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眷属と陽の下の吸血鬼と二回目の配信開始

 さて、目を覚ましたこの眷属。人間だった頃の私というのは使い道がある。こいつに今まで通りの生活を送らせれば、それだけで私が存在変換した事実を誰も知らない事になるだろう。私は今までの仕事に追われる事も無く、眷属任せにすればいいのだ。

 彼女はイラストレーターで、家にいることも多い。ともすれば私の世話役もしっかり果たしてくれるだろう。

 働いてるから収入だって手に入る。私はヒモだな。情けないがこのロリボディを働かせてくれる場所など無いだろうから仕方あるまい。収益化通ったら少しはそういう面でも楽できるか。

 家族にだって心配がかかる事が無い。この眷属を人間だった頃の私だと思い込むであろうから。つまり私は身バレの心配の無い新しい時代のVtuberとなったのだ。

 まあ、ある意味身バレはするのだが。この吸血鬼の姿は外に出かけたら見られるわけだし。なんというべきか、夢を壊すような身バレが無いと言った方が正しいか。


「おい、お前はこれから人間として暮らしていた時と同じように活動しろ。ただし私に何かあれば、それを最優先に行動するように。出来るな」

「はい、お任せください。ご主人様」


 自分に敬語使われるの凄い違和感。いや、慣れねばなるまい。私はもう吸血鬼。人間だった頃の私とはおさらばしたのだ。おさらばどころか目の前にいるけどな。


「私はもう寝る。ベッドはお前が使え」

「それではご主人様は……?」

「パソコンの中の屋敷で寝起きする。電脳吸血鬼とは便利なものだな」


 かしこまりました、と一礼する眷属から視線を外し、電脳空間の自宅へと入っていく。

 この屋敷の図面も頭に入っている。迷う事は無いとはいえ配信部屋と寝室以外は使わなそうだが。

 光の差さないこの屋敷で心配することも無いのだが、吸血鬼の様式美というやつで寝室の棺桶で寝る。一応ベッドもあるのだが、そこから枕だけ持ってきておやすみなさいだ。




 目が覚めた。棺桶の中で手元のスマホをいじっていて思ったが、これ元々眷属のものだ。持たせておかないとトラブルの元になる。それに気づいて私は屋敷の配信部屋にある現実世界との出入口であるパソコンを通って眷属のいる現実へと渡ってきた。

 時刻は昼頃、陽の光が眩しくて仕方がない。パソコンの前に座っていた眷属のすぐ横に着地して、スマホを差し出す。


「おい眷属。お前はこのスマホを持っておけ」

「ありがとうございます。助かります」


 とりあえずこれでやる事は終わった。またパソコンの中に入って眠ってもいいのだが、私の中の好奇心が、この身体が太陽の下でどのくらい活動できるのか挑戦したくなってきた。

 陽の光が差し込むこの部屋で眩しい以上の感情が出てこないのだから、命の危険は無いであろう。私はどうにも吸血鬼として優秀な部類に入るらしい。

 そしてなにより、私は腹が減っている。あのミックスジュースの素材を買ってきて飲んでやろうという気分である。眷属の血を吸うのも考えないでもないのだが、一回の吸血での血液消費量が分からないため失血死されても困る。そういうのはもっとどうでもいいやつで試してからだ。


「それにしても」

「ん?」


 眷属が話しかけてきた。しかしこいつ、もっと喋る人間だったはずなんだけどな。まだ眷属化が馴染んでないのか?


「今のご主人様は色が薄いですね」


 そう言ってこちらに鏡を向けてくるが、私は映っていない。


「悪いが、吸血鬼は鏡に映らないのだ」

「ではこちらで」


 パソコンに接続されていた、Vtuberの仕事用のスマホを見せてくる。そこに映っているのは私だ。

 ただし、銀髪で、眼も色を失い銀色だ。金髪で赤眼をした私はどこにもいない。


「おお、確かに。というかこのスマホに映っている私、ただの立ち絵じゃなくて現実の私の動きを完全に再現してるじゃないか。まあ、それは昨日からそうなってたか」


 つまり配信の時はカメラを通じて上半身の動きがなんとなく再現されるのではなく、本当に私を移す唯一の鏡のようなものになるのだろう。そしてそれは配信中、視聴者にまるまる放送される事になる。スカートぱたぱたして涼を取ろうとしたら皆に見られるので駄目だということだ。別に暑さ寒さは感じないが配信中は気を付けよう。

 しかし3Dのように自由に動かせるアニメ絵の私か。これは配信において、強い武器になるのではないだろうか。


「とりあえず出かけてくる。なにかあればメールを直接飛ばす。この能力があれば新しくスマホを買う必要も無いな」

「ついていきます。ご主人様は吸血鬼なのですから、途中で太陽の光にやられてしまう可能性もあるでしょう」

「それはそうだな。よし、ついてこい」


 という流れで出かけたのだが。分かったことが一つ。太陽の下では私の能力が色々と制限されるらしい。怪力と再生は多少できる感覚があるのだが、吸血すらできなくなるとは。この銀髪銀眼の状態では血を吸うための犬歯がどうにも調子がよくない。霧化もできないし眷属作成もできない。

 受動的な能力というか、勝手に発動する力はある程度使えるようで、他には動物と会話する能力が動物の声を聞く程度に制限される感じだ。

 太陽の下でなってしまう銀髪銀眼の私は、人間よりは強いが夜の私に比べれば断然弱いという当然の結果になった。


「はーっ……はーっ……」


 あと身体能力、特に体力も落ちる。最寄りのコンビニまで持たなかった。

 結局木陰で休んでるからミックスジュースの材料を買って来いと財布を渡して命令する事になった。今後は財布も返して、いくらか自分でもお金を持っておくようにしよう。新しい財布が必要だな。


