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その幸先は、きっといいものだったんだろう

「それで、もうひとつの話っていうのは?」


 サユーキの末路だけでもすでにゲンナリなんだが、それでも聞かないわけにはいかない。ならば、嫌なことはさっさと終わらせることにする。


『バガキに関することさね』


 出てきたのは、かつては支部長を任されていたというのに自業自得で野盗に落ち、最後は返り討たれて死んだ奴の名前。


 この時点ですでにロクでもない雰囲気が溢れて来る。


『生け捕った野盗の尋問が終わったんだが、その中で判明したことがあってね。少し前に、オビア・ズビーロの監禁場所が襲撃されたことがあっただろ?』


 ここでその話が出て来るってことは……


「……バガキの一味がやったってことです?」

『ああ。腐っても……いや、腐り切ってても、元は支部長を務めたくらいだからね。それくらいの手腕はあったんだろうさ。実際、襲撃の手際はかなりのものだったらしい』


 予想は見事に的中だった。


 だがそれでも……


「クソ野郎にはクソ野郎なりの忠誠心があったってことですか」


 たしか、バガキはオビア・ズビーロの子分だったはずだ。道を踏み外してなお、かつて慕っていた相手を救おうとしたのであれば、その点だけは認めても――バガキに対する評価をマイナス5000万からマイナス4999万9999くらいには訂正してやってもいいような気はしないでもない。


『であれば、まだ少しはマシだったのかもしれないけどねぇ……』


 ゲンナリとしたため息。


「現実にはさらにロクでもないものさ。バガキの目的は、オビア・ズビーロの隠し資産だったらしい。腐り切ってても子分だったんだ。オビアがそういった物を隠し持っていることだけは知ってたんだろう』

「えぇ……」


 先の考えを撤回する。バガキの評価をマイナス5000万からマイナス8000万に変更しよう。


『ところが、アジトに戻って隠し場所を聞き出そうとしたところでオビア・ズビーロが拒否した上に、逆に配下になれって言い出したらしくてね』

「……アホなんですかそいつ?」

『否定はできないね。当然のように話は決裂。殺し合いになって、野盗の大半が死んだらしい。なんでも、100人近くいたのが、最終的には20人しか残らなかったとのことだ』

「つまりオビアひとりで80人を殺したと?」


 それはそれで信じがたい。前に聞いた話では、オビア自身は大量の残渣を取り込んではいたものの、実戦の経験自体はほとんどなかったとのことだったんだが。


『いや、オビア自身は震えるだけでなにもできなかったらしい。やったのは奴の四男、ビクト・ズビーロだったそうだ』

「たしかに四男がオビアと行動を共にしてるってのはありそうな話ですし、とんでもなく剣の素質があるとも聞いた覚えがありますけど……」


 それにしたって80人斬りというのは考えにくい。たしかまだ10歳にもなっていなかったはず。当然ながら心色だって持っていないはずなのに。


『そこはあたしも信じがたいんだがね。しかも話では、その様子も普通じゃなかったそうだ』

「と言いますと?」

『仮に善悪の区別すらつかない子供だとしても、剣で人を斬り殺したなら、動揺くらいはするだろう?』

「ええ」


 さすがに実例は知らないが、そういうものだろうとは思える。


『だがビクトは、ただただ淡々と剣を振るい続けていたらしい。まるで人形のように無表情で、野菜でも切るように無造作に』

「……たしかに普通じゃないですね」


 子供ゆえの無邪気さでというのであれば、まだ理解も及ぶところだが。


『野盗の生き残りも、その様には本気で恐怖を覚えていたそうだよ。そして結局、逆にズビーロ親子に金目の物を奪われておしまい。そうして困窮したところで隊商を襲い、返り討ちにあったというわけだ』

「……それもまた自業自得だとは思いますけど」


 少なくとも、同情はまったく湧き起らない。


 むしろ気になるのは、


「それで、ズビーロの親子はどうなったんです?」


 そいつらの行方。


 そのままどこかでひっそりと生涯を終えてくれるなら、個人的にはそれでも構わないと思っている。けれどこれまでのことを振り返るに、ロクでもないことをやらかす気がしてならない。まして、四男の方は相当な使い手らしいと来たものだ。


