさか、こんなところまで君とお揃いになるなんてねぇ……』

『まったくだ』


 クラウリアのランクは白。世間的にはそう言われているわけだが、厳密には少しだけ違う。


 条件は満たしているものの、昇格の手続きを済ませていないので今はまだ紫だというのが正確なところ。


 そしてそれは、今の俺と同じだったりするわけで。


『ホント、世の中って何がどうなるのかわからな――』


 そんな風にしみじみとつぶやいていたクーラが言葉を途切れさせる。


『どうかしたのか?』

『……晩御飯の後片付けが終わったって』

『そういうことか』


 今のクーラは、アピスの部屋でお泊まり会の最中。それで声をかけられたから、一時的に意識が『念話』から離れたわけだ。


『なら、今日はこれくらいにしておくか?』


 どうせ明日からは俺がクーラを独占できるんだ。ならば、今はそれでいいだろう。


『そうだね。一応聞くけど、急を要する話ってある?少しくらいなら待ってもらうけど』

『いや、特には無いな』


 となれば、今宵の『念話』はこれにて終了というわけだ。


『じゃあ、また明日ね。会えるのを楽しみにしてる』

『それは俺も同じだよ。また明日な』


 そうして『念話』を終えてあたりを見れば、足元に居たはずの海鳥も姿を消していた。多分、自分の寝床に帰ったんだろう。


「俺も戻るか」


 少し夜風も冷えて来た。


 明日はクーラに会えるんだ。


 そんなタイミングで風邪を引くなんてのは、さすがに馬鹿らしいというもの。


 さて、ルカスへの手紙はどう書き出そうか……


 だからそんなことを思いつつで、俺も住処へと足を向けて、




「ダメだ……」


 机に向かい、ルカス宛ての手紙を書き始めたはいいが、程なくして俺は頭を抱えていた。


 書くべきことははっきりとしていた。それなのに、どうにもペンが進まない。


 行方をくらませる前に身内に宛てて書いた手紙は特に悩むこともなく気楽に書けていたんだが、それはどうしようもないロクデナシだった頃の俺を知っている両親や兄弟姉妹相手だったからなんだろう。


 けれど、虹追い人としての俺を慕ってくれているルカス相手となると、どうにも恰好を付けたくなってしまう。


 そうして書き進めてみた手紙は途中で読み返すと、その気取りっぷりに恥ずかしくなってしまうようなシロモノで。


 ……少し、風に当たって来るか。


 ため息混じりに机を離れる。


 こういう時は気分転換だ。


 書きかけの手紙は人様に見せられたものじゃないから処分確定。とはいえ、一応は書き直しの際には参考になるかもしれない。


 だから完成版に同封する予定の連盟員証を重石代わりに置き、拠点を後にして、




 ……ここに来るのも久しぶりだな。


 飛槌モドキに乗って気の向くままに海上を。そうするうちに行き付いたのは、グラバスク島の近海。


 もう少しグラバスク島に近付けば海吞み鯨(オーシャンスローター)の生息域に入るところ。今はわざわざやり合う必要もない以上、近づきすぎるわけにも行かないが。


 ついでに念のためということで、高度も200メートルくらいまで上げておく。この高さであれば、海吞み鯨に対しては安全圏だ。


 それにしても……


 ふと思うのは、海吞み鯨という魔獣について。


 クラウリアが異世界に呼び付けられた直後のこと。クラウリアの帰還まで俺が生き延びる手段として、海吞み鯨を乱獲してほしいとクーラから頼まれた。


 その翌日からクゥリアーブへと向かい、そこで巻き込まれたクソ鯨騒動。あの時に俺は借り物の力でクソ鯨を潰すと決め、その末路が『英雄』にされてしまった今。


 実際にここで海吞み鯨を乱獲したこともあり、墓参の旅に出てもいいという許可をもらったのはその帰還後だったか。


 そして『超越』で残りわずかになった寿命をどうにかするために、ここで海吞み鯨を乱獲しようと考えていたこともあった。


 本当に考えれば考えるほど、海吞み鯨とは妙な因縁があるらし――


 ……何だ?


 その思考を途切れさせたのは、不意に夜空を走った光。


 流れ星のそれとは比較にならないくらいに激しかったそれは、すぐに何かに当たって弾けるように消えてしまう。


「……ってまさか!?」


 それは、俺にとっては初めて目にする光景。


 けれど、


 月から光が放たれることには心当たりがあった。


 俺の思い違いでなければそれは、この世界にとってはおよそ1500年ぶりとなること。


 そして――最低最悪にロクでもない事態。


 その再来を意味していた。

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