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くだらねぇ……

 サーパスに到着して2日目。この日はまずマシュウさんのお見舞に行き、元気そうだったことにひと安心。


 その後は当初の予定通りに今日はのんびりと街を見て回って。欲しがっていた新しい包丁が手に入ったクーラは上機嫌に、


「王都に帰ったら、これで美味しいものたくさん作ってあげるからね」


 などとも言っていた。


 もちろん俺としても大いに楽しみではあるんだが、若い娘が嬉しそうに包丁に頬ずりするのはどうだろうかとも思うわけで。その様には店の人も引いている様子だった。


 それ以外でも、鍋やらの調理器具もあれこれ購入し、俺の異世界式収納に入れてあったりもするんだが。つくづく便利な技術だと思う。


 ちなみにだが、俺が昨日やらかしたことの方もすっかりと広まっていたらしく、その点では部妙な気分になったが、そこは諦めるしかないんだろう。


 ……本当にクーラがいてくれてよかった。泣き言を聞き、慰めてくれる相手がいることでこれだけ救われるとは思わなかった。


 まあそんなこんなで街を見て回り、日が傾いてきたあたりでクーラを宿に送ってから支部へ。ロビーに置いたはずの大陸喰らいの残渣は見当たらなかったが、どこか別の場所に移送された後だったんだろう。なにせ王宮への献上品。もしものことがあったらシャレにならないだろうし、支部のロビーはお世辞にも警備しやすいとは言えない場所。そして、残渣を運び入れるためにやむなく壊した壁は、すでに補修が終わっていた。


 その後はすぐに支部長の部屋に通されて、


「済まなかった!」


 唐突にディウス支部長が、深く頭を下げて来る。


「いや、急にそう言われましても……」


 こっちの方が対応に困るんだが。


 大陸喰らい(ランド・イーター)の討伐に関しての礼はすでに昨日受けていた。だが俺としては、それ以外では頭を下げられる理由、まして謝罪されるような理由なんてのはこれっぽっちも――


「サユーキたちのことだ」

「……ああ!」


 そういえばそんなこともあった。


 俺としては奇麗さっぱり忘れていたわけだが、たしかにあれは管理不行き届きと言えないこともないのかもしれないか。


「俺も今朝になってジェンナから聞いてたまげたぞ」

「まあ、それは無理もないかと思いますけど……」


 なにせ連中が絡んできたのはディウス支部長の不在時。そこに大陸喰らいが討伐されたらしいと聞いて慌てて戻って来て、その後もいろいろとあったんだから。


 今朝になるまで聞く機会が無かったとしても仕方ないとは思う。それに……


「言ってしまえば、あれはちょっとした乱闘騒ぎみたいなものですし」

「それはお前さんが連中を歯牙にもかけなかったからの結果論だろう。本当に済まなかった」

「もう気にしてませんから」


 むしろ忘れていたくらいだし。


「というか……なんであんな連中がのさばってたんです?むしろ、そっちが気になるんですけど」


 昨日1日での印象だが、ディウス支部長は単独型だからとか複合型だからとかで扱いを変えるような人とは思えない。それにこの支部に所属する人たちにしても、大半が連中には嫌悪感を示していた様子だった。


 であれば、なんであんなアホ共が発生するんだろうかと疑問に思うわけで。


「……まあ、お前さんが知りたいなら話しても構わないが」

「お願いします」

「わかった。さて、どこから話せばいいのか……」


 そうしてしばし考え込み、


「この大陸では昔から複合至上主義的な考え方が嫌われてるってこと、お前さんは知ってるか?」


 そんな問いをかけて来る。


「いえ、初耳です」


 テミトス大陸についても事前にいくらかは調べていたが、そのあたりは知らなかった。


「まあ、他の大陸のことだからな。それも当然か。単独型だろうが複合型だろうが強い者は強い。他の大陸と比べても、テミトスではそういった考えが根強いんだ」

「……高位魔獣の生息域が多いからですか?」


 言い換えるならばそれは、他の大陸以上に強者が求められるということ。


 俺だって複合型の強みは理解しているわけだが、魔獣は複合型の使い手だからと配慮なんてしてくれない。であれば、複合型であることにふんぞり返っているだけの奴なんて、早々に魔獣の腹の中に消えてしまうことだろう。


「その説が有力だな。まあそんなわけでだ。特に若いうちは、複合型を手に入れたのに称賛されないのはおかしいなんて考えを起こす連中もチラホラ現れるんだ。俺なんかもそうだったが」

