諦めろ。それがクーラなんだよ
「あ、あはははははぁ……」
引きつり顔で乾いた笑いをするクーラ。
まあ、正体バレの一因となったのが自身のやりたい放題だったとあっては、その気持ちもわからないではないんだが。
実際、星を見に高原へと行った時には「空から星を見るのもいいかも。せっかくだし、お茶でも飲みながらさ」などと言い出し、容易く有言実行をして見せてくれやがったこともあったくらい。上機嫌になるのも道理だろう。
クーラが楽しそうだから別にいいか、なんて考えでされるままになっていた俺にも責はあるだろうけど。
「そしてズビーロ邸でアズールを助けたというクラウリアは、仮面を付け、声を変えていたのよね?」
また、話が妙な方向へ飛ぶ。
あの仮面も当然ながらクーラの所持品で、異世界で使ったことがあるんだとか。そして変えられた声というのは、明らかに人が発するようなものではなかった。例えるなら、金属同士を擦り合わせる音と人の声を混ぜたらこんな感じになるんじゃないのか、といったところ。
「これは、昨日偶然に浮かんだことなのだけど。わざわざ声を変えたのは、元々の声が特徴的だったからなんじゃないか。そう考えたら、クーラに関して疑問に思っていたあれこれがひとつにつながっていく感じがしたの」
「ああ。そういうのってあるよね。降って湧いた閃きってさ、掴み取ることができれば見返りは大きいってやつ。実際にレラザックおじさんだって、それがきっかけで――」
「「ちょっと待て!?」」
わかるわかる。そんなノリでクーラが出してきたのは、またしてもとんでもない名前。
「レラザック……?レラザックって……確かクラウリアと同じ時代を生きた魔具職人兼虹追い人よね?そのどちらでも凄腕だったっていう」
「ああ。支部の受付にある鏡の魔具だって、その人がクラウリアと共同で開発したんだよな?」
恐る恐るでクーラを見れば、
「懐かしいなぁ。あの人も大のお茶好きでねぇ、産地を偽ってぼったくりしてるクソ商人に揃って騙された縁で意気投合しちゃってさ。あの鏡の魔具のアイディアだって、そのことを愚痴りながらお茶で一晩中飲み明かしてる最中に閃いたものだったんだよねぇ。あの時はさ、急に叫び声上げるから、ついに狂ったんじゃないかって心配したっけ」
目を細めてしみじみと、そんなことを懐かしそうに語ってくれやがる。
「何か……とんでもない話を聞かされている気がするのだけど……」
「諦めろ。それがクーラなんだよ」
「それでも、レラザックのそんな逸話は聞きたくなかったわ……」
「それについては同感だが……」
感性としては、どちらかといえば俺もアピスに近いということなんだろう。アピスの引きつり顔が、先日の俺と重なる気がした。
「……なんかさ、アズ君とアピスちゃんって、仲いいよね?」
かと思えば、何やらクーラが急に不機嫌気味に。
これは、嫉妬とかいうやつか?
クーラの想いを考えるに、多分そういうことなんだろう。図書院で読んだ物語にも、似たような描写はあった気がするし。
俺だって、それくらいは学習できていたつもり。
「そりゃ、アピスは友人でもあり、同じ支部の仲間でもあり、背中を預けたことだってある間柄からな。仲がいいのは当然だろ。けどそれだけだ。俺はお前の気持ちを知り、受け入れたんだ。その上で不義理な真似なんてするかよ。というかむしろ俺とアピスが険悪をやってたら、そっちの方がお前は嫌がるだろ?」
だからそうフォローを。
「……そうだよね。ごめん、変なこと言って」
「気にするな。と言っても難しいか」
「……うん。理屈ではわかってるつもりなんだけどね」
「まあ、すぐには無理かもしれないけどさ。俺はいつまでだって、お前に付き合うつもりだよ。だから、のんびり構えてるくらいでいいんじゃないか?」
「そう……だよね」
「ああ。是非そうしてくれ」
「君はずっと、私の隣に居てくれるんだよね?」
「当たり前だろうが。お前のことは、しっかりと捕まえておくよ。まあ、お前が望む限りという但し書きは付くけどな」
「あはは。そんな但し書きって、有って無いようなものでしょ。私はいつまでも君に囚われていたいんだから」
「ならいいんだがな」
「……あの、いいかしら?」
「っと、悪い。ほったらかしにしちまってたか」
そういえばこの場にはアピスも居たんだったか。
「いえ、それは……まあ、この際別にいいのだけれど。とにかく、クーラとクラウリア。それに、ズビーロ邸でアズールを助けた女性はすべて同一の存在ということでいいのよね?」
「うん。それは間違いないよ」
「ちなみにだけれど、ノックスの森でアズールとガドさんを助けたという女性も?」
「それも私」
「そうなるわよね。桁外れの治癒に加えて『転移』まで使える人が複数居るというよりは妥当なのかしら?」
「まあ、そうなるだろうな」
クーラが使う『転移』は異世界由来の技術だし、治癒にしたって心色とは系統が違うとはいえ、その効果はぶっ飛んだもの。そんなのを使える存在なんて、ホイホイ居るわけがない。というか居てたまるか。
「それなら、これが私の知りたかったことなのだけれど……」
意を決するように、軽く吸った息を大きく吐き出す。そうしてアピスが問うてきた本命というのは、
「蛇毛縛眼の吹き矢を受けたネメシアを助けてくれたのも……クーラ、あなただったの?」
「なるほどな」
「そのことかぁ」
俺にとってもクーラにとっても、大いに納得できると同時に、深く安堵できる理由だった。確かにそれは、アピスにとっては極めて重要なことになるわけだ。つまり、そこに妙な意図は無かったということだった。




