サラリーマン 当主に就任する。
総合評価?が80も行きました!!呼んで下さった方々有り難うございます!
ドルディが風呂場で拘束されてから三日後。村の小さな広場にある処刑台の
前で、反乱の説明と共に暴君ドルディの処刑執行が村人たちに発表された。
そしてその死刑執行の宣言から数秒後にドルディの首は胴体から切り離され、
高さ三メートル程の処刑台から地面に転げ落ちた。
当然地面に転げ落ちた首を切り落とした斧を持つのは、これから当主となる
息子のクルドである。
自ら父を殺し、悪の根源を葬ったクルドを見て村人たちは何を思っただろう。
地面に転げ落ちた暴君の首を握りしめ、天に掲げて自分たちを守ると
宣言したのを聴き、初めての殺人に足元を微震させながらも自分たちを
鼓舞する姿を観て、彼らは何を思っただろう。
ある者は暴君を討ち滅ぼせし英雄に希望導き出したのかもしれないし、
ただの暴君の椅子を座る者が代わっただけだと警戒し、心を開かない者も
居たかもしれない。
だが、何よりも――嫡男にも関わらず態々父を殺したクルドに戸惑いを
覚えた事だろう。
本当に彼を信じれるのかと…。
果たしてこんな疑念を村人に抱かせながら改革は成功できるだろうか?
皆で諸改革を成功させれば村人たちもおのずと彼らを支持するだろうが、
その改革には村人が必要だ。先に信用を得なければ信頼は勝ち得ない。
このままでは最悪他の領地の者達が誘導しなくても夜逃げをする者が
増えるだろう。勝手に来たのだから最初は苦労するだろうが、
商人や職人とは違ってライバルなどないに等しい村人であれば時間
が彼らのしがらみを解決してくれる。
そうなれば例え父から当主の座を奪っても時期にこの村は衰退の
一途をたどる羽目になる。
だから、誰かが彼らの背中を一押し押さなくてはならないのだ。
「やはり民は信じ切れてないご様子。ならば我々が御味方いたしましょう」
突如広場の後ろから聞こえた図太い声の主と、その周りに居る者達を見て
クルドたちを眺めていて村人たちは絶句する。
当たり前だ。自分たちと同じくマクシミリアン家の被害者であり、
そしてこの村と村人を支えてくれた者たちなのだから。
「ラインマーさん⁉それに…テオさん、カルラさんにエルゼさんと
アルバンさん…」
村人の一人が商人たちの名前を思わず口に漏らすと、ラインマーは彼らに
聞こえる声でもう一度先程の言葉を復唱していく。
「今言った通り、我ら商家の一同はマクシミリアン様率いる新政権を
全面的に支持するつもりだ」
「でっでもだ、あん所の親父はオラたちに酷い事ばかりしてきただよ!
この坊主だってもしかしたら…」
また村人の一人が口を開けるが、その者の言葉が最後まで言い終わる
前にラインマーは口を閉ざすように手を前に出した。
「我らはマクシミリアン様と密約を結んでいる。この決定は何があっても
覆すことはない!」
断言するように力強く言い切るラインマーに反抗の意志が消え去った
男は『密約』という言葉に引っ掛かりを覚えそれを問いた。
「みっ密約?」
「さよう、マクシミリアン様は前当主の政権下に置いて密かに我らと接触し、
ドルディ暗殺後は村人の支持が得れるようにと我らに協力を仰いだのだ。
減税に村人の資金援助、商家に対する屋敷の美術品売却時の利益分配と
いう多大な恩恵を条件にな」
「でもぉ!そんなことしたって普通は信じられないだよ!」
「ああ、そうだ。信じられん。もしかしたらドルディが我らの思想を
確かめるために手配した尖兵の可能性もあるからな」
「ならなんで⁉」
反抗の意志が無くなったとはいえ、彼らからしたら裏切られたような
気持ちなのだろう。勢いばかりに男からは非難の意が含まれた声が飛ぶ。
「でも、よく考えたらそんな事は有り得ないのだ。我らがドルディに
『息子のが貴方の暗殺を計画していますよ』と言ってしまえば普通なら
ドルディは息子を処罰しなくてはならん。ドルディとマクシミリアン様が
裏で繋がっているなら態々そんな危険が潜んでる作戦を選ばんだろ。
選んだとしてもそれならば適当に部下を派遣すればよい話だ。つまり
