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第2話 最初の目的地

 生まれ育った村出て、最初の目的地を目指して歩んでいたライルは少し焦っていた。

 辺りは少し暗くななってきたが、一向に見えてこない。

 初日から野宿は勘弁だ、とライルはそう思った。


 ここイスカリア王国はシュタナートを打ち取ったことにより、国王ファイサルが権威を取り戻した影響で治安はそれなりによい。

 またアスラトール大陸北部は以前はハイエルフが支配していて、彼らはゴブリンやオーガ等の危険で野蛮な種族の生存を許さなかったので今日でも数は少ない。

 しかし狼などの獣はこの近辺ではそこまで珍しい存在ではない。

 一人での野宿は極力避けたいものだ。


 念のため杖先に《照明》の魔術を灯しはじめて歩いていると、道の先に石壁と門が見えてきた。

 それを見てライルはそっと胸をなでおろす。


 見えてきたのはアスクの街だ。

 ライルが住んでいた村の周辺では唯一の街である。

 朝に出発すれば夕方ぐらいにはたどり着く距離であれが、予定よりも若干遅く着いた。

 人口は2千を超える程度でそれ程、大きな街ではないが、ここいら周辺ではせいぜい数百人の村くらいしか存在しないので、あらゆる点で要所となっている。

 以前はライルが住んでいた村をはじめ、アスクの街と周辺を統治していた領主が居を構えていが、近年では王とその直属の機関への集権化が著しく進んだことから、王都から代官が派遣されて統治を行っている。


「ソマリ村から来たライル・ウォレスという者です。街への入場の許可をお願いします」


 ライルは門の所まで来ると、そこを守っていた兵士に声を掛けた。


「ソマリ村から若い魔術師が一人来るという話は聞いている。では、まあ中に入ってくれ」


 事前に話がいっていたので、すんなり通される。

 周辺唯一の街なので、ライルが生まれた村との行き来は頻繁である。


「あの、リガー魔術品店の場所を教えて頂きませんでしょうか?」


 魔術品は魔術の効果を高め、助ける杖やローブのような魔術補助品と魔術を付与してあり、使用することにより魔術と同じまたは似たような効果を出せる魔術付与品を合わせた言葉である。


「ああ、あの店ならそこを真っ直ぐ行って……」


「ありごとうございます」


 ライルは兵士に礼を言ってリガー魔術品店へと向かった。




「ここか、ごめんください」


 ライルは兵士から言われた先にある店に入っていく。

 魔術品店らしく《照明》が灯っていた。


「どうした、兄ちゃん?」


 日が暮れたので、店じまいの準備をし始めていたのであろう、40過ぎくらいの店主があまり愛想の無く反応する。


「夜分に失礼します、私はソマリ村のライル・ウォレス。以前より魔術品を引き取って頂いている物です。今回も新たな魔術品を引き取ってもらおうかと伺いました」


 ライルの魔術品は以前よりこの店に売却しているが、実際に品物を持って行っていたのは彼の父や兄でなので、今回が顔を合わせるのが初めてである。

 今身に付けているローブもここの店で購入された物だ。


 その言葉を聞いて、店主の表情が少し緩むのと同時に驚く。


「おお、あんたがソマリ村の……、しかし若いとは聞いていたがこれ程とは、だとすると最初に取引し始めた頃なんて、完全に子共じゃないか。それなのになかなかいい仕事してたな。師匠だっていないのだろ?」


 そう言った後、店主は売りに来た品物を出すよう促した。


「ええまあ……、師匠はいませんでしが、家には魔術の書物があって、それで何とか勉強しました」


 転生しましたとは正直には言えないので何とか誤魔化そうとする。

 家に魔術の書物があったというのも嘘である。


 そう言いながらライルは荷物から売り物となる魔術品を取り出し、カウンターの上に並べた。


「独学でか、若いのにたいしたものだ、こりゃ将来は凄い魔術師だな」


 店主はそう言いがら、ライルの出した魔術品を物色し始める。


「いえ、そんなことは……」


 自身の潜在魔力が低いことを把握しているので、本心である。


「まあ、謙遜するなって、若いわりに随分落ち着てもいるな。それに銀髪碧眼とはあの大魔導師シュタナート・ジオールと一緒だな。昔、遠くから一目見たことがあるが、それでも凄い魔力がはっきりわかった。 あ、ちょっと待っててくれな」


