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チャンネル登録者数五万人記念凸待ち企画(前)

 さて、気合を見せるところだ。お母様にアバターモエクス全員とコラボしようと思っているのだけれど、その企画を立てたらお母様は来てくれるのかと問わねばならない。そして、その全員に男二人も含めるべきか、外すべきか。

 デス子のダイレクトメッセージ機能でお母様に連絡を取る。


「お母様、アバターモエクス全員とコラボするって言ったら私が嫌いでもコラボしてくれるかな?」


 そう送って少し待つと、すぐにチャットの返事が来た。


「アズキから聞いたわ。そうね、トリを飾ってあげる」


 それは逆に言えば、最後まで会える事は無いという事だ。残念がっているとチャットの続きが届けられる。


「あと、男二人ともコラボなさい。それがちゃんとした全員というものよ」


 そこまでアズキは話していたか。説明の手間は無いが、お母様には私から話したかったという欲もある。


「同期の男と仲悪いんでしょ。だったら、初めて母親らしい事を言うわ」


 それは楽しみだ。きちんと娘と認められた気分になり、心が温かくなる。その気分のまま、チャットが届くのを待つ。


「喧嘩したなら、仲直りしなさい。以上」


 それっきり、お母様からの返事は無かった。そして、彼女から送られた言葉は、どこまでも正論だった。負い目を感じているからと言って、いつまでもそのまま疎遠という訳にはいかない。我々は一応同じグループに所属している仲間なのだ。こんな状況で仲間だなんて言葉は浅いのだろうが、形式上はそうなのである。

 そして、考えねばならない事は他にもある。私のチャンネル登録者数が五万人を超えた。ほとんどアズキの力な気もするが……なんにしろ、見てくれている人がそれだけ増えたのは嬉しい限りだ。そして、配信者としては記念配信をするべきなのだ。祝えるところは祝う。そういうハレの日というのは盛り上がる。そして、今回考えている内容は、凸待ち配信だ。

 もちろん、ここで初めて会う人が来たからと言ってコラボに含めるつもりはない。単純に私も対人経験が増えたのでそういうものをやってもいいかなと考えたのだ。増えた経験はそれだけじゃない気もするが。

 なんにしろ、アバターモエクス全体のチャット欄に、その旨を記載しておく。

 そして、アバターモエクス全員とコラボするという企画は運営から許可が出た。元々誰とコラボしちゃいけないとか無かったしな。

 アズキは三期生や四期生と運営の企画とかでもない限り個人的に触れ合わない線引きをしていたみたいだから、コラボ縛ってたみたいなものか。それくらいだろう。

 それで、チャンネル登録者数五万人記念配信の予定日まで通常配信を行い、夜中も散歩しているとたまにリスナーだという人間に声をかけられるようになった。今私は、実際に会う事の出来るVtuberとして少々話題になっている。

 しかし、そうともなれば運営も黙っていない。今まで吸血鬼なんてありえないとしていた彼らも、実際の目撃証言がネットに上げられればこれはおかしい、となりえる。現実に存在しないはずの吸血鬼と話をして本当の所を確かめねばならないとその重い腰を上げたのだ。

 人数も多くなって放任主義なところがあるとはいえ遅かったな。そして記念配信の後日でいいから来るように、と緩い。

 よって、私の予定は十一月の二十一日にチャンネル登録者数五万人記念配信を行い、二十三日にアバターモエクスを所有している本社、アバターメイカーへ向かう事になったのだ。


 そして、記念配信当日……私は眷属と一緒に電脳空間で配信時間を待ちながら、ワイングラスに輸血パックの血液を注がせていた。

 そう、眷属を電脳空間に出し入れできるようになったのだ。女性の汁を啜って力を得た事が理由だろう。あの汁には血液と同じように人間の情報が含まれている。私のような電脳吸血鬼はそれを糧にする。

