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淫欲のくじらサーバー

 あの女は危険すぎる。結局帰っていったのは昼頃だ。

 朝起きて銀髪の私を見て盛ったアズキはずっと私に女体の素晴らしさを教え込んできた。柔らかく温かい体は私の冷え切った体に染み渡る。結局何が言いたいかというと、だ。


「おっぱいはいいぞ、という事だ」


 ちなみに現在配信中。女体の良さを広めている。


『やっぱりお嬢もそっち側に……』

『異性に縁がなくて』

『非処女になって吹っ切れたか』


「男は知らんが、女はもっと女と触れ合うべきだろうな。処女なんていつかは捨てるんだから早めに捨てても問題ない。女同士ならヒートアップしても子供はできないだろう。人間でも安心だ」


 いつだったかアズキの事を性欲にまみれた猿のように思ったものだが、今は私も同類だ。あのプレイを味わった今、女性の肉体に溺れたいという欲求がある。


『一人の女がいたとして、その人の処女の血と非処女の身体、どっちが欲しい?』


 なんという難しい質問か。吸血鬼としては血を選ぶべきなのだろうが……


「処女の血は味わったことがないから保留だな」


 ヤりたい盛りの学生のような発言も品が無いので誤魔化した。吸血鬼の誇りはまだ残っているのだ。アズキにベッドの上で打ち砕かれたが、欠片くらいはある。

 そしてまあ、来るわ来るわ。私とアズキの夜の活動についての話題が。アズキの新しい女として認識され、アズキリスナーが登録していき、チャンネル登録者数ももうすぐ五万だ。

 ふざけた話である。ちょっとアズキが私の事を自分の枠で話題に出しただけで四万に近い登録者がポンと湧いてきた。

 ともすると、ハイパーチャット、投げ銭、収益化……色んな呼び方があるが、とにかくマネーを得る手段も一緒に手に入ったのである。

 最初だから……というのも当然ブースト理由としてあるのだが、リスナーは私のようなレズを求め、レズを受け入れてくれている。その手の話題を出すだけでお金をどんどんと投げてくれる。自己肯定感も半端ではない。

 だが、だからといってなんでもかんでも売り払うわけではない。元々は、吸血鬼としての私を求めてくれたリスナーを蔑ろにするほど、落ちぶれてはいないのだ。レズになったのは、うん。アズキのせいだし。


「しかし、レズの吸血鬼というのは吸血鬼の祖に近づいた感じすらあるな……カーミラ殿がそういう性癖だろう?」


『殿って……』

『お嬢、目上の人敬ったの初めてか』

『祖に近づいたからかね。色気出た感じする。それともアズキちゃん様の力かな』


 人間は家畜だと思っているが先輩吸血鬼は別だ。その家畜も女体という利用価値を新しく見出した事で上方修正されている。


「自分で言うのもなんだがね。多少丸くなったとは思うよ。人間の強さを見たからかもしれない。それはそれとしてアズキはいつか倒すが」


『人間の知恵と武器にやられる様はまさしく吸血鬼だった』

『お互いに得意な領域で戦って負けたんだから悔いはないよね』

『アズキちゃん様をライバル視するポジションはハーレムにいなかったから新しいな』

『ユズリハはわりかしライバルだと思う』


 いくらでも血を吸える相手がいれば100%吸血鬼の私でアズキを倒せるかもしれないが、それでいいのだろうか。今の私でリベンジしてこそ、という気持ちもある。負けたらまたデートなのだろうか。

 デートそのものはいいんだが、夜のアレがものすごい恥ずかしい事させられるのが悔しい。


「意志表明をしたところで、今晩は終わりにしよう。また次の夜に会おう……っと、その前にハイパーチャットしてくれた家畜の名前を読むぞ」


 あれあれ団子、竜童、月下……読んでるうちに次から次へと投げ銭が送られてきて止まらない。そうこうしている間に知っている名前が……倉瀬アズキ。文章付きだ。

 この後デス子見てください。とのことだがそんなの裏で言えとしか言いようがない。金額は上限値の五万円。金持ってるな。



 無事放送も終わり、言われたとおりにデス子を見る。するとそこには一つの招待が送られてきていた。鯖名はくじら。入ってみると、そこには一期生と二期生の名前が並んでいた。


