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86話:お菓子のお裾分け


 色々あって軽く忘れかけてたけど、武術大会の賞金が出た。

 教えてくれたリーザさんに感謝だ。

 金貨十枚のうち、五枚を銀行を通して教会に、四枚をオウカ食堂の設備費に当てた。

 で、残りの一枚でお菓子作りに必要な物をこれでもかと買い込んでみた。


 上質の小麦粉に砂糖、卵、ミルクやバターから焼き型、ヘラやハケなどの調理道具、そしてチョコレート。

 時間を見つけては買い物に出かけ、少しずつ揃えていった。


 んで、本日。久しぶりになにも予定が入っていない。

 絶好のお菓子作り日和である。 


 早朝から昼過ぎまで、黙々とお菓子を作り続けた。

 途中で材料が尽きなかったら夜までやってたと思う。


 生クリームとカスタードのダブルシュークリーム、さくさくマカロン、カリカリクッキー、季節の果物を詰め込んだフルーツタルト、前にも作ったオウカ特製プリン、チョコレートたっぷりのムース。

 エクレアにホールケーキにチョコレートドーナツ、ふわふわパンケーキ、苺ゼリー、バニラアイスクリーム。


 作りに作った。全部出したらキッチン埋まっちゃうかもしんない。


 ……ふふふ。やっべ、作りすぎた。

 いやだって、生クリームの泡立てとか拳銃製自動泡立て機だったら秒で出来るし。

 洗い物必要ないし、作ったらそのままアイテムボックスに収納出来るから場所取らないし。

 こんだけ環境整ってたら、ついね。


 ……まあ、やっちゃったもんは仕方ない。

 とりあえず、みんなに配って回るか。


〇〇〇〇〇〇〇〇


 まずはオウカ食堂と思ったけどみんな忙しそうだったから後回しにして、冒険者ギルドに行ってみた。


「てな訳なんで、お好きなもの、どぞー」

「あら。たくさん作ったわねえ」

「……お前、加減って物を知らんのか」


 何か呆れられたけど、職員や冒険者に好きなだけ持っていってもらう事にした。


「あ、リクエストとかあればメモに書いておいてください。また作ってくるんで」

「分かった、伝えておこう……ふむ。このクッキー美味いな」

「でしょ? んじゃ、よろしくねー」


 大量のお菓子を置いて行き、次は王城へ。

 いつもの通り門兵さんが居たので、駆け寄る。


「おう、今日はどうした?」

「ちわっす。お菓子作ったんでお裾分けに。これどーぞ」

「これはマカロンか? ありがとうよ」

「いえいえ。でわ!」

「またなー」


 最近、お城の出入りが顔パスになってきた気がする。

 いやまー楽で良いんだけどさ。


「ちわー。お菓子持ってきましたー」

「…オウカさん?」

「あ、オウカちゃん、だ」

「あれ、二人だけですか?」


 ツカサさんとカエデさんしか居ない。

 もうちょい人いるかなーと思ったんだけど。


「…さっきまで、ハヤトがいたけど」

「ありゃ、残念です。今日はお裾分けに来ました。どぞー」


 アイテムボックスから大量のお菓子をとりだした。

 二人とも、目を丸くしている。


「…なに、お菓子?」

「あーはい。いつものように大量に作ったんでお裾分けに」

「…これはどうも」

「プリンはカノンさん用です。後はみんなで分けちゃってください」

「…ありがとう」


 にこりと、ツカサさんが柔らかく微笑んだ。

 おお、笑った。表情変わるんだね、ツカサさん。

 いつも無表情だから凄い新鮮に感じる。

 元は整ってるんだからもっと笑えばいいのに。もったいない。


「私のプリンは、あるか、な」

「ありますよー。よいしょっと」


 アイテムボックスからさらに在庫を取り出す。


「わ、凄い。これ全部、作った、の?」

「勢いに任せたらこうなりました。アイスクリームとかありますよ」

「わあ。アイスクリーム、久しぶ、り」


 穏やかに微笑む美少女。いいね、うん。

 これだけでも持ってきたかいがあったな。


「早めに食べちゃってくださいね」

「でもこれ、王様に献上しなくていい、の?」

「…ああ、確かに」


 ……は? いや、何で国王陛下?


