スマプラ恩赦とビーペックスコラボ
当然、チートして良いと言われるわけもなく注意を受けたわけだが。
忍転道の方にマネージャーが連絡をしたところ、むしろ全キャラと一回戦ってみてくれと言われたらしい。それでチャラにしてくれていいよ、と。
まあ、疑わしい事だ。なんでそんな条件を付けるのかと。
理由は簡単に思いつく。吸血鬼である私の弱点探しだ。
お誂え向きにスマプラにはリヒトとサイモンというキャラがいる。こいつらはヴァンパイアハンターで聖水とか使うので、そういうのが効くのか試したいのだろう。
とはいえ、やらかしたのは事実だしハイスペックなゲームキャラとゲームという土台で戦うならともかく現実の人間が準備を整えたところで負けるわけもないので有難くその恩赦を受け取る事にした。
「トリックオアブラッド。トリオ・ザ・ハロウィンのブラッディ・メアリーだ。ご機嫌よう家畜共。結局昨日のスマプラは運営には怒られたわけだが」
『残念ながら当然』
『駄目だったかー』
『MODみたいなものって扱いにはならんか』
「忍転道さんの方からはむしろそれで一回全キャラと戦ってみてくれというお達しが入ったらしい。ということで今日もスマプラだ」
『さすが』
『ふとっぱらだぜ』
『器が違うわ』
忍転道を称えるコメントで溢れている。そこにどんな裏があるかもしらずに……とはいえこれで本当に私の情報を集める目的が無いとしたら私はとんだ恩知らずのピエロだな。一応感謝しとくか。
「とりあえずヒゲオから倒していくぞ。金曜夜にトリオ・ザ・ハロウィンのコラボ配信あるからそれまでに終わらせてやろうと思う」
視聴者数三千オーバー、この中に忍転道の社員は入っているのか。それとも忍転道にこの条件を付けさせた何者かが見ているのか。それとも何の敵意も無いのか……それは分からない。今やれる事は忍転道のオールスターと戦う事だけだ。スウィッチの中に入り、世界的に有名なヒゲと帽子の男に立ち向かう。
初撃はヒゲオの火球飛ばしからだった。私はそれを固形にした影を操作し、盾にして受ける。
殴りかかったところ、スタービィほどの発生フレームを持たなかったらしくヒゲオに後の先を取られるようなことはなかった。続けてもう一撃と行こうとしたところでガードをされたので、掴んで地面に叩きつけてマウントを取って何回も殴りつけ、最後に蹴飛ばした。
それで場外に吹っ飛んでいき、復帰しようとしてきたところを血液を固体化した槍を投げつけて阻止したところ、画面外まで吹っ飛ばしてゲームセット。
まずは一勝。だが、対戦相手はまだ七十人以上いるのだ。勝利のアナザーブラッドを飲み、消費したゲージを回復させる。私の吸血ゲージはリアルに連動しているので、消費したまま次の戦いに行くとゲージも少ないままに戦わなければならなくなる。そして、戦闘中にアナザーブラッドを飲んでる暇はない。
続いてのニテール戦は楽なものだった。兄弟だけあってヒゲオと大して変わらなかったし、自分自身をロケットのように飛ばしてくる攻撃を私の反射神経であっさり迎撃して殴ってやれば地面に埋まった。そこを血液斧で重い一撃を加えてやれば、簡単にダメージは蓄積して後は吹っ飛ばしてやるだけだ。
ドンク・ゴリラとは力比べだ。長いリーチの腕に対してこちらも私の細腕で拳をぶつけ合い、互いにダメージを与えあった。途中掴まれて持ち上げられ、地面に叩きつけられたりもしたが吸血鬼は頑丈だ。そのまま両足で蹴りつけ、軽く吹っ飛んだところを空中でコンボを入れて画面外に送ってやった。
と、まあそんな感じで楽しく戦っていて分かったが、私は戦う事が好きらしい。血が騒ぐというか、負けるものかという反骨心のようなものをくすぐられる。
配信自体も好評だ。曰く、新鮮である、と。それはそうだ、新キャラ参戦みたいなものだし、動きだって特定の行動しか取れないキャラクター達より自由度が高い。
あと画面右下の立ち絵も自由自在に動いている。殴ったり蹴ったりする激しいアクションが正面からカメラに映るような形のようだ。そのせいでゴリラに持ち上げられてる間はパンツ丸見えだったらしい。というか蹴りの時はチラリしてしまうのでそれ目当ての層も少なくないようだ。
そんな感じで一日二十戦以上戦う楽しい日々が続いて三日目となった十一月四日、水曜日についにヴァンパイアハンターと戦う時がやってきた。直前には鋭い尻尾の怪物リドルと戦ってウォームアップは万全。集中力も高まっている。
そんなわけで行われたリヒト戦。長い鞭による攻撃で私は遠距離攻撃を余儀なくされる。血液武器ブラッドウェポンや影を伸ばしてその中から固体となった影が飛び出す攻撃……リスナーのつけた名称、影鬼による攻撃をしてダメージこそ与えていたのだが、しょせんは吸血ゲージ最大が20%なだけあってすぐ消費しきってしまった。なにしろ、相手は遠距離への飛び道具も得意技なのだ。この状況で私は近接攻撃に移るしかない。
