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少し考えれば冗談とわかるだろうが俺……

予約投稿の時間をミスっていたようで、昨日は19時に更新されていました。

「それでは、先陣を切らせていただきます」


 コイントスという名の勝負の神様が決めた順番は、トキアさんが先というもの。


「武運を祈ってます」

「ふふ。そう言われては、応えないわけにもいきませんね」


 白い床の上に足を踏み入れ、真っ直ぐに『虹の卵』へと向かう後ろ姿。その立ち振る舞いはやはり奇麗なもので。


 口調といい、いいところのお嬢さんだったりしたんだろうかな?


 そんな風にも思えてくる。


 まあ、そのあたりは余計な詮索か。


 それよりも今は、これから起きることを目に焼き付けることの方がよっぽど大事だ。


 ゆっくりと伸ばされたトキアさんの手が『虹の卵』に触れる。


「これが……」


 それと同時に、いくつもの光の板(それ以外の表現が思いつかん)が、何も無かった空中に現れる。


 そして試しに手を伸ばしてみれば、さっきまでは無かったはずの見えない壁がそこには存在していた。


 なるほど、こうなるわけか。


 そこに描かれていたのは、先ほど見た模写とよく似たもの。やはり、しっかりと説明を聞いていてよかったとも思う。


 トキアさんに視線を移せば、その手元にはすでに飛槌が。そして――


 ゴスッ!と、重い音が響く。大きくバックステップしたトキアさんが腕を振るい、飛槌が猛スピードで『虹の卵』に打ち付けられた音だ。


「これは……!?」


 クーパーさんが上げるのは驚きの声。


「どうしたんです?」

「トキアさんは手数重視で行くようなのですが、一撃の威力がかなり大きいのです!」


 見れば浮かぶ光板の下半分にも文字らしきものが。


 ゴスッ!ゴスッ!ゴスッ!ゴスッ!


「しかも速い!?」


 続く重音はたしかに、矢継ぎ早なんて言い回しが似合いそうなもの。


「このペースは……もしかしたら214を超えるやもしれませんぞ!」

「マジですか!?」


 たしか現時点での100位が213だったはずだ。与撃ひとつごとに目まぐるしく変わっていく文字の数はふたつ。すでに10は超えているということか。


 あらためてトキアさんに目を向ける。


 ゴスッ!ゴスッ!ゴスッ!ゴスッ!


 あの飛槌は大きさからしてもかなりの重量があるだろうし、そんなものをあれだけの速度で叩きつけたなら、威力も相当になることだろう。だがそれよりも思い知らされたのは――


 すげぇ……


 その扱いがあまりにも巧妙だということ。


 ただ単純に当てては引いてを繰り返すのであれば、与撃から次の与撃までの間に時間のロスが生じてしまう。けれどトキアさんは与撃の直後にあえて飛槌を逸らすことで、『虹の卵』の表面を滑るようにして反対側へとすり抜けさせ、そのまま流れるようなターンをかけることで無駄なく勢いの方向を変え、次の与撃に繋げていた。その結果があの手数。


 重量物を高速で叩きつけることと手数の両立。俺も似たようなことをやれるからこそ、その凄さがよりはっきりとわかる。港で見せられた時にも圧倒されたが、それですらトキアさんにとっては本気ではなかったということなんだろう。


「100を超えましたぞ!」


 視界の片隅に収めてある光板を見れば、下半分にある文字は3つになっていた。そして残り時間はまだ35秒程度。


 このペースならひょっとしたら……


 頑張ってください!トキアさん!


 内心でエールを送りながら見守る。


「200に届きました!」


 クーパーさんが歓声に近い声を上げる。残り時間はまだ10秒。


 あと少し!届く!届くぞ!


 9、8、7、6……


 赤い光が減るのと反比例するように俺の心拍も上がってくる。そして――


「トキアさん!?」


 残り5秒で起きた異変。唐突に飛槌が消え、トキアさんが膝を付いていた。


 そのまま立ち上がることがはないままに時間切れ。


 事前に聞いていたように20秒ほどが過ぎると見えない壁が消え、『虹の卵』の表面からボロボロと『虹起石(さいきせき)』が産み落とされる。


 『虹の卵』が崩れ落ちるのではなく、中から産み落とされるように。その光景もまた、不思議なものではあったんだろうけど……


「トキアさん!大丈夫ですか?」


 優先順位的には間違いなくトキアさんの方が上だ。だから慌てて駆け寄れば、


「……ええ。少々……ペース配分を誤りましたか……」


 額には汗を浮かべ、肩で息をしていたトキアさん。それでも20秒の間に少しは回復したんだろう。


「ご心配をおかけしてしまいましたね」


 立ち上がる足取りはしっかりとしていた。


「いえ。そこは気にしないでください」

「お見事でしたぞ」


 籠を抱えたクーパーさんもやって来て。


「あの……わたくしの記録はいくつだったのでしょうか?」

「212です」


 それは十分に立派な数字だったことだろう。


「……わずかに届きませんでしたか」


 けれどそこには、悔しそうな色が濃い。


 まあ、無理もないのか。


 あとひとつで100位に並び、あとふたつで追い抜くことができたんだから。


 と、そんなことを思っていたら、


「こうなった以上、わたくしの無念はアズールさんに晴らしていただくよりありませんね。214超え、期待していますよ?」


 とんでもないことを言い出す。


「いやいやいやいや!無茶言わんでくださいよ!」


 そりゃもちろん、俺なりには最善を尽くすつもり。けれどトキアさんのあれを超えるだけの威力を叩き出せるとは思えないわけで。


「ふふ、冗談ですよ。わたくしの身勝手を押し付けるつもりはありませんので」

「ほっ……」


 その言葉にひと安心。


 これがクーラだったなら、本気で言ってくるところだったぞ。


 というか、少し考えれば冗談とわかるだろうが俺……


 やれやれ……


 内心でため息。どうやら俺は、つくづくクーラに感化されているらしい。


「もっとも、アズールさんが少しでも良い結果を……いえ、ご自身が納得できる結果を出せるよう、願っているのは本心ですが」

「……ありがとうございます」


 それはそれと、真っ直ぐにそんなことを言われるのは少し照れ臭い。


「俺は『虹起石』拾いを手伝いますんで、トキアさんは休んでてください」


 だから俺の言葉は、照れ隠し目的の逃げという意味合いが強かったことだろう。




 なんだかんだ言っても、落ちていた200以上の『虹起石』を拾い集めるのはひと苦労。それでもどうにかすべてを回収して、


「これが、わたくしが産み落とした『虹起石』なんですね……」


 その頃には、トキアさんもある程度回復していたらしい。どっさりと籠に詰まった『虹起石』に触れる手つきは慈しむように優し気で。


「今度はこの『虹起石』が、次世代の虹追い人に心色をもたらす……。なんだか不思議な気持ちです」


 そんなトキアさんの姿は、まるで一枚の絵画のように様になっていた。

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