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第5話 トリア城襲撃1

 ヴェルゼ共和国との国境にある、イスカリア王国の街トリア。

 ヴェルゼ共和国とイスカリア王国を結ぶ主要街道沿いの街である。

 その街を見下ろすように小高い丘の上に立っているトリア伯爵を務めるのウェンザー家の城がある。

 トリアの街を中心とするトリア伯領はそこまで大きくないのだが、国境にあるということで、それなりの軍事力を有しているが、ほとんどの国の多くの諸侯がそうであるように配下の魔術師の数は多くなく、せいぜい数名というところだろう。


 夜も更け、多くの者が寝床に入り、就寝している時刻、その城はある集団から襲撃を受けていた。

 その集団はローブや鎧のそれぞれの胸のあたりには不死鳥をあしらった紋章が描かれていた。

 大陸南方の”深淵の(ことわり)”魔術師団やガゼリア帝国の魔術部門に比する程強大な魔術師の組織である永遠たる係累魔術師団の紋章である。


 それなりに堅牢な城な上にある事件があったため、兵を集めて警戒していたが、魔術師団側はその圧倒的な魔術力を駆使して奇襲を成功させていた。

 城のいくつかの場所に分かれて戦闘が起こっていているが、魔術師団側は圧倒的に有利に戦いを進めている。

 兵力差はトリア伯側が軽く倍以上多く、奇襲が成功したのもあるが、相当な精鋭が動員されているようだ。


 本来、永遠たる係累魔術師団はこのような規模の戦いより、より大規模な戦いでの支援を得意とする。

 情報系の魔術で敵軍の全容を探り、丸裸にし、通信系の魔術で味方に素早く正確な情報を伝達することで軍の広範囲で高度な連携を可能にし、幻術で敵軍を撹乱、混乱、恐慌状態を引き起こし、敵軍の指揮官を精神操作系の魔術で操る。

 敵側にそれなりに魔術師はいたとしても、魔術師団に比べると、技量や組織化や専門化が大きく劣る場合がほとんどで対抗が難しかった。

 永遠たる係累魔術師団の支援の有無は戦況を覆す程絶大である。


 魔術師団側の前衛を務める兵はほとんどが盾と頑丈そうな鎧を身に着け、自分と味方の守りを重視する戦い方をしている。

 そして後衛にいる魔術師たちからは様々な魔術が敵であるトリア伯側の兵に放たれる。

 しかし《火球》や《電撃》などの派手な魔術はほとんど使用されない。

 野戦より建物内での戦いの方が味方を巻き込んでしまうの危険が高いからだ。


 トリア伯の兵に《睡眠》の魔術がかけられ、抵抗するも失敗し、意識を失ってしまった。

 当然、戦闘中に意識を失った者などいい的なので、魔術師団側の兵が見逃すはずもなく、無防備な喉元に剣を突き立て絶命させた。

 《睡眠》の魔術は習得もかなり容易なので使用者も多く、かつ魔力の消費も少なく、基本的には一人を狙う魔術なので味方への巻き込みの恐れも低く、完全にかからなくとも、不完全な抵抗の場合はかなりの眠気が襲うので、隙を与えるには十分であり、戦闘を支援する魔術には打って付けである。


 城のある廊下では魔術師団側の先頭で一人の巨漢の重戦士が戦っている。

 並の男より軽く頭一つ分以上高く、体の厚みもかなりのもの、頑丈そうな金属鎧を着こみ、鎧のつなぎ目からは鎖帷子が見える、

 巨大な両手剣を振るう巨漢の重戦士が複数のトリア伯側の兵に優勢に戦っている。

 トリア伯側の兵士たちは何度も重戦士に攻撃を与えるが、有効打は無く、逆に重戦士の重く、意外なほど速度のある攻撃は、相手の盾や鎧ごと破壊し、致命傷を与えている。


 重戦士の後ろには前後を兵士たちに守られた数名の魔術師たちががいる。

 うち一人の男の魔術師は年齢は20代そこそこながら、貫禄と威圧感が非常にあり、目つきは鋭く、顔はかなりの美形、そして銀髪碧眼をしている。

 永遠たる係累魔術師団の首領にして深淵の理魔術師団の首領のヴォルオーグと並んで大陸最高の魔術師であるシュタナート・ジオールである。

 彼の顔はフィーネに向けられていた時とは別人のような険しい表情をしていた。


「ほう、彼はかなりのものだな。魔法戦士など傍流に過ぎぬと思っていたが、少しは考えを改めなくては」


 シュタナートは先頭で一人奮戦している重戦士に険しい表情ながら称賛を送った。

 人の上に立つ者に適している低く威厳のある声だ。


「彼、ガルド術師長は元の高い身体能力に加えて、自己を強化する魔術に長けています。さらに魔力付与で防御力を高めた鎧を与えており、彼とまともに戦える者などそうはいないでしょう」