「あらちょっと、大丈夫?」


 そう声をかけてきたのは男だ。


「保護者の方はいないの? お兄さんが探してあげるわよ?」


 どうにもオネエという人種らしい。女より女らしい口調をしている。


「心配、いらない……ちょっと疲れただけだ」

「そう。でもやっぱり心配。一緒にいさせてね」


 いい人なのだろう。話し方からそれが滲み出てくる。そのためかオネエ口調も不快さを感じない。

 隣に座った彼はこっちを心配そうに見ていたが、スマホが鳴ると焦ったようだった。


「あら、ごめんなさい。ちょっとお友達から連絡があってね」


 そう言うとスマホを取り出し、会話を始めた。


「サイバちゃん。……そう。少しは落ち着いたの。同期に酷い態度を取った。けど謝ろうと思えない……それは、貴方の弱さね。うん。大丈夫、貴方に配信を続ける気があるなら、いつかまた道が交わる時はある。その時までに強くなりなさいな。うん、アタシはいつでも相談に乗るから。ううん、いいのよ。うん、じゃあね」


 そう言って通話を終了していた。サイバ、配信……そこから導き出される答えは私の中には一つしかない。


「サイバ・ワーウルフ……」


 そう呟くと彼は飛び上がらんばかりに驚いていた。


「えっ、貴方、サイバちゃんを知ってるの!? もしかしてファンかしら!?」


 私の両手を握って、彼は笑みを浮かべて問いかけてきた。


「いや、知ってるだけ」

「そう……でもよかった。貴方みたいな小さな子にも知ってもらえてるならまだまだ今後伸びるわ」


 彼は呟くように、自分の事のように残念そうに語り始める。


「サイバちゃん。大変なのよね……アバターモエクスの五期生で、一人だけ初配信後のチャンネル登録者数伸びなくて。他が二、三千なのに対して五百ちょっと。モエクスに男を求めてる層なんて少ないから仕方ないかもしれないけど、落ち込んじゃって。打たれ弱いところがあるというか……最初から完璧に行くはずなんてないのに完璧を求めて、思い通りにいかない現実に打ちのめされる。まだ初回配信しただけよ? まだまだアピールのチャンスはあるのに弱っちゃって。見てられないわ」

「それで手を差し伸べてるの? 私にしてくれてるみたいに?」

「そうね。そのつもりだけど……それがためになってるかは分からない。自己満足よ」


 悲しそうな彼を尻目に、眷属が買い物を済ませてやってきた。


「お待たせしましたご主人様。帰りましょう」

「ご主人様……? 貴方、一体」

「私? 私はね。メアリー、ブラッディ・メアリー。電脳吸血鬼よ」


 心底驚いた顔をして彼は私を見つめてきた。


「確かに、見た事ある顔だとは思ったけど……髪と眼の色こそ違うけどアバターそっくり。そんな事あるの……?」

「あるのよ。そんな調子じゃ夜に私を見たらびっくりじゃすまないでしょうね。もう会う事もないだろうけど」

「そんな事無いわ。アタシは姉歯嘉麻。アバターモエクス三期生、モエクス初めての男Vtuber、ダー・バーテンよ」


 まさか先輩だったとは。道理でサイバに肩入れしているわけだ。


「そう。貴方の心遣い。少しだけ嬉しかったわ。また会いましょう。先輩?」


 眷属に指示を出し、私達はダー・バーテンに背を向けて歩き始めた。




 帰ったらすぐパソコンの中に入って寝た。太陽の下で動くのがこんなに疲れるとは思わなかった。吸血鬼なのだから当然なのだけれど。

 起きたらもうすぐ配信の時間だ。今回は試験的にパソコンの中から配信を試みる。


「ごきげんよう。人間諸君。私は電脳吸血鬼のVtuber、ブラッディ・メアリー。今日は私の屋敷から失礼するよ」


『こんバンパイア』

『絶対こんバンパイア流行らすな』

『背景のクオリティ上がってる』

『というか全身映ってる。脚組んで椅子に座ってワイングラス片手に持ってるって悪の組織のボスじゃん』

『パンツ見えそう見えない』

『というかアニメーション凄すぎ。今のワイングラスに口をつけるワンシーンなんて二次元が自由に動いてる感じじゃん』


 テストは成功。電脳世界の私を直接、世界中に配信できるようだ。いちいちスマホのカメラに連動させて上半身だけ動かすなんてせせこましいやり方をする必要は無い。分かっていたことだが、実際に出来ると安心するものだ。


「ちなみに、このグラスの中身はトマトとブドウのジュースとユカリスエットをそれぞれ1:1:2の割合で混ぜたもの。昨日は助かった。疑似血液は無事完成したよ」


『それ美味いのか……?』

『あくまで血液の代わりだから』

『というか混ぜ合わせたのか』


 昨日飲んだそれぞれの飲み物のレポートを語り、なぜこれが完成するに至ったかを話すと視聴者は感心してくれた。


『へー』

『設定が細かい』

『これで人間襲わないんだね』

『襲われたかった』


「さて、この飲み物はオリジナルのミックスジュースだ。故に名前が無い。カクテルなんかにも名前がつけられるだろう? こいつにも名前を付けてやって欲しい」


 こういう視聴者に問いかけるのもコンテンツの一つというものだ。私という世界観の一部になってもらう。


『そのまんま疑似血液でいいんじゃないか?』

『ヴァンパイアブラッドとか』

『レッドウィング。翼を授ける感じで』

『血液とは別の飲み物って感じでアナザーブラッド』


 ほう、いい案があるじゃあないか。


「アナザーブラッド。いい響きだ。それに決定」


 ミックスジュース、アナザーブラッドの誕生だ。

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