第12話 土産
「おかえりなさいませ、シュタナート様」
リハルトや使用人たちは玄関先で馬車から降りたシュタナートを出迎える。
「皆、出迎えご苦労。先に《通話》した時同様変わりはないか? リハルト」
「はい、特に変わりはございません。シュタナート様の方はご体調などはいかがですかな?」
「ああ、私の方も特に変わりはないな。あと少し土産を用意してきたので、皆で分けてくれ」
「ありがとうございます」
シュタナートはイスカリア王国から今帰宅したのだった。
《転移》の魔術で帰る場合も多いが、今回は帰路でいくつか用があったので、馬車で帰宅した。
「イシュアはいるか?」
「ええ、ご在宅ですが」
「奴にも土産があるから、呼んできてくれ」
シュタナートは決してイシュアの部屋に自ら訪れない。
それはイシュアにとっての敵である自分が立ち入るとなると、気が休まないだろうという配慮からだ。
使用人たちにも配慮させ、イシュアの部屋は彼女の領土の様な高い独立性がある。
「わかりました」
何故かリハルトの表情が少し、不安そうになる。
「では、居間の方で休みながら、待つとしよう」
そう言うと、シュタナートは居間の方に移動を開始する。
リハルトは使用人の一人にイシュアを呼び行かせた。
居間には大きなテーブルがあり、それに合わせていくつのもの椅子が並べて置いてある。
しばしの間、シュタナートは居間の奥にある一番立派な椅子に座って、旅の疲れをとるために休んでいる。
リハルトも近くに席に腰かけ、他に何人かの使用人が立っていて、その中にはアオラもいる。
しばらくすると居間の扉が何の合図も声掛けも無く開く。
この入室のしかたで誰が来るかわかる。
そしてイシュアが入って来てる。
使用人たちはイシュアに向かって、一礼する。
イシュアはシュタナートから離れた席に勝手に座る。
「良く来てくれた、ちょっとした土産を用意してきたので、受け取ってくれ」
そう言って手元にあった箱に入った首飾りを使用人に渡し、使用人はそれをイシュアの前のテーブルの上に置いた。
「ふーん」
イシュアはそれを手に取り、興味なさそう眺める。
「しかしお前も懲りない奴だ。さすがに感心する」
笑いながらそう言ってシュタナートの方をちらりと見る。
「ではお前、いやお前の懐は暖かいようなのでお前にやるか」
イシュアは手にとった首飾りをアオラに向かって投げようとしたが、取りやめてそのとなりの使用人に投げた。
アオラを見て、向かって投げようとした時、ほんの僅かだが他の使用人とは違う反応をすることをシュタナートは感じた。
イシュアは非常に憎む一人の男以外には無関心だ。
使用人はその首飾りを咄嗟に受けとる。
「こんな物より、もっと私が欲しがるものを知っているだろう。誕生日には、お前は性懲りもなくいつも贈り物をしてくるが、それには私の本当に欲しがるもの頼むぞ」
世間では誕生日に贈り物を渡すという行為は、それ程一般的ではない。
そう言うとイシュアは席を立つ。
首飾りを受け取った使用人が気まずそうにシュタナートの方を見てくる。
「受け取っておけ、イシュアに似合いそうな物を見繕ったが、そこまで価値のある物では無い。まあだが売ればいい小遣いになるだろう」
イシュアの対応はいつもこんな感じで、高い物を贈ったとしても使用人の懐が暖かくなってしまうだけなので、あまり高価な物は渡さないようにしている。
「ありがとうございます」
使用人はシュタナート、そして部屋から出ていくイシュアに礼を言う。
以前はこのようなシュタナートからの贈り物は見ている前で、破壊していたのでだいぶマシにはなった。
その度にシュタナートはイシュアを激しく殴りつけた。
今回も破壊していたら殴りつけていただろう。
イシュアは必要以上に激しく扉を閉め、居間を後にした。
このようにイシュアはシュタナートからは直接は物を受け取らない。
なのでシュタナートは魔術に使用するの物だったり、本当に必要な物は使用人を通して与えるようにしている。