 その称賛に対して、シュタナートの前方を守っていたガルドの直接の上役の魔法戦士が嬉しそうに説明する。


「貴様、随分嬉しそうな顔をしているな……」


 どうやらシュタナートは上役の魔法戦士の表情が気に入らなかったようで、かなりの迫力で睨みつけ、本人だけでなく周囲にも緊張が走る。


「こ、これは失礼を、どうかお許しください」


 上役の魔法戦士は慌てて、謝罪する。


「いや、気が立ってるせいで、すまんな」


 謝罪を受け、はっとなって冷静さを取り戻す。


「きょ、恐縮です、総大導師」


 シュタナートは敵や裏切り者には情け容赦無いが、従う者には元来寛大である。

 ここまで気は立っているのには理由がある。


 3日前、シュタナートとフィーネを含む一行でこの城を訪れた。

 敷地内を歩いている時に巧妙に伏せていた兵により突如、計数十発の矢を浴びせかけられた。

 シュタナートを狙った暗殺だと思われる。


 シュタナートは油断していたとは言え、自身と共の者達を守るため、かなり速度で接近する物体を自動的に一団を防御出来る《遠距離武器防御》の魔術を展開しており、数十発の矢でも、シュタナートの実力なら防げるはずであった。

 しかし矢は全て防御の魔術を貫き、シュタナート自身も矢を受けてたが、フィーネが身を挺して庇ったお陰で一命を取り止める事が出来た。


 そして《転移》の魔術で、フィーネの身を抱えてその場から他の部下を見捨てる形で脱出した。

 シュタナートは部下達に命の危険がある時は、すぐさま降伏しても構わないし、拷問される前に機密を喋っても構わないと指導しているが、やはり苦渋の選択であった。


 そのように脱出したのは自身の生命の事もあるが、何よりフィーネの命を助けたいからであった。

 しかし《転移》で移動した後のフィーネは呼吸も無く、心音も停止していた。

 当然、シュタナートは魔術師団の総力を挙げて蘇生で試みさせたが、しかし成功はしなかった。

 フィーネの死はシュタナートの怒りと悲しみはその人生において経験した事が無い程、激しいものだった。


 シュタナートはすぐさま報復を決意し、盟友であるヴェルゼ共和国からの支援も取り付け、暗殺を主導したとみられるイスカリア国王自身も含め関与した人物の身柄を引き渡す事を《通話》の魔術を用いて要求した。


 当然、イスカリア王国側はそんな要求はのめる訳がない。

 要は事実上の宣戦布告である。

 だがイスカリア王国側はある対案を出してきた。

 国王と退位と実行役であったトリア伯領を魔術師団側へ無条件で割譲し、以後王国側は関与しないという案だ。

 魔術師団側は安全に利を得る事が出来るが、イスカリア王国の権威が失墜しなねない事実上の降伏ともいうべきものであった。


 イスカリア王国は魔術師団及びヴェルゼ共和国との対抗上、周辺国の多くと同盟関係にあった。

 その案を拒否して戦争になれば、周辺国がイスカリア王国側に立って参戦する可能性がかなり高いとの魔術師団の対外情報部門からの進言がなされていた。


 シュタナートは当初、戦争でイスカリア王家を打倒するつもりであった。

 当然の事ながら魔術師団への損害が大きなものになるだろうし、さらに周辺国がイスカリア王国に付くとなると勝利も厳しいものになるだろう。

 ひょとしたら魔術師団の事を疎ましく思っている創造の神帝を奉じている巨大宗教組織であるクルセス教団も敵に回すかもしれない。


 臨時の大導師会での協議の末、その案を受け入れる事にした。

 やはり魔術師団全体への危険性は抑えておきたいし、何よりも例え関与した者全てを根絶やしにしたとしてもフィーネが生き返るわけでは無い。


 かくしてトリア伯はシュタナートの復讐心を一手に担う事になった。

 本人は勿論、この城内の者をすべてを皆殺しにするつもりである。


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