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VSアズキちゃん様

 とりあえず、倉瀬アズキの情報を仕入れる事にした。ササヤキでアズキ先輩と戦う事になったんだけど弱点を教えてくれ、と呟いたところ。


『アズキちゃんと勝負か。負けたな。今のうちに身体洗っといた方がいいよ』

『お嬢もレズ堕ちかー。まあ吸血鬼だし処女に執着しても違和感ないか』

『弱点は可愛い女の子だよ。つまりお嬢が弱点だから大丈夫。問題は得意な相手も可愛い女の子な事か』


 だとかそんな感じでまったく役に立たない。分かった事はアズキとの一日デートでお泊りするとレズになって帰されるという事だ。まったく何をされるのやら。……いや、だいたい分かる。ナニされるのだ。それも、一期生や二期生は全員堕としているという手管で。若干のドキドキが隠せない。心臓動いてないのにな。

 とにかく、得意なのは遠距離武器全般。相対的に近づけばチャンスがあるという事だ。

 得られた情報の少なさに歯噛みしながら、私はパソコンの中の電脳空間で眠りについた。あまりにアズキの事を考えていたからだろうか、ビーペックスでスライディングを駆使しながら私を翻弄してきたあの時の彼女の夢を見た。


 対策らしい対策も考えられず、コラボの時間だ。私は望まれた通り、ゲーム世界に侵入してのプレイとなる。まあこのゲームならそれこそMOD扱いで許されるだろう。無理か。でもアズキが許可取ってくれてるらしいのでおんぶにだっこだ。


「トリックオアトリート。トリオ・ザ・ハロウィンのゴースト・フネなの~。今日は大先輩と一緒で緊張してるの」

「トリックオアトリック。トリオ・ザ・ハロウィンのミス・パンプキンだよ。いやあ、こんな機会が来るなんてね。メインクラフトのモエクス鯖にも興味あったしありがたい」

「……トリックオアブラッド。トリオ・ザ・ハロウィンのブラッディ・メアリーだ。今日は正直対戦の方に集中している。負けられないからな」

「トリックオアガール。なんて言ってみたりして。女体大好き倉瀬アズキです。今日はトリオ・ザ・ハロウィンの皆さんと一緒にモエクスサーバーをぐるりと一周回っていきたいと思っています。その後、メアリーさんとのデートを賭けた一騎打ちを挑みます。リスナーの皆さん、楽しみにしててくださいね」


『トリオ・ザ・ハロウィン初見だわ』

『ハーレム増やすと一期生二期生のセフレ達に怒られるぞアズキちゃん様』

『セフレとか言ってやるなw』


「しかし、この四角っぽい世界でがっつりと人間型してるメアリーさんは浮きますね」


『確かに』

『なんかコラっぽい』

『頭身だけ他のメンバーと一緒でなんか草』


 それは私も思う。スキンで色合いこそそれぞれのメンバーだが、だいたいの形は私を除いてみんな一緒だ。ちなみにアズキは紫髪の両メカクレだ。これは普段の立ち絵からそうなのだが。

 ちなみに目の動きを配信用のスマホがきちんと認識していないところを見る限り、リアルでもメカクレの髪形をしているのだろうとファンの間では噂になっているらしい。私は負けたらその真偽を嫌でも確かめる事になるわけだ。


「それじゃあ行きましょうか。湧きつぶしの松明は取らないでくださいね。まずは建築物の集まっているメインタウンから――」


 そうして始まったアズキの紹介はなかなかに面白かった。ホテルを再現した高層物件や増築を繰り返し続けて未だ完成が見えない迷路、特に意味はないけどなんとなく格好いいで作った彼女自身のオブジェなども案内された。マップは広くて、何度も朝と夜を繰り返していた。

