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それでも、どこまで近づけるのかは気になるところ

「到着です。お疲れ様でした」


 やっと着いたかぁ……


 トキアさんの飛槌から降り、地面に足を付いて。まず最初に俺が感じたのは深い安堵感。


 太陽の位置からしてゼルフィク島までの行程はトキアさんが見立てたとおりに2時間程度だったんだろうけど、精神的には少しばかり堪えるものがあった。


 理由は言わずもがな。


「大丈夫ですか?」

「ええ。地面に降りたら楽になってきましたから」


 俺の口数が少なかったのは酔ったせいだということにしておいた。


「それはよかったです」


 嘘だということは、きっとトキアさんにはバレバレだったことだろう。それでも、そういうことにしてくれて、追及をしなかった気遣いにも感謝だ。


「少し休みますか?」

「いえ、大丈夫です」

「では、さっそくこの島の支部に向かいましょう」


 歩き出すトキアさんに迷いが無いのは、すぐ目の前に道案内の看板があったからか。船は一隻も見当たらないものの、現在位置は構造からして港らしい。きっと明日になれば、結構な数の船がやって来るんだろう。


 そして看板に従って歩くこと5分ほど。俺の気分が落ち着いてきた頃に、大小ふたつの建物が見えてくる。うち片方は作りからしてアパートに近い。多分、滞在中の虹追い人用の宿というか宿舎。もうひとつの小さい方がこの島の連盟支部なんだろう。そのドアには、連盟のシンボルであるリーフィアの札がぶら下がっていた。


「お留守、なんでしょうか?」


 鍵は開いていた。だからさっそくドアを開けて中に。第七支部のロビーよりもさらに狭い建物内には、誰の姿も見当たらず。


「ひょっとして、支部員さんも明日の船で来る手はずになってる、とかでしょうかね?」

「いえ、それはありません。先ほどクゥリアーブの支部でお聞きしたところ、この島に常駐している方がふたり居るとのことでしたから。それに、『虹孵しの儀(にじかえしのぎ)』は今日のうちに挑戦することが可能だとも」


 向こうの支部ではそれを確認してたわけか。たしかに考えてみれば、ゼルフィク島に来たはいいが規則なんかが理由で『虹孵しの儀』は受けられませんでした。なんてのは、笑い話にもならないことだろう。


 それによく見れば、無人の受付にもホコリが付いている様子も無い。拭き取りをやってから、1日も過ぎていないと考えるのが妥当か。


「探しに行ってみますか?」

「いえ、それで行き違いになるのも困りものですし、少し待ってみましょう。それに……」


 トキアさんが目をやるのは壁際へと。


 ここも支部の例に漏れず、依頼用の掲示板がランクごとの合計9枚で、けれど場所柄なんだろう。緑以外のところには何も張られておらず。


「あれは気になりませんか?」


 そしてその隣にも大きな張り紙が。見れば上の方にはデカデカと、『歴代上位者ランキング』と書かれていた。


「大いに気になりますね」


 興味をそそられないはずも無ければ、待ち時間の暇つぶしにもちょうどよさげ。


 そんなわけでそちらに向かい、


「1位は……闇塗りのシザ」


 ある意味ではやはりと言うべきなのか、のっけからすごい名前が出てきた。まあ俺にとっては、知り合いの知り合いだったりもするんだが。


「記録は……10026、と」

「2位は灼哮ルゥリ。3位が雷迅リュウドですか」


 これまた現在まで語り継がれている英雄の名前。スコアは2位が8986で3位が8459。つまり、これまでに10000を超える数字をたたき出したのは、シザひとりというわけか。


「4位は……氷炎のランベルト?」


 ふたつ名が記されているのはわかりやすさを重視してなんだろうけど、それでもそこにあったのは知らない名前だった。書かれている記録にしても2010と、3位に4倍以上の差を付けられている。


「トキアさんはご存じです?」

「いえ、わたくしも初めて見る名前ですね」


 まあ、功績の具合ではそういうこともあるんだろうかな。


 そんなことを思いつつもランキングを追っていくも、5、6、7位にもこれと言って聞いたことのある名前は見当たらず。


「……カシオンとかエルベルートは居ないんですかね?」


 1~3位に並ぶ知名度の持ち主たちだったわけだが、


「『虹孵しの儀』には不向きだったからではありませんか?飛翼も治癒も、それ自体に攻撃能力はありませんし」

「……そういうことですか」

「あ、ですけど……それならクラウリアは?」

「……たしかに」


 当人のことを知る俺の印象としては、クーラ(クラウリア)が本気を出したなら、シザにダブルスコア以上の差を付けていてもおかしくないと思っている。


 挑戦する機会が無かった……わけじゃないよな?なにせあいつは『転移』が使えるんだし。


 まあ、なにかしらの理由があったんだろう。なんだったら今夜にでも直接聞いてもいいし。


 そして気を取り直して読み進めて――


「はぁ!?」

「……嘘!?」


 10位のところで、俺とトキアさんは揃って声を上げてしまう。


「あの……トキアさん。この、『山砕きのフローラ』って……」

「ええ。ふたつ名からしても間違いないかと……」


 それは、王都第七支部のトップにして、俺ともトキアさんとも知り合い。つまり支部長の名前だった。


 ちなみに記録は1008で、歴代でも1000超えを果たしたのはそこまでの10人だけというあたり、支部長は想像以上にとんでもないお方だったらしい。




 再度気を取り直してランキングを追うことしばらく。46位のところに『色無しのザグジア』なんて名前があったりもしたんだが、他にはこれといったことは無く。


「100位の記録が213、か……」


 ランキングの最後にはそんな数字が記載されていた。


 つまり、214以上を出せればここに名前が乗るわけだが……


 トキアさんならともかくとして、さすがに俺の名前が乗るなんてことはまずないだろう。それでも、どこまで近づけるのかは気になるところ。


「……おや?」


 ガチャリとドアが開き、ふたりの男性が姿を見せたのは、そんな時だった。

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