95話:お菓子屋さんの準備
対レンジュさん戦初勝利から二週間後、お菓子屋の建設が開始された。
……開始されちゃってたんだよ。知らん間に。
なんかね、最近街が活気に溢れてるなーとか思いながら、家に引き込もってお店で出すお菓子のレシピを書き上げてまして。
久しぶりにギルドに顔出したら既に建設が開始されていた次第で。
いくらなんでも早すぎないか?
でまあ、そんな訳で。
建設が始まっちゃったので、急いで人員の方を整える必要が出てきてしまった。
商品に関してはクッキーとケーキ、それにプリンをお店に並べる予定だ。
それぞれバニラとチョコレートの二種類、合計六種類が最初のメニューになる。
作るのも難しくないし、材料が大体同じだから揃えやすいのがポイント。
そんで、従業員として応募してくれた近所のおばちゃん達とオウカ食堂の店員を集めて、レシピの説明と練習会を開いた。
実際に働くかどうかは決めてなくても練習会だけ参加できる形で。
ぶっちゃけ、材料とか道具を揃える方が難しいだろうから、レシピを配り回ったとしても何も問題ない。
むしろそれで興味を持ってもらえれば万々歳だ。
そこそこの人数が集まって大変だったけど、先に教えておいた子達が先生代わりをしてくれて何とかなった。
同時に、本格的に私は必要ないなーとか思ったけど。
まぁ、出来ることをしようか、うん。
お菓子の売り方はオウカ食堂と似たような感じで、作っておいた商品をお客さんが選んで買って帰る。
その時、追加料金を払えば保冷用の小さな氷の魔石を着けることになった。
これは練習会に来てくれたおばちゃんのアイデアで、魔石に関しては冒険者ギルドから定期的に卸してもらう手筈になっている。
とまぁ。駆け足で準備を整えている時、ビストールの冒険者ギルドから手紙が届いた。
差出人、ハヤサカエイカ。
長物を背負った姿とその去り際を思い出して、ちょっと笑いが込み上げてくる。
手紙の内容としては、古代遺跡では特に新しい発見が無かったこと、手帳の解読が不可能なため一旦王都に戻ること、それらを城のメンバーに伝えてほしいということがざっくり書かれていた。
最後に、特にツカサさんとアレイさんには絶対伝えて欲しいと追伸付き。
……いや、伝えるのは別にいいんだけどさ。
これ、何で私に送ったんだろうか。
直接お城に送れば良くないか?
むう。まあ、いいか。ちょっくらお城に行ってみよう。
〇〇〇〇〇〇〇〇
いつも通り門兵さんと雑談した後、いつもの客室に通された。
そこで私を出迎えてくれたのはカノンさん……ではなく。
ボサボサ頭に無精髭のアレイさんだった。
あれま。珍しいな。
「おう。今日はどうした?」
「エイカさんから手紙貰ったんで届けに来ました。忙し過ぎて心が枯れそうなんですが、美少女はいないんですか?」
「ああ、生憎と暇なのは俺だけだな」
なんだ、いないのか。なら今日来なきゃ良かったなー。
「カノンさんかカエデさんと会えるのを期待してたんですけどねー」
「カノンはあれだ。王都に建設中の菓子屋の件で特に忙しいんだとさ」
……あー。なるほど。なんか、ごめんなさい。
「カエデはアスーラだな。マコトに用があるとか言ってたが」
「その組み合わせ、是非見てみたいですね」
美少女二人。いや、片方は性別不詳だけど。
めっちゃ癒されそうな絵面だなー。
……見てる分には。
「あぁ、レンジュなら呼べるが」
「遠慮しときます」
「くく、だろうな……で、手紙は?」
「あ、これです」
エイカさんからの手紙を渡す。
その内容を読んで、アレイさんは難しい顔をした。
「ふむ……この手帳ってのは?」
「ゲルニカの遺跡で拾ったやつです。古代言語で書かれてるとか言われましたけど」
そういやリングにも解析頼んでたけど、まだ終わって無いみたいなんだよなー。
こいつにしては時間かかってる気がするけど、大丈夫なんだろうか。
「古代言語、ねぇ……何て言うか、アイツもどこか抜けてんだよなあ」
「ん? どゆことですか?」
「クラウディアに聞けば早いだろうに」
…………はい? 今なんて言った、この人。
「……あの。クラウディアってまさか、女神様の事ですか?」
「ああ、アイツなら古代言語も分かるだろ」
……うっわあ。この人、女神様をアイツ呼ばわりしてらっしゃる。
教会の神官が聞いたら卒倒するわ。
「……あ。そういやアレイさんは女神と良く会ってるんでしたっけ」
「月一くらいで強制的に呼ばれるな」
え、そんな高頻度で会ってんのな。凄いな。
「女神様ってどんな感じなんです?」
「あー……説明出来ん。少なくとも神様っぽくは無いな」
「女神なのに?」
「女神なのに。で、俺的うっかり人間ランキング最上位だ」
「……女神なのに?」
「女神なのに。と言うか、女神だから、かもしれんが」
えーと……なんか、聞いてはいけないことを聞いてしまったような。
ほんと、どんな方なんだろうか、女神様。
「なんつーか……アレを神聖視するのは辞めた方がいい。基本的にポンコツだからな」
「……アレイさん、まじで天罰下りますよ」
「くく……なぁに、天罰ならもう下った後だ」
シニカルな顔で目を瞑る。何か思い当たることがあるんだろうか。
……アレイさんって良く分かんないなー。
英雄の中で一番常識人なふりして、実は一番ぶっ飛んでるし。
ただまあ、気安い感じで話せる大人は貴重だ。
適当な馬鹿話もできるし。
「でだ。エイカが戻ることをツカサに伝えたらいいんだな?」
「あ、はい。お願い出来ますか?」
「どうせ飯の時にでも顔合わせるからな。伝えとくよ」
「助かります。じゃあ、私はこの辺で」
美女美少女が居ないのであれば、もはやここに居る意味もない。
早々に退散させてもらおう。
「おう。またカノンに会いに来てやってくれ」
「はい。定期的に美人と触れ合わないといけない病なので」
「そりゃまた難儀な病だな」
「今度は貢ぎ物持ってくるってお姫様に伝えといてください」
「おう、気を付けてな」
「はーい」
適当な感じで手を振られ、こちらも適当に手を振り返した。
さて、息抜き終了。
もう一頑張りしときますか。