 センベイで来ていたのだ。輸血パック描いてそれ飲めば? と。盲点だった。やってみると、まあ味が旨い。これが本当の血液の味か……としみじみしたものだが、この方法で作った血液には人間の情報が含まれていない。誰のものでもないからだ。よって、吸血鬼としての力はそこまで大幅には回復しないが、味だけはいいというおやつみたいな感覚だ。それでも血液を飲んだという事実により解禁された能力もあるのだが――時間だ。配信を開始しよう。


「トリックオアブラッド。トリオ・ザ・ハロウィンのブラッディ・メアリーだ。本日は私の記念配信に来てくれてありがとう家畜ども」


 そう言うと私はワイングラスを掲げ、口をつけた。


『お嬢五万人おめでとう』

『こんヴァンパイア』

『コラボ続きで得た偽りの数字で嬉しいか?』


「さて、今日は凸待ち配信だ。皆に私の事を祝ってもらう形になる。――む、さっそく来たな」


 ポコポン、ポコポンというデス子の通話が繋がる音が響く。最初の一人は。


「こんヴァンパイア」

「おい」


 この手のふざけ方をする知り合いを私は一人しか知らない。彼女の立ち絵を用意する。


「トリックオアトリック。トリオ・ザ・ハロウィンのミス・パンプキンだよ~。メアリーちゃん、五万人突破おめでとー」

「ああ、ありがとうパンプキン」


『パンプキン!』

『ユニットの仲間きちゃ』

『こんヴァンパイア絶対に流行らすな』


「でもこんヴァンパイアいいよね。私もこんばんプキンとか言ってみるかな」


『便乗しないでもろて』

『夜しか使えないけどいいんでない』

『それ言ったらこんヴァンパイアも夜だけだし』

『昼はお嬢配信しないけどな』


「まあ、挨拶くらい好きに言うがいいさ。しかしこうして二人で話すのは珍しいんじゃないか?」

「確かにねえ。話すときはいつも大体三人一緒だし。そういやカボチャ好き?」

「なんなんだ突然。人間だった頃はともかく、今は食わんよ。吸血鬼だからな」


 今でも食べられなくはないのだが、栄養にもなりはしないので無駄でしかない。味覚も人間の頃のそれとは別物だ。


『直前の配信で考えてきた渾身の会話デッキ、カボチャ』

『言われた方は大体はぁ? ってなること請け合い』


「人間だった頃はどうなのよ」

「味は嫌いではないが……皮が固くて自分で調理するのは面倒だと思った」

「わかる。私もこれ頭のやつくり抜くのは面倒で眼と口のところは塗ってるわ。どうやって前見てるのかって? 言わせんな恥ずかしい」


『何が恥ずかしいんだこいつ』

『パンプキンにフリートークをやらせるな。終わらんぞ』

『凸待ち一人で終わる危険すらある』


 視聴者が危惧した通り、彼女は喋りまくった。雑談配信で鍛えられた彼女のトークを止められるものはいないかと思われたが、デス子の通話に入ってくる効果音が話を遮った。


「パンプキン、オマエ、ふざけんななの。次はフネの番なの。いつまで待たせるつもりなの?」

「おー、フネちゃん済まない済まない。盛り上がっちゃってねえ」

「盛り上がってたのはパンプキンだけなの。ユニットとはいえ自枠のノリではしゃぐんじゃないの。あ、視聴者の皆さんトリックオアトリートなの。トリオ・ザ・ハロウィンのゴースト・フネなの。今日はメアリーおめでとうの日なの。めでたいの」