『掴めていない。けれど、野盗のアジトはクゥリアーブに近い場所にあった。そして、ズビーロ親子と特徴が一致するふたり連れが外洋船に乗るところを見たって証言が得られてる』

「……クゥリアーブからの外洋船ってことは、行先はテミトス以外にあり得ないですよね?」

『ああ。それで今はガナジア王国にも連絡して行方を追ってもらってるところさ。時期的に考えれば、今もテミトスのどこかにいるんだろうね。これが、もうひとつのロクでもない話だよ』

「本気でロクでもなかったですね」

『まったくだ。ただ、一応はあんたにも無関係じゃなかったからね。こうして報告したわけだ』

「……本当に、どこまでも頭を悩ませてくれますよね、あの元クソ宰相は。それに……」


 サユーキ、バガキ、オビア。今しがたの話に出て来たクソ共には、とある共通点があった。


「複合至上主義の連中って、騒動を起こさなきゃならないって決まりでもあるんですか?」


 我ながら馬鹿な考えだとは思うが、ズビーロのクソ三兄弟のことまで踏まえると、そんな風にも思えてしまう。


『無いと思いたいんだけどねぇ……』


 そして、どうやら支部長も似たようなことは思っていた様子。


『さて!気が滅入る話はこれで終わりにしよう。そんなことよりもセオの――』


 バタン!


 支部長の言葉を遮るようにして不意に聞こえたのは、勢いよくドアを開くような音。


 俺がいる場所は砂浜である以上、鏡の向こうから聞こえて来たというわけだが、


『支部長!産まれました!』

『ホントかい!?』


 続けて聞こえてきたのは、多少上ずってはいるものの、知っている声。トキアさんのもので。


 そしてこの状況での「産まれました」という発言。


「……ひょっとして、セオさんのお子さんですか?」

『アズールさんとのお話し中だったんですね。ええ、その通りです。セオさんのお子さんが、無事に産まれました。そして、母子ともに元気な様子でしたよ』

「そうですかぁ……」

『本当に良かったよ……』


 テミトスでもグルドアでもいろいろあり過ぎて忘れかけていたが、そろそろそんな時期だったはず。


『それで、男の子かい?それとも女の子だったのかい?』

『女の子でした。セナさんと名付けたそうです』

『そうかい。あんたも連絡ありがとうね、トキア』

『いえ、これくらいでしたらお安い御用です』

「ひょっとしてトキアさん、ミグフィスに行ってたんですか?」

『ええ。間近だということでしたから。そして出産を確認後、急いで戻って来たというわけです。ところでクーラさんは?』

「込み入った話をしていたんで、少し外してもらってます」

『だったら、すぐにお嬢ちゃんも呼んで来な。あの子も気になってただろう』

「了解です!」




 その後はクーラも呼んで来て、支部長のところには第七支部のメンバーが集まり、皆で喜びあって、


 ようやく騒ぎが収まったのは、夜も遅くなってからのこと。


『セルフィナとシアンとソアムも近いうちに出産しそうな感じだからね。この先も慌ただしくなりそうさ』


 けれど、その割には支部長はどこか嬉しそうで。


 まあ少なくとも、クソ共がやらかしたクソなことよりはずっと楽しい話題だろう。というか、比較すること自体が失礼なレベルか。


「そっちに戻る頃には4人の赤ちゃんがいるんですよね。私も会うのが楽しみです」

『ああ。楽しみに待ってなよ。それと、産まれたらその日の定時連絡であんたたちにも伝えるからね』

「はい」

「待ってますから」




 このグルドア大陸での日々は、俺にとっては気苦労が絶えないものだった。


 けれど、


 終わりよければなんとやらという理屈で言うのならば、そこまで悪いものではなかったということなんだろう。


 そして、明日に向かう本来の目的地。クーラの身内への墓参。その幸先は、きっといいものだったんだろう。

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