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シュタナートと不死鳥2

「私の魔術の才を開花させるためにわざわざお越し頂いたとのことですが」


 シュタナートは驚きや恐怖を押し殺し、体が震えそうなのを押し止め、冷静さを装い丁寧に聞いた。


 不死鳥は自分の前で平伏するシュタナートを見る。

 遠方から見るよりもより近くで見た方が詳細な情報がわかる。


 むっ、こやつ昨日も女を抱いておったな、一昨日も抱いておったのに、しかも違うを女を。

 大して苦痛の無い方法で才能を開花させようとも思っていたが、やめだ。

 やはり、それなりの力を得るためにはそれなりの代償を支払わなければならんな。

 可愛い眷属とはいえ甘やかすばかりではいかん。


 不死鳥はシュタナートの色事を知り、何故か苛立ちを覚えたので、少しばかり痛みの伴う方法で才能を開花させてやることに決めた。


 不死鳥はシュタナートの目を覗き、更に深い場所の情報を得る。

 シュタナートの奥底には神帝ラーゼンの要素が僅かだが強固に残っていた。

 以前から知っていたことではあるが、近くで目の当たりのするとやはり腹立たしい気持ちになる。

 勿論、その僅かなラーゼンの要素を取り除くために不死鳥はかなりの労力を掛けたが、その部分だけは全く取り除けず、無限の成長力を持っている不死鳥ですら将来においても不可能であった。

 全てを排除しようと目論んでいた不死鳥からすればラーゼンの要素が残っていることは敗北であった。

 だが、不死鳥に敗北感を与えたことでより、クルセスとその転生後であるシュタナートをより認めるようになった。


『立て』


「はっ?」


『立って、私の方をしっかり見よ』


「わかりました」


 シュタナートは立ち上がると、まだ不死鳥の方が高いものの、目線が近くなる。

 そして不死鳥の目をしっかり見据える。


 やはりこの男は配下や僕ではなく、対等に近い位置にした方が良いな、と不死鳥は思った。


 不死鳥は非常に傲慢で気位が高く、あらゆるものを見下していた。

 自分が下に付くことはおろか、対等の関係さえも認めなかった。

 それはこの星で最強の存在になったからではなく、以前のそれ程に力の無い存在であった時からであった。

 だがこの男であれば、対等は勿論、自分の方が下になることさえ許容出来ると思った。

 自分の下の置く、配下や僕であればその気になれさえすれば、いくらでも作り出すことが出来るが、自分の対等以上にしても良いと思えるのは今まで知った中ではクルセスとシュタナートだけである。


 そして不死鳥はある事を長く思案していて、クルセスとの一件以来に強く思うようになり、今日シュタナートと直接対峙して完全に決定したのだった。

 それは不死鳥という種族から別の種族への変更である。

 不死鳥という種族は高い魔力、あらゆるものへの耐性、自動再生能力、死から容易に復活出来て、しかもその代償は少ないという恵まれた特性を持っている。

 しかしその恵まれた特性ゆえに成長を阻害しているのではないかとの思いがあった。

 例えば死というものは不死鳥であれば、最初から克服されているようなものであるが、他の種族であれば克服には極めて至難で、多大な労力が発生しるが、それ故にその困難を克服する過程で成長出来るのではないかと思いがある。

 不死鳥にとって今の状態は安全で守られているが故に母体の中にいる胎児ような状態なのではないかという仮説も沸いたのだった。

 また世界に一羽で(つが)いが得るのが不可能であるのも不満であった。

 より近くにいて、共も成長し、助け合えることが出来るに伴侶に憧れを抱いていた。

 そして一万年もの長い年月を不死鳥として過ごしてきたので、いい加減飽き飽きしてたのもある。


 当初は様々な種族も検討していた。

 例えばハイエルフ、美しく魔力も高く、老衰することも無いので不死鳥に近く、無難ではあるが、寿命が無い故に成長の速度が早くないので、候補から外れた。

 それ以外にも様々な検討したが、最終的にはあらゆる能力がそこそこで、可愛い眷属と同一の種族に決めたのだ。

 不死鳥は生殖行為や出産にも興味があり、してみたいという思いがあったが、相手は誰でもいいわけではなく、むしろこの可愛い眷属くらいしか許容出来ないのもその理由である。

 

 勿論、種族を変更するには大きな危険と困難が伴う。

 不死鳥から人へと変更した場合は一時的、おそらくは数百年ほどの能力の低下が予測される。

 また今まで蓄積した膨大な知識はそのままでは人の身に移す事は不可能なので、これも一時的に記憶を失う事になるだろう。

 だが不死鳥にとって困難は望むところで、長期的にみればより自身を成長させることが出来るという結論に至ったのだ。



『力を得るという事はそれなり困難なもの。貴様への能力の開花にしても多少の苦痛を伴い、少しばかり抵抗ある行為をしなくてはならないが、どうだろうか?』

 

「勿論、私に出来ることであれば是非」


『貴様に多少の覚悟があればたいして難しいことではない。しかし私にも少しばかりの痛みが伴う行為だ。後から無理と言うのは貴様に失望するので無しにしてもらいたい』


「覚悟できているので、お願いします」


『わかった、では実行しよう』


 そう言うと不死鳥は片方の翼を自身の目の前に持ってきたかと思うと、嘴で勢いよく突き、翼から出血する。


「なっ!?」


 シュタナートは不死鳥の不可解な行動に驚く。


『私の体液には様々な効能がある。例えば埋もれている能力が発揮されるなどのな。さあ飲め』


 そう言うと不死鳥は翼を動かして出血した箇所をシュタナートの目の前に持ってきた。

 