 そうすると、まあ。当然あの事について突っ込まれる。


「メアリーさん、朝になると銀髪銀眼になるんですね」

「ああ。この状態では吸血鬼らしい力もだいぶ失われている。やはり吸血鬼が強いのは夜だからだな」

「つまり私は決闘において時間稼いでれば勝てそうですね。いやあ、デート楽しみです」


 しまった。自分から弱点を喋ってしまった。というかこの女、具体的には知らなくても吸血鬼が太陽に弱い事くらい知っているはずだ。だとすれば、元から時間稼ぎは選択肢に入っていると考えて良い。食えない奴だ。


「しかし、そうすると戦闘エリアはどうしましょうかね。洞窟の近くとかにして、いざとなったらメアリーさんが逃げ出せるようにした方がいいですかね。さすがに洞窟の中からスタートは私不利すぎるのでやめておきたいですけど」

「……なんだと?」


 複雑ななんだと、である。吸血鬼であるこの私が逃げるとでも思っているのかというなんだと、でもあるし、自分から洞窟付近なんてこちらに対する好条件をつけてくる事に対してのなんだとでもある。


「道具はなんでも使っていい事にしましょう。私は自分の作った装備使いますけど、メアリーさんも必要なら何か使います?」

「いや、いらん」


 いざとなったら飛行する事も考えれば重い防具はつけられない。そして、武器は私の素手のほうが強いだろう。


「場所はどうしますか? 洞窟近くがいいのであればそうしますけど」

「……いや、森のそばにしよう。太陽光が多少入るくらいがフェアだろう」

「では、そのように。ふふふ、よかったですね」


 軽く微笑む彼女が不思議で仕方が無かった。


「なにがだ」

「近くの洞窟は爆弾をたくさん仕掛けてまして。油断して入り込んだら追いかけた私の弓矢が起爆してドカン。私の勝ちでした」


 恐ろしい女だ。こちらに有利な提案は罠か。そうなると案内される森も危険だろうか。


「……平原にしよう。さっさとケリをつけてやるから朝になる心配などいらん」

「ありがとうございます。そう言っていただけるように誘導した甲斐がありました」


 なんだこいつは! どこまで本気で言っているのかまるで分からん。他人の言動を読み切っていると言わんばかりの発言を大人しい声色で言ってくる。強い感情を発しない、静かな強者の雰囲気を感じざるを得ない。


「そろそろ紹介も終わりですので、戦いましょうね。パンプキンさん。フネさん。行きましょうか」

「はいなの」

「はい。案内していただいてありがとうございました」


 三人が歩いていくのを後ろから見ている。不安を感じた。飲まれてしまっている自分がいる。大丈夫だ。負けてもたかがデートだ……何か無理強いされたら拒否すればいい。いや、彼女はそのくらい読んでいる? 違う、そもそも今から負けた時の事を考えてどうする。私は勝つのだ。吸血鬼の誇りにかけて。



 整地してある平原を、パンプキンに頼んで選んでもらった。これで罠は無いはずだ。

 時間も夕方。髪と眼が色を僅かに取り戻していく。


「フネさんとパンプキンさんに土ブロックを置いてもらったので、その中で戦います。この外に出てしまう、体力をゼロにされる、ログアウトしてしまう。敗北条件はこのくらいでいいでしょうか」

「ああ」

「私が勝ったらキスありのデート、それ以上は要相談。メアリーさんが勝ったら私に吸血していい。これで間違いありませんね」

「そうだな」

「どっちにしろ私は貴女にリアルで会える。そのメリットが存在していた事には気づいてましたか?」

「……」


 沈黙で返すしかなかった。話せば話すほど、お釈迦様の掌の上にでもいるような感覚に陥ってしまう。


「さあ、そろそろ夜が始まりますよ。楽しい夜になるといいですね」

「楽しい時間はすぐ終わるという事を教えてやろう」


 お互いが土ブロックの両端に位置取り、準備完了。そして、陽が落ちた――


 それと同時に射出される矢。その発生源はもちろんアズキ。狙いは正確で、私の頭を的確に打ち抜き……はしなかった。ハート10個を最大体力として、0.5しか削られない。加えて、吸血鬼の再生能力でそのダメージもすぐに回復。

