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さすがにこれは間抜けすぎるだろ俺……

「ねえ、クーラ。あなたは、クラウリアなのでしょう?」

「何言ってるんだお前。ついに狂ったのか?」


 唐突にアピスが投げかけてきた問いかけ。思い当たるところはありすぎるほどにありすぎる話ではあったんだが、ノータイムでそんな返しをできたのは、多分この5日間の経験が生きていたから。なんだけど……


「何でそれを!?」


 おい……


 当のクーラが大きく目を見開いて、そんなあからさまなリアクションを見せてくれやがる。


 そういえば、結構迂闊なところもあるんだよなぁ、こいつ。


 多分だが、桁外れの能力だけで大概のことはどうにかできてしまえてきたことの弊害なんだろう。


「……まさか本当に!?」


 そしてアピスはアピスで驚きを見せる。


 そこから導き出される結論は――


「……お前、カマをかけやがったな?」


 そういうことになるわけで。


「え、ええ……。そのつもりだったのだけれど……」


 それでも、カマかけをするというやつは、すでに何かしらの疑念を抱いていることが前提になるもの。


 付け加えるなら、様子からしてアピス自身も半信半疑だったんだろう。それが、クーラのせいで確信へと一足飛びになってしまったわけだ。


 感付かれたのは……あの時か?


 思い当たるのは、この場所でクーラを泣かせちまった時。今思えば、あの時は俺もクーラも少なからず不安定になっていた。だからなんだろう。割とクリティカルなことを口走っていたような気がしないでもない。


「それで……何が言いたいんだ?」


 クーラに任せるのは不安な気がしてきた。だから俺が代わりに話を進めることにする。


「今言った通りなのだけれど。……それと、そんなに身構えなくてもいいわ。このことは誰にも言っていないし、誰かに話すつもりも無いから。ただ、どうしても知りたいことがあって。クーラの都合がいい時で構わないから、話をする時間をもらえないかしら?」

「……じゃあ、今夜でどうかな?場所は私の部屋で」

「いいのか?」

「うん。アピスちゃんにとっては大事な話みたいだし、早い方がいいでしょ」

「わかったよ。けど、俺も同席するぞ」

「ええ。むしろお願いしたいところね。それじゃあ、また今夜に」




 そうこうするうちにいつもの鐘が鳴ったので話を切り上げる。その後で足を運んだ第七支部では、心配をかけまくったことへの罪悪感をたっぷりと思い知ることになり、続けて向かった第一支部でも同じくに。