マクシミリアン様自身が来た時点で我らは疑う必要などないのだよ」
実際はクルドの話しに流されてしまって信じてしまった訳だが、理由など
いくらでも後付けできる。
村人に出来るだけ理性的に今の状況を判断してもらえればそれで良いのだ。
「そして実際に、今マクシミリアン様は暴君の首を持って示したではないか。
これ以上でもこれ以下でもない。暴君を殺したのは事実だ」
「うっ……本当に信じていいだべ?」
「マクシミリアン卿もお前たちが知らないだけでドルディに虐げられて
来たのだ。それを態々お前たちなどにせんよ」
「……分かった…ラインマーさんたちが言うなら」
「他の者達もマクシミリアン様を信じてくれるか?」
その声にちらほらとだが、他の村人たちも少しずつ首を縦に振ってくれる。
どうやら彼らの信用をラインマー達を通してだが獲得できたらしい。
後は信頼してもらえるかだ。
どうやら上手く行ったようですねとサーザントは血塗られた斧を今だ
握りしめるクルドにそっとささやいた。
「ああ…これを見るに何とかいったらしい」
「ですが今回のお蔭でより一層商人たちの影響力は上がった。
これからは村人の人気取りと並行して商家と村人を引き離さなくては」
「……政治とは難しいものだな。俺に出来るか…」
「何を仰います。この三日間で暗殺後の諸改革について話し合いましたが、
部下を含め役人も皆様が貴方の考えた内容を見て驚いておられた。
特に宿屋の建設は大変素晴らしいものです。自信を御持ちになさい」
「そうか…すまない。いつもお前に支えてもらっている」
「いえいえ、何を仰いますか…」
それでいてもサーザントは満更でもない笑みを浮かべている。やはり
自身の功績を認められるのは嬉しいのだろう。
「クルド様、どうやら商家たちの話しも終わったそうです」
「うむ、これで安心して改革に取り組める……我が領民たちよ!聞け!」
クルドの覇気のある声に村人たちは直ぐに商人たちのいる場からクルドの
方へと向き直り、商家の者達を合図に地面に膝をつけていく。
「うむ」
こういった権力の類はまだ手を付けないほうがいいのだろうと、
クルドは慣れた様子で跪く領民たちの姿を眺めながら一つ頷いた。
権力で民を縛るなら、その権力で民を守り、領地を発展させるのが貴族の
本来の仕事だからだ。
それに権力と言う強大な鞭が有れば、飴は少なくて済む。
一度大きな褒美を与えてしまえば次からはそれ以上と、欲をかくのが
人間なのだ。
ならば下手な自由を与えずにこのままでいいだろう。
「我が剣は民の為にある!これは何人たりとも変えることの出来ない
絶対的かつ不変的モノである!先程言った通りこの領地は皆で力を
合わせれば必ず豊かになる。私も一緒に鍬を手に取って耕そう!!
だから私たちを信じてついて来てほしい。先陣は私が切る!!」
「「は…‥はっ!!」」
まだ完璧に信じ切れたわけではないのだろう。若干震えた声で農民たちは
声をそろえてクルドに応えた。
「マクシミリアン様、貴方様が我らを導いて下さる限り我らは忠誠を
誓いまする…今は民たちはそれで限界の様です」
「それだけで十分だ、お前たちとの約束は必ず守るからなら。詳しくは
明日の朝に此処の掲示板に諸改革の内容を提示するつもりだ。
村の者達と情報の共有を図ってくれ」
広場の掲示板とは領主が所有する、法令を発布したり祭りや畑作などの
村のイベントの日時を提示する広義の意味でカレンダーのような物である。
「はっ、かしこまりました」
ラインマーの返事にクルドは丁度区切りがついた思い、最後に屋敷に
戻る旨の言葉を伝えると処刑台のハシゴを左手を使って下りていく。
父を殺した斧は握られたままだ。
彼のその手に染みついた血はこれから消えることはない。
哀れな父殺しとして、
暴君を討ち滅ぼした勇敢なる英雄として、
クルドは一生を通してその名を祖国の歴史に刻むことになる。
クルド君、無事当主に就任成功か⁉ていうか、「処刑台で殺すとか全然暗殺じゃないじゃん」って思った方!…私もです。私と同じことを考えた方も、そうじゃない方もブックマーク下さい(唐突)