 そうか、確かにアズキは厄介だ。だが、ゲーム内の武器は恐れるに足りない。私を倒しきるための火力が無かった。

 気付いた私はただ愚直に、前へ向かった。飛んでくる矢は的確にこちらの頭を狙い、ダメージを与えてくるが、ゲームの仕様で多少のノックバックが発生するだけだ。

 あと一歩近づけばダイヤ装備のその身体を貫くであろうと拳を握りしめたところで。

 アズキが、弓を弓に持ち替えた動きをした。

 放たれる射撃は一発で私のハートを四点削り、僅かにノックバックしてもそこは射程圏内。追撃の射撃が連発で頭に決まり、私は死亡した。

 リスポーンした私は茫然とするばかりであった。そこにトリオ・ザ・ハロウィンの仲間二人とデートする事が決まった相手が迎えに来てくれた。


「……で、なんだあれは」

「弓ですか? 単純な仕掛けで、弱い弓使って油断して近づいてくるところを強い弓に切り替えて逃げられない距離で連射しようって作戦です」

「そうだよな。気付いた時にはもう遅かった」


 どうしようもないくらいに敗北だった。弓のダメージが少なかったから油断した。まさか最初から全力でこないとは思いもせずに。


「……ちなみに、森を選んだ場合の対処方法はどうしてた?」

「火打ち石で森全焼させてました」


 やっぱこの女やばいな。


「それでデートなんですけど、明日とかどうですか? 都内住みですよね?」


 めちゃくちゃぐいぐい来る。ちょっとコメントを見て現実逃避。


『アズキちゃん様×メアリーちゃんてえてえ』

『ハーレム入りおめでとう』

『お嬢、非処女になっても幸せでね』


 逃げ場なんてなかった。というか男に食われるのは嫌がるくせに女同士ならてえてえってなんなんだ。同じ性行為だろ。いや性行為もせんわ。


「……明日でいい。ただ、配信はいつも通りにやらせてくれ」

「それじゃあ、どっちかの家でお泊りしましょう。本当はラブホのつもりだったんですけど」


 あ、性欲を隠すつもりも無い猿だ。というかこの女、本当頭良くて手玉に取られるから警戒しないと駄目だわ。本当にヤられる。

 そんな感じで若干ピンクな雰囲気で配信終了。

 デス子には明日の打ち合わせをしたがるアズキが連絡待ちだ。

 とりあえず泊まるのは家を知られる危険を考えても我が家にすべきだ。なにしろ家には眷属がいる。なにかあれば眷属を操ってアズキを引き離す。私は電脳空間に逃げ込む。それで問題ない。


「もしもし、明日は我が家に泊まってもらおう」

「メアリーさん、配信お疲れさまでした。それではそのようにしましょう。夜はそれでいいとして、朝からのデートコースは――」


 そうして始まった次の日のデート。私は朝から吸血鬼の力の無い姿で待ち合わせる事に。この状態で押し倒されないかが不安だ……などと思っていたが、彼女は紳士的だった。ちなみにメカクレ黒髪ロリ巨乳という立ち絵よりも属性盛り盛りなのが彼女のリアルだ。

 そして何事も無く私の家での配信も終えて……その本性が明らかになる。


「チユリさんがね。言ってたんですよ。吸血鬼は魔族。魔族は約束を違えない……契約だからって」

「なるほど、それで?」

「キスをします」

「そういうルールだからな」

「ここに、します」


 そういうと彼女は私の下腹部を撫でてくる。


「おい、まさか――」


 彼女は私の下着を脱がせると目的を達成しようと狙いをつけて。


「ディープキスです」




 彼女は極太ディルドを用意していて、私は処女を失い……レズに目覚めた。

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