降臨・倉瀬アズキ
FPSめちゃうまレズ少女。それが倉瀬アズキという一期生の評価らしい。
つまり私達は最初からラスボスに当たってしまったという事だ。スナイプしたのはいいとして、落下地点まで同じなんて偶然あってたまるか。と、思っていたのだがどうやら倉瀬アズキの方でも配信していて、ジャンプリーダーがアズキで無かった事は確認されていたようだ。だがややこしい事に、このジャンプリーダーがアズキと私達目当てのリスナーの可能性があり、そいつはゴースティングの疑惑があるようだ。
リスナーである事も可能性でゴースティングの疑惑って結構無理がある気がしなくもないが、私達とアズキを鉢合わせさせたかった何者かって考えると違和感が無いのも事実だ。実際、倒したフネからハンドガンを取らずにアズキに譲るような動きを見せていたから。自分も素手なのにそんな動きをするという事はアズキが強いのが分かってないとやらないムーブだ。
ちなみにあの後、パンプキンも即座にやられた。私が倒されたって事はアサルトライフル持ってかれたからね。そりゃ鬼に金棒だ。
で、そこからの私達の二回目以降のプレイはと言うと。
「アイテムを取る時はきちんと頭を振るの。ヘッドショットを貰う可能性があるの」
「相手より高所を取ると、いいらしいよ。理由は知らないけどね~……ん? なるほど、ちょっと下がるだけで相手の銃撃から身を守れるからか、なるほど。コメントありがとう」
アズキ戦に触発されたのかFPSの基礎を学んで次はいい勝負をしようと息巻いていた。フネは影響されたのかアズキと同じ射手を練習するようになっていて、直接やられたのは私なんだから熱くなるべきは私なんじゃと思いつつも、今回のコラボの提案者だしと思いながら熱中するフネに付き合っていた。
そして0時が過ぎて、コラボも終わろうとしていた。
「今日は楽しかったの。二人ともありがとうなの」
「いやいや、こっちこそ楽しかったよフネちゃん」
「ああ、いい夜を過ごせた」
『しょっぱなのトラブルにはまいったね』
『アズキちゃんとの実質コラボよかったよ』
『すぐやられたけどね』
まとめに入るとコメントもすぐ最初の戦いの話になってしまう。今回は完全に倉瀬アズキに食われたな。初回コラボなのに。
「次回もすぐやりたいの~」
「明日……いや、もう今日か。とにかく空いてるよ。メアリーちゃんは?」
「基本夜は暇な存在だ、私は。リアルの事は眷属に任せっぱなしだしな」
早くハイパーチャット貰えるようになってアナザーブラッド代くらいは自分で稼ぎたいものだ。時期的にはそろそろだと思うのだが……
「メアリーちゃんって、夜は配信以外何やってるの? 吸血鬼の活動って知りたい。興味本位だから答えられないならいいけど」
「散歩する程度か。よく迷子と間違われて警察に補導されそうになるから魔眼で眠らせたりして回避してるよ」
「それ大丈夫なの? 本来見つかるはずだった犯罪が警察眠らせたせいで見つからなかったとか問題になるの」
フネの厳しい指摘だ。なるほど、考えたことも無かった。
「それならいっそ、夜は警察に代わってパトロールでもしてやるか。ふふ、吸血鬼は夜の味方だからな」
『夜歩いてればお嬢に会える……?』
『日本中歩き回って探す気か』
『いや、都内でしょ。前に言ってた覚えがある』
身バレも何もない姿だから構わないのだが、集団に発見されてオフ会みたいになるのはあんまりな。……そうだ。
「私を探すなら、ついでに家畜共もパトロールしたらどうだ? 怪しい奴を捕まえろとは言わんが、ストーカーを追い払うくらいなら貴様らでもできるだろう」
面倒事押し付ければ私を探したがる奴も減るだろう。そう思っていたのだが。
『自警団……悪くないな』
『なんか名前決めようぜ』
『ナイトシーカーとか』
『それ怪しい側じゃね?』
なんでノリノリなんだこいつら。お、いい名前発見。
「ヴァンプ・ナイト。いいじゃないか。ベタだがナイトが夜と騎士をかけてるわけだな」
『お嬢が納得した名前出たって事は決定だな』
『我々はヴァンプ・ナイト! お嬢の家畜である!』
『しまらねえwww』
つい口を出してしまった。これで自警団の活動も決定か……なんか面倒事が増えた気がする。
「私達も混ぜて欲しいなあ。別に私に会えるとかないけど、うちのリスナーも無理のない範囲で自警団しておくれよ。名前はパンプキン・ナイト!」
「フネも負けてられないのー。こっちも自警団結成なの。名前はゴースト・ナイトなの~」
事態がややこしくなってしまった。この連中がむしろ怪しいからという理由で捕まらない事を願うばかりだ。
「さて、自警団やるって事が決まった所で今夜はお開きだよ。二人とも、終わりの挨拶だ。本日のお相手は」
「ゴースト・フネと」
「ブラッディ・メアリーと」
「ミス・パンプキンでした!」
そして三者三様の挨拶。
「またねなの~」
「また夜に会おう」
「ばいば~い」