もしくはアナザーブラッドを飲むわけだが、とてもじゃないが戦闘中にできる行動ではない。少なくとも相手を吹っ飛ばしておかなければ。
仕方なく殴りに行ったその瞬間、瓶が投げつけられたのを見逃さなかった。私はそれを素手で受け取めるが、痛みを感じて落としてしまう。
瓶が落ちると瓶の中身がぶちまけられ、聖水が燃え上がる。どんな仕組みなのかと言われても、それはそういう技だとしか言えない。確かなのは、私がこの攻撃を直撃してしまったと言う事だ。
そのダメージ量、60%。露骨な威力に私は顔をしかめた。
『ありえんほど食らった』
『やっぱ聖水は弱点なのか』
『吸血鬼だもんな』
聖水に拘束されている間、私はそんなコメントを眺めていた。弱点が明かされる事になったが構わない。肝心なのは、ここからどうやって勝つかだ。
などと考えていると、聖水の炎上拘束が終わると同時に鞭で殴られる。遠距離攻撃同士のやり合いで与えられたダメージを合わせればこれで蓄積ダメージ120%。吹っ飛ばされた私はこれ幸いと一つの手段を取る事にした。
「吹っ飛ばした時だけじゃなくて、吹っ飛ばされた時でもアナザーブラッドは飲める……!」
空中でアナザーブラッドを口に含み嚥下し、復帰阻止に投げてくる斧を霧化で躱しながら、私は地面を掴み、復帰阻止の為に崖際まで近寄ってきていたリヒトの裏に緊急回避で回り込んだ。鎌のブラッドウェポンを作り出し、リヒトの足に引っ掛けて転倒させる。そのまま大斧へと血液武器を変化させ、大ダメージ&吹き飛ばし。
このまま復帰力の低いリヒトを復帰阻止してとどめを刺してもいいのだが、こいつには聖水の借りがある。
私は崖際で力を溜めることにした。戻ってきたリヒトが先程私がしたように裏に回ったところで、影鬼を解放。全方位に広がった影から剣を発生させ、上に吹き飛ばして相手が星になってゲームセット。私の勝ちだ。
え? 次サイモン戦? もう一回似たようなのと戦う必要があるのか……しんどいぞ。
結局また辛勝してその日は終了した。宣言通りに木曜日にスマプラオリジナルキャラクターにカップ頭の格好をさせた最後の敵を倒してノルマ達成。ちなみにここまでステージはエンドライン。たくさんステージがあるにも関わらず、だ。理由はシンプルで、背景が夜なのがここだからだ。バトルラインなんかもよく遊ばれるステージなのだが昼の背景をしているので吸血鬼には辛い、と説明するとリスナーも納得した。
金曜日となり、トリオ・ザ・ハロウィンのコラボが開始されようとしていた。
「トリックオアトリートなの。トリオ・ザ・ハロウィンのゴースト・フネなの~」
「トリックオアトリック。トリオ・ザ・ハロウィンのミス・パンプキンだよ」
「トリックオアブラッド。トリオ・ザ・ハロウィンのブラッディ・メアリーだ」
『初コラボ! 待ってた!』
『五期生コラボいいぞー』
『ビーペックスやるんだっけ』
「さて、動画タイトルにもある通り、今回はビーペックスレジェンズやるよ。私はちょっとだけやったことあるけど二人はどうかな?」
ミス・パンプキンの質問だが、これは元々裏で相談済みだ。リスナーに聞かせるという目的が正しい。
「フネもちょっとだけあるの。でも企画者としては情けないところ見せられないの。頑張るの」
「私は全然だ……起動確認した程度だな。ちなみに銃を撃つゲーム自体、世界防衛軍シリーズを触ったことがあるくらいか。敵が人間のものはほとんどやった事が無いと言ってもいい」
『いいよね世界防衛軍。シンプルで』
『最近のキャラは言うほどシンプルでもないがな』
『バトルロイヤルものは全然勝手が違うぞ』
「まあ、そんなわけで今回は初心者三人。温かく見守って欲しいね。今回司会的なポジションだから面白い事言わなくてごめんね。この二人には任せにくくて」
「はーなの。パンプキンは何もわかってないの。フネが本気を出せば司会なんて楽勝なの。船を沈めるのと同じくらい楽勝なの」
「まったくだ。家畜の調教と同じくらい楽勝なのだがね」
「その凶暴性が不安を掻き立てるんだよなあ……」
『頑張れパンプキン』
『ネタ枠から不遇枠に』
さて、そろそろビーペックスレジェンズについて詳細な説明をしたい。三人一組のバトルロワイヤルゲームなのだが種族と職業が存在し、この二つを選ぶ事で特殊能力が決まる。そして、組んでいる三人は同じ種族職業は選ぶことが出来ない。つまり、一人が人間・戦士を選んだら他の二人は別の種族と職業を選ばなければならないのだ。
そうなると、野良でやる場合には不可能だが、今回のように一緒にやるプレイヤーと事前に相談できるならしておくに越したことがない。