 シュタナートは一瞬躊躇したが、意を決して不死鳥の出血した箇所に口を当てて血を吸いだした。

 不死鳥の血は美味であった。

 そして吸い始めると間もなくすると、自身の力が増しているように感じた。


『飲めるだけ、飲め』


 シュタナートは不死鳥の血を飲みながら頷く。

 不死鳥は傷が多少痛むものの、シュタナートに傷口を吸われることに快楽も感じていた。


 

 もう、さすがに充分か、シュタナートの胃の中に自身の血が充分溜まったの見てそう思った。

 シュタナートもかなり腹がいっぱいという様子だ。


『こんなもんだな』


 そう言うと不死鳥は翼をシュタナートから離すと、抑えていた再生能力を解放して傷口を塞いだ。


『やはり力を完全に開花させるには早い方がいいだろう?』


「それはそうですね」


 この問いかけにはこう答えるだろうと、シュタナートを熟知している不死鳥はそう思っていた。


『では吸収を早めてやろう』


 そう言うと、不死鳥は精神を集中させてシュタナートに体内に急速に吸収される魔術を掛ける。


「う、ぐっ」


 するとシュタナートは急に苦しみだす。

 不死鳥の血は基本的に薬であるが、大量かつ急激に吸収するとその負担は大きくなる。


『言ったであろう、多少の苦痛が伴うであると。くれぐれも私の血を無駄にするなよ』


 シュタナートは不死鳥の血が逆流して吐き出しそうになるのを、口を塞いでなんとか耐える。


 不死鳥はシュタナートの体に不具合が発生しないかを注意深く観察するとともに、自身の血を必死で体内に押し留めようとする様子を見て愛おしい気持ちになる。


 しばらくして不死鳥は自身の血がほぼ体内に吸収されて、シュタナートの苦しみが和らいでくるのを見計らって、《老化停止》の魔術の方法と知識をシュタナートの頭の中に直接刻み込む。

 その行為もかなりの負担があり、シュタナートの記憶に若干の混乱が生ずる。

 《老化停止》は人からすれば極めて難易度が高い魔術であるが、才能が開花して人のしては最高の魔術の能力を持ち、かつ不死鳥の血も十分に摂取しているので取得は間違いなく出来るであろう。

 

 不死鳥の死には殺されたりする場合の死と周期ごとの死の2種類がある。

 殺されたりする場合は復活した時は若干の弱体化が発生するが、周期ごとの死は復活した時に弱体化はせず、むしろ逆に強化されるのであった。

 異種族転生は不死鳥にとっても未知の領域でかなり危険であることが予想される。

 なのでより危険性をより排除出来る周期ごとの死の時が良いとの計算があった。

 しかし真近での周期ごとの死は少しばかり先で、その後に人と生を受けるためにシュタナートとの年齢差はかなりのものになってしまい、自分は年頃なのに相手は老年に差し掛かっている年齢になってしまう問題があった。

 その問題を解決するための《老化停止》の魔術である。

 子を作れなくなる副作用と言うのも、他の女との間で来た子などは邪魔であるので好ましい。

 自分との子も作れなくなくなるが、それは解決出来る自信があった。


 さて、どうやら上手くいったようだな。

 苦しみ、混乱してうずくまっているシュタナートを見て不死鳥はそう思った。

 副作用等は特になく、しばらく安静にしていればすぐ回復し、開花していなかった能力も問題なく発揮されるだろう。

 

 シュタナートに人として転生してくる自分に対して好意を持つように操作を施そうか少し迷ったが、やはり正攻法が勝ち取りたと思いがあり、実行しないことにした。

 人として転生した自分をある程度の予想はついているが、シュタナートに対して魅力的であり、十分な勝機があった。

 懸念である攻撃的過ぎる性格も、人の雌自体が基本的に攻撃性がかなり低いので、かなり性格が丸くなるだろうと予想される。

 

 不死鳥は上空に上り、地上からは《不可視》される場所で待機すると、適当な屋敷の者を操ってシュタナートを救助されるのを見守る。

 見守りながらも、人の夫婦は妻が夫に従うのが良いとされているので、本来は自分が主で眷属であるシュタナートが従になるが、夫に従う順従な妻、例えば常に夫の後ろに付くような感じであれば、釣り合いが取れて良い間柄になるのではないかとも思った。


 無事にシュタナートの救出されるのを確認すると、不死鳥は棲み処に戻っていた。


 

 その後、シュタナートは数日程安静に過ごして、無事に回復し、極めて高い魔術の能力を開花させる。

 シュタナートは不死鳥に感謝すると同時に強い憧れの念を持った。

 数年後、父親から組織を引き継ぐと、その組織の名を永遠たる係累魔術師団に改名し、不死鳥を紋章としたのだった。

 またほぼ同時期に十分に肉体が成長したので《老化停止》の魔術を実行したのだった。


 不死鳥はというと十分な準備を行い、真近の周期による死の時に人への転生を行うが、予期せぬことも起こった。

 シュタナートに早くに出会うために、その近くの場所であるヴェルデの街に転生する予定であった。

 しかし、クルセスの巨大な魂からラーゼンの要素を取り除く行為の過程で、分化した一部が一つの魂を形成し、それが一人の女として生を受けたのだった。

 不死鳥はその魂に引き寄せられように、その女の妹として生を受けたのだった。


 それは不死鳥の不手際というより、最も力あるものたちの意向が交じり合った結果であった。

 

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