配信終了。お疲れ様とお互いを労い合い、穏やかな時間が流れる。
「アズキさんとマッチングできるとはねー。いやー強かった。こっちのスライディングに全部エイム合わせられて死んじゃった」
「あの人、普段は一人ならランクにしか潜らないの。フリーに入ってきたのはフネ達を狙ってきてたの」
「話題も持ってかれたな。一撃も与えられなかったのは技量の差を感じるよ」
などと話していると、パンプキンが慌てた様子でちょっと待っててと言って通話を切った。
「なにかあったのかなの」
「今日はこのまま解散かね」
「でも待っててって言ってたの。きっと何かあるの」
それもそうか、と納得してフネとビーペックスの話で盛り上がる。するとパンプキンが戻ってきてこう言った。
「アズキさんが良ければ話をしないかって。一期生サーバーで待ってるからって」
「それはまた……緊張するの」
「とはいえ先輩も先輩。最上位からの呼び出しだ。答えないわけにもいくまい」
ちなみにチャンネル登録者数50万人超えしている大物だ。一期生でもトップである。
我々はトリオ・ザ・ハロウィンサーバーの通話を一度切り、倉瀬アズキの待つサーバーへと出向いた。
「やあやあ、わざわざありがとうございます。トリオ・ザ・ハロウィンのみんな。私が倉瀬アズキです。こうして話すのは初めてですね」
「ど、どうも。ミス・パンプキンです」
「フ、フネがフネなの」
「吸血鬼のメアリーだ」
敬語を使わない私にぎょっと息を呑む雰囲気を感じた。しかし、倉瀬アズキは気にした様子を見せなかった。
「私がゴースティングしたわけじゃなかったんだけど、一緒に組んだ人は私のリスナーだったんじゃないかって事で謝っておこうと思いまして。すみません」
「いえ、お気遣いなく……」
「そこで、お詫びというわけじゃないんですけど、今度メインクラフトのアバターモエクス鯖紹介させてもらえればなと思いまして。時間あります?」
別に嫌という訳じゃないが、断れないやつだなこれ。
「明日はコラボで集まるの。その後とかなら……なの」
「ああ、じゃあ配信で私とメインクラフトコラボ配信やりましょうか」
「えっ、アズキさんと一緒に!? いいんですか!」
「もちろんです。明日の何時からがいいです?」
穏やかな口調が人々を安心させるのだろう。彼女の喋り方は、配信でなくても常に穏やかで、さざ波一つ立つことが無い。
「コラボの予定そのものをアズキさんとのコラボに変えるの! こっちは19時以降から0時までなら大丈夫なの!」
「ああ、そうしよう! 私もそのくらいの時間なら何時からでも大丈夫です!」
二人は浮足立っているが、私は冷静だ。いくら先輩でチャンネル登録者数が上だとしても、私は吸血鬼。人間の下につくつもりは無い。
「私も問題ないな。詳細は任せよう」
「わかりました。では21時開始にしますね。それでは皆さんもササヤキで緊急コラボの告知をしてもらえればと思います
ああ、そうだ。メアリーさん。運営から許可は取りますので、ゲームの中に直接入ってもらえますか?」
「構わないが……なぜだ?」
「鯖の紹介終わったら対戦しましょうよ。私弓使いますから負けませんよ?」
まさかの決闘の申し込み。これは吸血鬼の誇りにかけて負けられない。ビーペックスのリベンジだ。
「いいだろう。人間と吸血鬼の差というものを見せつけてやるさ」
「よかった。楽しみにしてますね」
気迫を感じさせない声だ。本当に、ちょっと試してみたいだけと言った感覚。吸血鬼に挑むのだという畏れというものを覚えていない。舐められているのだろうか。
「その余裕、いつまで持つかな」
「そういうわけじゃないんですが……そうだ、これ言うと一期生や二期生のみんなに怒られちゃうと思うんですけど、私が勝ったらデートしてくれませんか。リアルで」
「は? デート?」
「はい。ちょっとは身体を触っていいくらいの、女の子同士のデートです」
そういえば彼女はそういう趣味があるのだった。小学生の頃から、彼氏の出来た女の友人の気を引くため、気持ちいいことごっこという身体の接触で心を繋ぎとめたという生粋のレズ。狙われたのだろう、私は美少女吸血鬼だからな。
「ちょっととはどのくらいだ?」
「少なくともキスはします」
断言した。こいつやばい。
「……私が勝ったら何をしてくれる?」
「血を吸ってくれていいですよ。アナザーブラッドだけじゃ物足りないんでしょう?」
そんな話も、雑談でした。という事は彼女、私の配信を見ているという事になる。どれだけの情報が流れていることやら。
「ビーペックスとは違うぞ。ゲームの中に入った私は吸血鬼としての力を出せることになる」
「20%だけですよね? それならいけるかなって」
挑発だ。しかし乗ってやろう。
「鯖を案内してもらった後、メインクラフト内で夜になったのを合図にスタート。それでいいな」
「はい。楽しみにしてますね」
この時から私は、その変わらない穏やかさに多少なりとも恐怖を覚えていたのは事実だ。