『トリオ・ザ・ハロウィン揃った!』

『南無阿弥陀仏!(挨拶)』

『フネちゃんに溺れ隊ここに参上!』


 この二人はボケとツッコミがはっきりしてていいコンビなんだよな……などとしみじみ思ったのでそう口にすると。


「フネ達はコンビじゃなくてトリオなの」


 というありがたい言葉が返ってきた。それはそれとして。


「だが、パンプキンがロリコンでフネが年上好きだろう? どうなんだ、そういう対象として相手を見れるのか?」

「駄目なの。ユニット間でそういう関係になるとメンバー間でぎくしゃくするの。でも、メアリーも一応年上みたいなもんなの。ストライクゾーンにギリギリ入れてやるの」

「私はフネちゃん好きだよ。かわいいし。メアリーちゃんもロリくて好き」


 褒められてるのか、それは。というか私中心に三角関係みたいになるのはやめてほしい。でもそういう仲の良さが欲しくて彼女達もアバターモエクスに入ったんだろうしな。


「そういうメアリーはどうなの。二人のうちどっちが好きなの?」

「選んでよ! 私とこの女どっちが好きなの!?」


 パンプキン、修羅場を作るのはやめろ。


「私は吸血鬼だぞ? 幽霊もカボチャも血が吸えない。仲間ではあるがその点ではお前達は家畜にさえ劣る」


『厳しすぎて草』

『両方ごめんなさいされてるw』


 フネは可愛いしパンプキンも身体が良い。どちらかを選ぶのは角が立つし、かといって両方と正直に言うのも憚られた。身体が良いは酷いだろ。


「はーなの。吸血鬼はむっつりだから素直になれないの」

「おい。誰がむっつりだ」

「素直になれないお年頃ってやつかー、可愛いねえ」


 言いたい放題だ。まあ、実際そうなのだが。


『性癖に関してはオープンだけどな』

『おっぱい好きだって配信中言ってたもんな』

『なぜかたまーに意地張ってそういうの興味ないって顔するんだよな』


 コメントも彼女達の援護射撃に回る。なんということだ。今日の主役を労わる気がさらさらないな。盛り上がってくれるならそれでいいんだが。


「雰囲気が良くないのでそろそろ二人にはお帰りいただくか……」

「図星を突かれたからって強権を振るうのはよくないのー」

「ツンデレだー、ツンデレだー」


 まったく腹立たしい……彼女達もVの皮を剥けばただの人間だ。その人間達にいいように言い負かされるのは吸血鬼の沽券に関わる。そうだと分かっていても、こうして二人と話していると心が安らいでしまう。


「知った事か。帰れ。最後になにか宣伝したいことがあればそれだけ言って帰れ」

「トリオ・ザ・ハロウィン、一番手のフネは二十時から配信してるの。良ければ見てって欲しいの~」

「トリオ・ザ・ハロウィン、二番手のパンプキン。二十一時から配信して二十二時からのメアリーちゃんに繋いでるよ。いつも適当な事ばっかり言ってるから気軽に見に来てねー」


『フネちゃんはビーペックス上手くなってるぞ。面白いから来て』

『パンプキン……お前……。いつも適当な事言ってる自覚あったのか……』


 そうして通話が切れた。今日来てくれると事前に連絡をくれた人はまだ何人もいる。それでもやはりあの二人には特別なものを感じる。これが同期の絆というやつなのだろうか。

 元々先輩相手だろうが人間相手だからと考えて尊敬の念などをあまり持ったりはしない私だが、とはいえあの二人を相手にするのは格別に気楽だ。

 逆に言えば、これから相手する面々はそこまで楽な気分で相手できるような存在ではない。癖があるのは先程の二人もそうなのだが、今から凸に来るのはさらなる強者。しかも、まだほぼ話したことのないような人間も相手しなければならない。祝いに来てくれてるのだからそれはいいのだが……身構えてしまう。

 アバターモエクスの層の厚さを感じるというか、皆々濃い存在である。視聴者のために相手をネタにするか、ネタにされるか。下手すれば食べられるのは自分だ。吸血鬼である自分が情けない姿を晒すわけにはいかない。悠々とした態度で気高さを見せなければ。

 さっきの時点でむっつり扱いだしそんなの幻想だよな。分かってる。でもとりあえず強い言葉で自分を鼓舞したかっただけだ。

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