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お前と接していると、次から次と常識が殺されていくな……

「と、私が『超越』に関して調べ上げたのはこれくらいかな?」

「これくらい、というか……そこまで調べ上げることができるお前が恐ろしくもあるぞ……」


 本当にどれだけの手間があれば――まあ、クーラの場合はぶっ飛びまくった能力でどうにかしたのかもしれんけど――これだけのことを知ることができるのか?


 『超越』の詳細などという、公表したなら大騒ぎになりそうな話を聞かされて俺が思うのはそんなこと。


 つまり、クーラはやっぱりクーラだったというわけだ。


「……私を終わらせることに使えるんじゃないか、なんて思ってた時期があったからねぇ。その頃は結構必死で調べてたの。結局は、私自身を『超越』させる手段が思いつかないってことで、そのまま放置してたんだけどさ」


 なら、その案が不発に終わったのは俺にとっては幸運だったってことなんだろうかな。そのおかげでクーラに出会えたんだから。


 ごく自然にそんなことを思ってしまうあたり、やはり俺はクーラに惚れかけてるのかもしれなかった。けれど、口に出すのは少しばかり気恥ずかしい。


「やれやれ……」


 だから代わりにため息をひとつ。


「お前と接していると、次から次と常識が殺されていくな……」


 そんな、俺にとっては言いやすい言葉を返してやれば、


「失礼な」


 そんな風に言ってくるクーラも口元は笑っていた。


「けど、なんでこの話を持ち出したんだ?」


 『超越』に関する話はいいとして、そこが疑問として残る。


 祖母のことがきっかけとなったのは間違いないだろうけど、この話題を出した時のクーラはどこか深刻そうにも見えていた。そしてここまでで、その理由になりそうなものは見当たらない。


「念のため、ってところかな。君にはさ、このことを知っておいてほしかった。どうしてかって言うと……私が調べた印象だと、これまでに『超越』を起こした人たちの中には、少なくない割合で血のつながりがあったからなの。あくまでも傾向としての話だけど、『超越』が起こりやすい血筋っていうのは存在してるんじゃないか。私にはそう思えてる」

「……つまり、俺の身にも『超越』が起きる恐れがある。そういうことか?」

「……うん」


 俺の死につながりかねない。だからクーラは深刻そうな顔をしていたわけか。


「もちろん、そうなる確率なんて恐ろしく低いだろうけどさ……」

「そりゃそうだ」


 そもそもが、窮地に立たされた者の中で『超越』を起こした割合なんてのは、ただでさえ相当に低いことだろう。俺だって少し前に寄生体(ウィル・スローター)とやり合った時には死を覚悟したわけだが、それでも『超越』は起きなかったわけだし。


「それ以前に、そんな状況になんて私が絶対にさせないつもりだし、まかり間違って何かの弾みで『超越』しちゃったなら、すぐにでも抑え込むつもりだけど……」


 そこににじむのは、隠しきれない不安の色。


「……それでももしも、万にひとつもそんなことになったなら、すぐさまお前に報告する。約束するよ」

「ホントにお願いだからね?迷惑かもしれない、とかでの遠慮なんて嫌だよ?……もしも君に何かあったなら、正気でいられる自信は無いからさ」

「ああ。しかと心得た。……というかだな。そもそもが、そんな状況で張るような意地なんて持ち合わせは無いんでな。お前という圧倒的な存在に頼り切りになってしまうのもどうかとは思うけどさ。お前を泣かせるくらいなら、俺は遠慮なくお前に助けを求めるぞ」


 なんとも情けないことを言っている自覚はあるが、それが俺の本心。


「そっかぁ……」


 まあ、クーラの方はどこか嬉しそうに安堵している風だったし、多分これでよかったんだろう。


「なら、飯を再開するか」


 多少わざとらしくはあったことだろうけど、実際に気を取り直す意味もあった。それなりに重い話だったこともあり、食事の手は止まっていた。手に取ってかじりついた卵サンドの味が少しばかり落ちていたのは、多分気のせいだろう。


「そうだね。じゃあ、口直しってことでさ、君のご両親の馴れ初め。その続きを聞きたいかな」

「……そういえば途中だったか。どこまで話したんだっけか?」

「君のお婆さんが大岩を持ち上げて君のお父さんを助けて腰を痛めちゃったところまでだよ」

「そうだったか……。まあ、続きを話すのはいいんだが……」


 果たしてこの先は口直しになるようなものなんだろうか?俺の認識では、この先はかなりアレな話になりそうなんだが……


 だが、ワクワク顔のクーラを見ていると、ここで打ち切るのもどうかという気持ちになってくるわけで。


 まあいいか。


 だからそう割り切ることにする。……聞き終えた後での苦情は却下するつもりだが。


「当時の親父はまだ5歳だったからな。自力で起き上がることもできなくなった母親の世話をしつつ自分も暮らしていく、なんてのはまず無理。さすがに事情が事情だし、村の連中の助けも期待はできただろうけど、相当に大変なことになるのは間違いなかったわけだ。んで、そこで俺のお袋にあたる人が出てくるんだ」

「たしか、君のお父さんよりも10歳上なんだよね?」

「ああつまり当時15歳。なんだかんだで親父のことをずっと可愛がってくれてた人でもあったらしくてな。放ってはおけないってことで、それ以来一緒に住むことにしたんだそうな」