 ライルはシュタナートという言葉に僅かばかりの反応し、目ざとい店主はそれに気が付く。

 その名は関わりの深いイスカリア王国内で知れ渡っており、大概が恐れ嫌われていたが、この店主の様に畏敬の念を抱くもの者もいる。


 店主はそう言った後、店の奥から小箱をもって出てきて、ライルにそれに入っていた物を見せる。

 中に入っていたのは指輪であった。


「これなんかはシュタナート・ジオール作の魔術品だぜ。使い勝手の悪い魔術が付与されてる割にはいい値段だが、もっとも使い勝手の良い魔術が付与されてあったら、とてもうちの店で仕入れられる値段にならんがな」


 その指輪にはシュタナートの名が刻まれており、しかも青く浮く上がるように見える。

 贋作を防ぐために魔術を付与して、自分の名が青く浮かび上がるようにしていたため、まず間違いなくシュタナート作の物である。

 確か《浮遊》の魔術を付与した物で、それをはめるとその場で体が空中を浮かぶというだけの物だ。

 浮いても足場が発生するわけでもないので、空中を歩くことも、その場から飛び移ることも出来ない。

 少し懐かしい気にもなったが、今の自分の魔力ではこの程度の魔術も付与するこは難しいので、複雑な気持ちにもなった。


 店主の言う通り、使い勝手の良い物では無いので、こんな田舎の小さな店でも仕入れられたのだろう。

 シュタナートは有名で優れた魔術師である事が知れ渡っていたため、高い付加価値が付き、他の者が作った同じような物より、遥かに高い値段で取引されていたのだ。

 

「しかし、そんな凄い大魔導師が女がらみであっさり殺さるとはな。しかもその女は家族を皆殺しにされて、恨んでたらしいじゃねえか。とんでもなく美人だったらしいが、それに釣られてそんな女と寝て、油断したところを討たれるとは間抜け過ぎだよな」 


「ま、まあ、そうですね……」


 ライルは微妙な表情で相槌を打つ。


 凶悪だが、美形で、極めて優れた魔術師であり、強大な魔術師団を作り上げて率いていたカリスマ性のある男であるが、自分が仇になる女と寝て、油断したところで討たれて、双方とも命を落とすのは、色々と関わりの深いこの国では、よく知られたことだ。

 そのことから、シュタナートは物語で出てくるような、強大な力を持つが、弱点を突かれて討たれる間の抜けた悪役のように思われることもある。


 イシュアの方は長い苦難に耐えながらも、命を賭して家族や家臣の仇を取ったこと事から、英雄や女傑のような扱い受けている。

 美しい女魔術師イシュアの邪悪な大魔導師シュタナートへの復讐劇はここイスカリアのおいては特に人気の物語である。


「ちょっと、横道にそれちまったな、時刻も時刻だし、さっさと本題の方をすすめるか。これはどうやって使うんだ?」


 そして店主はライルが持ってきた魔術品のうち、円柱状の木の棒を手に持って尋ねる。

 木の棒は手で握りやすい大きさで、小さなくぼみがあり、片方の端面は円錐状の穴が開けられている。


「それは《照明》を魔術を付与していて、くぼみに指を置くとに発動し、円錐状の穴から光が出て照らします」


 それを聞くと、店主は気の棒を握りながら親指をくぼみの中に入れる。

 ライルの言葉どうり、円錐状の穴から眩しい光が出て、前方をかなりの明るさで照らした。


「ふむ、これは光が集中するから、真っ暗な場所でも、はっきり、そして遠くまで見えそうだな」


 《照明》の魔術を付与した魔術品は需要がある。

 ローソク等の照明器具とは比較にならない明るさなので、日が落ち後の活動が格段にしやすくなるのだ。

 この街の様な小さな田舎でも、一般の民家では使用されることは稀だが、商店などでは使用されている。


 そして店主は他の魔術品の鑑定も行った。




「待たせたな、じゃあこれが今回の買い取り額だ」


「おお、こんなに」


 ライルが思っていたより多くのの貨幣が、前に置かれた。

 これだけあれば当分、旅の資金に困らないだろう。


「あんたのは丁寧な仕事で評判がいい。今回から値上げするからまた頼むよ」


「ありがとうございます。ところで踊る小鬼亭の場所はご存知でしょうか?」


「ああ、小さな街だし勿論、知っている。今夜はあそこに泊まるのか? 場所は店を出て……」


 店主はライルに行くまでの手順を教える。


「色々ありがとうございます。それでは」


「おう、それじゃあまた来てくれよ」


 ライルは店主に丁寧にお辞儀をすると、リガー魔術品店を後にしのだった。

 店主も笑顔で見送る。




「うーむ、まさかな」


 ライルが去った後、店主は神妙な顔で呟く。

 彼は《転生》の魔術の存在を知っていた。



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