「ディウス支部長も複合型なんですか?」

「ああ。一応は3種。地氷鎧ってのが俺の心色だ」

「地氷鎧……ってまさか!?」


 記憶の片隅には、『地氷鎧のディウス』というフレーズが残っていた。それを目にしたのは、たしかゼルフィク島の連盟支部にあったランキングの中で。


「ディウス支部長も、『虹孵しの儀』でランクインしてたりします?」


 うろ覚えだが、90位あたりで見かけた気がする。


「過去形だがな。俺の記録は225で、前回の『虹孵しの儀』が始まる前の時点では94位。まだしばらくは残れると思ってたんだが、見事に圏外に押し出されちまったよ」

「それはまた……」


 俺の知り合いだけでも、トキアさんを除いた5人の先輩方とネメシア。ついでに俺自身もランクインしていたわけで。そう考えると申し訳ないような気もして来る。


「まあ、いつかは起きることだったからな。そこは気にしちゃいない。……話が逸れたな。俺も昔は3種複合なのに周りがヘコへコしないのが気に入らずに、テミトスを離れてエデルトで活動していたことがあったのさ。その頃にザグジアにコテンパンにやられて鼻っ柱をへし折られて、それがきっかけで目が覚めたってわけだ」

「……そういえば、師匠って心色を持ってないんですよね」

「ああ。本当に大した奴だったよ。それで、しばらくの間はザグジアやフローラと行動を共にして、その後はこっちに戻って今に至るってわけだ。皮肉なものでな、自分が複合持ちだってことが気にならなくなってからの方が周囲からも認められるようになり、こうして連盟支部の長を任されることになったんだからな」

「そんなことがあったんですね」


 当然ながら、師匠からもフローラ支部長からもひと言だって聞かされていなかった話だった。


「っと、また話が逸れちまったか。サユーキの奴も昔の俺と同じで、周りが複合持ちの自分を敬わないのはおかしいとでも思ってるんだろうな」

「けどそれは……」

「ああ。自業自得ではあるんだが」


 昨日のあれこれを振り返るに、サユーキが称賛どころか疎まれているのは複合型であることに関係なく、完全に奴自身の所業が原因だ。あんなのが持ち上げられるのは、それこそ極端なレベルで複合至上主義がはびこっている場所くらいのものだろう。


「元々は王都の支部に所属していたとのことなんだが、なにせあの性格なんでな。行く先々で問題を起こしては、別の街に移ってたんだよ。実際、この街の住人からも嫌われてる。それでも4種複合持ちで、それなりには腕も立つ。だから、同じような不満を持った複合持ちが集まるうちに、人数が膨れ上がっちまった。それが昨日お前さんに喧嘩を売って来た連中だったんだよ」

「くだらねぇ……」


 本気で心の底からそう思う。


 そもそもが、認められたいのならば真っ当に虹追い人をやっていればいいだけだと思うんだが。


 昨日死亡したと聞かされたバガキのような奴が支部長をやっているところでならば、そんな人間が不当に貶められるというのもあるかもしれない。


 俺としても、複合型だからというだけで必要以上に持ち上げ、単独型だからというだけで貶めようとするような奴は死ねばいいと思う。


 だが少なくとも、ディウス支部長はそんな人ではないはずだ。


「まあ、それはそうなんだがなぁ……」


 そう肩をすくめるあたり、ディウス支部長もくだらないとは思っているらしい。


「ただ、複合持ちの全員があいつらみたいなわけじゃないんだ。ウチの支部にだって、真っ当な複合持ちはいる。そこだけは誤解しないでくれ」

「それはもちろんですって。実際、俺はマシュウさんのことを尊敬していますし。それにディウス支部長のことも」


 結局は個々人の話。複合だからというだけで色眼鏡を向けるなんてのは、それこそ連中と同レベルの行為だとも思う。


「ありがとうよ。だがそれでも、どうにも昔の俺と重なっちまってな。だから何度か話をしてみたんだが……」

「……伝わってたようには見えませんでしたね、あいつらには」

「そうなんだよなぁ……」


 なんだかんだ言っても、ディウス支部長は連中のことを本気で案じているんだろう。


 俺だったなら、あんな連中とは関わり合いにすらなりたくないところだってのに。


「結局はあいつら全員、今日のうちに街を出て行ったからな」

「……俺のせいですよね」


 このタイミングであれば、昨日の乱闘騒ぎが原因だと考えるべきだろう。


「いや、行く先々で問題を起こしては拠点を変えてたような連中だ。きっかけではあっても、お前さんのせいじゃない。むしろ、そうなる前に正してやれなかった俺の力不足だよ」


 深いため息。立派な体躯をしているはずのディウス支部長が少しだけ小さく見えた気がした。

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