「私は吸血鬼をやるぞ、職業はこだわらない」
「フネは最初ゴーストやるけど、弱かったら切り替えるの。生前はもしかしたら別の種族だったかもしれないの。職業も強いのがいいの」
「私はさすがにジャックオーランタンなんてないからなあ。自由にやるよ」
吸血鬼は建物の中で強化される種族となる。そうなると相性のいい職業は……
「吸血鬼・狩人。これだな」
「罠知識と罠作成を持ってるからトラップの作成と解除が得意な職業だね。建物の中でひきこもるのは強いかもね」
「フネはとりあえず戦士からやってくの。ヘッドショットで受けるダメージを軽減してくれるから安定した防御力が期待できるから強いはずなの。ヘイトアップも持ってるから相手はヘイトを溜めたフネしか見えなくなる時があるの」
このゲームはFPSには珍しくヘイトの概念がある。ヘイトが高いと同じグループに存在しているはずの他キャラクターが見えにくくなる。最大までヘイトを溜めれば一度攻撃に当たったり当てたりするまでは他の仲間は不可視だ。
「じゃあ私は獣人・レンジャーで索敵と回復を担当しようか。応急処置が強い」
それぞれの役割が決まったところでマッチングを開始する。当然だが、私はゲーム侵入を行っていない。オンラインのゲームでやろうとは思っていないからだ。オフラインでも注意を受けるのでやれるゲームはかなり限られてくると思う。
プレイするための人数、60人が揃ったところでゲーム開始だ。キャラクターセレクトを行った後に飛行船に乗せられ、ランダムに選ばれたジャンプリーダーに追従するようにして着地する。今回のリーダーはフネ。私の特性を活かすため、建物の近くに飛び降りてくれた。
しかし、後ろからは同じ建物を目指して降りてくるプレイヤーの存在を確認している。
「早く建物の中に入るの。こっちが位置的に有利なんだからさっさと銃を取るの」
素早いレンジャーであるパンプキンが扉を開けると、私達は一目散に中に入り込む。すると明らかに私のキャラクターの運動性能が上がっている。先程素早いと評していたレンジャー以上だ。
いかにもアイテムが入っていると言わんばかりの箱を開けると、そこにはアサルトライフルとハンドガンが一丁ずつ、そしてその弾丸が置かれていた。
「私はいいから二人が装備しなー。私はこの建物の他の武器探すからその間、後続の撃破よろしく」
「待ち構えるならメアリーが強い武器持つといいの。建物の中の吸血鬼は頑丈だし素早いの」
というわけで私がアサルトライフルを持つ。経験値的にフネに持ってもらった方が迎撃できる気もしたが、華を持たせてもらったというところだろうか。
建物内に遅れて入ってくる後続に向けて射撃を放つ。ヘッドショットには自信が無かったので身体を中心に狙う。
敵は三人。私がたどたどしく敵に向けて攻撃していると妙な動きで纏わりついてきながら殴りかかってくるプレイヤーが一人。
私の技術ではそいつを狙えるエイム能力が無い。リアル身体能力が問題ではなく、パソコンの操作となると勝手が違う。なにしろ私はPCゲーらしいPCゲーをやったことがあるのは難易度ピースのメインクラフトくらいのものなのだ。世界防衛軍はコントローラーでやっていたし、マウスを使ってのエイムは全然駄目だ。
「なんかやけに素早い動きのやつがいるのだが? 負けるぞこれ」
素早いだけじゃない。緩急がついてて狙いづらい。耐久力の高さを生かして、ここは他の相手を狙うことにする。
フネの方に攻撃を仕掛けている二人のプレイヤーのうち、一人は倒した。だが、ハンドガンでは多勢に無勢。アイテムを落として復帰待ちの状態になってしまった。
復帰待ちとは復活用アイテムを拾ってもらい、復帰地点で復活させてもらえるようになるまで行動できない状態だ。これによってパーティが一人でも生きていれば逆転のチャンスがあるのだ。
「あー、駄目だったのごめんなの。メアリーのところの相手がしているその動きはスライディングなの。シフト+コントロールでこっちもやれるの」
なるほど、そんな技が……押し辛っ。どんな長い指が必要なんだこれ。こっちは幼女だぞ。
そんな事をやっている間に体力は1/4だ。そしてそのスライディングでフネのいた場所、つまり武器の落ちているところに移動している。
馬鹿め、武器を取ってる間に蜂の巣だ。
などと考えていたが、そんな隙は与えてくれなかった。そして、相手の手にはハンドガン。またスライディングでこちらを惑わしてからのヘッドショット一発。復帰待ちの状態になってしまった。
私を撃破した相手の名前を確認すると……倉瀬アズキ。
『アズキちゃん様か!』
『スナイプしてたのか!』
『てことは射手だな。銃攻撃が強くてそれ以外が弱くなる』
ゲームのとんでもなく強い一期生が混じっていたらしい。そんな偶然ある?