「へぇ……。優しい人だったんだね。案外アズ君は性格的にはお母さん似なのかもね」


 そんなことを言いつつクーラは妙に温かい目を向けてくるんだけど、


「スイマセンどうかそれだけはお許しを」


 俺としては、この件を根拠としてお袋に性格が似ているなんて言われるのは、本気で心の底から勘弁願いたい。


「そんなに照れなくてもいいのに……って、本気で嫌そうだね?」


 顔に出ていたんだろう。目ざとくそこまで見抜いてくれる。


「本気で嫌なんだよ。まあ祖母との仲もよかったそうだし、それだけならばいい話だとも言えるんだが……」

「言えるんだが?」


 ため息をひとつ。なんだかんだで俺はお袋のことも尊敬しているわけだが、この件に関してだけは本気で頭を抱えたくもなってくる。


 なぜかと言えばそれは――


「当時からすでにお袋は、親父のことを色恋的な意味で見ていたらしくてな……」

「……冗談、だよね?」

「そうであればどんなによかったか……」


 クーラが頬を引きつらせるのは当然のことと言えるだろう。そして残念かつ非情なことに、冗談ではないというのが現実。


「まあ、下心だけでもなかったんだろうけどさ……。当時5歳だった親父を風呂に入れたり同じベッドで寝るくらいならまだしも、数年後には……その……なんというか……いわゆるところの夜の指導、なんてのもやってたらしくてなぁ……」


 これは後にお袋が暴露したとのことだが、その時にベロンベロンに酔っていたことからしても、信憑性は高いというのがハディオ住民の見解。そしてお袋もまた、今日までそのことは否定していないとのことで。


「うわぁ……」


 すげぇなお袋……。あんた、あのクラウリアをドン引きさせてるぞ……


「結局のところ、それでも……いや、それゆえにと言うべきか?親父はまんまと堕とされてしまいましたとさというわけだ」

「えーと……そのことに関して君のお婆さんは?」

「なんだかんだでお袋のことは気に入ってたらしくてな。祖母も最終的には割り切ることにしたらしい」

「……君のお母さん怖いよ!?」


 しかもお袋はクラウリアを恐れさせちまったらしい。ある意味ではとんでもない偉業を成し遂げたとも言えるんだろうか……


「だがまあ、一応フォローしておくけどな。それ以外の点では、お袋は今でも村中の評判はいいんだわ」


 そう。それ以外に関しては、気立てのいい働き者で通っているというのもまた事実なわけで。


「それに親父の評判だって悪くはない。そして夫婦仲は今でも良好」


 さすがに年齢的には少し厳しいだろうけど、仮に新しい弟妹ができていても、驚かない自信があるくらいには。


 どちらかといえば、お前らもういい歳なんだからイチャつくのは自重しろ、なんて風に周囲から言われてた記憶がある。


「ともあれ、そんなことがあってな。祖母が亡くなったのは、俺が生まれる少し前のこと。その時には、普通に歩けるくらいまで快復した姿を見せることができたと安堵しつつ、お袋に感謝しながら逝ったとのことだ」

「お婆さん、そこまで快復したんだね」

「ああ。起きられるまでに10年。日常生活ができるまでにさらに10年かかったそうだけどな。と、両親の馴れ初めはこんなところだな。……口直しになったのかは怪しいところだが」

「あはは……。それはたしかに……」


 さすがのクーラでも、それには乾いた笑いを漏らすことしかできなかったらしい。




「「ごちそうさま」」


 ともあれ、そんなこんなで籠に残っていたサンドイッチはすべてが腹の中に。


「それで、この後は何か予定はあるのか?」


 心地のいい夜風の中で腹をさすりつつ尋ねる。当初の予定である墓参りはすでに終わっていたわけだが。


「王都に戻ったら市場で食材を買い込んで君と一緒に晩御飯を食べるつもりではいるけど……。それにしたって少し時間があるんだよねぇ……」


 腹具合的には、今の王都は昼を少し過ぎたくらいだろう。たしかに、数時間くらいは余裕がある計算。


「なら、適当に王都を歩いて回るか?無難ではあるけど、それはそれで悪くないだろう……って、どうかしたのか?」


 食後特有の気の抜けた顔をしていたクーラ。その視線が一点に止まり、表情がみるみるうちに不機嫌なものに変わっていく。


 何があるのかと俺も同じ方向に目をやる。けれどその先に見えるのは星くらいで。


「……ゴメン。悪いんだけどさ、急な用事ができちゃった」


 ため息混じりのその言葉は、見つめていた先で何かが起きたのだと確信するには十分なもの。


「何があった?」

「まあ、大したことじゃないんだけどね」


 どこかめんどくさそうに。そしてウンザリとしたように前置き。


「どうせなら暇を持て余してる時にくればいいものを……。空気読めよなあのクソトカゲ……」


 さらにため息をひとつ。


 クソトカゲってことは……トカゲ型の魔獣あたりか?王都の近くには居ないらしいから俺はまだやり合った経験は無いけど、話には聞いたことがあった。先輩方からは、すばしっこいところが厄介な魔獣だったと聞いてるけど。


 そんな呑気なことを考える俺に向けて、緊張感の欠片も無い声で告げられたのは――


「星界の邪竜がこっちに向かって来てくれやがってるだけだからさ」


 すさまじくのっぴきならない事態の発生だった。

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