第17話 誕生日の贈り物
最近のイシュアは大人しくなった。
シュタナートに対して反抗したり、殺害を口にしたりはしているが、人前で悪態をついてシュタナートを困らせるような事は少なくなった。
シュタナートがイシュアに暴力を振るい、それにイシュアが反撃するという事も無くなった。
シュタナートがイシュアに魔術を指導する時間も増やしている。
彼女の方からも歩み寄っているような感じもする。
間違いなく、現在が二人の関係が最も良好であろう。
今回は贈り物を受け取ってくれるだろうか、シュタナートは執務室でそう考えていた。
今日はイシュアの17回目の誕生日である。
イシュアをさらってきたのが、彼女が8才になってしばらくのことなので、もう少しであれから9年になる。
世間ではあまり誕生日に贈り物を贈るという一般的ではないのが、贈る風習もあるという事を聞いたシュタナートがイシュアのと関係を改善するために毎年、贈るようになった。
とはいえ今までは贈り物をイシュアが投げつけたり、破壊するなどして、それに激昂したシュタナートが暴力を振るうなどしたため、改善には至らなかったが。
そうなことを考えていると数回扉を叩く音の後、
「入るぞ」
その声が掛かり、執務室の扉が開いてイシュアが部屋に入ってくる。
ローブの描かれた紋様は導師捕を示すものに戻っている。
扉の上にはめ込まれた殺意が高ければ高い程、濃い赤に変色する水晶は以前に比べたら、透明に近い赤に変化していく。
「早かったな」
「そうか? では座らしてもらうぞ」
イシュアは呼び出すと無用に待たす事が多かった。
そして長椅子に座る。
「で、今日は呼び出したのは、毎年恒例のあれか?」
「まあそうだな」
そう言うとシュタナートは机の引き出しから、美しい装飾が施され小さな木箱を取り出す。
そして椅子から立ち上がると、その小箱を持ってイシュアが座る長椅子の前のテーブルに置く。
イシュアが小箱を開けると中には鞘に収まった美しい短刀が入っていた。
その短刀を手にとり、鞘から引き抜くと、美しく切れ味が良さそうな刃が姿を現す。
短刀は美しく装飾が施されているものの、実用性も高そうだ。
イシュアはその短刀を勢いよく、テーブルに突き刺すとかなり深くまで刺さった。
短刀を引き抜き、刃を確かめると、刃こぼれ等はしていなかった。
シュタナートは短刀を投げてつけてくるのも想定していたので、それに比べればまだマシな反応だ。
そのために《遠距離武器防御》を展開していた。
「この贈り物はどういう意味だ? これでお前を刺し殺しても良いという事か?」
「イシュアはノイマン大導師の人体実験を興味深そうに見ていただろう。もし私を苦しめながら殺すのいうなら、ああいった魔術がよいだろう」
ノイマンの人体実験では短刀に《即致死性毒精製》の魔術を掛けて使用していた。
「ほう、なるほどな。贈り物が刺し殺しても良いなら最高に近いが、まあこれでも悪くない」
そう言うと短刀を眺める。
「まあ、長く生きていれば、いずれはイシュアにとっての最高の贈り物をする様な状況が発生するやもしれん」
「ほう」
シュタナートが真剣な顔でそう言ったので、イシュアは非常に興味深そうな視線を向けてくる。
「敵や裏切り者に追い詰められて確実に殺される状況で側にイシュアがいたとしたら、君に最高の贈り物をしよう。まあ勿論、そんな状況にするつもりは毛頭ないが、長く過ごしていれば訪れるやもしれん」
「追い詰めらる状況に陥ったら、私の手で殺させてくれるという事でいいのか? 他の者に殺されるより、私に殺される方が苦しみをより味合うことになるだろうが」
「ああいいだろう。その様な状況になったら、例え苦しくともどうせ殺されるなら、可愛いイシュアに命をくれてやろう」
「信じて良いのか?」
真剣な表情で聞いてきた。
「ああ、私の名とこの魔術師団に懸けて誓おう」
シュタナートも真剣な表情で答えた。
「信じよう。私はシュタナートの側で待っているとするか」
殺し、殺される約束だが、逆に扉の上にはめ込まれた水晶の色は薄く変化していく。
「気長にな。君ならば長い時でも待てるはずだ」
「そうだな」
シュタナートが穏やかに問いかけると、イシュアも穏やかに答えた。
「ここでの話は終わりだな。では食事でも行こうか。イシュアの好物を用意してある」
そう言うとシュタナートは席を立ち、イシュアの前にきて、手を差し出した。
イシュアは少し考えた後、意を決したようにその手をしっかり握って立つ。
「では、イシュア行こうか」
「ああ」
そして二人は一緒に部屋を出てったのだった。