倉瀬アズキ「ようこそ。こんばんは。みんなを紹介したかったので来てもらいました。通話入ってください」


 送られてきたチャットの通りに通話に入ってみると、サーバーの参加者は全員通話中だ。


「メアリーさん、こんばんは。今日はよかったですよ」

「死ね」


 開幕セクハラ飛ばしてきたぞこの女。喧嘩売ってるのか。


「まあまあ、落ち着いておくれ。妾は内藤ナイン。一期生じゃぞ」


 知っている。着物を着ていて、青髪のナイスバディなお姉さんといった格好をした人だ。


「全員一度に覚える必要はないからね。私、汐井レナ。一期生。よろしく」


 彼女は3Dモデルを貰ってから桃色髪でロリ巨乳な外見を活かして踊りで人気を集めている。彼女のファンの名称は汐井レナイトだ。


「……まさかここで会うなんてね。私は流石にあなたとここの主目的で会う事はないでしょう。松葉チユリ。一応、あなたの母ってことになる一期生」


 お母様。赤髪ロングなストレートの髪形が素敵。主目的ってなんだろう。


「千鶴木ユズリハ、二期生。俺様としてはあんたと気が合うと思うんだよなぁ」


 銀髪でちょっとガラの悪い少女。イキってて吸血鬼からしてみれば可愛いものだが。


「日真コノエ! 二期生! 好きなことはゲーム! よろしくね!」


 元気いっぱいの緑髪少女。アズキほどじゃないが、ゲームの腕は確か。それはユズリハもそうなのだが。


「灰音クライネ。二期生……よろしく」

「灰音ナハトム。二期生……ボクのこともよろしく」


 黒と白のゴスロリ。灰音クライネ、ナハトム姉妹。配信をいつも二人で行っていて、ズレも感じない事から実の双子じゃないかと言われている。


「ここが一期生、二期生の裏サーバー……通称くじら鯖です」


 腹が立つくらいに穏やかな声でアズキが語る。


「なんで五期生の自分が、と思われてるかもしれませんが。理由は簡単です。私と一晩を共にしたからです。そして、ここに入っているメンバーは人肌恋しい時、会えないか相談して可能なら女と女の関係を楽しむ場所なんですよ」


 何か凄い事言いだしたぞ。


「つまりここは、ちょっとした出会いの場ってことか?」

「そういう事になります。私に抱かれたのを忘れられない皆さんが、私がいなくても欲求不満にならないために考えた運営は黙認のエリアですよ。私も出来る限り皆さんと遊びたいですが、私の身体は一つなので……余る人が出ないようにしたいな、と」


 とんでもない話だ。


「ここはその、そんなに使われてるのか」

「はい。実はアバターモエクスって都内在住の人間だけで構成されてますから。会おうと思えば結構簡単に会えるんですよ」

「そうか……じゃあ、もしも今挙手したら誰が相手してくれるんだ?」


 まさか、そんな事はありえないだろうと思いながらも聞いた。


「妾はよいぞ」

「私もオッケー」

「……母親とそういう事したくないでしょ?」

「俺様もいいぜ。楽しませてやる」

「日真はもうちょっと仲良くなってから決めたいなあ」

「ナハトムと一緒でいいなら……」

「クライムの言う通り……」


 賛成5、反対2。とんでもない話だ。しかもそのうち一つは3Pでヤると言う。


「た、例えの話だ。まさかそんな淫乱の集まりだとはな」


 慌てて皮肉を返す私を、アズキは僅かに笑い声を口にしながら一つ問いかけてきた。


「なぜここがくじらサーバーだか分かりますか?」

「ん? いや……」

「鯨の潮吹き。ここにいる皆さんしてるんですよ。動画もあります」


 ぞっとした。それはつまり、昨日の夜……


「と、撮ってあるのか? 私の……その、瞬間のシーンを」

「それどころか、みなさんに共有してありますよ。あ、メアリーさんもここの鯖のチャット欄探してみてくださいね。みなさんの分をメアリーさんも見れないと不公平ですから。

 で、何が言いたいかといいますと」

「あ、ああ……」

「あんなに勢い良く噴いておいて、よく人に淫乱だなんて言えましたね?」


 顔から火が出そうだ。まさか、最中に撮影されていただなんて! 絶句する私に、アズキは続ける。


「そう、ここにいるみなさんは淫乱だ。私も含めて。だから、いいじゃないですか。寂しい時、人を呼んで温め合っても……異性間なら、多くの人がやってる事です。そして、私達はレズだ。ともなれば、やる事は一つですよ」

「それが……Vtuberグループ、アバターモエクスの裏の顔……?」

「はい。とはいえ、まだ三期生や四期生には手を付けてないです。さすがに黙認されてるとはいえ怒られそうだったので……今回はメアリーさんと絡むいい機会だったから利用させていただきました」


 興味が、あった。アズキ以外の女体も味わってみたいという欲求が。女同士の触れ合いには尊さすら感じている。だが。


「わ、私はVtuberだからな。それも吸血鬼。だから、夜はどうしても忙しい」

「オフコラボしますか? それか、休日だけとか」


 逃げ道が塞がれている。私の言い訳がどんどん通用しなくなっていき、やりたいという欲望が前へ前へと現れてしまう。


「アバターモエクスに入る前から思っていた。一期生と二期生は仲がいいなと。身体の関係があるからだったんだな……」

「そういうことです。そして、メアリーさん。今日から貴女もその仲間ですよ……」


 その囁きに私は心を震えさせ、後戻りのできない一言を言ってしまった。


「ナハトム、クライム。さ、3Pさせてほしい」


 私は、私の知らない幸せな体験をしたいと願ってしまう。


「いいよ……」

「はじめての相手、どきどきするね……」


 興奮でくらくらする私に、アズキは正当化するかのように声をかけてくる。


「これでアバターモエクス間の仲はもっと深まりますよ……」


 ああ、それはいい事だ。

 私は家に灰音姉妹を呼ぶことを決めた。

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