「いやいや、献上するような代物じゃないですよ。それに、溶けちゃうんで」

「…ああ。じゃあ、連れてくるか。待ってて」

「……え? ちょ、はやっ⁉」


 言ったそばからもういないし。

 いやてかさ、連れてくるってなに。

 話の流れ的に……いやまさか。そんな、ねえ?

 幾らなんでもそう簡単に会える人じゃないよね?


「…連れてきた」


 五分も経たず、ツカサさんが誰かを担いで戻ってきた。


「ツカサ、ワシ、死んじゃうから。もっと優しく扱って」


 わあ。この人、金貨に書かれてる顔とそっくりだー。

 金貨の顔よりちょっと歳が上に見えるけど。

 あはは。……はあ、嘘でしょ。マジで連れて来よった。

 その人は穏やかでのんびりした、人好きしそうなお爺ちゃん。に見えるんだけど。


「おお、君が噂のオウカか。はじめまして、ワシはユークリアというジジイじゃよ」


 ユークリア王国初代国王、ユークリア・ミルドセイヴァン。

 世界中に散らばっていた人間の国を一つの王国に統一した王様。


 武力と知力を兼ね揃えた、最高の王様と言われている。

 何が凄いってこの王様、元々ただの農民だったのだ。

 普通に畑を耕しながら生活していたら、ある日女神から国を統一しろって託宣を受けたらしい。


 それで世界中を回って、全ての国を統一したんだとか。

 バイタリティーとか行動力とか、何から何まで突き抜けてる人だ。


「あ、えっと……お初にお目にかかります、陛下。

 私はオウカといいます。ただの町娘です」


 我に返り、慌てて頭を下げる。

 やばっ、宮廷言葉とかわからないんだけど。

 こんな事ならシスター・ナリアに聞いておくんだった。


「ほう。最近の町娘はオーガを単独で退治したり、武術大会で優勝したりするんじゃなぁ」

「う……それはその、運が良かったと言いますか」

「それにあれじゃろ。レンジュに一撃入れたとか噂になっとるじゃろ。ありゃあ本当かな?」

「嘘ではありませんが……少し説明が難しいと言いますか」

「ほほう、やるのぅ。ワシにゃ出来る気がせんわ」


 ニヤリと笑う国王。この人、分かっててからかってきてるな。

 むう。偉い人だから言い返しにくい。


「でじゃな。ワシ、何で呼ばれたんじゃ?」

「…オウカさんがお菓子のお裾分けを持ってきてくれた」

「ほお、そりゃ嬉しいのう。どれ、ジジイでも食べられるものかな」


 ホクホク顔でお菓子の山を掻き分ける王様。

 そんな姿はとても偉い人には見えない。


「…大丈夫。オウカさんの手作りお菓子だから」


 いつも通りの眠そうな顔ながら、どこか嬉しそうにツカサさんが説明している。


「そりゃあいい。可愛いお嬢さんの手作りとか、最高のお裾分けじゃないか」


 うおう。すっごい嬉しそうだな、陛下。

 ここまで喜んでくれると、なんだかこちらも嬉しくなる。


「あはは。よろしければお納めください」

「有り難く頂こう。だが、この量は食べきれんでな。すまんが他の皆に分けてやってくれんか」

「畏まりました。あとで皆に配って回ります」

「ありがとう。こういうのはみんなで食べる方がいいからなあ」


 ……話してる感じ、普通に気のいいお爺さんって感じだなー。

 絶対口に出せないけど。


「ワシはこのマカロンを少し頂くかの。オウカ、ゆっくりしてってくれ」

「ありがとうございます」

「うむ。ではな」


 ……マカロン食べながら普通に歩いて去っていったなー、王様。

 うへぇ。めっちゃ緊張した。


「ツカサさん、まじ勘弁してください」

「…あ、そうか。ごめん、いつものノリで連れて来た」


 ぺこりと頭を下げられた。

 いや待て。いつも王様拉致ってんのか、この人。


「エイカちゃんとか、王様とお茶しながら愚痴こぼしてた、よ」

「……国で一番偉い人相手に何やってんですか」


 いや、何となく分かるけどさ。王様めっちゃ朗らかだし。

 でも普通やんないと思う。


「とりあえず、私行きますね。お裾分けして回らなきゃいけないんで」

「…じゃあまた。お菓子ありがとう」

「スタッフが美味しく、頂きま、す」


 精神力がめっちゃ削られたけど……次は騎士団に寄って行くか。

 さすがに顔出さない訳にもいかないだろうし。


 既に嫌な予感しかしないけど。


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