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魔導エンジニアの受難  作者: 東雲 良
第一章 魔導学園エクセルシア
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ジャーナリストな妹:マリア=クロスハート






 翌日の朝の事だった。


 昨夜は食べ過ぎたのか、まだ空腹の感じない重たいお腹を抱えたまま、オスカー=クロスハートはリビングで朝食を見てげっそりしているのだった。


「……マリア、俺はサラダだけでもキツいかもしれない」


「ダーメ、ちゃんとパンとスープとソーセージと卵があるんだから全部お腹に詰め込んでよね」


 真正面に座る妹がそんな風に言う。


 ちなみに、いつもなら怒涛の忙しさを誇る朝の時間だが、今日は全体的にまったりしていた。これも魔導闘技(エクセルシアード)期間の恩恵の一つである。出店にステージにと何かとお祭り気分なこのイベントは小学校中学校高校が休みになるのだ。


 一八歳以下のみの出場なので大学や専門学校は関係ないかもしれないが、オスカー達としてもちょっと長めの休みだ、とくつろげる訳でもない。


「お兄ちゃん、今日はどうするの? なんか高校が休みでも魔導ガジェットとかバランサーとかの課題をやらないと成績に響くんでしょ?」


「そうなんだよなあ……。とりあえず俺は学校に行って先輩の様子でも見に行こうと思っているけど。あの真面目爆乳なら仕事がなくても生徒会の様子を見に行っているだろうし」


 スプーンでコーンスープを掻き混ぜながら、全く湧いてこない食欲と共に軽く絶望の色を滲ませるオスカー。


 魔導学園エクセルシアは特大の生徒を抱え込む高等学校だ。


 当然、『魔導闘技(エクセルシアード)だから』でポンと五日間の休みを与えてくれるような甘いシステムは採用されていない。入学して約一ヶ月、学校生活に慣れてきた頃にそんな事をしたら生徒全員が五月病にかかる事請け合いである。


 魔導師が使う得物『バランサー』と魔導に密接に関わってくる魔導ガジェット。試合に出ない者はそれに関わるレポートを提出しなければならないのだ。逆に言えば、試合に出ればこんな面倒臭い課題はやらなくても済む。


 が、


「……課題回避のために魔導闘技(エクセルシアード)に出るのもイカれているよなあ……」


「それは命知らずって言うんだよ」


 中学の部活で新聞部をやっている妹のマリアがそんな風に口を挟んできた。


 黒髪をツインテールにした中学生の彼女は魔導学園エクセルシアの生徒ではないがゆえに普通に休みのはずなのに、格好は白を基調とした制服を着ていた。赤のリボンやスカートが可愛らしいが、休日にしてはアンバランスな違和感が拭えない。


「俺はともかく、マリアも学校に行くのか? 可愛い制服姿だけど」


「はいはいありがと。これはカモフラだよ」


 香ばしいトーストに赤いジャムを塗って慎重に口に運ぶマリア。


 あれは白い制服にジャムが飛ばないようにしているのか。


「ほら、私ってジャーナリストでしょ? だから中学の制服着ているとみんなが勝手に油断してくれるんだよね。どこかに侵入してもフラッと入っちゃいましたで頭を下げたらスルーしてもらえるし」


「普通に犯罪だ馬鹿野郎。……あとマリア、これから朝飯がパンの時は制服着る前にご飯食べなよ」


「ふっ、危険を冒さなければ手に入らない情報もあるのさ☆ あとボサボサの髪とシワまみれの寝巻きでお兄ちゃんの前に出られるか」


 ウィンクしながら自称ジャーナリストがそんな風に言う。


 夢は記者らしいのでがんばって欲しいと兄の立場としては素直に思う。だが危険な行動に出ているのは普通に心配だ。なので彼女のためにもちょっと情報を提供して差し上げる事にした。


「そうだマリア、危険を冒さなくても手に入る情報があるぞ」


「へえ?」


「先輩が魔導闘技(エクセルシアード)に出るってさ」


「ヴぇっ⁉」


 マリアが食べかけのパンを吐き出しそうな顔になった。


「そ、それってお兄ちゃんが仲良くしているサティア先輩⁉ 本当にあのサティア=テリナロンドが魔導闘技(エクセルシアード)に出るの⁉」


「ああ、スクープだろ? ついでに俺も焼肉で買収されて先輩を手伝う事になったよ。俺の命もあと五日以内かなあ」


「スクープ過ぎる‼ たった一日で何がどうしてそうなったの⁉」


「分からないよあの魔導オンチの考えている事なんて。俺もこれから詳しい話を聞きに行くところなんだよ。たぶん目立ちたがり屋だからお前の中学の新聞部で書いても良いんじゃないか」


「わあサティア先輩大好き。お礼言っておいてね」


「俺は死地に巻き込まれる上にあの先輩に感謝の句を述べないといけないのか……?」


「そりゃあ地味に有名人だしね。高校にはファンクラブだってあるらしいよ。大丈夫なのかなあ、このおっぱいバカのお兄ちゃんは」


「だから大丈夫じゃないんだって。あとそんな種類のバカになった覚えはない」


「いやそうじゃなくて」


「?」


 怪訝な顔になったオスカーに、お行儀悪くフォークを手の中でくるくる回すマリアがこう続けた。


「ファンクラブだって存在するサティア先輩とお兄ちゃんがいよいよ魔導闘技(エクセルシアード)でもタッグを組んでイチャコラしていたら、高校での肩身が狭くなるんじゃないの? 私はそういう心配をしてるんだよ」


「……」


 オスカー=クロスハートの表情が無になった。


 何の暗喩か、ぶづり、とマリアがフォークを使ってソーセージを真っ二つにしていた。


 ああならないようにがんばろう。


 それだけ固く決意して、黒髪の少年はあと何回食べられるかも分からない朝食を大人しく胃に詰め込む事にした。




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