「アピスちゃんの用向きって、なんだろうね?」

「わからんな。何か知りたいことがあるらしいが。……あの後に支部でも話をしたんだけど、その時には普段通りだったぞ」


 そして夕方。クーラと連れ立っての帰り道に話題となるのは、当然ながらそのことで。


 ちなみにだが、寄り道は無しでクーラの部屋への直行コース。晩飯の件は、またしても繰り越しになっていた。


「……そっか。たださ、私もあれから考えてみたんだけど、気楽に構えてていいんじゃないかな、って思うの。あと、取り繕いも必要無いと思う」

「その根拠は?」

「私がネメシアちゃんに酷いことをした、とかなら話は違ってくるだろうけどさ、それ以外でアピスちゃんが私に……っていうのは、正直考えられない」

「それには同感だがな」


 アピスの人となりは俺も知っているし、クーラとの仲だって良好なんだから。


「もちろん、私の正体をバラされる展開はなんとしても避けなきゃだけど、アピスちゃんにその気は無いみたいだし。それにさ……最悪の場合は、ね?」

「……確かにな」


 あえて言葉には出さなかったんだろうけど、『ささやき』やら記憶の封鎖やらといった、問答無用でどうにかできてしまう手段もクーラの手にはあるわけで。


「アピスちゃん相手に使うのは気乗りしないけど、優先順位でいったら、君と居る今の方が上だから」

「わかったよ。なら、俺も可能な限りのフォローはするってことで」

「うん。そこはお願いするね」




「いらっしゃい。待ってたよ」

「お邪魔するわね」


 そうしてクーラが淹れてくれた茶を飲みながら待つこと少し。予定通りにアピスがやって来る。


「今、アピスちゃんの分もお茶淹れるから。少し待っててね」

「悪いわね」

「いいってことよ。お菓子も用意できてればよかったんだけどね」

「……もう少し警戒されているかと思っていたのだけれど」


 上機嫌で茶を淹れ始めるクーラを眺めるアピスの方が逆に困惑気味で、俺にそう言ってくる。


「まあ、そこはクーラだからな」

「……どういうこと?」

「さてな」

「はい、お待たせ」

「ありがとう。それじゃあ、いただくわ。……………………美味しい」


 カップに口を付けたアピスがは大きく目を見開く。


「私もたまにお茶は飲むけれど、全然違うわ……」

「まあ、これでもお茶には少しこだわりがあるからね。ちなみにだけど、茶葉は近くの露店で普通に売ってるやつだったりするの」


 対するクーラは得意気で。


「……つまり、淹れ方の違いということ?」

「正解。よかったら、コツとか教えようか?」

「……そうね。そのうち機会があったらお願いするわ。……さて」


 来たな。


 アピスが表情を改め、居住まいを正す。雑談はここまでだ。


「あまり時間を取らせても悪いし、そろそろ本題に入らせてもらうわね」

「うん。それで、私がクラウリアなんじゃないか?だったよね?」

「ええ」

「……そんなわけないだろ。こいつはエルナさんの店で働く看板娘だよ。寝言は寝て言え。なんて答えで納得はできそうか?」

「無理ね」

「だろうな。もうお前の中では、クーラ=クラウリアってのは確信に変わってるんだろう?」

「ええ」

「まあ、事実なんだけどね」

「って、認めるの!?」

「うん」

「随分あっさりなのね……」

「そこはまあ、クーラだからな。それで参考までに聞きたいんだが、そんな疑いを抱くようになったきっかけは何だ?」


 今朝のクーラがやらかしたポカはともかくとしても、クーラがクラウリアなんじゃないか、なんていう疑念は、そうそう簡単に湧いてくるようなものじゃないはずだ。


「そうね。……最初に疑問を感じたのは――」


 恐らくは、俺がクーラを泣かせちまった時、なんだろうけど。


「ユグ村で仮眠を取っていた時ね」


 んん?


 何やら予想外が飛び出してきた。時系列的には、クーラを泣かせてしまう前夜のことになる。


「……どういうこと?」


 不思議に思ったのはクーラも同じだったんだろう。首を傾げていた。


「あの時にアズールはこう言っていたわ。『超越』すらも、クーラのおかげだったって話になるんだろうかな……と」

「……アズ君」

「それはその、なんというか……」


 クーラが向けてくるのは冷ややかな目。確かに、あの時はそんなことを考えて悶々としていた。あるいは、それが口に出ていたのかもしれない。そして、ここまでピンポイントに言い当てている以上、適当を言っているとも思えない。けれどそれ以上に思うのは――


 さすがにこれは間抜けすぎるだろ俺……


 そんな呆れだった。さっきのクーラをどうこうとは言えないほどの大ポカだ。


「けど……」


 どうにか気を取り直す。確かに俺の急成長にクーラが関わっていたことは事実なんだが。


「クーラが超常の力を持っているかもしれないと考える根拠にはなるかもしれんけど、それだけでクーラとクラウリアを結び付けるのは乱暴が過ぎるんじゃないか?」

「ええ。もちろんそれだけじゃないわ。ここ5日間のクーラの様子も、根拠のひとつね」

「私の?」


 また、妙な方へと話が飛ぶ。監視されている俺のところにやって来たり、他の大陸まで星を見に行ったりと、やりたい放題だったのは事実。だが、それ以外ではおとなしくしていたんじゃなかろうかと思うわけだが?


「……ごめん。思い付かないや。ここ数日は普段通りにしてたつもりなんだけど……」

「ええ。確かに普段通りだったわ。……だからこそ、不自然だったのよ」

「どういうこと?」


 クーラはなおも首を傾げているが、俺も同意見。普段通りだったなら、不自然ではないだろうに。


「いい?あなたたちは5日前に痴話喧嘩で喧嘩別れしたのよ?」

「まだ痴話喧嘩じゃないよ!」「まだ痴話喧嘩じゃねぇだろ!」

「……まだ?」

「えっと……」

「いや、それは……」

「……まあいいわ。なら、ただの喧嘩別れでもいいけれど。ともかく、その直後にアズールは事件に巻き込まれた。無事だとは聞かされていても、実際に会うことはできなかった。そんな状況で、クーラが平然と普段通りにしていられるのは自然なことかしら?」

「「……あ」」


 ようやく気付くことができた。確かに、それならば普段通りの方が不自然というもの。


「ネメシアや支部長だって、話を聞いた時には青ざめていたのよ?私も最初は、クーラは無理して気丈に振る舞っているのだと思ったのだけれど、そんな様子は無さそうだし。むしろ上機嫌だったくらいだもの。それこそ、『転移』を使って、いつものようにアズールと話せているんじゃないかって考えたらしっくりくるくらいには」

「あ、あはははははぁ……」


 引きつり笑いをするクーラだが、上機嫌の理由は俺も知っている。俺相手には隠し立てを必要も無くなり、思うままに好き放題できていたからだ。

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