少女:鼻歌を纏う眩い光
眩い光が歩いている。
彼女を初めて見る者は、そんな風に思ったかもしれない。春の良い天気の立役者である太陽の輝きをたっぷりと反射する白色の服を着ているから、というのもその一因か。
だが一番輝いているのは、その少女の表情であった。
「ふふん、ふっふふん」
鼻歌混じりに彼女は歩行者天国を歩いて行く。
身の程知らずの馬鹿な男が声を掛けてくるが、少女が気にする事はない。ナンパ紛いの行為を受けるのはこれで五回目だが、完璧に無視のスタイルはどうやら変わらないようだった。
「やっぱり最初の一言はあの方にと決めていますものね」
思わず独り言が洩れるほど、自分が浮ついているのが分かる。
足取りは軽い。
あれだけ遠いと思っていた目的地にはすぐに辿り着いた。
その白い女の子が行き着いた先は、少々大きな学校だった。水でできた校門。こちらはセンサー付きの魔導ガジェットである。金属の門でなければ容易には乗り越えられない上に、無理矢理に通っても防犯装置が起動する。さらに服が濡れるため犯人の特定が簡単、という触れ込みで多くの学校が導入を開始した一品だったか。
そんな知識を思い出しながら、白い女の子は門のすぐ側にチョコンと立つ。
きっと、待ち人が来たるまで彼女は何日でもそうしているつもりだろう。
「……ああ」
空を見上げる。
青々とした美しい空を彩るように白い雲が流れていた。瞼を閉じて、次に開けると雲の形が変わっていた。どうやら同じ一秒というのは、この世界には存在しないらしい。
「ああ、ああ。ようやく会えますのね」
近くに男性がいない事を確認する。
恋する乙女そのものの表情は、誰にも見せられない。
大切に、宝物の名前でも口にするように、彼女は甘く呟いた。
「……旦那様」